EP15 ワクワク戦艦ショールーム体験からの地獄
若干情報量が多くなってきたので、これを説明してとか、これについて聞きたいとか、なんかあったら聞いてください。
もちろん物語を読むにあたって影響が出るものについては、後程という答えになると思いますが、後書きで書いてあるような感じで、情報を載せていきますので、リクエストがあれば下さい。
とととととにかく。俺は金を手に入れた。
れれれ冷静に考えようぜ?
かか買うんだ・・・ぞ?
うむ。混乱していた。
「宇宙船ってどの位するもんなんだろう・・・?」
俺はソファーでコロコロ動き回っているロペの頭に手を置きながらつぶやいた。
折角端末をもらったんだから有効活用しないとな。今のままじゃヒモっぽくなってしまう。
もらってばっかりな気がしてイカン。
「ジェニの端末と動かし方が違うのか?」
俺はロペから渡された11インチほどの端末を眺めて訊ねてみた。
相変わらず端末には犯罪でも起きたかというような金額が表示されている。
「アクロスSSは最新型の端末なんだけどね?私が今渡したのは、ベイローって言って、私の手作りだよ?」
「へー。お前端末なんて作れたんだ。・・・ってすごいな!?」
私料理得意なんだ。みたいなノリで返事してしまったが、料理が出来るより何気に物凄い事じゃないのかそれは?
「普通に流すところだったぜ。性能はともかく、どうやって動かすんだ?タッチパッド?」
「そそ。AR拡張デバイスを搭載しているから、ゲーム感覚で使えると思うょ。」
ほぉ。ゲーム感覚とな。
俺は試しに、今表示されている画面を動かすべく指ですぃっと横に払ってみた。
するとどうだろう。表示されていた先ほどの銀行の残高表示が宙を舞い、明後日の方向に飛んで行った。
俺は茫然と画面の飛んで行った方を見つめて立ち尽くした。
「・・・・・どこ行くねん。」
あははは!っとソファーの上で大爆笑するロペをしり目に、俺は画面を回収しに部屋の入口まで歩いた。
「銀河きゅんおもしろー!しゅーーんて!しゅーーーんて!」
しかしよく飛んだものだ。
不思議なモノで、飛んで行って空中に表示された画面を指で触ると、わずかな触感があり、画面を抑えたままゆっくりと端末の方にスライドさせると
画面は端末の中に戻った。
「凄い機能なんだが・・・。素直に喜べない。」
「ごめんごめん。つい。
ひとしきり笑い終わった後ロペは、俺の横に立ち操作方法ウィレクチャーしてくれた。
確かにゲーム感覚と言えばそうだな。ぴっとやってぺっとやってって、教え方がおっさん臭いが何となくわかったからよしとしよう。
簡単な操作を覚えた俺は端末を使ってショッピングを楽しむことにした。
・・・もちろん戦艦のな?
条件はそうだな・・・800人ぐらい乗れて、ワープとか出来るのかな・・・?波○砲とか無いかな・・・?
ちょっとしたロマンだよな。
俺は脳内でかの有名戦艦に乗った自分を想像してちょっと楽しくなった。
ワープ!!!なんてな。
「おっと・・・検索結果が凄いな・・・八百万件って。もっと絞り込まなきゃいかんのか・・・。」
検索条件をプラスして・・・そうな・・・。衣食住が快適なモノが良いな。衣食住良好・・・と。
む。一気に六千件まで絞り込めたぞ。そんなに他のものは環境が宜しくないのか・・・?
そういえば、海賊船に使われていたコバヤシはかなり劣悪だったな。ああいうのはごめん被る。
「銀河きゅんどこのメーカーにするの?大型になりそうだけど・・・。」
「最低でもコバヤシよりいいものが良いな。」
今度はジェニが笑い出した。
「はっはっはっ!!今時第四世代も無いよ!今は第七世代戦艦が主流なんだよ?第八世代だって出てきているんだ。
時代が違うよ!」
そんなに世代が進んでいるのか・・・。そりゃぼろい筈だわ。
「俺が捕まった海賊の船は、コバヤシだったぞ?」
「あー・・・それはあれだ。冥王星本星の博物館で強奪されたアンティークだな。」
「そういう物だったのか。」
「うむ。当時は結構話題になったもんさ。警備もザルだったし、戦時中の火事場泥棒って事で、軍も叩かれたみたいだしねぇ。」
戦時中は心もすさむって言うしな。・・・違うか。
色々なメーカーが検索に引っかかった。冥王星圏のメーカーじゃないと、すぐに受け取れないかなぁ?
どっちにしても、オーダーメイドなんかした日にゃ、どのぐらいかかるんだろうか・・・?
やっぱり、既製品があればそれを買うのが一番かなぁ?
ティタノマキア社?なんか聞き覚えのある単語だな。
ワイルドローズ社。ここはさっきのモニター募集のメーカーだな。
ミツルギ社。社名が中二的で俺は好き。
ゲット社。ここは小型のみって書いてあるな
セン社。おぉ?ここは大型のみか。
・・・・あれぇ?戦艦を扱っているメーカーがほとんどないぞ?
「ジェニ?戦艦の取り扱いのあるメーカーって少ないのか?」
「そりゃまぁねぇ。ライセンス制だし、そのライセンス維持にも莫大な金がかかるから、そうそう認可なんかおりゃしないさ。」
資金力の問題もあるのか・・・。会社の維持って大変なんだなぁ。
下手に参戦しても、維持できなきゃ倒産だってあり得るしな。そう考えるとワイルドローズ社は結構勇気があるな。
「この辺りだと、やっぱりワイルドローズかティタノマキアが二強になるのかねぇ?あぁ・・・でもあれだ、ティタノマキアは中型専門だね。
大手じゃなくてもいいならそこそこの規模で選べることは選べるんだけど・・・。引き渡しまでどのぐらい時間がかかるか分からないしねぇ?」
そうか・・・。
おっ。閃いた。
「あれだ。別に一隻で全員詰め込む必要はないんじゃなかろうか?」
「あー。中型でも500は乗るからねぇ。二隻に分けて・・・。」
「いっそ小型十隻とかにしちゃおうかなぁ?」
「戦団でも作る気かい?」
「ソレダ!」
「「えっ?」」
俺はさっそく中型専門のティタノマキア社の情報を集めた。・・・あれ?
「木星圏に本社があるって書いてあるけど。この辺りでも買えるのかい?」
「あぁ。問題ない筈だよ。隣の商業コロニーに支店があるから、そこに見に行ってもいいし、そのままポチってもいいんじゃないか?
ティタノマキアは仕事が速いからね。明日とは言え無いけど、手早くそろえてくれるはずだよ。」
ふむ・・・。結構魅力的なラインナップだな・・・。採掘用、工房艦、商用艦、エンタメ艦、戦艦。何でもござれだな。
巡洋艦にシールド艦、駆逐艦に航宙母艦。・・・リモートシップ何て言うのもあるのか。
おっ?最新型魔導戦艦!?何それ欲しい!どれどれ・・・。
ーーーー
当社お抱えの紋章技工士によるマジックサーキット加工を全艦に施した特別製!
魔導士が居ればもう安心。この船はアナタの手足になる!
第八世代にしか成し得ない航続距離を確保!
専門技術者を多数抱えるティタノマキアだから出来る、豊かな居住性を実現!
生存戦略・・・考えてますか?あなたの命を守る非接触光子バリア標準装備!
最新型光学兵器、ディメンションブラスターを標準装備、副砲もお好みの装備に切り替えが可能です!
最大8か所迄マルチマニュピレーターの装備が可能!各種アタッチメントもご用意しています!
非常時にはコレ!魔力を航行エネルギーに変換可能なマジックコンバーターの設置も可能!
ーーーー
なんかワクワクしてきた!もうこれで良いんじゃないかな!?どうかな!?
「ロペこれどう思う!?スゲー欲しいんだけど!!」
「どれどれ・・・?」
ロペは端末に目を通すと、少し考えてから難しい顔をして額にしわを寄せた。
「これはお高いんじゃないかなぁ?こんな凝った設計してたら、就航までにどのぐらい時間がかかるか分からないし、
ちょ~っと現実的じゃないねぇ。買ってあげたいんだけどぉ。」
う~~~ん。やっぱりそれがネックかぁ。値段は・・・?いち・・じゅう・・・ひゃく・・・せん・・・?
「んん?俺の目が悪くなったか・・・?いやそんな事は・・・・。」
「んにゅ?どしたの?」
「ホレ。値段んとこみてみ?安くね?」
ロペも見間違えだと思っているのか目を細めながらじっくり読み返してみるようだ。
「記載ミス・・・ではない・・・のかなぁ?いや・・・。いつ更新されたんだろうねぇこれ?」
やっぱり書いてある金額は俺と同じように見えているようだ。
その金額なんと一兆クレジット也。
普通に買えちゃうんだが・・・。罠か?
いや・・・どこの世界に客相手に罠を仕掛けるやつがあるか。詐欺でもない限りそんな事あり得ないよなぁ。
「ジェニちゃんこれどう思うー?」
「どららぁ。」
こうやって見ると、ビフォーアフター的に見えて面白いな・・・。ロペが齢を重ねればジェニになる。そういう見方をついしてしまう。
年の離れた姉妹みたいだ。
「こんな事あるもんかい。第八世代ってだけでも一千億は下らないってのに、ゼロが一個足りて無いだけじゃないのかい?記載ミスに一票だね。」
う~んやっぱりそうかなぁ?さすがに最新技術の結晶を安売りしてどうするって話だよなぁ?
普及目的だとしても・・・無いか。
「問い合わせてみよぅ?」
「「それな。」」
ジェニはさっそくティタノマキア社の広報に問い合わせてみるようだ。しばらくやり取りがあった後、難しい顔をしたままジェニが俺の方に向いた。
「その値段であっているんだってさ。ただ、やはりモニター価格って事らしいよ?何かある度に回収されちまうから、まともに航海できるのか妖しいねぇ?」
「うぇ。因みに何隻ぐらい納品できるとか分かった?」
「あぁ。最大十隻。だけど、これは申し込みがあれば他にも回さきゃならないから、一人で十隻は難しいんじゃないかね?しかも先着順、早いもん勝ちって事らしいよ?
一応追加投資しなきゃならないって事は無いみたいだから、金は掛からないけど、無駄に時間が掛かる事に我慢できたらって事だねぇ?」
「あ。それ無理。昔の俺ならいざ知らず、今はダメだなぁ。気が短くなっているのを実感しているから。多分戻って来いって言われたら、主砲をティタノマキア社に撃ち込む自信あるわ。」
「こりゃ!じゃぁ辞めときな?あそこも会社が危機に瀕している割にはのんびりしているから、どうなるか分かったもんじゃないしねぇ。」
ほ?経営が危ないのか?
「赤字とかそういう事か?」
「まぁ、端的言えばそういう事さ。余計な事業にかなりの額を投資しているからねぇ。しかも一切回収できていないみたいだし。
まぁ、あいつの孫娘が居なくなった時点であの会社は詰みなんだろうねぇ。」
「孫娘?」
「あぁ。ティタノマキアには、二人の跡継ぎ候補がいたんだが、一人は失踪して居なくなったらしい。
なんて言ったかな・・・あ・・・ぁ・・・?」
「ジェニちゃんアンジーじゃない?」
「「あっ。」」
やべっ。今思い出した。身内に居るじゃないか。行方不明の孫娘。大事件なんじゃないのか?
あーあー。なんか色々思い出してきたぞ?
確か、実の父親が後継者に選ばれたアンジーをたたき落とすために、ヘルフレムに冤罪でぶち込んだんだったか。
・・・。これはチャンスではないかのぅ?
「ロペさんに提案があります。」
「ふぇ?」
ーーーーーーーーーー
コンコン
控えめなノックと共にメイドが入室の許可を求めて声をかけてきた。この声は弥生かな?
「大奥様、アンジー様をお連れしました。」
「入りな。」
両開きのドアを二人のメイドが開き、扉の中央にはアンジー・ティタノマキア。渦中の人物がいた。
「こここここここ・・・っこのたびはまこっとに・!!!」
かみっかみやんけ。めっちゃ緊張していらっしゃる。
「アンタも堅いねぇ。別に大層な話をする訳じゃ無いんだ。こっちに来て座りな。」
俺は座ったまま新しい紅茶を注いでもらう。この紅茶は香りもいいが後味がすっきりとしていて飲みやすい。
マイシップを手に入れた暁には常備したいものだ。
「あの・・・雨宮様も一緒にとは・・・?」
「雨宮様て・・・。」
知らんがな。アンジーが勝手にそう呼んでいるだけさな。
なんかジェニが写ってきた気がする・・・。
「アンジーに来てもらったのはな、実家について聞きたかったと、新型戦艦を手に入れる為に一肌脱いでもらおうと思ってな。」
俺がそう言うと、アンジーは両の瞳をキラキラさせ俺の前に跪き俺の手を両手で握り込んだ。
「漸く私の出番が回ってきたのですね!!雨宮様の為ならこのアンジー!太陽にでも散歩して見せますわ!!」
・・・。何だろう。こんな奴だったっけか?ヤクでもやっているじゃないかと思う位急にテンションがマックスになったな。
「あ・あぁ。じゃあ簡潔に言うが、アンジーにはティタノマキア社を完全に掌握してほしい。」
そう言うとアンジーは一瞬驚いたような顔をしたかと思うと、次の瞬間には獰猛な獣を思わせるような笑みを浮かべてもう一度俺の前に傅いた。
「承知致しました。必ず雨宮様の前に社長と会長の首を・・・。」
「いやいやいや、まてまてまて。殺すなよ・・・。会長はお前の味方だろうが。」
そう言ってはみたものの、ヘルフレムに入るにあたって特に会長が何かをしたという話も特に聞いてはいない。むしろ何もしなかったという事実は、
彼女を追い詰めていたのかもしれない。味方だったという事もあって憎さは倍加しているのかもしれないな。
俺だったら裏切られたら・・・。取り敢えずひき肉にはしないまでも、つま先から脛ぐらいまではおろし金でゴリゴリしてやりたいと思う。
「父親はともかく、祖父とも仲が悪いのか?」
アンジーは一瞬考えたようだが答えは決まっていたようだ。
「いいえ。お爺様にはとても良くして頂きました。大学に通わせていただきましたし、専門的な事も沢山教えていただきました。
・・・。と言うより、私は祖父と祖母に育てていただきましたから。感謝こそしていますが私は・・・。」
許せないか・・・。だが同時に筋違いである事も分かっている様だな。これなら大丈夫か。
「ふむ・・・。俺の考えとしては・・・だ。手段も問わないし好きなようにしてくれたらいいと思っている。
ティタノマキア社のその後に支障が無いなら、思うようにしてくれてかまわない。」
「銀!それは・・・!」
ジェニは慌てているがロペ離れたもので、俺にモラルが欠片ほどしかないことを分かってくれている様だな。
「でもねぇ。会長は消えると、禍根を残しそうな気がするねぇ?
まぁ、私も銀河きゅんの意見で概ね賛成だょ。贅沢を言えば、バカの手掛けていた事業を手離さないままで何とかしてくれたらいいかなぁと思うけど。」
何か意図があっての事なんだろうが、ロペも難題を吹っ掛けるものだ。
「そうですね・・・。要らない事業は、こちらに引き取っていただけたりするといいですが。自分で新しく刷新してしまうのもいいかもしれませんね。」
アンジーには難題というレベルのものでは無かったらしく、次々とあれはどうかこれはどうかと、ロペ、ジェニと意見を交わしている。
暫く意見の応酬があり、皆の望む結果を全て手に入れる上策を思いついたのか、話し合いは終わったようだ。
「で?銀河きゅんはどうしたいの?」
「え?話が付いたのかと思った。」
「銀~~?アンタがボスだろ?ちゃんと参加しな?」
確かに・・・。任せっきりはいかんな。
「最適解では無いが。俺としてはティタノマキア社を自由に動かせれば、戦艦に関しては問題が無くなるし、行動範囲も広がりそうだ。
後会長を残しておけば、アンジーが俺から離れる必要が無いだろう。」
三人はそれぞれ驚いたような顔をして、こちらを見た。アンジーなんかはもう、これでもかという位キラキラした目をこちらに向け
今にも飛びついて来そうな気配すら感じられる。
「銀河きゅんらしいというかなんというか。」
「私・・・一生雨宮様のお傍に居ますっ!!」
「っ天然誑し・・・。」
そこ・・・失礼だよ。俺は自分のものは大事にするのだ。自分のモノは・・・な。
「決まりだね。じゃぁさっそく明日にでも会えるように、アポでも取っておくかい?」
そう言ってジェニが端末に手を伸ばしかけた時、すぐさまアンジーがそれを否定する。
「いいえジェニ様。必要ありませんわ。帰宅するだけですもの。自分の家に帰るのにアポを取る者はいませんわ。」
あ~~。とコクコク頷き、ジェニも納得したようだ。俺も納得した。確かにそうだな。・・・いや・・・倦怠期の夫婦なんかは、帰ってくる夫に連絡を強要することもあるらしいから・・・って違うか。
「木星まで行くの?帰宅って。」
「「あ。」」
ロペの質問に、ジェニとアンジーは顔を見合わせた。
「一本連絡して、こっちに来いで良いんじゃね?呼び出せる材料はいくらでもあるだろう?
ついでにショールームも見たいから、商業コロニーの支店の方に来てもらったら?」
「は~い!じゃあ私が呼び出しやるやる~!」
ロペは何故かとっても楽しそうだ。まぁ俺もちょっと楽しくなってきている。主にショールームへ見に行くという事にだが。
だって戦艦の実物なんか見たことないんですもの。大艦巨砲主義万歳!!
ーーーーーーーーーーー
冥王星圏コロニーアトレーティオ4
俺たちはあの後すぐ、移動を開始しワクワクショールーム体験ツアーを開始した。
「銀河きゅんなんか変なこと考えてない?」
ドキッ
「んんっ!!な・・・なんの事ですかな?んんっ!?」
「激しく動揺していますね。」
アンジーめ冷静に分析しおって・・・。
しかし結局どうやって呼び出したのかはロペは教えてくれず、コロニー間移動の定期便に乗って俺たちは商業コロニーアトレーティオ4にやってきたのだ。
「ふむ。アトレーティオタイプのコロニーはやはり流石だな。最新のコロニーと言うだけの事はある。」
「おーー!コロニーの中はこんな風になっていたのか!!やけに煌びやかなコロニーだと思っていつも気になっていたんだ!!」
「冥王星圏のコロニーは初めて来たな・・・。」
何故かキョロキョロとしているお上りさんが俺を含めて、四人いる。
小さくなったテツ、新庄、切嗣の三人は何故かついて行くと言って聞かなかったのだ。
実のところを言うと一番この状況にイラ立っているのはロペだったりする。
「あんなお店やこんなお店に連れて行ってみようと思っていたのに・・・・。ぶぅぶぅ・・・。」
三人だったら俺は一体どこに連れていかれたのだろうか・・・?
新庄の言うように最新型のコロニーと言うのは伊達ではなく、俺たちが定期便で降り立った発着場も居住コロニーのそれとは一線を博しており、
遥かに巨大で、なおかつふんだんに最新のテクノロジーを使ってあるようだった。シャトルから降りて隣りの発着スペースの方を見てみると、突き当りが見えない。
地平の彼方までシャトルが並んでいるのだ。目に見えるだけで四十隻は留まっているだろうか?この眺めは壮観だ。実に気分が良い!
自分の所有物ではないのだが世界を取ったような気になるな。
「こぉーら。お上りさん共!キョロキョロしてないでキリキリ歩く!」
かくいうジェニも何故か暇だからと、同行をしている。
「ここからショールームまでどうやって行くんだ?探すのだけでも大変そうだな・・・?」
俺がそう言ってジェニを見ると、端末から誰かと通話しているらしく、今着いた。と連絡していた。
「迎えの車が来る。少し待ってな。」
おぉ。さすが社長。
じゃあどうしようかな。巨大な待合室の外にはまた巨大なロータリーがあり、観光用であると思われる、宙に浮いたバスが沢山留まっている。
何気にあれもすごいな・・・前世では色々な理由で考えられない話だ。利権とか絡んでいるからな。
タクシーと思われる乗り物も宙に浮いている。未来都市って感じがする。なんかもう空気から違うな。
きっと商業活動が活発な分、税金も景気良く回っているのだろう。居住コロニーの自然な空気とは少し違って、人工的に作られたと思われる空気だが、アロマか何かが含まれているのだろうか?
僅かに花のような匂いがする。俺はうろちょろと待合所の中を散策して回り、居住コロニーの中で見つけたのと似たような小冊子を見つけた。
このコロニーについて書かれているパンフレットだな。
「んぅ?ここのパンフ?」
「そうみたいだな。アトレーティオタイプのコロニーは呼吸に必要な大気の成分が限りなく地球に近くなっているってよ?
地球の空気はこんな匂い付きじゃないっつーの。」
あはは。とロペは笑いながら俺の腕に腕を絡めてきた。幸せな感覚が良いね!
「なんだかんだ言って、誰ももう地球の事なんか知らないからね。流石に千年近くも経つと、故郷って感覚すらなくなっているんだから。
適応能力というか鈍感力というか。人類も日々進化しているのだねぇ。」
そうかぁ。もうそんなにこの世界では地球を離れて時間が経っているのだな。今は統合歴だったっけか?
その前も約五百年位、今の太陽系連合が出来るまでに経っているらしいから、そりゃ知るはずも無いか。
「でも、地球を神として崇めている宗教があると聞きましたよ?」
むにゅ。と、反対の腕がさらなる幸せに包まれると、アンジーも腕を絡ませて俺を覗き込んできた。
あ・・あたってる!いや。あててんのか!
「宗教ねぇ。俺は無宗教の人間だから、その辺は興味があまりないな。」
二人ともニコニコと実に楽しそうだな。何よりだ。
俺は、コロニーの地図を眺めながらロペの話に耳を傾けた。ロペはアンジーの言っていた宗教に覚えがあるようだった。
「あ~。あれね。なんだっけ。帰還教?人類は地球に住むべき存在だとか、宇宙には人類は出てはいけない、とかそんな事を言っていたねぇ。
確かあれはぁ・・・そう。月だ。共和国の首都に行った時に確か聞いた気がする。この辺りにもいるのかなぁ?」
「宗教人と言えば一人見つけると十人は居るって言いますからね?」
そんなゴキブリみたいに・・・。
とかそんな雑談をしていると、少し離れた所に人だかりが出来ている。俺たちは気になって覗きに行った。
「人類は!大地に根を下ろして!正しく生活しなければならないのだ!!宇宙に居てはいけない!滅びがやってくる!」
噂をすれば影。何てな。タイミングの良い事で。凄まじい声量で演説をしている。たった一人だが存在感が凄い。一度見たら忘れられない顔をしている。
あれは布教活動には不向きなんじゃないだろうか・・・?俺はもはや何を話しているか?という事が全く気にならなくなり、あいつの顔スゲー濃い。
という事しか頭になくなっていた。北欧系というか、ロマンポルノとかに出てきそうな、強烈なインパクトのある顔だ。ひじょーに濃い。
人だかりの輪が、2メートルは離れているが、声の大きさだけが原因ではなさそうだ。こう言うのも悪い気がするが、あんまり近くで見たくない顔だしな。
子供が見たら夜トイレに行けなくなりそうだ。大人でも悪夢を見そうだ。
なんというか・・・ゴ○ゴと、ブロッ○ン○ンを足して、某やくざゲームの主人公で割ったような・・・兎に角濃いんだ。
「何だいあいつ・・・?すっごい顔だね・・・。」
「なんか夢で見そうだな・・・。」
「若干見覚えがあるが・・・というか俺はあいつを知っているんだが・・・。」
新庄の知識と言うか、見識の広さはさすが元議員と言うだけの事はあるな。
「会ったことが?」
「あぁ・・・。一度だけな。だがあの顔は二度と忘れない。初めて会った日は、夜に夢の中で追い掛け回されたからな。」
結構嫌な思い出だな。
「何て言ったか・・・。名前が全く思い出せない。聞いたはずなんだが・・・?顔面のインパクトのせいで肝心の名前が出てこない。」
もう仕方ないんじゃなかろうか。あいつはそういう奴。それでいいか。
「銀。迎えが来たよ。」
「おっ?行っちゃう?」
「私銀河きゅんのとーなりっ!」
「あっズルい!」
俺は結局二人に両腕を掴まれたままで迎えの車に乗り込み、ティタノマキア社を目指した。
ーーーーーーーーーー
ティタノマキア社
「支店のわりにおっきいなぁ。」
俺たちは道中、特に何事も無くティタノマキア社のショールームに辿り着いた。だが俺の心の中は今、戦艦の事だけでなく、別のモノにも心を惹かれるものがあった。
スペースワーカーってなんだよ!!あんなにカッコイイものだったのかっ!!ジェニの奴詳しく教えてくれても良かったのにっ!!
とは言っても、今は何とか心の中だけに押し込めておく。あぁ・・・。あれはもう見たまんま、人型駆動兵器!!ガッチガッチのリアルロボットやんけ!!
「あ~・・・いかんいかん・・・沈まれ俺。」
「んぅ?銀河きゅん欲情した?」
「してへんわ!!いや・・・あながち間違いでもないか・・・。」
「いやん。」
ロペが体を擦り付けながら俺を押し込んでくるので、俺は自動ドアが開ききる前にぶつかった。
「ヘイッ!狭いところでプッシュしてくんじゃねぇよ!思いっきり激突したやんけ!!」
スパーン!!
俺はノリのままに、ロペの尻をハードに叩くと、小気味のいい音がショールーム内に響き渡った。
「ふゅうううううう!!ちょっと酷くなぃ!?あっ!は・・・ちょ・・・!!」
もちろんそんな俺たちは今、入り口で騒いでいるおかしな人達として注目の的である。
ロペは顔面から火を噴かんばかりに赤面し、俺の後ろに隠れた。
「あの・・・ジェニ様・・・?」
「た・・・他人のフリ・・・。他人のフリしろっ!」
野郎三人は既に目当ての船の前にそれぞれ散っていて、他人のフリを決め込んでいた。
しかし改めてこのショールームの広い事広い事。ドーム球場なんか目じゃないわ。規模が違う。
人類とはここまで大きなものを作れるようになるものなのかと、俺は感動した。
「ロペ!見ろ!宇宙船だ!!」
「ううぅうぅう・・・。お尻痛い・・・・。」
ロペが俺の後ろに隠れたのは羞恥心だけでなく、ナノマシンによる治療の為でもある・・・。それだけの威力があったという事なのだが。
しゃーないやん?こ奴もハイパーヒューマノイドなのだ。普通の人種に接するレベルでは撫でているのとさほど変わらない。
「・・おしり燃えるかと思ったっ!」
「まだ言うか・・・。ほら。姫行こうか?あれを近くで見たいんだ。」
俺はロペの手を取って、ショールームに入った時から気になっていた目当ての戦艦の前にやってきた
その戦艦の躯体は赤い色で塗装されていて、二対の大型主砲と共に、十六門もの光学副砲を装備した、所謂駆逐艦と呼ばれるものだった。
「サラマンダー級だねぇ。この船は長く愛用されている人気艦で、連合軍もそうだけど、共和国の主力戦艦としても有名だねぇ。」
「ほほぉ~~。共和国のぉ~。」
「そうです。数あるわが社の艦の中でも最もアップデートを重ねた戦艦で、過去から現在に至るまで、中型艦においてトップクラスの性能を維持し続けている主力商品ですわ。」
俺はまた、アンジーとロペの二人に挟まれ身動きが取れなくなった。
「むぅ・・・あっちも見に行きたいのだが・・・。」
「いけません。お話が済んでからなら幾らでも見学できますから。もう少し我慢してくださいませ?」
「銀河きゅん?お船欲しいんでしょ?」
むぅ・・・。確かにその為に来たのだ。ここはじっと我慢の子か。
「ほら。ジェニちゃん戻ってきたょ。」
ジェニは奥にある受付に向かっていたが、今は壮年の男性ともう一人、中年の男性を連れてこちらに戻ってきた。
「お爺様・・・。」
「おおおおおおおお!!アンジー!!話は聞かせてもらった!!辛い思いをしたな!もう大丈夫だ!!さぁこっちへ来なさい。」
「お断りします。」
・・・・?んん?
祖父と孫の感動の再開は二秒で終わった。何故なら・・・。アンジーの目には暗い炎が灯り、横に居る中年の男に注がれているからだ。
祖父の事など今は眼中にないようだった。
「何故ソレがここに居ますの?とても不愉快なのですが。」
アンジーとて、荒くれの集まるヘルフレムにあって、犯罪者集団のボスをやっていたものだ。普通の人では到底想像もできないであろう修羅場をくぐってきたのだ。
その体から発せられる暗いオーラは、周りの温度を下げたかのようにとても冷たいものだった。
彼女の祖父の首筋に冷や汗が一筋流れた。彼もビジネスマンとしては一門の人物であるという。その並々ならぬ気配に気づかないほど愚かでは無い様だ。
「は・・はは。アンジー。良く帰ってきたね。旅行は楽しめたかい?」
「・・・・。」
目が座っているなんてレベルではない。俺から手を離せば恐らくそのまま彼の命を刈り取ってしまう事だろう。アンジーはそれが自分でもわかるのだろう。
強い力で俺の腕にしがみつく様に留まっている。だが、周囲に居る客の中には、軍関係者や、冒険者なども多数いる様で、只ならないオーラの発生元でもある、アンジーの方に視線が集まっている。
「アンジー?今はそういう時ではないだろ?控えろよ。」
「申し訳ございません。雨宮様。」
このまま見世物になるつもりも俺にはなかったため、一度アンジーに矛を収めさせた。
だがその代わりに、俺はアンジーの腕を少し強めに引き寄せた。
アンジー計頬を赤らめながら俺を見上げるが、俺は優しく目を向けるだけにとどめておく。
「アンタがここの責任者かい?突然押しかけてすまない。彼女の事で大事な話があってここに来てもらった。」
そう、彼女の祖父に告げると、あれは驚きに目を見開き、怒りとも憎しみとも思える目で俺を見てきた。その目は隣に居る恐らくはアンジーの父親であるそいつと似通っている気がした。
流石に親子といった所か。根の深いところはそっくりだ。
彼はその怒りが筋違いだと思いなおすと、一度深く息を吐き、冷静になったようで、ビジネスマンの顔に、歴戦の強者を思わせる空気を漂わせる本来の自分に戻ったのだろう。
「・・・ふっ。少し取り乱したようだ。年寄りをあまりからかわないでくれると助かる。最近血圧が少し高いんだ。」
「それは悪い事をしたな。何処か話せる場所はあるのか?」
「もちろんだ。上に部屋を用意してある。そこへ行こうか。」
彼らはそう言うと、エレベーターのある方へ向かい応接用の部屋に案内してくれた。
この部屋からはショールームが一望できるようになっていて、主に商談に使っている部屋であると、たどり着くまでにアンジーが教えてくれた。
因みに野郎三人も今度は離れずについてきた。この三人が集まると、威圧感が半端ない。切嗣は三枚目感が半端ないが、それでも三人とも視線だけで人を殺せるんじゃないかと言うほどには、
威圧感を振りまいている。ちょっとヤクザにでもなった気分だ。ボス感を演出してくれているらしい。
応接室に着くとアンジーとジェニは俺の横に座り、ロペは何故か俺の膝の上に座ろうとしたので後ろに立たせた。野郎三人は俺の座ったソファーの後ろに後ろで手を組んで立っている。
「早速だが、まずは彼女に謝罪を。」
俺は見えない黒い靄を伸ばし、向かい側に座る二人の周りに忍ばせた。
「アンジー。すまなかったワシは・・「ふざけるな小汚い一般市民がっ!!!」」
非常に大きな声が部屋中に響き渡った。この手の輩は何故声がデカいのか・・・?耳鳴りがする位の大声で突然アンジーの父は反抗してきた。
「何故私がそんな事を貴様如きに命令されなければならんのだ!!ふざけるのも大概にしろ!!!」
ふぅ~・・・今日のメインは俺じゃない。落ち着け俺。
空気を読まない親のせいで、場の空気は最悪になったがそれはそのうちに、この父親をスキャンする。
ーーーーー
トレマン・ティタノマキア50歳 人種
状態 怒り(重度)
興奮(重度)
糖尿病(軽度)
不整脈(軽度)
肥満(中度)
精神崩壊(軽度)
薬物中毒(重度)
薬物依存症(重度)
憑依(重度)
種族スキル 共感(封印)
個人スキル 詐欺
付与スキル ジャンキーフィーバー
クルファウストの加護
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なんじゃこりゃ?瀕死じゃないのかこれは?いや・・・病気関係は一応、軽度らしいからそうでもないのか?
それより他に気になるものがいっぱいある。ちょっと詳しく見てみるか・・・。
ーーーーー
肥満(中度)
50代男性の平均体重を30キロ以上上回っている状態、成人病を発症するリスクが非常に高まる。
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ちゃうねん。間違えた。
ーーーーー
憑依
本人と異なる魂(精神体)が肉体の中に居る状態
現在、3・*55/*2^#が憑依中
(封印)
本来使用可能なスキルを完全に使用できない状態にされた状態。
魔人クルファウストによって強制的に封印されている。
詐欺 Lv5
事実と異なる事象を言葉によって強制的に植え付けるアクティブスキル
効果時間はキーワードとなる言葉を聞かせてから一分間。
ジャンキーフィーバーLv9
覚醒剤を摂取する事に寄り身体能力を大きく向上させるパッシブスキル
効果時間は覚醒剤を摂取してから一分三十秒。
クルファウストの加護
魔人クルファウストにより肉体を改造されたものに与えられる加護。
加護としての恩恵は特になく、体内に発信機と自爆装置が埋め込まれており
その発信機を通じて魔人クルファウストに加護の与えられた者の見聞きした情報が伝えられる。
ーーーーーー
バグってる・・・?何かに憑りつかれているのは間違いないが、文字化けしていて良く分からない。
詐欺スキルが怪しいのはともかく、社会的にも人間的にもダメなスキルがあるな。
付与スキルと言う位だから、恐らくは他の誰かに接触があるのだろう。クルファウストとかいう奴だろうか?
少なくとも薬物中毒であることは間違いない。
加護なのに加護じゃないとは之如何に?しかし発信機に自爆装置。そして人体改造。
キナ臭い。非常に面倒な事になりそうな予感がする。もういっそここで分解してしまった方がいいかもしれない。
しかしアンジーに任せると言ってしまった手前、俺が手を出すのは最後まで止めておきたいところだ。
俺は手に入れた情報を共有するためにロペに心で話しかける。
(ロペ。)
(どしたの?)
(アンジーの父親はちょっとヤバい。人間を辞めているかもしれない。)
俺は手に入れた情報をそのままロペへ流す。後ろに居るロペの顔は窺い知れないが、何となく感情の変化は感じ取れる。
(銀河きゅんこれ・・・。)
(言わんでもええ。社会的に終わってるタイプの人間であることは分かるな。)
(まぁねぇ?)
(ロペはこの、魔人クルファウストに心当たりはあるか?)
(あるょぅ。面倒な奴が現れたものだねぇ。しかも憑依している奴がまた面倒だょ。)
(読めるのか?)
(表示できない?そうか。・・・私は権限の全てを無くした訳じゃ無かったんだ。銀河きゅん。それ私には見えるょ。)
(そうか。良かったな。)
(うん・・・。ちょっと希望が湧いてきたょ!)
(で、その憑依している奴はどんな奴なんだ?)
(今権限を銀河きゅんにも渡すね。これでわかるかな?)
(精神生命体ジャッカス・ドーター・・・?だれだ!?)
(こいつはこの世界に覚醒剤とか、毒性薬物を蔓延させたことで、勇者イチロー・スズキに討伐された転生者だった奴だよ。)
(またイチローか。勇者凄いな。)
(色々助かったょ?彼は所謂正義の人だから。悪人を狩りまくっていた時に、こいつもやられたんだね。)
「聞いているのか貴様!!」
ん?俺に話しかけていたのか?ロペとの話に夢中で聞こえてなかったわ。
「この私が・・・「もういいから黙れよ。」」
俺はずっとこいつの近くに這わせていた黒い靄を使い、首に巻き付けて物理的に黙らせた。
「うるせーよ。さっきからデカい声でギャンギャンギャンギャンと。隣のアンタも自分の子供だろうが。きちんと躾ける迄社会に出してんじゃねーよ。
それでも親か。」
イカン。つい熱くなってしまった。
しかし・・・憑依されているからか、本人の元の性格なのか知らんが。面倒なことこの上ない。
「アンジー?」
「はい。」
アンジーはソファーから立ち上がりつつ、祖父に声をかける。
「お爺様。これから私は非道な事をします。そのうえで、改めてお爺様にお願いがあります。聞いてくださいね?」
アンジーはにこやかに笑顔を作っているつもりなのだろうが、父親の態度に業を煮やしたのか、顔が引きつっている。
アンジーが父親に向かい指を指す。
「理論として可能なだけであって、未だに一度も使った事のないスキルですが、ここで試してみても宜しいですか?雨宮様。」
「いいんじゃないか?好きにやってみろよ。」
「はいっ。」
非常に大きなオーラが彼女の指先に集まっている。切嗣が空間移動をする時よりもはるかに大きな力だ。しかもあいつの様にオーバーフローをしているわけでもない。
完全にコントロールされた力だ。
そして指差しをしたまま父親を囲むように円を作っているのか、指先をくるっと回した。
「!!!?」
消えた・・・?俺も何が起こったのか全く分からなかった。ただ事実として。そこに居た彼女の父親、トレマン・ティタノマキアは居なくなっていた。
俺の様に分解した訳では無い、只消えた。姿が見えなくなっただけかとも一瞬思ったが、どうやら違うようだ。権限を取り戻しつつあるロペが非常に驚いている事から、
ただ事ではないのだろうことが窺える。
「驚いた。何をしたんだ?」
「私のスキルの応用・・・とでも言いましょうか。今迄のように体を切断するのではなく、本来の使い方・・・なのかも知れません。次元を切るスキルですから、
あれの周りの空間を切り取ってみたのです。」
「ほ~。分かるような分からんような?」
「今頃、アイツは次元の狭間に磨り潰されているだろうねぇ。」
Oh・・・必殺のスキルだな・・・。アンジー・・・恐ろしい娘!!
「スゲーな・・・。まさに一瞬だな。瞬きする間に消えたから驚いたよ。」
「ふふふっ。頑張りましたから、褒めてください?」
俺はついいつもの調子で、アンジーの頭を撫でてしまった。年頃の娘さんにするこっちゃないな。
「ふぁ・・・。」
「おぉ・・・悦ってる・・・。」
これ。ロペそういう事言うのはやめなさい。
「お・・・おまえは・・・・。アンジー・・・。」
今まで放置されていた祖父こと、ゲールマン・ティタノマキアは、唖然とした顔でアンジーを見つめていた。
その顔には恐怖が貼り付けられており、次は自分の番だと半ば諦めとも思える表情も見える。
「お爺様。」
「・・・。なんだ・・・?」
「ティタノマキアの全てを私に下さい。」
アンジーカッコイイ・・・。そう来たか・・・。俺はてっきり新型戦艦をくれというかと思っていたが、そうだな。
その方が俺達らしいか。
「・・・わしの一存で決める訳にはいかん・・・。」
「決めてください。今。ここで。直ぐに。」
矢継ぎ早に詰め寄るアンジーの姿は、地上げをするヤクザの如く、オーラが立ち上っている。
断ることを許さない、そんな意思が明確に見えている。
「し・・しかし・・・。」
「ティタノマキアはお爺様の所有企業の筈です。株式会社でもありません。役員は確かにいるでしょうが、お爺様の意志に逆らうものが居るのですか?」
「それは・・・。」
ゲールマンの声はどんどん尻すぼみに小さくなっていく。俯瞰で見ると気の毒な爺さんにしか見えないな。
初めに見た威厳あるビジネスマンはもう消え去っている。
「ティタノマキアの全てを手に入れたとして、一体何をするつもりだ?そこいらの企業とは格も、規模も桁が違うのだぞ?」
アンジーはそんな事は決まっていると、立ち上がり何故か俺に飛びついてきた。
「雨宮様に差し上げるのです!!!」
出来たよ?撫でて?と言わんばかりに甘えてくるアンジーに、俺は顔を引きつらせながら頭を撫でてやる。
さっきまでのかカッコイイアンジーはどこに消えた・・・。
「な・・・。何を言っておるか!どこの馬の「黙りなさいこのクソ爺が。」」
!?
今の底冷えするような声は誰の声だ!?ってアンジーかい―。
俺の胸に顔をうずめたままのアンジーから、再びオーラが立ち上り、アンジーは金属製のテーブルが凹むほど力強く踏みつけた。あまりの勢いに、
後ろから見ていた俺には、めくれたスカートの中身がちらっと見える。
赤・・・。
今度はただの脅しではない。明確な殺意がゲールマンを包み込んだ。
「私が下手に出ていれば・・・。調子に乗っているようですね?」
この二人の力関係って・・・。どうなっているんだ?
「あ・・・ぇ・・・・?」
ゲールマンはもはや豹変と言っていいほどに変化を遂げた孫娘の言葉に、膝が笑っている。
その目は事実を受け止めきれないのか、瞳孔が開いているようにも見える、顔は既に滝のような汗が吹き出し、拭う事も出来ないほど緊張している様だ。
「全てを渡すと、それだけでいいのですよ?録音録画はしてありますから。寧ろそれ以外の言葉は必要ありませんし、どうでもいいのです。」
「あ・・・あんじぃ・・・?」
フッと。オーラが消えいつものアンジーに戻ると、ゲールマンは我を取り戻したのか俺を睨みつけてきた。
「貴様いったいアン・・・「まだ余計な事を言うのですか?」」
瞬間、今までの比では無いオーラが立ち上り、アンジーの髪が重力を振り切り遡る。若干部屋が震えている様だ・・・。
「わ・・・わしにもプライド・・・「捨てなさい。不要です。」」
容赦ねぇ。しかしこの爺さんも折れないな。そこは流石に譲れないか・・・?
このままでは千日手にでもなりそうだな。流石に介入するか・・・?
しかし俺が口を開きかけてふとロペの方を見ると、唇に人差し指を当てて、任せようょ。とジェスチャーをして来たので、黙って成り行きを見守ることにした。
「雨宮様に全てを捧げるのです。それ以外に進むべき道はありません。あの男は死にました。お爺様も潮時ではありませんか?」
今迄のアンジー、監獄のボスになる前のアンジーはきっと、相応に家族を愛する優しい娘だったのだろう。
しかし、監獄に入った後のアンジーは、激しい生き残り争いを経て、強く逞しく、そして悪魔的になった。
変化に戸惑うだけの老人ではない、強い祖父であるゲールマンは、許容範囲をはるかに超えた孫娘の変化にも何とか対応しようとはしているものの、その場に気を失わずに踏み止まるのがやっとなのだろう、既に只にらみ合い言葉を交わすという次元をはるかに超え、行動に出たアンジーを見上げ鼻水を垂らした自分に気付いたゲールマンは、孫娘のパンチラに目を奪われていた。
「ええい!!はしたない!!股を閉じんかっ!」
だらしない顔をしていた自分に気が付いたのか、大きな声で自分を一喝する様に、奮い立たせた。
「先ほどから聞いておれば!勝手な事ばかりぬかしおって!!ワシはそんな娘に育てた覚えは無いぞ!!」
「当然です。今の私は雨宮様に全てを捧げておりますから。以前の私ではないのです。」
「ぐぬぬ・・・。・・・・はぁ・・・・。もうわしは疲れた・・・。」
流石にこれほど強烈な緊張感は、老人の体力を大分奪ったのだろう。荒く息をつきながら話していたが、ソファーの背もたれにもたれ掛かり、深く息をついた。
流石にこのまま黙って見ているのはな・・・。別に決別させたかった訳では無いし、爺さんがいるままでティタノマキアが手に入るのならなおいい。
「爺さんよ?アンジーは俺が貰うことになっている。そう言えば少しは気持ちが変わるかね?」
「全く・・・。ジェニファー先生もとんでもない奴を連れてきてくれたもんですな。」
先生?
「ふふふ・・・。もう諦めな?あたしもうちのロペを嫁にやるんだ。嫁入り道具の一つでも何か持たせてやるのが親の務めってもんじゃないか?」
「まぁ、どうせティタノマキアを継げる者はアンジーしかおらんのですから、やぶさかでは無いのですがなぁ。」
一呼吸置くことで落ち着きを取り戻したのか、今度はゲールマンの目は俺をとらえていた。
「ジェニファー先生、こ奴はいったい何者なんですか?ロペお嬢さんだけじゃない、ウチのアンジー迄手に入れて一体何をするつもりなのだ?そもそも誰だお前は?」
そう言えば、自己紹介していなかったなぁ。
「自己紹介とかすっかり忘れていたぜ。雨宮銀河。新人類をやっている。ってそんな顔で見るなよ。まだこの世界に来てそんなに時間が経っていないんだ、紹介できるような経歴なんか何もないさ。」
ゲールマンの視線はさらに猜疑心を増し、俺の事を下から上まで何度も見てくる。
表現すると・・・。あ”?あ”?って感じ。ガン飛ばされてる。
「はっはっは!ゲールマン。チンピラみたいな真似はやめな?身元は確かさ。これでも銀は、神の遣わした最後の勇者だぞ?」
勇者とか言われた事無かったわ。勇気はあるな!自慢にもならんが。
「勇者ですかぁ。イチロー・スズキと、どちらが強いですかなぁ?」
むぅ?引き合いに出されたのが本物の勇者っぽい奴じゃん?
まぁ実際勇者では無いが。
「にゃはは!そんなの比べる話じゃないよぉ。銀河きゅんに決まってるじゃないかぁ。」
ロペが笑いのツボに入ったのか、本気笑いで俺を推してくる。
「あのこは普通の人間としてここに来たけど、銀河きゅんはそもそも世界最強の人類としてゼロから私が体を作ったからねぇ。比較にならないよぉ。」
ロペの言葉にアンジーとジェニ、そしてゲールマンがギョッっとした顔をして、何言ってんだこいつ?みたいな空気が出来上がった。
しかしジェニは事実を知っている。一応説明するようだが・・・。
「えー・ウチのロペはね、あんたも知っているベロペの生まれ変わりなんだ。」
「ベロペですと!?管理者様の生まれ変わり!!!!????」
どんがしゃ~~~~ん
ものすごい勢いでゲールマンは立ち上がり、今まで疲労困憊の老人だったとは思えないスピードで、金属テーブルを壁に叩きつけ、
ロペの前で素晴らしく綺麗な土下座をした。
これがビジネスと言う戦場を戦い抜いてきた、漢のDOGEZAか!!!
「ちょっと・・・・今はもう只のロペ何だか・・・・いや・・・。雨宮ロペなんだから。」
何でちょっと得意げなんだ。
でも・・・ちょっと響きが良いな・・・。俺の感あるな。
「では私は雨宮アンジーですわ!!」
それちょっと違くない?今という意味で。
入籍待ったなしか?
「これ!アンジー止めなさい!!管理者様の御前だぞ!!頭が高いわっ!!!」
何展開だこれ?急に時代掛かって来たな爺さん。
「ははーーーっ!!!」
ロペがくるしゅうないくるしゅうないと、悪乗りをしているところをジェニがはたき、歯止めがかかった。
「で・・ではこの御方は、管理者様の夫という事はさらに上位者!?・・・神!?」
「そうですわお爺様!!!雨宮様は神様で・・・「ちゃうがな!」」
あふない、いきなり神にされるところだった。何を言い出すんだこの爺と孫は。
と言うか息子の事は良いのか?一切追求を受けないんだが?
「なぁ、話の流れをぶった切るようで悪いんだが。息子は良いのか?ってもう居ない訳なんだが。」
そう言うと爺さんは床に正座したままで俺を見る。もうこの爺さんの中では俺の位が神にまで昇格しているようだった。
「当然でございます!あのようなもの今更気にもなりませぬ!神よ!」
なんかもういいか。否定するのも面倒になってきちゃったよ。
「で?ゲールマン。ティタノマキアはどうするんだい?アタシはこれでも尽くす女だから?
銀・・・神様に尽くすつもりでいるけど?」
あっ・・・こいつ、そっちにノってきたか。
「決まっております!!わが社の全身全霊をかけてお仕えさせていただきます!!」
もう好きにしてちょ・・・。
「では雨宮様。ワシらは実務の方を詰めてまいりますので、自由に見て回ってくださいませ!」
・・・ハッ。呆けていたな。じゃない。そうじゃない!見るのはもういいんだ。確かに見たいものはたくさんあるんだがそうじゃない。
「アンジー!ちゃうやろ!それも大事やが!船!戦艦買いに来たんやないか!」
イカン。もろに出た。まぁそれはもういいか。
「あ・・・。そうでしたわね。お爺様、今雨宮様にお仕えする信者が800人ほどいるのですが、おすすめの戦艦はありますか?
ヘルフレムに居る間に様変わりしてしまっていて、私では雨宮様に良いものをお勧めできませんの。」
「もちろんだ!!きっと運命なのだな!!わが社が総力を挙げて開発した最新型魔導戦艦マギアラビスをどうぞお受け取りくださいませ!!」
魔導戦艦?それってもしかして、あれか?ジェニの所で見たあの謎値段の戦艦か?
「見れるのか?その戦「もちろんでございます!!」」
そんな被せるほど興奮するなし。血圧高いんじゃ無かったのかよ。
「担当の物に案内させますので!少々お待ちください!」
ゲールマンはデスクに備え付けられている端末で、担当者を呼ぶと、どう言って呼んだのか、スーツの似合う眼鏡の美人さんが
ハイヒール甲高く鳴らしながら息を切らせながら現れた。何秒位で来ただろうかこの人?ゲールマンが顔を上げてから五秒も経っていないのだが・・・?
「お待たせいたしましたぁ!!!!」
これまた凄い声量である。今部屋のガラスが揺れなかったか?ここのガラスが割れたら、下のショールームにガラスの雨とギロチンが降るぞ?
・・・・!この人なんか凄いと思ってみていたら今やっと気が付いた。髪が・・・。これ何色って言うんだ?ケバい・・・いや・・・染めているのか?
地毛・・・?ファムネシアみたいな色もあるぐらいだし・・・・って、あれは俺が自分でそう作ったのであって、こんな自然界に存在しないようなレベルの色が他にあるか・・・?
「あっ!すみませんすみません!変な色の髪の毛ですみません!!」
猛烈に謝られた。こっちを直に見てその言葉を聞いたものだから、その凄い声量のせいで脳が揺られている気すらした。謝罪(物理)って感じだ。
しかし良く見ると目にはあまり良くないが、決して似合わない訳では無いのだ。たれ目で、モブ娘っぷりが半端じゃないが、近づいて良く見てみると実はかなり美人だ。
ん~。実にけしからん眺めだ。彼女は何故かずっと頭を下げたままの姿勢で微動だにしないせいで、二つのマウント富士の間を走るトンネルが丸見えである。実にけしからん。もっとやれ。
「銀河きゅんおっぱい見てる?」
エスパーっ!!
「雨宮様・・・ちらっ。」
そこっ!見せようとするなっ!
「ふぅ。全く・・・。ほら。モブ娘。案内してくれるんだろ?行こうぜ。」
「ふぇぇ。モブ娘ってなにぃぃ?」
俺はモブ娘が開けた扉を抜け、廊下に・・・?あれ?
「あれ?おかしいな?応接室までは確か廊下が・・・?あれ?」
俺はキョロキョロ周りを見渡してみたが、どう見ても戦艦用のドックですね?
同じ・・・いや、若干違うが同じ型であろう戦艦が十隻並んでいるドックに何故か俺は一人で突っ立っていた。後ろを振り向くと応接室が無い。
えー・・・・?なんかワープしたんですけど・・・・?俺のナノマシン、ついにここまで来ちゃったか?
そう思って自己診断をしてみたが特にそれが可能な事実はなさそうだ。とすると、あのモブ娘かもしくは、ゲールマン爺さんのスキルか?
ジェニの線も捨てきれないが、それはなんだかない気がしてる。
「おーい!そこのあんたぁ!一体どこから入ってきたんだぁ?ここは立ち入り・・・「この方は関係者です―――!!!」」
ビリビリ空気が振動する程の大声が、俺のはるか後方恐らくこのドックに入る本来の出入り口と思われる方向から聞こえた。にしてもさっきから加減ってもんを知らんのか?戦艦の上の方から声を掛けてくれたおっさんが、耳を抑えてフラフラしとるんだが大丈夫かアレ?
その内人死にが出るぞ?
「銀河きゅ~ん。どうやってワープしたのぉ~?」
ロペがモブ娘と一緒に走り寄ってくるが、全く心当たりがないもんだから答えようがない。
「わからん。気付いたらここに居た。ロペかジェニがスキルでも使ったのかと思ったわ。」
ロペは首をかしげて少し考えたようだが答えは出ないようだ。
「私はそういうスキルは持っていないよぉ?むしろ、銀河きゅんならナノマシンで出来そうな気がするから不思議だよねっ?」
俺もそう思ったから自己診断してみた訳だが、結果は何もなし。意味が分からないです。
「モブ娘。あんたのスキルなのか?」
「モブ娘って言わないでくださいっ!!!!」
彼女は怒らせてはいけない様だ。今のデカい声は危険だ。多分俺の方を向いていなかったら誰かが死んでいるレベルだ。一瞬眼球が破裂したかと思った。何故なら、あの大声を聴いた瞬間、視界がブラックアウトしたのだ。こいつ俺を殺しに来てる。
「悪かったから・・・。デカい声を出さないでくれるかな?他の人が死ぬから。俺は調整したからもう大丈夫だけど、他の人が死ぬから。」
大事な事なので二回言いました。もう一回ぐらい言っておいた方がいいかもしれないな?
「そんなに大きな声じゃありません!!!!」
ヤバい、調整して油断してた・・・。ちょっと近づいた俺がバカだった。鼻血と耳から血が出た。直ぐに治したがこれ以上近づくと命に係わる。
俺はそっとモブ娘から距離を取った。目測にして約50メートル。これ以上近いとあの声はしんどい。多分耳元で聞くと普通の人間は爆散して散るだろう。
「どうしてそんなに離れるんですか!?説明できないじゃないですか!!!!」
全然余裕で出来るよ・・・。モブ娘が声を出すたびに俺は、コンビネーションを喰らっているような錯覚を覚える。つまり脳が揺れているのだ。
それと知らずモブ娘は俺に近づいてくる。それに合わせて俺は同じ速度で下がる。
ヤメロっ!こっちくんな!
「その場で止まれぇ!!そこから囁き声でも十分に聞こえるから!!!」
言った。もしかしたら傷付けるかもしれないと思ってずっと我慢していた。だがこれ以上は・・・。さっきから俺の後ろの方から、ドサドサと人の倒れる音がするのだ。
きっと作業をしている方たちだろう。突然の襲撃・・・否、只の大声なんだが、もはや音波兵器と言っても差し支えない。俺なんか悪いことしたかなぁ・・・・?
ほろりと、俺の頬を汗が滑る。
俺もう一度死ぬかもしれない・・・。こんな覚悟を決めたことなかったのに・・・。俺の初めてを奪っていきやがって・・・。
ただ戦艦が見たくて・・・・。興味本位だったんです・・・。悪気は無かったんです・・・・。
だが奴は止まってくれない。何故だ?何故いう事を聞いてくれないんだ?
死にたくないよぉ。
ロペとジェニはと言うと、ロペは既に最初の第一声を間近で聞いてしまったが為に、両耳から流血して気絶してるし、ジェニに至っては一緒にドックに入ったフリをして、ドックの入り口のドアの裏側に隠れている。ただ、途中の一番被害の大きかった説明できないの件の所で、振動が扉に伝わったのか跳ねた扉が覗き込んでいたジェニの顔面を強打し、彼女もまた気を失っていた。
まさに死屍累々。せめて人死にが出ていない事だけでも祈らせてくれ・・・。
俺は一体なぜこんな目にあっているのだろうか?
俺はもう一度自己診断をしてみると、データログの中に気になる報告があった。
ーーーーー
マスターへ向けてSS級スキルの発動を検知、危機回避のため位相空間を経由し、安全圏へ強制転移します。
ーーーーー
やっぱり奴は俺を殺しに来たのか・・・?しかもナノマシンさんが限界を超えた瞬間かよ。
ーーーーーーーーーー
その頃応接室
「新庄の・・・?生きているか?」
新庄は流血する耳をハンカチで拭い、ジェスチャーで、何とか。と返事をした。
「テツぅ・・・・。ポ・・ポーション無いかぁ・・・?」グアァ、自分の声で耳がぁ・・・。」
切嗣も漏れずに耳から流血し、悶えている。
「君たち・・・大丈夫かね?」
それぞれ三人は、大丈夫ではない。と告げる。
「あの女は一体何もんなんだぁ?殺しに来たぞ?」
ゲールマンは彼女を呼んだ際に既に耳栓を詰めていた為に、少し脳が揺れる程度で済んでいたが、連続してあの声を聴いていた為に、目の前を星が散っているような感覚を覚えている様だ。
「彼女は普通の・・・この支店の社員なんだが・・・?優秀な社員だが・・・。」
声が大きすぎること以外は。と付け加えることも忘れない。
「お・・・お爺様・・・。これはあんまりではありませんか・・・?孫娘の結婚祝いにしては・・・。」
「ま・・待ってくれアンジー!」
「んなああああぁぁあ!!」
アンジーの傍で声を張り上げたゲールマンは頭を抱えてソファーに座り込んだ。
「すまん・・・。」
先ほど傷ついた鼓膜がさらにダメージを受け、アンジーはもんどりうってソファーの上で飛び跳ねる。
「神よ・・・。申し訳ございません・・・。私が間違っておりましたぁ・・・。」
「ジーさん。ポーションぐらい備蓄してないのか?ほっとくとだれか死ぬんじゃないか?」
ゲールマンはハッとして顔を上げ端末を操作しようとしたが、諦めて自分の足で歩いて行く事に決めたようだ。
「どうしたんだ?ジーさん?」
「端末が故障しておった。さっきのアレのせいだろう、少し待っていなさい医務室からポーションを持ってくる。」
新庄は生体機械の部分を自己修復しながら、ふと思う。
あれは魔王とかいう奴じゃないのか?と。
宇宙戦艦コバヤシ
第四世代型軽巡洋艦。太陽系共和国に存在するムーランテラー社製軽巡洋艦。元々太陽系共和国が月軌道巡回用に設計した軽巡洋艦。
就航限界を超え引退、廃棄処分されるところを、展示品として好事家が購入、展示品として博物館に展示されていたが、戦時中のどさくさに紛れて海賊に強奪され、現在に至るまで海賊船として冥王星圏にあらわれ、商用宇宙船を中心に海賊行為を繰り返していた。ムーランテラー製の第四世代戦艦は、汎用マニュピレーターを標準装備をしており、専用のアタッチメントも多数開発されていた。
また、この時代の共和国製の戦艦は、光学兵器に対する防御力が皆無であり、当時の帝国主流戦艦は光学兵器をメイン武装としており、壁にすらならないと揶揄され、後方の任務ですらほぼ使用されなかった。
しかし、技術的に限界を迎えていた時代の産物であり、それしかないので使わざるを得ない、という物であったため前線に集中して使用され、物量を以て体当たりする戦法が当時話題を呼んだ。
主に汎用マニュピレーターには金属の塊とも言える金棒型アタッチメントを装備する艦が多く、最大船速ですれ違いざまにブリッジを叩き潰す戦法が主流戦法として確立された時には、多くの敵戦艦を撃墜していたが元々の装甲も対して厚くないため、すれ違いに失敗し自爆する艦も数多く見られ、実行にはかなりの練度が求められる。
またこの艦は、射撃武器を搭載できず、近接戦闘専用戦艦という、戦艦にあるまじき武装の貧弱さから、こばやしさんと呼ばれ、戦闘機乗りが撃墜される際、共和国ではコバヤシが来た、と隠語になった。
サラマンダー級
ティタノマキア社の主力商品たる駆逐艦。十年前にロールアウトした一番艦が後に幸運を呼ぶ男と呼ばれた、タロー・ピーチカン上級中尉率いる
遊撃部隊オーガキラーに配備され、大きな戦果を挙げた事で一躍有名になり、戦時中は他の艦艇の生産ラインを全て入れ替え、サラマンダー級のみを生産するという
博打ともいえる生産を行ったが、その博打は功を奏し、生産した艦艇はほぼ完売し、戦争末期には一時的に造船するための資源が不足する事態に陥った。
戦時中は幾度ものアップデート、バージョンチェンジを行い、洗練された今のサラマンダー級が完成したが、サラマンダー級の納入が遅れると戦線が瓦解すると言われ、軍から民間軍事会社まで様々な組織からの突き上げが常に行われており、軍からは他よりも先に納入しなければ明日には会社が無くなると思えと、脅し掛けられていた。
二対一体のサラマンダー級の主砲、フレアブラスターは当時の同クラスの戦艦が相手であれば、光学シールドを貫通し一撃で撃沈させられるほどの威力を誇っていた。
八対十六砲門もの数を備える光学副砲、熱核レーザーバルカンは、当時すでに旧式となり廃れつつあった小型核融合炉を使い、その熱量をコンバーターを通し急速冷却が可能なレーザーバルカンと融合させ
大出力の光学兵器として新たに開発されたリサイクル兵器ではあるが、ロールアウト初期に重大な欠陥が見つかり、一時的に別の副砲を搭載した別モデルが登場するも、直ちに改善されたため、
元のモデルのバージョンアップバージョン、さらに大出力のフレアレーザーバルカンとなって現在まで使用されているが、開発側としてはいつまでも、リサイクル兵器を使用したくないという意図があり、
近々副砲のアップデートが予定されている。