EP104 ダンジョンブレイク
やめてない!
ーグオォオオォオオオオオォオ!
合成音声の様な耳障りな方向が響き渡るダンジョンの最深部では、一人のサイボーグと一人の女性、そして半壊したアンドロイド犬、倒れた多くの兵士達が死屍累々の様相を呈していた。
「クソ!お前は只のモンスターを造るロボットだろうが!」
ーオオオオオオオオ
「堂島君……」
「何なのよあいつ……」
もはや原形を留めていない、肉と機械の塊となった転移者はダンジョンのコアをも取り込み、無限に近いエネルギーを以て巨大な口の様と言える外観になった堂島太一、もはや自我を失い唯々無秩序に無限にモンスターを吐き出すだけの存在に成り下がっていた。
しかし自己防衛本能は残っているらしく、彼を破壊しようとこの場に集まった有志達は、もはや戦う力が残されているかどうかも怪しい。息を切らせて自分より大きなロッドを振り翳す女性。
「ぐぬぬ……我は、セイザンテイオー!……違う!否違わない!私は!……」
ボロボロになりながら混乱を極めているが、彼女の精神は未だに定着しておらず、二つの精神が一つの体で鬩ぎ合っている。
「ちょっとアンタ大丈夫なの!?」
「黙れ!我……私……」
「何なのよもう……」
ーーーーーーーーーーside ガーディオンシリウス
箱庭世界から脱出することに成功したガーディオンシリウス、手嶌葵、デモVははぐれたジオβを探しながら、見覚えのないダンジョンを彷徨っていたのだが、上も下も分からない空間の捻じ曲がったダンジョンを彷徨い歩くうちに、ダンジョンの最深部へと辿り着いた。そこでは既に多くの人員やモンスターが入り乱れた乱戦となっており、人間側が劣勢なのは火を見るよりも明らかだった。
二人と一匹は見覚えのある機械の様な肉の様な化け物を目にし、戦場と化したダンジョンの最深部へと突入した。
多くの兵士が倒れていく中、一人立ち続け、無双の力を発揮する一人の女性。しかしその女性も調子が悪いらしく倒れるのも時間の問題だった。
「葵!あいつ未だ暴れているよ!」
「異世界に飛ばされたショックで壊れたのかも!?」
完全に壊れていればそれでもよかったのだが、未だに全く衰えては居ない様で、口としか呼べないその存在は、口腔内から無限にモンスターを吐き出しながら、口の周りの髭の様な部分で迫りくる兵士達を一蹴していた。
「生物に戻れてヨカッタネー……」
「そんな悠長な事を言っている場合じゃないでしょ!?」
ノリ突っ込みを気軽にできる間柄の葵はその間にシリウスの方を見ていたが、その一瞬の隙を突き、髭が一本葵へと向かう。
ーギャン
「デモV!」
油断した葵を嘲笑うようにうねうねと無数の髭が、これ見よがしにうねっている。
「ごめん!デモV」
ーキューン
本物の犬の様に気遣う様子に、涸れ果てた涙が込上げて來る様な気がする葵だったが、そんな間を空ける間もなく、鞭の様に撓る髭はダンジョンの地面を抉りながら激しく打ち据えられ、デモVを抱きながら転がるように躱した葵は、半人半機の体が悲鳴を上げている事に気が付き苦虫をかみつぶしたような顔になった。
「あんまり無理はしないで欲しいけど、そうも言ってられそうにないよ」
ーてしまぁああああああああ!!!
「「!!」」
ー死ね!死ね!死ね!お前も化け物になれ!!!!
「嘘でしょ、あいつあれで意識が有る訳?」
ー俺を化け物にしやがって!クソ――――!!
「私じゃ無いんだけどなぁ……確かにロボにしたのは私だけど」
「いや、あいつ脳移植しなきゃ死んでたじゃん」
ーだまれぇぇぇえ!!
ーーーーーーーーーーside 雨宮
暴走したダンジョンコアが、第三世界に吸収されずに残っている。セイザンテイオーに身に着けさせた制御ユニットから雨宮へ向けて警告が飛ばされてから十数分、雨宮は超高速でUC世界最深部、ダンジョンコアルーム迄飛び込んだ。
「何じゃこれ」
地面に倒れ伏した無数の帝国兵と、ロボット?そしてセイザンテイオーの姿がそこにあった。
「おい、テイオー起きろ」
「あ・が・」
(む?バグを起こしているか?)
「あなたは彼女の仲間?」
雨宮がセイザンテイオーを介抱しつつ口型の化け物を警戒していると、完全に首から下が投げ出された状態で頭だけで雨宮の方を見る葵から声をかけられ、ちょっと驚いたが、何とか冷静にホラーな状況を呈している現状を把握する。そして雨宮は葵の隣で倒れたガーディオンシリウスを分解した。
「えっ!?」
葵は訳も分からず突如消え去ったシリウスの状況を見る事も出来ず、自身の脳に映されるレーダーからシリウスの反応が消えたことに驚き、エネルギーが尽きたのか眼球だけで雨宮を睨みつける。
「何……を」
(こえーこえーよ。何だこのロボ)
「ガーディオンはそのままだとおかしくなる可能性が有るから、作り直す」
雨宮はエターナルグレー防衛システムによって作られた、ガーディオンシリウスのデータを改めて解析し、バイオロイドと呼ばれる謎に精巧に作られた人造人間をこのまま再現してもいい物かどうかトレースし、既にハードが限界を迎えていたシリウスを改めて雨宮なりにカスタマイズし、ハイパーバイオロイドとして新生させた。
「わお。これ凄いね」
「服は思いつかなかったから適当にその辺の奴のコピーをしただけだからな」
帝国兵の制服をコピーした物を知らぬ間に着せられていたシリウスは、今迄着ていた服がボロになった事を思い出し、バシンバシンと地面を抉り打ち据える髭が何故か自分達に当たらない事に首を傾げた。
「これどうなってるの?」
「ちょっとそれより私も直してよ!」
「普通見知らぬ他人にそんなこと頼むか?」
「それ所じゃないでしょ!」
心中穏やかでは無い葵に比べて、気持ちの悪い生物が何故か執拗に攻撃してくるこの状況に辟易して居る雨宮は、懇願して来るでも無く、若干上からの視点で指示を出してくる謎のロボットからの矢継ぎ早なせっつきに、このまま頭を蹴り飛ばしてやろうかと思いながらも、一応被害者だからと言い聞かせ、ホストナノマシンを一機葵の口から侵入させ再構成を開始した。
ーでしまぁああっぁああ!!
「イイ感じに狂ってるなぁ」
クルー達には制限を課しているナノマシンフィールドを展開したままの雨宮は、自らの求める何かがそこにある事にふと気づいた。
「……そこにもあるのか」
ーうぉおっ・おっ・おっお・おぉおおお!!
「界獣を捻じ込まれて正気を保っていただけでも、称賛に値するのかもしれないが」
雨宮はゆっくりと復活させた二人と、ついでの一匹を放置して化け物に近づく。
「それはお前には必要ない」
フィールドに当たってはじけ飛ぶ触手の様な何かは、それだけで鼓膜が吹き飛ぶほどの大音量で、周りに居る息のある者達は転がるようにコアルームの入口へと飛び出すように駆け出していく。全員が耳を抑えたまま。
「私達は何とも無いね」
「何でだろうね?」
「ばふ」
首を傾げながら葵の周りにまとわりつく犬……。犬。
「デモV……?」「わふ」
「アンドロ犬じゃ無くなってんじゃん」
「何それ」
二人と一匹は自分に被害が無いと気が付くや、緊張感が一気に削がれた様で、雑談に興じ倒れたセイザンテイオーの周りに集まり、ツンツンと突っついてみたり、取り敢えず転がして見たり遊び始めた。
「お互い化け物って言うか……」
「何で普通にこんな事が出来るのかなぁ」
「フンフンフン」
完全に犬と化したデモVはセイザンテイオーを嗅ぎまくり、湿った鼻でペタペタと感触を確かめたいのか余す所無く鼻をこすりつけている。
結局雨宮に傷一つ付けられない化け物は、何かを本能的に感じ取り、後退りしようとするのだが、体はその場に張り付けられており動く事そのものが想定されて居ないらしく、少しでも雨宮から離れようと反って反って体を撓らせていたが、結局雨宮に触れられる事も無く、その場から消え去り、その場には何も残らなかった。
雨宮はズボンのポケットに手を突っ込んだまま、気怠そうに溜息をつき、その場に座り込む。
(又何か……どこかから)
ーーーーーーーーーー
「ーーは賢いね」
「ーーは凄いな」
「「愛してるよ」」
ーーーーーーーーーー
遠い遠い過去の記憶。初まりの始まり。遠い世界では当たり前だったそんな事。誰もが持っていて然るべき国の根幹で有り最小単位。
(……あー……)
何故か止まらない涙。
捨て去っていた筈の感情。
だが雨宮の記憶には残らなかった。
(何処に行くんだ……俺の……)
俺の記憶。
ーーーーーーーーーーside エリナ
雨宮とのリンクが切れてから数刻、二人に分かれた内の女性は眠ったままで、エリナ達はその目覚めを待っていた。
(銀河様から未知の波動が……)
何故か郷愁に駆られるエリナの瞳から一筋の光、だがそれは自分の思いでは無い。そう思う。しかしこの感情も又、雨宮の物だと思えばそれも愛おしい。
(あぁ……お傍で支えて差し上げたい)
「エリナ―?」
「むぅ、あなたは何も感じないの?」
「そんな事無いけど……、よくわかんないや」
「まぁ、育ってきた環境にも寄りますか」
「ふーん」
「まぁ良いわ、そろそろお姫様の所に戻りましょうか、彼女も目を覚ましましたし」
倒れたままだったおっさんは既に、意識の無いままで勝手に自分の場所へと戻り、その中に閉じ込められていた女性……だと思われる存在は、女性の肉体を得て改めて目を覚まし、二人の方へと歩いてくるが……。
「私は結局誰になったんだ」
「その体は新しく創られたものだから、あなたはあなたよ」
女性は全裸の自身を手で触り、首を傾げたものの、先程迄のおかしな感じは形を潜め、純粋な疑問が首を傾げる事につながっている様だ。
「人間……では無い様だが」
「勘違いするな。私達は人間だ」
「しかし人間はこれほど強固では無い」
エリナは一度で理解しない事に苛立ちを覚えたが、逆の立場になれば理解など出来るものでも無いと思い直し、額に寄ったしわを指でほぐした。
「人間だからこそ、強くなれるのよ。それこそ無限にね」
「無限に……か」
「貴方の中にも必要なものが有るの、余計な事を考えていないで、服を着なさい」
「服……どうやって?」
そう言えば元々ロボットだったなと思い直したエリナは、位相空間に収納していた自分の制服のスペアを渡し、その場で着替えさせた。
「頑丈な服……だな」
「まぁオリハルコン繊維で作られているからね」
「オリハルコン……データには無い物質だ」
「えりなー?」
「そうね、行きましょう。貴方も付いて来なさい。その体に慣れる為にも動かしなさいな」
「分かった」
ーーーーーーーーーーside イミル
皆が巨大なロボットを倒した後、蒔苗の住民にもみくちゃにされたイミルは、折角のショートツインテが乱れ、疲労感に苛まれていた。
「疲れた……」
「イミル?」
解放された蒔苗はお祭りのような状況で、真面に街の機能が動いていなかったが、ホテルの従業員は普通に働いており、ボロボロになった眷属達を丁寧に迎え入れてくれた。
「あらあらあら?お疲れのようですねお嬢様?本日は皆様でお泊りでございますかぁ~?」
ふわふわウェーブの受付嬢が定型文を読み上げる様にパーティのメンバーへと語りかけ、コッファは「取り敢えず一泊」と全員分の料金を先払いした。
ーコチラヘドーゾ
案内と掃除を行うだけのロボットが、パーティを部屋へと案内する。
広い廊下進むと不必要な程大きなエレベーターに乗って、最上階へと辿り着いた。
「ちょっとコッファ、何で最上階なのよ」
「え?一番広い部屋って言っただけなんだけど?」
「普通に足元見られてるじゃないのよ!」
蒔苗グランドホテル最上階、ロイヤルスィートルームへと案内されたパーティは、全員で生活しても余りある異常に広い部屋で、ゆったりと寛ぎながら今後の展開を予想し始める。
「あー……このベッドふっかふかで良いわー」
「んん……私はもう少し堅めの方が……」
「ZZZ」「ZZZ」
イミル、トトの二人は疲労からか完全にスイッチが落ち、ベッドに転がると同時に寝入ってしまった。
「長い戦いだったな」
「もう疲れたんだけど~?」
半日程を駆けた戦いの前に数時間の移動時間が有り、肉体は兎も角精神が大きく疲労していた。
「でもこれからどうするか決めなきゃね~」
エリーの誘導で何とか落ちる意識を引き戻した眷属達は、翌日の行動を考え始めた。
「敵に支配されてる地域を開放していくのが、このゲームのメインでは無いのか?」
「私はロボットを造るのがメインだと思ったけど?」
「あれ?お金増やすのがメインじゃないの?」
「遊ぶだけだと思ったけど~?」
「「「「……」」」」
「何言ってるのよ、異世界ダンジョンを統合して、監理し易くしたついでに遊べるような世界を創っただけなんだ……あ」
「「「「……」」」」
部屋のワインセラーからワインを取り出してグラスに注ぎながら、諜報部しか知りえない情報を滑り出させてしまったエリナは、気を抜き過ぎたと後悔しながらも、まぁ良いかと冷蔵庫からつまみを取り出し、バーテーブルに並べると、腰を落ち着け改めて説明を始めた。
「貴方達もあのダンジョンが幾つかの世界と繋がった事を覚えているでしょう?」
「うむ、ファントム達の精神世界に、ロボット達の箱庭世界、あと娯楽世界だったか」
「それともう一つ、別の世界と繋がっている」
「四つも?それって大丈夫なの?」
「まぁ銀河様から頂いた情報では問題は無いという事よ。只……」
「只?」
「退屈はしないわね」
「「「「確かに」」」」
刺激を受け過ぎた眷属達は、世界が吸収される程度の事は只の刺激として流されてしまうのだった。
「そう言えばボスを倒した後何処に行ってたの?」
「私?銀河様からの頼まれ事をしていただけよ」
「ほうほう……。それであの人がいると」
エレナとトトは先程の転生体ジオβを連れて来たが、本人は自身の肉体に弄ばれ、椅子に座ったままでふらふらもじもじとしながら落ち着き無く、どうしていいかと必死な様子だった。
「どうした?」
「わ・分からない……だが下半身が……んんっ」
「?」
その時イミルが目を覚まし、ぽわーっとしたままで目をこすり、キョロキョロと周りを一通り見渡した後、「といれ」と言いながら部屋の入り口近くにあるレストルームへと向かう。
「ハッ!」
「ティオレっち!」
「イミル待て!」
「貴方立てる!?」
「いや……そのっ・立ち上がると・何かが……」
「?」
ふわーっと欠伸をするイミルを、少し遠めのトイレへと押し込んだミンティリア、そっと振動をスキルで殺しながらジオβを運ぶティオレの二手に分かれ、女性陣は速やかに道を作りジオβの初めてを収めることに成功した。
「迷惑をかけてすまない」
「人間ってこういうものよ」
「それってどうかなぁ~?」
ーーーーーーーーーーside????
(あ・あ。が・が?ん?あ?)
肉体に満ちるマナが荒れ狂い、翻弄されるままにのた打ち回りたくなる衝動を辛うじて抑えていたが、力士の胴回りほどある髭に打ち据えられ、十数メートル弾き飛ばされたセイザンテイオー、バラバラになりそうな衝撃を内から外から浴びて、ガクガクと体を機械の様に震わせる。
(私は……セイザンテイオー……支配者、いや、違う、違うんだ)
死屍累々となったコアルームでその姿を眺めていた雨宮は、彼女の前に腰を下ろしその様子を観察していた。
「漸くインストールが終わったようだな」
その言葉を聞いた性かそうでは無いのかは分からないが、徐々にクリアになっていく思考と視界。
「君は何者なの?私はきっとあの時……」
「昔の事なんか知らんな、お前はちょうど良かったんだ」
サーバーに保存された幾億の精神生命体、その中でも一際容量の大きいデータ、無駄に圧迫されているとは思わないが、目を引くのには変わりなく、雨宮には都合の良い存在、目立つと言う意味ではこれ以上無い存在ではあるのだが、目立たせたところで特に意味など雨宮には見いだせなかった。
ほぼほぼ損傷の無い精神生命体、それは新しい世界の番人としては都合が良かった。つまり人造管理者のつもりで雨宮は作ったはずなのだが、その実内部からの干渉も有り、肉体的にはシスの姉妹の様な存在となった。中身は推して知るべし。ともいかないか。
「私は……あの日死んだ筈……」
「お前の過去の事は知らん、さっきも言ったが単に都合が良かっただけの話だ」
「私は君を知っている……筈だよ、姿格好は全く違うけど、私のテレパスが同じ人間だと言っている」
「そうか、記憶の無い俺には関係の無い話だ」
「何だか複雑な話なのかな?この体も私には良く分からないけど凄く動き易いし、ちょっと年齢的に前より上な気もするけれど」
「未来の世界……異世界へようこそ、オリジナルエスパーの一人、黒御坂白琴《くろみさかしらこと》」
「それで、君は私を迎えに来てくれたの?」
「まぁそういう事だ、本当はセイザンテイオーが勝つかお前が勝つか、その結果を見に来ただけなのだがな」
「魂を弄ぶってやつ?今ってどういう時代な訳?」
「魂か……アニマ理論に興味は無いが、電子情報としての精神生命体なら、幾らでも生産可能にはなっている(俺だけの話だが)」
何故かこの世界に存在し、秘匿されていたサーバーの中に隠匿されていた高密度精神生命体の一人、三人いるオリジナルエスパー、時間・空間・元素の能力者の一人、時間の黒御坂、サーバーの三分の一の容量を圧迫していた高密度精神生命体、雨宮としてはそのうち他の二人も再生してみようとは思うのだが、特に理由の無い再生はロペから怒られるという事も有り、今回はUCのアップデートに託けて一人だけ再生する事にしたのだった。
「他のエスパーは居ないの?あんた、銀河研究会の魔方使いなんじゃ無いの?」
「その名は聞いた事が有るが、俺はそういうのは良く分からんな、詳しい人間に聞いてくれ」
とは言ったものの、現実世界に肉体が有るわけでも無いのでどうしたものかと考えていると、突然口を閉じた事を不満に思ったのか、不機嫌な口調で黒御坂は捲し立てる。
「勝手に復活させて何をさせようっていうのよ?どうせエスパーはすぐ死ぬんだから、何かしようったって……」
「勘違いするな」
「何よ」
「今のお前はあんな失敗エスパーじゃない」
「うわ、失礼!どうせ私は……」
「お前自身の生き方がどうとかの話じゃ無い、肉体の話だ」
「その辺の話も詳しい奴に聞けってこと?」
「そういう事だ。もう立てるだろう、ここは少し違う世界だが、今の体に慣れる為にも少し家の娘と遊んでいけ」
「娘さん?p@lauちゃんの事?」
「は?」
「え?」
黒御坂の発した何かの単語にフィルターが掛かり、お互いに認識が出来なかったが、雨宮には必要性を感じなかったからか、それからその話は続かなかった。
「……お前が何を言いたいのかは分からんが、ここは……何と言えばいいのかな、まぁ、ゲームの中の様な物だ」
黒御坂は自身の肉体を確かめる様に、屈伸をし、背伸びをし、関節を伸ばし、雨宮に向き直った、
「ふうん。ゲームねぇ。それにしては現実味が有ると言うか、良く分からないわね」
「当たり前だろう、お前はここで生まれたんだ、今の認識の中では間違いなくここは現実だ。だが、ここはあくまで下位世界に位置付けられている、第三超広域開拓世界の一部分、枝世界の一つとして生み出された『ウルトラロボットクリエイタ―』の中だ」
「分からない単語が多くて何とも言えないんだけど」
「まぁそうだろうな。娯楽の様な物だし、深く考える必要も無いとは思う」
「で、私は何のためにここに甦った訳?」
雨宮は少し考えるような仕草をしたが、それは只のフリで在り、特にこれと言って考えが有る訳では無かった。だがこれ迄の事を思い出しつつ、何となく必要そうな事柄を思い出し、それっぽく言う事でなあなあで終わらせてしまおうかと思うのだが、良く考えれば結構大事な事なのではと思い至る。
「この世界に紛れ込んでいるエスパーを狩るのに、必要そうだったんでな」
「はぁ!?エスパーって、私はもうエスパーじゃ無いんでしょ?」
「『お前は』そうだ。だが、そうで無い奴も少なからずいるし、危険な奴も多い、それはお前の方が良く分かっているんじゃないか?」
黒御坂は形のいい胸を押し上げるように腕を組み、記憶の中のエスパーたちを思い出すと、表情を歪め思い出したくも無いと言わんばかりに頭を掻きむしり、小さくうなり始めた。
「むぅ……何か私が見たくない奴がいる気がするのよね」
「エスパーの直感と言うやつか?」
「違うわよ、生き残って居そうな奴を消去法で考えてみれば、そいつ等しか居ないかもって、そう思ったのよ」
「サイコエスパーか」
「良く知っているじゃない。本当に記憶が無いの?」
「無い」
サイコエスパーとは、エスパーとして産まれた人間を物理的に改造し、その寿命を延ばした存在であると同時に、殆どの者が理性や倫理観などを失い、獣と化している。そういう存在である。
黒御坂はそのサイコエスパーを生みださずに済むように、未来へと知識を求めて『跳んだ』のだが、跳躍先の地球その物が存在しなかった為、そのまま宇宙空間へと到着し、死んだ。
「ばかじゃん」
「うるさいわね!たった二千年で地球が無くなるなんて思わないでしょ!」
「まぁそれもそうか」
「あああ、思い出しただけで吐き気がする」
「で、どうなんよ」
「別に手伝うのはいいけど、私はこれから如何すればいいのよ」
「外にも肉体を造る。銀河帝国の士官として迎えよう」
「は?帝国?士官?」
「何か知らんがそういう物が出来てしまったから、そうなる」
「ざっくり過ぎて意味が分かんないわー」
二人は一旦他のNPC に皇帝を任せ、ログアウトした。
二人の居なくなったダンジョンの最奥は、キラキラ光るナノマシンによって消え去り、ロボット達の生まれた箱庭世界は消滅した。
ーーーーーーーーーーside 手嶌葵
雨宮と黒御坂の二人が突如消え去り、蚊帳の外であった葵たち二人と一匹は、光るナノマシンに追いやられ、他の帝国兵やロボット共に、ダンジョンの外へと放り出されてていた。
「何だか意味が分からないねー」
「全くよ」「わふっ」
突然分解されたシリウス、怪我の治療のついでに転生したデモV、治療ついでに人間に戻った葵。二人と一匹は、UCのラストダンジョンの上、帝国城の屋根の上に放置され、よっこいせと建物の内部に降り立ち、バルコニーの様な所から辺りを見回してみると、壮大な景色がその視界に飛び込んできた。
「うっそ、なにこれ」
「地平線の彼方迄見えるぅ」
「わふ」
在り得ない高さの建物は、雲の上に迄伸び、下を見れば大地が見えない。千メートル程の位置に居そうだと考えたシリウスは、戯れに葵の背を少し押してみた。
「え?」
とんっと、肩を叩く位のつもりで押した葵は宙を舞い、奈落へと落下していく。
「えっ?」
ちょっと押してあっはっはと、ビックリさせるだけのつもりだったシリウスは、血の気が引いた顔で慌てて葵を掴もうと手を伸ばしたが、時すでにおすし。
「ワンっ!」
葵を引っ張るべく飛び出したデモVと共に遥か地上へと消え去った。
「やっば」
シリウスは何も考えずその後を追いかけて飛び降りるのだった。
ーーーーーーーーーー帝国兵たち
天守閣から突如仲間を突き落とし、自らも一万メートル下へと落下していった何者かを見送り、下を覗き込んだ生き残った帝国兵たちは、プログラムに従い、そのうちの一人を皇帝の影武者に仕立て、持ち場に戻って行く。
「何だか良く分からないけど、取り敢えず持ち場に戻るのが正解よね?」
「え、えぇこの世界何だか怖いわねえさん」
「私だって怖いんだけど……」
ぞろぞろと天守閣の屋根から降りてくる兵士たちと共に、各々の持ち場へと還っていく兵士達、その中に、その場にそぐわない者達も少なからず混ざっているのだった。
セイザンテイオー メガヒューマン 二億六千七十四歳 皇帝
彼女は雨宮によって零から作り出された二番目の個体で、設定として年齢が与えられているが実質生まれたてほやほやで、シスの妹に当たる。骨格データや遺伝子データなどシス・セブンのデータを多く流用し創り出された。データ内部でのシリアルナンバーはエイト、シスで得られたデータを元にハイパーヒューマノイドでは無く、超人種の上位互換として新たに設計され、メガヒューマンとして存在する唯一の存在。但し現時点において現実世界に肉体が存在していない為、データのみの存在としてURCの中でのみ存在している。
とてもおしゃべりで非常に寂しがり、言葉遣いに幼さを残したままでも気にしないが、指摘されると怒り出す。(EP102
(2)黒御坂白琴 ミクスパー 生後数日 皇帝NPC
原初のエスパーの一人、タイムポーテーションの使い手にして三千世界最強にエスパーとなる可能性を秘めていた存在、エスパーの勇者として選ばれる前に事故によって命を落としたが、Σエナジーを保有したまま死んでしまった為、エネルギーを取集する精神世界のコアに捕らわれ、生き長らえていたが、世界の融合の際に何故か雨宮の『トラブル収集システム』(ロペ命名)に引き寄せられスーパーロボットクリエイターのNPCの中へと封じられることになった。
エスパーとして産まれ銀河研究所に追われる毎日に辟易し、一時は組織を抜けようとしていたが、仲間のエスパーを救うために知識を求めて未来へと跳躍するも、二千年後の世界に地球は存在せず、宇宙にて蒸発した。