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第三世界トラブルツアー~世界すくってほしいんだけど?~  作者: もろよん
異世界ダンジョン編
107/108

EP103 蒔苗攻略作戦

牛歩戦術。いや、遅くなりました。消えてないですよ!

現実はキツイ……。

 緊急コードが発令された事で、突然体が動き出した。頭が追い付かないうちに体の内側から未知の力が湧き出し、気が付いたら……。


 「瓦礫の上にいたでござる」


 「ホント、なんこれ」


 「めっちゃ疲れた」


 自分の実力以上の力を使った三人はがっくりと肩を落とし、自分達の車を掘り起こす。ぼこぼこにボンネットがひしゃげ。ドアも開かない。お気に入りのカスタマイズを凝らした真っ赤な小型車は、無惨なまでに故障している。


 「あ”あ”~~~~!!五万クレジットも掛かったのに~~~!!」


 無駄に高性能な割に耐久性に難の残る普通車として生み出された彼女達の足は、残念な事に普通なら廃車となるだろう。現実世界で購入すれば二百万クレジットは軽く超えるであろう車だが、ゲームの中と言う事も有りナノマシンのサポートも手厚く、知識が技能をカバーするという現実世界と少し違うスキルシステムで、比較的困難な状況でも容易にリカバリーが可能となって居た。


 「レストアできそう?」


 「スキルが低いから辛うじて直るかなってとこ」


 元々ついでで学んだ機械工学の知識では最低限の修復しか出来ないが、それでも本で読んだ程度の知識で廃車になる車が走るようになる様な事は、普通は無い。


 「ミルクチャン号……直ぐ街で直してあげるからね……」


 「名前がダサい」


 「その名前つける必要あった?」


 ザミール・スカラボニエ、テン・リントシー、ウィムリー・カラッシュの三人は、休暇の時間をUC攻略に充てるべく、最前線へと辿り着き、強制解放の命令を受けて知らぬ間にひっくり返っていた。


 三人は辛うじて瓦礫の中から車を引き摺り出し、耐久力3の状態で車を動かせるかを確認し、外装も何もないシートとアクセル、ブレーキにハンドル。これしか無い車のエンジンをかける。


キュルル


 「ん?」


キュルル


 「おいおい」


キュルル


プスン


 「動かないね」


 「タンクがないよ!タンクが!ガソリン何処行った!?」


 「え?ガソリン車だったの?」


 車を直したウィムリーだったのだが、その想像力の中にガソリン車の概念自体が殆ど無く、完全な電気自動車のような構造を思い描いていた為に、動くはずもないゴミが完成していた。


 「これ直したっていう?」


 「だってピストンエンジンの構造なんて知らないし!」


 「歩くかぁ」


ーーーーーーーーーー


 トリプルミルクティが残念な事態になって居た頃、イミルの周りを固めていたチームザキは、バラバラになったバイクを眺め呆然としていた。


 「ハッ!……あ。アーッ!」


 強制解放の虚脱感から抜け出した瞬間、目の前にある現実を目の当たりにし、膝を付いた。


 「アタシのバイク―!!!」


 「何かごめん」


 「良いの!イミルたんが無事ならそれでいいの!良いったら良いの!」


 両手で顔を覆い二つの感情の果てで苦悶すること数秒、涙で濡れた顔をハンカチで拭い周囲を見渡した。どざえもんの様に腰から下が露出した状態で、頭からコンクリートに突き刺さっている相棒フェニー・イトイトイサーがぴくぴくと瀕死ながらに生き長らえている事を確認し、その傍に今回何故か頼み込まれてパーティを組むことになった、アリーシュ・皆神とクローシュカ・西条。二人も瓦礫の下から辛うじて這い出し、虚脱感に苛まれつつも辛うじて周囲を確認し、イミルを確認した所で駆け寄ってくる。


 「イミルたん無事か!?あっ」


 「無事だけど……」


 「えっとイミル様お体の具合は……」


 「言い直さなくてもいいから」


 一応立場上遥か天上の姫であるイミルに無礼な態度をとった事に委縮し、顔色を窺うアリーシュだったが、イミルは逆にその扱いに全く慣れず、止めてとアリーシュの頬を両手で挟んだ。


 「けががないならいいんだけふぉ……」


 むにっと唇を強制的に尖らせられたままで安否確認をした彼女は、自分のバイクの惨状を目にどうしたものかと改めて周辺の警戒に移る。


 「イミルたーん。ここはNPCに任せて私達は都市の中に行きましょうよ」


 周辺の警戒を終えたエリナが何処からともなく現れ、その言葉を皮切りに周辺に散っていたパーティが集まってくる。


 「トリプルミルクティーでーす」


 「チームザキです」


 「イミルと愉快な仲間達よ」


 「「えっ」」


 二つのPTはイミルPTの名前に一瞬だけ呆気に取られたが、そんな事も有るかと特に気にしないようだ。


 「ミンティリア」


 「え?私がやるの?ここはイミルの役目じゃない?」


 「無理」


 「しょうがないなー」


 ミンティリアはイミルからリーダー的な事を丸投げされ、しぶしぶこれからの行動を考える。


 「この都市が敵方に占拠されてるのは何となく分かるから、解放する……?べきよね?多分そんなイベントも有るでしょうし。車を直すのにどうせ都市の中心まで行かなきゃだから……、引き返すのもなんだか癪よね……?」


 「ミン、このまま進んでも問題は無いだろう。私達のマシンは無傷だからな」


 「生身で暴れただけだからねぇ」


 「あの……ミンさん達は何で平気なんですか?私達大分体きついんですけど?」


 「「鍛え方が足りない」」


 「アッハイ」


 ザミールの質問に同意するザキやアリーシュだったが、眷属の中でもトップクラスのメンバーが揃って居るイミルのPTには特に問題は無いようだった。


 「ん。じゃあこのまま都市内部に突入しましょう各員マシン展開後、警戒侵攻を開始します」


 「「「「「了解」」」」」」


 (ミンちゃんはリーダータイプなのねー)


 エリーはほのぼのとそんなミンティリア達を見守り、自身の創ったマシンを多少拓けた都市の入口に顕現させ乗り込む。


 イミルPTの各マシンの中にはトリプルミルクティ、チームザキの七人が其々乗り込み、ミンティリアの創り出したSW『(くれない)』の中にはアリーシュが居る。


 「複座なんて想定してなかったから、ちゃんと掴まっててよね」


 「了解です」


 元輸送ギルド員のアリーシュは、これ迄の下積みの中でこれ程充実した人生が有っただろうかと三百六十度全天周囲モニターに覆われた紅のコックピットにてそう思う。


 (バイク走らせる位しか楽しみなんて無かったもんなぁ)


 全高十メートル程のSWの視点は高く、瓦礫になった辺り一面が見渡せて、後方には無理やり避難させたNPC達が何事かとゲートを遠巻きに覗き見ているのだが、何処から用意されたのかKEEPOUTの文字の描かれた黄色いテープで阻まれ、それ以上は何故か進めないようだった。


 「流石は銀河旅団って感じよね。仕事が早いわ」


 「見張り役に感謝ですね」「そうね」


ーーーーーーーーーーSW紅……ミンティリアside


 破壊し尽くされたゲートを抜けて次々と突入する銀河旅団のSW……とGW(グランドワーカー)。捨てるにはもったいないし売るには恥ずかしい、そんな持て余されたGW、ぼちぼちと歩いていく三機の陸戦用ワーカーを見送り、ミンティリアは周辺に居るPTへとオープンメッセージを送り、周辺地図のリアルタイム共有を提案すると……。


ーギブ三―マネー!


ー何でそんなカッコイイSWなの!?


ー高性能過ぎませんか?


ーくっ……金


 コッファが出すからとあっさりOKを出し、各PTへと資金を提供する旨を確認し通信を切る。


 「良いんですか勝手にOKしちゃって」


 「良いのよ、どうせ使い道も無く余ってるでしょ」


 つい先程コッファの預金口座を確認したミンティリアには遠慮が無くなっているが、そう言うミンティリアの性格をある程度把握しているコッファにはどこ吹く風。文字だけのメッセージで『お金使うよ?』『おk』とやり取りするだけで気にする様子は無かった。


 バスターミナルや商業施設等が所狭しと押し込められたゲート周辺の道路には、車両型自走砲や三メートル程の小型ワーカーが展開し、先に突入したPTと死闘を繰り広げていた。


ーちゅおーーーー!多い!多いってぇ!!!


ー弾幕!弾幕!面で来る!


 味方を誤射しない射角で完璧に埋め尽くされた射線を、神業的なテクニックでサーカスの様に躱すPTは、何とか自分達に攻撃を誘導させ時間を稼いでいる。


 「ティオレっち」


ーその呼び方は慣れないな……


 両腕に小型のアンチマテリアルライフルを装備したティオレのSW『銀星』は、は的確に指揮官と思われる機体を撃破し、上空を疾走しながら周辺のスナイパーを確実に葬っていく。


 「エリナさんとトトは?」


ー私は今都市中央部に居るわ。一応確認したけど、さっきの声の主はここには居ないようね。


 エリナの後ろからは「エリナさんぱねえっす」と声が聞こえるが、次の瞬間には途切れ金属に頭を打ち付けたような音が鳴り、静かになった。


ー敵の総数は大した事無いわね、今居るメンバーだけでも十分だと思う……けど


 「何かあった?」


ー洗脳されたNPCが厄介ね。ここで殺り過ぎると、後でどうなるか分かったもんじゃないわね?


 「これ全部肉入りなのか……」


ーそうよ、重要NPCにはマーキングをしておいたわ。一応そこには居ないから安心しても良いと思うけど……


 「リンクするストーリーまでは気が回らないなぁ……トト?」


ーん、今ちょっと忙しいから代わる


 「大丈夫なの?」


ー重要NPCから逃げてる


 「そっちで引き付けられそう?」


ーだ・無理だって!!多すぎるって!!


 普段かぶっている猫を脱ぎ捨ててマジトーンで被せてくるトトは、自身のSW『飛影(シャドウジャンパー)』の全武装をフル稼働し、本来であればゲーム終盤で戦う事になるであろう、隠しボスと思われるNPCから物凄いスピードで追いかけられ、その周辺を固める()()()からの苛烈な射撃を薄皮一枚で辛うじて躱し、這う這うの体で逃げ回っている。一対百程の戦力差の中、味方機の居ない場所を選んで神掛りムーブで被害を零に抑えている。


 「がんばっ」


ーミンーーーーー!!


 ミンティリアはそっと通信を切った。


 「いいいのか?イミル様も乗ってるんだぞ?」


 「忘れてたわ」


 「ちょっと!」


 「大丈夫よゲームだし」


 「私達は生身ですけど!?」


 「それも忘れてたわ」


 現実逃避気味のミンティリアを何とか揺り起こしたアリーシュは、各PTへと通信を入れ一気に作戦を加速させる。


ーミンティリア、洗脳アビリティを持った敵性NPCを確認したわ


 「アビリティを持ったNPC?スキルじゃ無くって?」


ー銀河様による調整体……だと思うわ


 「「うわぁ」」


 銀河君ひでぇと思いながらもそのマーキングされた場所に向かう一行は、途中見覚えのある所属印(ホームスタンプ)を貼り付けたNPCと思われる部隊を撃破しつつ、目標地点へと到着した。


ーーーーーーーーーー蒔苗 銀河スタジアム


 ドーム状に作られた巨大な多目的スタジアムへと辿り着いた先に、先程ゲート端からこちらを観察していた巨大メカが鎮座していた。


 「まさかとは思ったけど、でも……アレは……」


 「ミンティリアさん?」


ーうはー。アレは半端ないねー


 「やっぱ見間違いじゃないよね」


ーアニメから出てきたかなぁ


 「はぁー……遠き空の彼方にのラスボスじゃん……」


 「え?何ですかそれ?」


 「アニメのラスボスよ」


 「??」


 十五年ほど前に少女雑誌に彗星の如く現れた新進気鋭の漫画家、聖羅☆ライによって描かれた美少女スーパーロボット漫画『遠き空の彼方に』その敵方のボスは脳に特殊な思念波を送り込み、遠隔地に居ながら対象を洗脳し破壊活動を起こさせるという方法で、正義のスーパーロボット少女達を暴走させ、世界を混沌の海へと陥れた。


 「と言う事よ」


 「分ったような分かってないような……?」


 「とにかく中の人間を操る事が出来る能力を持っている……可能性があるって事よね?」


ー一応中身を確認しているから間違いないわ。あれが死ねば洗脳は全部解除されるはず。


 「原作でもそうだったしね。でも」


 目の前に居るロボットは少女漫画にあるまじき外見で、非常に耐久力が高そうに見える……が、一目見ただけでは只のパンツ一丁のオヤジにしか見えない。


 「スパファンに出てきた時は、マジ王の波動ビーム一発で一割も削れないから……えっと……」


 「??」


 「まぁ、固い金属で出来ているって事よ」


 「成程?」


 今の今迄ゲームとは縁遠い生活をしてきたアリーシュには専門的過ぎる単語の連続で、内容の半分も理解できなかったが、ミンティリアの表情から読み取り、非常に面倒そうな相手である事だけは理解した。


 美少女タイプの巨大無人メカがパンイチのオヤジメカを守り、股間から不思議な光を放つ。そんな光景に嫌気がさしたミンティリアは紅に装備した突撃銃剣イズンハートを構え、美少女メカの間を縫ってオヤジメカへと肉薄する。


 「そこっ」「わわっ!速いっ!」


 アリーシュの目が回る程の旋回を繰り返し、隙だらけのオヤジに弾丸を叩き込んでいるのだが、殆どダメージが通ったような跡は無く、むしろオヤジの周りの地面に弾痕が残り、周りを固めている美少女メカが、跳弾によって次々と破壊されていく。


 武装の威力は十二分な物のようだが、オヤジの硬さが桁外れており、ミンティリアにイライラが募る。


 「あ”~!!固いっ!!」


 「殆ど無傷ですね……」


 「サイズ補正でもあるっての!?」


 恐らく一枚板で在ろう寸胴の様なボディに、寸分の狂い無く弾丸を叩き込んでいる筈なのだが、僅かに凹んだかな?とよく見なければ分からない程のダメージしか与えられていない。


 「実弾のじゃ駄目ね」


 「光学兵器は無いんですか?」


 「有るには在るけど、あんまり高いのは作れなかったのよ」


 ミンティリアは銃剣を仕舞い、本来手持ちの武器が無くなった時様に用意していた、ビームガンを取り出し、先程と同じ場所に再度銃撃を行った。


 「あ」「おっと?」


 ミンティリアは言葉にする前に周辺の眷属へとメッセージを送り、弱点となる物の詳細を共有する。


 「ニニム粒子加速破壊光線系の武器が効くなんて、何で出来ているのよあれ……」


 「ニニム……何?……それ?」


 「ニニム粒子!近年発見されたばっかりの第六次元採集微細振動粒……えーっと、ウチのニニムさんが見つけた新しいエネルギーの一つよ」


 「はぁ~、新しいエネルギー……」


 全くピンと来ないアリーシュに説明するのが難しいと判断したミンティリアは説明を放棄し、ナノマシンリンクによる共有を試みようとしたが、此処では出来ない事を思い出し、全てを後回しにすることにした。


 「とにかく攻撃あるのみ!」


 「「「「「了解!」」」」」


ー私の事を忘れてないかー!?


 「がんばっ」


ーきゅわーん!


 偵察から戻ったエリナからの案内で一行はミンティリアの後を追い、オヤジメカの所へと集結していく。


 「HP百万ってとこかな?」


 「何その桁違い」


 コッファのつぶやきについ突っ込みを入れるミンティリアだが、あながち間違いでも無いかと納得する部分も有り、現状の共有を行い、一斉攻撃を試みる。


 「ほいほいほいほい」「どっかーん!」「ふっ」「くっ」


 エリーの魔導弾、コッファの熱核融合ミサイル、エリナのオリハルコンカッター、ミンティリアのミスリルライフル、ティオレのアンチマテリアル。其々が命中し眩い光に包まれたオヤジメカ、主にミサイルの後に残る残留放射能のせいでこの町のその後が心配になるが。


 「核止めなさいよ!」


 「だってぇ、攻撃力高いしー」


 「まぁまぁ、ミンちゃんナノマシンで簡単に除染もできる……あ」


 「使えないでしょうよナノマシン」


 「ぐふっ。忘れてたわ……」


 「まぁお金で解決出来るんでしょうけど」


 「ソレダ」


 きのこ雲を生み出した光が消えると、少し煤と埃に汚れたオヤジメカが姿を現す。


 「周りに被害が甚大な割りに効いて無い!」


 当然の様にドームの天井は消滅し、周りは完全に禿げ上がり荒野の様になっている。唯一外観が残っているのは観客席が丸ごと残っているだけだろう。ミサイルの仕様として効果範囲が限定されていなければ辺り一面消え去っていてもおかしくは無いような大きさのミサイルであったが、その辺りだけ取ってみれば確かにゲームらしく、リアリティの欠片も無い。


 全力攻撃の甲斐が有ったのか無かったのか、初めから美少女メカに守られていたオヤジメカは、微動だにせず仁王立ちパンイチスタイルのまま空中をふよふよと何かの力で浮かんでいる。


ー良くここまで私を追い詰めた


 「「「「「!?」」」」」


ーこのま「効いてるぞ殺せ――――――――!!」


 被せ気味の確信めいたティオレの合図で、更に残段数を気にしないフルバーストの攻撃が、周辺に集まってきた眷属達全員から集中され、耐久値の限界を迎えたオヤジはパンツを残して消え去って行った。


 「はぁ……はぁ……何なのよあの硬さは。ミスリルバレットが無くなっちゃったじゃないのよ」


 周りの眷属達も実弾、エネルギーパックを全て使い果したが、辛うじてイベントをクリアする事が出来た様で、イベントクリアによるレベルアップのファンファーレと成長報告が脳内に直接響く。


 「慣れないなー。この声誰の声だろう?」


ーふぅ……主に聞いた事が有る、数百年前にナノマシンで滅びた惑星の人間らしいが


 「惑星が消えたって……外宇宙の話ね」


ー恐らくそうだろうな、太陽系で惑星が消えたと聞いた事は無いからな


 「月の事が有るから他所の世界の話っていう可能性も有るけど……」


ーそれは多分無いと思うの―。銀ちゃんあんまり嘘つかないよ?


 「つくんかーい」


 荒野となった上に焼け爛れたドームを後にした一行は、今迄一人も見かけなかった蒔苗の住民に囲まれ、もみくちゃにされたうえで報酬と経験値を得てさらなるパワーアップを果たした。


ーーーーーーーーーー蒔苗中央ファクトリー前


 「こら!押すな!押すな!」


 「むぎゅ」


 「わーっしょい!わっしょい!」


 「さっきのおっさんまだ私を追いかけてくるんだけど―!?」


 「誰よ私のおしりを触ったの!?」


 「眼鏡眼鏡……」


 「助けてくれてありがとー」


 そんな中一人人込みから離れたエリナは、ボロボロになったドームの屋上から、雨宮へと報告を始めていた。


 「銀河様の考えていた通りに事は運んでいるようです。大凡……ですが」


ーまぁ人の考える事はそれぞれだからな。多少ぶれる事も有るさ


 「セイザンテイオーの件ですが、こちらで確認した限り精神生命体は未だに定着して居ない様で、かなりおかしな言動が繰り返されていました」


ー誰の精神が混じったのか分からんからな……、向こうの世界の存在がどれだけそこに紛れ込んでいるかも調べる余裕は無いから、まぁ、そっちで何とかしてくれ


 「問題ありません。お互いシステムの制約を受けているのは変わりませんから」


ー裏技は使ったか?


 「一度だけ、イミル様は賢いですよ」


ーそうか、データに大きな乱れが有る。紛れ込んだ精神体は数千万はくだらない位の数が有るようだから、そこらのNPCを簡単に死なせないようにな。


 雨宮との通信を終わらせた後、軽くため息をつきエリナはもみくちゃにされ胴上げされているイミルを見つめていた。


 「……ふむぅ、あんまりイミル様に興味がないのかしら?」


 「わんわん、やっと抜けられた」


 「良く逃げ切れたわね、アレは肉入りだったでしょ?」


 「うん、中身が女の人だった。体はおっさんだったから泣いてたよ?」


 「事故ね。切り離すのも此処で出来る事ではないし、何とか生き延びて貰う他無いわね」


 「突然攻撃してこなくなったのはどうして?」


 「襲撃イベントが終わったからでしょう。独立して動いている様なら、接触してくる事も有るでしょう……ね」


 「分かっているじゃ無いか」


 ドームの天幕の上で眺めを楽しんでいた二人の後ろに、突如姿を現したこわもてのおっさんが、銃を片手にゆっくりと近づいてくる。


 「此処は一体何処だ、私は何をさせられている!?」


 「良くこんな所まで来られたわね、どういう体の構造をしているのかしら?」


 「わわわ!さっきのおっさんだ―」


 トトはエリナの後ろに隠れたまま、片手を腰の裏に手を当て暗器を取り出し警戒を強めている。


 「答えろ、私は……私は私は……おっ、おっお……」


 おっさんの精神は肉体と整合して居ない様で、本来人間が動かせない方向へと両腕が無理やり動こうとしていたり、眼球がせわしなく動き何処を見ているのか分からない状態になって居る。


 「止めなさい、体が悲鳴を上げているのが分からないの?貴女の体はそれしかないのよ」


 「ぐ・ぐ・ぐ……」


 辛うじて気持ちを落ち着けたのか、息を切らせながら襟を正し、銃を懐のホルダーに仕舞いながらその場に座り込んだ。


 「私は……、ガヴァナー・クリストン……と言う事になって居るらしい」


 おっさんは自分の頭の中に知らない記憶が湧き出してくるらしく、今迄の経験がある上に上書きされていく感覚に苛まれているという事を独白したうえで頭痛がするらしく、しきりに頭をさすっている。


 「前の事を聞いても?」


 「ああ、聞いてくれ。私はジオβ外苑警備部隊に所属している……筈だった、ぐっ、デナニウムボディを使った高性能指揮官機……だったと思う」


 「ああ、ロボットか何かだったのね。人間の体には情報量が大き過ぎたのかも知れないわ」


 「ロボットだとだめなのか?」


 「人間の脳は一度に大量の情報を処理出来る様には出来ていないのよ、それに引き換え彼女はそういった大量の情報を処理出来るシステムを備えていたのでしょうね」


 「むー?」


 「一辺に勉強で覚えられることってそんなに多くないでしょ?」


 「あー、確かに」


 「そう言う事よ。脳も筋肉と同じで、未使用のままでは大した性能ではないのよ」


 「私の体はどうなってしまうのだ」


 「それは大丈夫よ、そのうち何とかなるわ。記憶が無くなる前に……かどうかは分からないけれどね」


 「私には、友が……彼女を助けに行かねば……」


 「……」(はぁ……銀河様?聞いておられますね?)


ーああ。聞いて居る


 「?」


 (彼……彼女?は何か違う気がしますが?)


ージオβとか言ったか。少し調べる。蒔苗の十八号へと連れていけ。ファクトリーの裏口からエリナに渡してある白カードを使って中に入れる。


 (了解)


 「おっちゃん」


 「おっ……むぅ」


 「怒らせないのよ、さあ、少し移動するわ。付いて来れるわね?」


 「分かった」


ーーーーーーーーーー 蒔苗ファクトリー十八


 本来であれば裏口など誰が探しても見つからないような場所に設置されている筈なのだが、雨宮によってそのイベントが強制的に開始され、ビルの隙間としか言いようのない数ミリの隙間が、何故か人一人通れるようになっており、本来入る事の出来ない十八号基の裏側へと足を進める事が出来た三人は、完全に外のレベルと乖離した技術力の空間へと入り、見上げる程の巨大な機械と相対していた。


 「これは……」


 「おっきな機械だぁ!」


 「……」


 広い空間の中心に聳え立つ巨大な機械は、特に光る事も大きな音を出す事も無く、静かにその場に佇んでいる。


 「これが十八号……」


 「デウスエクスマキナ……」


 「え?」


ーそうだ、これはデウスエクスマキナ。機械神とでも言うかな?人工的に作られた機械の管理者。だがこれは俺が造った新しい機械管理者、ワールドエミュレータ十八号基だ。


 「???」


 「えぇ?そんなに造って……」


 「……」


ーなんて言ったっけな、箱庭世界か。デウスエクスマキナが大概配備されていたが、少なくとも真面に稼働しているものは一つも無い。回収出来た物は一つだけだが、自分なりに解釈して創ってみた。それがこれだ。まぁ、機能は限定されているがな。


 「あの世界の物もおかしな事を度々……、いや、ずっとか」


ー只の機械にマジックサーキットの出来損ないが刻まれている物も有ったし、只のフードディスペンサーみたいなものも有ったし、喋るAIが搭載されている生産機械何てのも有った。どれも只の製造機だった


 (ガーディオンの事は……)


ーアレは例外だ、それ以外の管理者が関係していただろう……、まぁそんな事はどうでもいい。そいつを十八号基のリソース回収システムへと近づけてやれ。

 

 「な、何を……」


 「あー、疑似的に再構成が出来るのですね」


ー手動だがな


 「トト」


 「はいな」


 トトは素早くおっさんの後ろに回ると、速やかに拘束し、エレナの指さす方へとおっさんを蹴っ飛ばした。


 「ぐわっ!」


 おっさんは緑色の巨大な宝石に頭をぶつけると、そのまま掻き消える様に消滅し、暫く経った後、おっさんと女性が二人、宝石が有った方と反対側に設置されていたカプセルの様な物の中から姿を現した。


ー取り敢えず分離させて、元の人格データを再起動した。おっさんの方は勝手に戻って行くように設定したから、後はそっちで頼む


 「え?」


ー別の問題が起こった。俺はそっちの対処へ向かう


 「ん~?にーちゃん来ないのか?」


ーああ。俺はちょっと別の用が出来た。任せたぞ


 「「ハッ」わん」


 レベルアップが終わり、スキルビルドを促すアイコンが視界に映る。


 「これが現実に反映されたら良いのにねー」


 「流石にそれは……有るかもしれないわね……」


 「ほえ?」


 二人はレベルアップボーナスによって手に入った、スキルポイントの配分を真剣に考えるのだった。

堂島太一どうじまたいち


(2)インフェナルコア


 堂島太一がアーティファクト、リアリティプログラムに完全に取り込まれた姿。


 その様相はまさに地獄の様であり、無限にモンスターを吐き出す口の様な存在となった。

 第三世界に引きずり込まれる際に何者かによって、界獣ビッチリップと強制的に融合させられ、悍ましい外見になると共に、彼の意識が失われその何者かのコントロール下に置かれる事に成るはずだったのだが、逆に彼はその融合によって拡散するはずだった自身の精神生命体を取り戻し、自らの意志によって世界を破壊する存在へと至った。


 しかし、ウルトラロボットクリエイタ―の内部に取り込まれた事により、彼は雨宮の造り出したセイザンテイオーによって、モンスター製造機として利用され、抵抗も虚しくプログラムに沿ったモンスターを吐き出し続ける便利な存在として扱われていたが、世界の融合に合わせた何者かの攻撃は、リアリティプログラムを暴走させ、生物と機械の中間的な存在となり、第三世界のリソースを使い銀河旅団へと牙をむく。


スパファン


 スーパーロボファンタジーの略称。第三世界太陽系における数多有るロボットアニメの中から、その時代に遭ったものを抽出し、様々なクロスストーリーをオムニバス形式で進め、ステージをクリアしていく戦略シミュレーションRPGゲーム。


 数百年前からナンバリングタイトルが続いている、長寿タイトルで外伝的なソフトウェアも多く販売され、同人活動も活発。


 現在の最新タイトルは、スーパーロボファンタシー198 すぱふぁん!! ラブファン!? 


マジ王


 著者陣後巨音(じんごきょね)によるロボットファンタジー漫画のタイトルマージンキングの主人公機。クロスメディアによる展開を想定して創作された巨匠による長期連載タイトル。


 エロ展開が多すぎて一時期商業誌を追放されていたが、根強いファンの要望によりスパファン198に合わせて連載を再開、トンデモ展開で有名な作家だが、今回はゲームのプロデューサーによる脅しにも近い応援によって、何とか作品を完結させ、ついでに外伝作品を書き上げており、能力について疑う者はいない。


 マジ王必殺の武器、中間搾取ビームは高い攻撃力と共に何故か二%の確率で相手の耐久力を半分にするという謎パワーを持っている。その他にもマジハリケーン(パンチ)、マジストライク(キック)、マジスラッシュ(チョップ)等の攻撃方法を備え、数多くのパワーアップイベントを乗り越えた先に、最強必殺ボウリーリボーンハリケーン(体当たり)を身に着けゲームのメインダメージソースとなるが、命中率が有りえないほど低く、補助アイテムを使わずに攻撃を当てる事が不可能、とレヴュアーから言われるほど。


 メイン武装の波動ビームは基本値で命中率がマイナス七十パーセントに設定されている。


遠き空の彼方に


 著者聖羅(せいら)☆ライによる美少女スーパーロボット漫画のタイトル。


 太陽系よりはるか彼方に存在する地球型惑星ミオン。ミオンにて勃発した帝政打倒に因るゲリラ活動によって故郷を脱出をせざるを得なくなった主人公アノマリー・ウォニー、移住船スターマインによって太陽系迄追っ手を退けながら這う這うの体で辿り着いたものの、太陽系との連絡ミスによって移住船スターマインは侵略船として撃墜されてしまう。親友のリオン・タックスと共に辛うじて移住船を脱出したアノマリーは、愛機スバルフォムと共に海王星圏コロニーネプトラティアへと不時着する。

 追手である惑星ミオン解放軍、地球統合軍、そしてアノマリーを匿う解放戦線の三つ巴の戦いが今始まる。

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