EP102 宣戦布告
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
炉模町北口から、三つの都市へとつながる高速道路の入口に立つイミルと愉快な仲間達は、眷属・NPCで溢れるゲートは、片側六車線以上有り、人の群れと車両でごった返し、何か異常事態が起こったようなざわめきがその場を埋め尽くしている。
「えー?何か渋滞してるねー」
「動けないみたいだな……アレは何をしている?」
ティオレは目ざとく出入り口になっている巨大なゲートの袂を見つめると、見覚えのある人影が外をの方を指さして、ゲートの職員と思われる人と口論になって居る様だった。
「……あの子って……」
四人パーティと思われるうちの二人は、つい先日異世界からやって来たベラ・ジェニーとタマキ・フツノミタマだ。その横にはベラ・ジェニー事如月マリアとタマキの部下、メイトが居る。
「ふむ」
「大丈夫か?レベル持ちではないだろうあの四人」
ニ・三分程経っただろうか、口論は終わったらしく、四人は高速に乗らず……と言うか乗り物を持っていない様で高速の横にある階段からゲートの下へと降りて行った。
「んー?この下に何かあるのかなー?」
トトとイミルは開発側でもあるコッファに視線を向けるが、当のコッファは首を傾げ何かあったかなと記憶を探っている。
バギー上でそんな話をしている内に渋滞は解消していき、止まっていた車両の群れは其々の目的地へ進んで行くようだ。
「進んだ……」
「でもここのゲートが依頼主の居る目的地の筈なんだけどねぇ?」
ーーーーーーーーーー北ゲート周辺
「あぁ!お待ちしておりました、ゲート公社の北口担当山口と申します」
ゲート目前の駐車スペースへとバギーを進めたイミルと愉快な仲間達は、車を止めたとたん見知らぬサラリーマン風の男に声をかけられた。
「えっと?あんたが依頼主でいいのかな?」
七三分けの眼鏡がキラッと光る男は、いかにも出来るオーラを放ちながらも、非常に焦った様子で矢継ぎ早に捲し立てる。
「ええそうですとも今渋滞が解消しましたがその直ぐ先で瓦礫が道を塞いでしまっているのでどうせまた渋滞になるのですが誰も何故か瓦礫を片付けようとしないので私が解決しようとしたのですがかなり大規模なので私一人ではどうにもならず業者に頼もうにも何故か誰も手を貸してくれませんでしたので仕方なく銀河研究所へと依頼をしたのですが何時まで経ってもディガーが来ないのでどうしようかと途方に暮れておりましたとこ」
「「話長い」」
トトとイミルがふにゃと顔をしかめながら、周りをうろうろし始めた所で話が終わったらしく、ミンティリアは自身の車に乗って走り去っていく山田を追いかける。
ーーーーーーーーーー事故現場
現場に到着すると山が一つ崩れたのではないかと思えるほどの土砂と何かの建物の瓦礫が、山と成し先程のゲートの様に大渋滞が発生していた。ミンティリアはデバイスの中にバギーを収納し、徒歩で瓦礫の目の前までやって来た。後を追っていたはずの山田が忽然と消え、いつの間にか瓦礫の上に乗って周りを確認していた。
「何でそんなとこに居るのよアンタ」
「周りを見渡していますが?」
そんな事聞いて無いとばかりにため息をつき自身も周りを見渡すが、完全に封鎖されてしまっている道路は、パッと見ただけではどうしようもない惨状で、専門業者がダンプを何往復もさせて撤去する必要があるように感じる。しかし山田はディガーへと依頼を出した。
「何とかなりませんか?これで三回目なんですよ」
「はぁ!?マジで!?」
「前回はどのようにしてこれを撤去したのだ?」
ティオレが以前の情報を尋ねると山田はそういえばと、何かを思い出すように瓦礫の上をうろうろと動き出した。
(何であんな足場の悪いところで落ちないのよ……)
丁度三つのルートへと別れる十字路だったらしく、直進する路線は完全に土砂で塞がり、左右へと別れるルートにもなぜが巨大な瓦礫が完全に道を塞いでいる為、これを撤去しない限り、空でも飛ばない限りこの先へと進むことはできないだろう。
「ねー、もう船乗っていく?」
「いや……これなんか嫌な予感がするのよね。何か放置しちゃいけないようなそんな気がするのよ」
「どういう事?」
ミンティリアはゲームについて決して詳しい方では無いが、それでも考え、推理する事で事の真実に近づいた。
「ねぇ、テストプレーってやったの?」
「ん?そりゃ……えっ?嘘でしょ?」
コッファは開発中の雨宮達の様子を思い出し、そういえばデバックとテストプレーとで二回は通しで確認したところを見ていたなと思い出した。
「一回目は確か、アンノウンクラスの巨大マシンがその巨大なアームでごそっと撤去してくれましたね」
(それは……銀河君だろうなぁ)
「で、二回目はホバータイプの大型マシンのエアーで全部吹き飛ばして……」
(力技過ぎる)
「参考にならないな」
ティオレも周りを見渡して、絶望的な状況を改めて認識する。
「このクエストはちょっと難易度が高くないかなー?」
エリーも二人が迷子にならない様に手を繋いだままで辺りを散策し、ふと何かに気が付いた。
「そういえば何か原因があるって言ってなかった―?」
「「あ」」
そういえばと、ミンティリアとコッファはクエストの内容を思い出し、調査も内容のうちだったと思いだす。
「山田」「はい?」
瓦礫の上をうろうろしていた山田は立ち止まり、眼鏡をクイっと触り向き合う。
「これって原因を取り除かなきゃ、また同じことが起こりそうなの?」
「私はそう思います、結局今迄の二回は原因が分かりませんでしたので」
(銀河君調査してよー!)
「なら私達はまずそこから調査してみるか。流石に今持っているマシンで何とかなるのは、瓦礫位だが、結局原因が分からないと又同じことが起こるようだしな」
ティオレの音頭でパーティは範囲を広げて辺りを探索する事にした。
堆く積み上がった瓦礫で囲まれる様に孤立した十字路は、各地へと向かう下り路線は所狭しと車両が列を成し、炉模町へと戻る下り路線は一台も車が居らず、所々亀裂の入った道路が見えるだけだ。そして道路の端には高速道路の下に降りる為の扉が有り、それ以外には恐らくメンテナンス用のキャットウォークへと進む為の梯子だと思われる物が半分外れた状態でぶらんとしている。
「山が崩れる程の何かって何だろうね?」
「地震でもあったか?」
「こんな山が崩れるレベルの地震だったら、街が滅んでるわよ」
「巨大ロボットに蹴っ飛ばされたとか」
「そんなデカいの街からでも見えるわよ」
「……雨とか?」
「あー、私達が来る前に降った雨の事は分からないわね」
未確認の情報を山田に確かめた所、ここ最近で山が崩れるレベルの雨は降っていないという事が判明した。
「そんな雨降ってたらもはや雨じゃないわね、豪雨よ豪雨」
「むぅ……?」
其々が現場に散り、何か手掛かりの一つでも無い物かと辺りを探し始めたイミルとトト。二人は高速道をの端に有るメンテナンス用通路へ向かう扉の前にやって来た。
「ととちゃんこの扉鍵が掛かって無い物なの?」
イミルはうろ覚えの記憶の中に、鍵の掛かっていないメンテナンスハッチの扉の様子が思い出され、それを慌てて閉めに行く姉の姿が見て取れた。アレは何処だっただろうか、情報を手に入れる為に無断で侵入した軍の施設での出来事だったはず……。と徐々に鮮明に思い出される過去の記憶、あの後トトは囮として施設の中に取り残され、あわや拷問かと言う寸での所で、彼方から放たれた謎のビームによって逃げ出すことに成功したのだった。
(助かったから割とどうでもいいんだけど……、鍵なんか開いてる方がおかしいよね)
「そんな事無いと思うよ?この先は何が有るんだろうねー?」
二人はそのまま扉を通り、高速道路の下が見えるメンテナンス用の通路へと進む。一瞬縮み上がる二人だったが、両手をしっかりと左右の壁に付いたままでゆっくりと周りを見渡して見ると、二人はあからさまに目立つ何かを発見した。
「あのピコピコしてるのなんだろ?」
「回転灯?」
赤い光をぐるぐると回るように動かすライトが、此処に何かありますよと言わんばかりに主張をし、二人は可能な限りゆっくりとその赤いライトの方へと近づいてみる。
「・・・?手、届くかな?」
イミルが突如それに向かって手を伸ばそうとするので、慌ててトトはイミルの両肩を掴み、私がやるからと持ち手を握らせ、トトはメンテナンス通路の天井に張り付き、落ちたら死ぬだろうなと思いながらも、雨宮からトトを任された事も有り、先程から注目している赤いライトの位置と、その上にある何かを想像し、慎重に進んで行く。
(距離的にこの上はさっき崩れていた山の辺りだと思うけど……)
天井に張り付きそのままの状態で一キロ程進んだだろうか、漸く赤いライトの所まで辿り着いた。トトはその物体を観察しナノマシンによるスキャンを開始する。
(お・おー……?融解装置?)
トトは謎の融解装置の前に一旦思考停止し、ミンティリアに助けを求めた。
ーどしたの?何?融解装置?
(うん、山の下が空洞になってるー)
ーマジで?ちょっとそっち行くわ
(狭いからきおつけてー)
ーーーーーーーーーー
「確かに狭いわねー、やっぱメンテ用の通路かーって、遠っ」
ー多分一キロぐらい先に居る―
「ミンちゃん私も行っていい?」
「えぇっ?あそこ迄魔力保つ?」
「大丈夫、タブ持ってる」
ミンティリアはイミルの額を人差し指でつんと押し、頭を撫でる。
「両手で張り付くんでしょ?どうやって口に入れるの?」
「むぅ……確かに」
ミンティリアは姿勢を低くしたままで辛うじて先へ進むと、トトを確認できる場所までやって来た。
「トトちゃん、ナノマシンで分解できる―?」
ー出来ない―。と言うか使えないみたいー
(確かに、ナノマシンは使えないようね。もっと早く確認しておくべきだったわ)
ースキャンできるだけみたい―
(まぁ良いか、力はそのままだし、能力が少し制限されても問題ないわ)
「頭を使えばいいのよ」
ミンティリアは自分に言い聞かせるようにそう言うと、トトに融解装置を回収させ、それを観察する。
(にしても不思議な地形に不思議な装置、これは一体何を融解したのかしら?山を大きく削って創り出された地形に、遥か地上迄続く長い長い階段。目測だけどここは地上八十階ってとこかしら?山自体は地上から道路の上まで続くほど巨大な山、でも削られている事で大きなアールを描いている。そのアールから上の山を溶かして何が目的?それ自体が目的?それとも山を崩して誰かを殺害しようとした?それにしては被害規模が大きすぎる気もしているし、建物が崩れたのは多分これとは別件よね?私達の依頼はこの山からの土砂崩れを解消する事、依頼人は頑なに明言する事を避けているけど、原因についても恐らく知っているけど話せないんだろうな。ゲーム的に)
「マジックアイテムでは無く薬液による融解だとしてもよ、流石にこれであんな規模の土砂崩れが起きるものかしらね?」
「ミンミン、何を見てるの?」
「ミンミンて新しいな!」
コッファ達道路の上を調査していた三人も、暫く戻って来ない事に疑問を持ち、メンテナンス通路へとやって来たのだった。
「コッファこれ分かる?」
ミンティリアはトトから受け取った融解装置を手渡し、コッファは装置をカチャカチャとあっさり分解し、その中を確認すると一瞬フリーズした後、慌てて装置を元通りに復元し、取り敢えずインベントリの中へと収納した。
「なに?慌てて」
「これは危険すぎると思います!」
「何?」「何が?」「ん?」
「この中に入っている液体は、エーテルアダマンタイトって言って、物凄く浸透率が高くて、この装置で圧縮して噴射する事で液体が届く範囲を切る事が出来るんだよ」
「切る?溶かすんじゃないの?」
「この装置、スプレーみたいに噴射口が造られているから、散弾みたいになってガッツリ削り取れると思う」
コッファはそう説明するが、結局上で山田に確認した所、山が崩れた所を見た者は誰も居ない為、この装置が動いていた所でそれが原因かは特定出来ない。しかし現状でそれ以外に方法が思い浮かばない為、答え合わせの為に山田の所へと全員で引き返した。
ーーーーーーーーーー
「山田!」
「はい?何か分かりましたか?」
「下にこんな物が在ったんだけど」
ミンティリアはエーテルアダマンタイト溶液の入った噴射装置を手渡し、意見を求めた。
山田はそれを様々な角度から確認した後、密かに眉を顰め、何かを見つけた。
「これは……、何かの紋章でしょうか?」
山田の指さした所に、極小の紋章の様な物が刻印されているのが皆にも分かった。
「なにこれ?」
「うーむ……。これはまさか、所属印か?」
「え?何それ……」
「いやしかし見た事の無い所属印だしかもこの色艶見た事が無い見た事が無いぞ!私の役所人生で一度も見た事が無いぞ!?少なくともこの銀河の物では無いだとしたらそれ以外の場所にもこんなものがあるという事なのか?いや分からないだがそう考えてもおかしくは無い世界は謎に満ちている!」
「速いし長いし」
ブツブツと早口で捲し立て始めた山田の豹変に驚き、ミンティリアの後ろに隠れるイミル。ほんの少しだけこれから先につながるヒントが有ったのだが、それに気が付く事は無く、所属印というキーワードだけが皆に残った。
「所属印と言うのは何だ?」
「主にマシンや艦艇等に刻印される所属判別用の発信機……の様な物ですね」
「あー。成程、で、それは何処のなの?」
「分りません」
「「「「「え~」」」」」
「そのように言われましても……見た事の無い物はどうしようも……いや待てよ」
山田は道路の下を指さし、そのまま土砂の向こう側へと指し示す。
「この下を通って行けば向こう側に出る事は可能です。しかし土砂をどうにかする依頼は他の方にやってもらう事に成りそうですね?」
山田はどうせ向こうに行けるようになったら、行っちゃうでしょ?と言わんばかりに顔を顰めて、煽るような表情を創り、足元から舐める様にミンティリアを見始める。
「と言うか下から行けるのは良いけど、それが何?って感じなんだけど?」
「あ、失礼しました。この北方ラインを直進すると、蒔苗シティに辿り着くのですが、そこに公開されているデータライブラリが有るのですよ」
「ほほう。それは興味深いね。私の知らない事がいっぱいありそうだね」
「そこでならその装置の事も分かるでしょうし、過去に登録された事の有る所属印は閲覧が可能な筈です」
「ほほー」
エリーはミンティリアの傍に行き、まだ進むべきでは無いとそう進言する。
「此処を私達がスルーしても多分良い事は無いのよ?」
「それも分かってはいるんだけどねー……。魔法が使えたらなー」
「ミンの魔法なら一発で吹き飛ばせるねー」
この中で一番仲が良いと言えるトトは、ミンティリアの肩に手を置き快活に笑った。現状の手札では瓦礫は兎も角、土砂の除去等出来よう筈も無く、かといって現実世界で使える魔法等も使えない。完全に手詰まりかに見えたが、それは敢えて見ないフリをしているアレの事も有り、形振り構わなければ何とでもなるのにと、一瞬手を出してはいけない物に手を出そうとした様な感覚を覚え、憮然とした表情になるが、それでも何か頭の片隅に引っ掛かりを覚え、あと少しの所で必要な情報が出てこない。
「何だっけなー、この状況なら何とかなりそうなんだけどなー」
「だから私の戦艦……「それは良いから」むぅ」
(要するに道路上から土砂が無くなれば言い訳よね?この高架の下は遥か下迄何も無いみたいだし、いっそのこと落としてしまっても……?あぁそうか)
「ねぇ、この高速道路って壊れたら直ぐに直るの?」
「いや流石に……程度にも寄るでしょうが、橋脚が落ちたら一週間は戻りませんよ?」
「穴が開いた程度なら直ぐに直るのよね?」
「まぁ……それ位なら直ぐにでも……えっ」
山田の言葉を聞いたミンティリアは、踵を返し先程迄居たメンテナンス通路へと向かい、改めて土砂の場所を確認し、溶解装置を手に取った。
「もう!攻略方法が陰険なのよ!こんなの分かる訳無いじゃない!」
方法が思いついた上でクライアントに質問をしなければ、確証も獲られず、物を見つけなければそもそも手段が限られる。正攻法でクリアしようと思えば、幾ら金が掛るか分からないし、レベリングをする為に橋脚の下、地上へ行かなければならない訳で、普通ならどの手段を用いても数時間は時間を消費しなければ成らず、だからこそこのクエストを雨宮とロペは力業でクリアしたのだ。と今更ながらミンティリアはそう考えるに至り、仮に二人がこの救済措置の様な裏技の様な物を使っていたのであれば、別の方法で土砂崩れが起き、解決方法も又違っていたのだろうが、二人は敢えて依頼には正攻法で挑まず、後に来る者達の為に残しておいたのだ。そこはクリエイターとしての越えられないラインなのだろう。自分でイベントを潰してなる物かと、二人は恐らくそう考えていたに違いない、とミンティリアは思う。
「ミンねぇ……?」
「これで土砂の下に穴を空けるわ、多分下に落としても大丈夫でしょ」
「おー!頭イイねー!」
この言葉がトトかイミルから出たものでなければ、恐らくミンティリアは拳の一つでもお見舞いしていたであろうが、彼女たちの口から出たものには、そうする理由が何故か見当たらない。少し眉を顰めはするが、スルーしても問題無いとお互いの関係性の近さがそうさせた。
ミンティリアは噴射口の絞りを最大にし、一本の線が飛び出る位に迄絞った後、他の皆を上に戻し、一気にエーテルアダマンタイトを円形に突き刺し、道路を切り取った。
ーーーーーーーーーー
「まさか本当にやるとは……」
大きな穴が開き、ざらざらと大量の土砂が流れていく様を皆で見守りながら、山田は唖然とそれを眺めているのだが、はっと正気を取り戻し、改めてイミルと愉快な仲間達に向き合う。
「一応……依頼は成功です……ね?」
「何で私に聞くのよ」
「瓦礫はこちらで処理した」
そうこうやっている間に、ティオレは一人、マシンに乗り瓦礫を道路の下へと投げ、車が通れる位の幅を確保し、その間をただ待っていた一般人と思われるNPC達や、眷属達が進み始めていた。
「ハイ、一応カンペ……ではありませんよ!そうでした!原因の調査はどうなさいますか?」
「何かもういいかなーって」
疲れた顔のままで皆に向き直るミンティリアを見て、コッファもそれでいいんじゃね?と、依頼を最後まで遂行する気力を失っていた。
「結局出遅れちゃったし、さっさとその蒔苗ってとこに行こうよ」
「「「さんせー」」」
エリー達三人は懐からバギーを取り出してさっさと後部座席へと乗り込んだ。
「意外と時間掛ったのねー」
「結局あんまりわからなかった……」
「そうなー」
「と言うか今思ったんだけど、この融解装置が原因って事でいいんじゃない?」
「それは流石に……。結局誰がこの装置を設置したのかはまだ分かりませんし」
山田は汚れた額をハンカチで拭いながら、これ以上は説得が難しいと判断したのか、懐からカードの様な物を取り出し、リーダーであるイミルのIDを求めた。
「これ?」
「そうです。依頼の終了をこちらで了承したという証になります。……本当に終わりで宜しいのですか?」
未練がましく何度も何度も同じ質問を繰り返していたが、漸く諦めたらしく、イミルのIDに自分のカードを近づけ、仄かな光を放ったIDは音も無くその光を収めた。
「これでこの依頼は終了です。報酬の受け取りは役所にあるディガー端末か、ギルドに問い合わせてください」
「ギルドっていうのは、銀河製作所みたいな?」
「そう言う事です。ではお気をつけて」
山田に見送られてパーティーは北方へとバギーを走らせる。
ーーーーーーーーーー北方道路・蒔苗方面
十数分ほどバギーを走らせると、少し日が傾き地平線の向こうへと沈んでいく太陽をゆっくりと眺めながら、景色を楽しんでいると急に空の彼方が明滅し、一瞬にして無数の何かが空を覆いつくした。
「急に暗くなった」
「何か出てきたねー」
目を凝らして空を覆いつくした何かを判別しようとしていると、その一部が光り何かを形作ろうとしている事が判る。
「ホログラム?」
ーーハーッハッハッ!!
「うわっ!うるさっ!」
空一杯に広がったせいで何が何だか分からなくなってはいるが、恐らく人型の何かが映し出されているのだろう。周りで運転している車列も気になるのが徐々にスピードが遅くなり、完全に止まってしまった。
「おいこら!止まるなよー!」
「前が止まってんだ!しょうがねーだろ!」
目の前に止まったバイクの集団は、車の間を通り抜けようとしたのだが、自分達の前に止まっている車の運転者が自分達の直属の上司である事も有り、何とも言えない表情で空を見上げている。
「何かイベントか……?」
ーー貴様ら良く聞け―!我はセイザンテイオー!……ナリぃ!
なりぃ・なりぃ・なりぃ……と酷いエコーが世界全体に広がっているような錯覚を覚える程の大音量だったが、徐々に調整されているらしく、最終的には耳を塞ぐ事無くその声に耳を傾ける事が出来た。
ーー我は長い話は好かん!この世界は我が支配する!逆らうなら死ね!支配を受け入れるなら我らと同じ力を授けよう!既にすー・すぺすあーく?なに?スペースアーク?……とやらは我が手中にある!つまり宇宙は全て我の支配下にある!……ぞ?
巨大過ぎて結局声しか分からず、女性らしいという事しか分からない声の主は、メモでも読みながらか?と思うほどにはたどたどしく、最初に目的を告げた事が称賛に価すると思える程には、その後の話が無意味且長く、既に話に興味を失った車両達は徐々に進み始め、イミルPTもその前のバイク達もゆっくりではあるが先へと進みだす。
「まだ何か話してる」
「宇宙船のトイレの話とか聞かなくても良いわよ」
「しっかり把握してるじゃん」
「勝手に覚えちゃうのよ」
「あんなやり方で話す事じゃないよねー」
ゆっくりではあるが車列が進み、十分ほど進むと、再び車列は止まる。しかし先程とは少し事情が違うらしく、前に居た眷属達は武器を抜き、又マシンを展開している。
ーーここから先は通行止めだ!引き返せ!
マシンを止める巨大なシャッターの横に備え付けられた巨大なスピーカーから、男の声が響き渡り、先頭に居た眷属がガンガンとシャッターを蹴って何かを口走っているが、そのシャッターの左右から砲塔のような物が飛び出し、全員がぎょっと息をのむ。
「えっ!?ちょっと待てあれって」
「嘘でしょ?あれって未だ試作段階じゃなかったっけ?」
「何だどういう事だ?」
コッファとミンティリアの二人は雨宮の開発資料を閲覧していた事で、それが何か理解していたが、ティオレは首を傾げながら訝しげにその様子を眺める。今はイミルを膝に乗せて居る為、ティオレは立ち上がれず、目を凝らしてその砲を見てみると……?
「……アレは……さっき見たホーム何とかじゃないか?」
「こっから見えるの!?」
百メートル近く距離があるこの場から見るには双眼鏡でもでも無ければ、普通は出来ないだろうが、彼女の、ダークエルフ種の、種族的な身体能力をもってすれば、見えない事は無いらしく、それが先程の依頼で発見した所属印で有る事が判明した。
「と言う事は~」
「もう既に占領されているという事か」
「バカっぽい割に意外と仕事が早いね、セイザンテイオー」
「……いやいやいや、ダメでしょ。対艦砲こっち向いてるって!」
ミンティリアの指摘する通り、数ある砲の一つがイミルPTを向いており、試作段階と思われていた小型次元粒子加速砲
事ディメンションガンが、砲撃準備に入った。
「ヤバい!ホントに撃って来るぞ!?アレは粒子加速を始めると途中で止められないんだ!」
「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」
コッファの周りに居た眷属達は、あっという間に車両をインベントリに仕舞い、方々に散って行く。一回ログアウトしようとした者も居た様だが、どうやらこのイベント中はログアウトが禁止されているらしく、一人だけ棒立ちになって居る眷属は慌ててこの場を離れた。
この場に残されたのは、実際に砲の仕様を理解しているコッファの居るイミルPT、そしてその周りを固める様に居た先程のバイクのPT、開発に関わっていた研究者の所属するPT、そして何も知らないNPC達だけだったが、その数は決して少なくなく、後ろからも新しくNPC達が蒔苗を目指してやってくる。
「何秒位余裕が有るの―?」
「そうだね、あれだけの数が有るなら、一分……位?加速器がどんなものか分からないから、ラピス基準だけど」
「壁に張り付いたら何とかなる?」
イミルは飛び出した砲が真下を向けられないらしい事を発見し、取り敢えず全員が防壁に張り付くような位置へと付いた。
「射角は問題無いのか?」
「仕様が変わっていないのなら多分大丈夫だと思う」
壁を背に自分達がやってきた方向を見ていると、次々とNPCらしき人々が車列を作り、徐々に又渋滞になっていく。
「NPC死ぬよね?」
(あと数十秒で何が出来るか……?)
「チッ、しょうがねーか!」
思考を巡らせるティオレの前に、立ちはだかるバイクPTの一人アリーシュは、後の事も考えるとこれしか無いと、人海戦術を提案、その号令を出せるのが現時点でイミルしかいないと言う。
「どうすればいい?」
「端末で緊急全体命令を発信するんよ!時間が無いから一言で行ける奴な!」
イミルは少しだけ考えると僅かに頷き、大きく息を吸い込み端末へと向かい大きな声で命令を出す。慌ててミンティリアが横から発信対象から自分達を含めて、壁に張り付いているPTを除外、最優先コードを走らせ発信モードへと切り替えた……が。
「とめて」
ーーーーーーーーーー
緊急コードI・A・S・C・・・承認
魂魄強制解放・・・・・・承認
第三超広域世界とのダイレクトリンクを構築します・・・・・・承認
マスターコード残り回数を減算・・・・・・残り四
ーーーーーーーーーー
マギア・ラピス 雨宮私室
(む?)
雨宮の管理する秘匿サーバーに緊急コードの承認を求める確認メッセージが表示され、雨宮は反射的にそれを承認する。何が起こったのか確認をするのだが、ナノマシンリンクを通じコッファからの情報をリアルタイムで確認すると、メインイベントの発生ポイントに辿り着いた事は分かるのだが、イベントフラグがめちゃくちゃになって居る様で、侵攻してくる勢力の技術力が桁違いに上がっている。
「……世界統合の時のアレか。メインサーバーの情報が少し流れた形跡があるな」
箱庭世界を吸収した際に何者かによって第三世界側へのアクセスが有り、その際に中継地点となって居る神域の情報を少しだけ持って行った。何が目的かは分からないが、新技術の開発をラピスと別に行って居る神域のデータが奪われた事で。何者かの技術力能力の高さが感じられる。
(まぁ、他所の世界にその情報が流れていない事だけが、良しと出来る事か)
その履歴を追っていくと、辿り着いたのはウルトラロボットクリエイタ―の中、それもイベントキャラクターとして各種権限を付与してある、そんなキャラクターに全て取り込まれてしまっている。
(ちょっとやり過ぎな所も有るが、まぁ良いか。イミルにもそれなりに権限を渡してあるしな。っと。承認承認っと)
ーーーーーーーーーー
蒔苗南ゲート イミル
「とめてって言っただけなのに……」
辺り一面瓦礫の山に変わった元ゲート。周りには眷属達がげっそりとした様子で瓦礫の下に埋まったNPC達を掘り起こし、応急手当を行っている。
イミルによる強制コード発令の後、一瞬にして眷属達は自らの力を強制的に解放され、各々見た事も無い程の力を発揮、あっという間にゲートに配備されていた砲台事ゲートを完全に粉砕した。ナノマシンから供給されるエネルギーが有るとはいえ、自らの肉体を著しく逸脱した力の行使に、皆の心は穏やかでは無く、気持ちがごっそり地に落ちていた、
「いやぁ……イミルっち、何したの?」
コッファはイミルを膝に乗せたままで頭を掻き、辺りを見渡しその様子を記録している。この視覚情報は常に雨宮のサーバーとメインサーバーの二か所に送られている。
「おと・・・さんから、五回だけ何でもできるコードを使う権利をもらった。この中にいる間だけだけど」
「チートかよ!」
まぁ相手も似た様な事をしてきた訳だからと、雨宮からの連絡が有り把握した事態を比較して、コッファは思う。
「何か面倒な事になりそうだなー」
「?」
座ったままでコッファの顔を不思議そうに見上げるイミルの頬をむにっと掴み、揉みしだきながらしばらく時間が掛かりそうながれき撤去の様子を見ながら、その感触を楽しむのだった。
その視界の端に、人型の大きな何かを捉えながら。
山口 孝雄 三十五歳 人種 炉模町北ゲート責任者
炉模町ゲート公社、通行する人員や物資輸送に伴う税金等を管理する公的機関、その北ゲートを任されている責任者で、ゲートから隣町迄の高速道路を全て管轄している。
URCの中でも重要NPCとして位置付けられており、死亡するとチュートリアル任務を含め数多くの任務が消失、非常に面倒な事になるが、危険な事態に自ら飛び込んでいく性質を与えられており、目を離すと大けがをしていたりする為、本人が依頼に付いて来ようとする所を、他のNPCに止められている所を頻繁に目撃されている。
好奇心旺盛なだけで無く正義感にも溢れ、自ら解決できる依頼は依頼を出しておきながら、自分で解決しようとする為、初心者ディガーからは煙たがられている。
セイザンテイオー メガヒューマン 二億六千七十四歳 皇帝
彼女は雨宮によって零から作り出された二番目の個体で、設定として年齢が与えられているが実質生まれたてほやほやで、シスの妹に当たる。骨格データや遺伝子データなどシス・セブンのデータを多く流用し創り出された。データ内部でのシリアルナンバーはエイト、シスで得られたデータを元にハイパーヒューマノイドでは無く、超人種の上位互換として新たに設計され、メガヒューマンとして存在する唯一の存在。但し現時点において現実世界に肉体が存在していない為、データのみの存在としてURCの中でのみ存在している。
とてもおしゃべりで非常に寂しがり、言葉遣いに幼さを残したままでも気にしないが、指摘されると怒り出す。