EP100 歓喜と祝福の箱庭 ~update ultra robot creator~
だらだらと書いていく中応援頂きまして有難う御座います。
お陰様で漸く百話を迎える事が出来ました。
今年の暑さは長く続くと思われますが、読者の皆さま方もどうか健康と暑さに気を付けて、元気に行きましょう!
イェ━━━━━ヽ( ゜Д゜)人(゜Д゜ )ノ━━━━━━イ!!
あ、後書きなげーよと言わずに見てね!
昇降装置を降りメインブリッジへと進む二人の前に、マリア・ジェニーこと如月マリアが立ち尽くし、ブリッジへと入れなかったのだと直ぐに二人は気づいた。
「どうした?」
「あ・ゆっくり艦内を見て回ったのであなたを訪ねてきました」
「入れる所と入れない所が有っただろ」
「それはまぁ仕方の無い事ですから」
よそ者である自分に制限がある方が当然だと判っている様だが、どうしたものかと考えていた所で二人と遭遇したのだ。
「IDを渡していなかったな、渡しておこう」
雨宮はナノマシンを操り情報をサーバーへと送り水色に輝くカードを手渡した。
「これは?」
「IDカードだ。この船にカードスリットやリーダーは無いが、持っているだけでいい」
「何と言いますか、私の知っている時代からかなり文明の進んだ世界ですね」
彼女の時間はファントムとして存在するようになる前は、銀河研究会という組織の一員として先進的な技術を以て活動をしていたが、それを考えても文明レベルは非常に差があるのだという。雨宮も勿論それを感じているが、雨宮の場合はそれを楽しむという目的もあるせいで驚きは楽しみに変換され、それ自体を気にすることも既に無い。
「あんたは生まれ変わってはいないのか?」
「……はい。私は気が付いたら精神世界に居ました」
「それは生まれ変わるのと違うのか?」
「どうでしょうか……?どちらかと言えば先ほど生まれ変わったと言う方が正しいかもしれません」
「違う体になった訳だしねぇ」
「一応人間……と言うか、精神生命体に残っていた情報をそのままコピーして作ったから、よっぽど情報が劣化していない限り違和感は無い筈だが……」
「それなのですが、やはり私の精神は大きく擦り減っていた様で、言葉にするのが難しいような違和感がありまして……」
マリアはぎこちなく体を動かし、歩いて見せたのだがそれは誰が見てもおかしいと判る動きだった。
「膝が曲がって無いぞ……?」
「人形みたいになってる……」
「やっぱりそうですよね?感覚としてはちゃんと動いている筈なのですが、何とも……」
「あー……それはあれだ、そういえば説明し忘れていたな」
以前から雨宮自身も何度か思い違いをしていた事が一つ、精神生命体が肉体に順応する為にはどうしても多少の時間が必要だという事、改めて説明をしたところでロペはそれを思い出し、当然の事だと頷く様に納得した。しかし当のマリア本人には全く理解が及ばず、理屈を説明された所でそもそも肉体に魂をインストールするなどと言う神懸かりな行動が想像がつかない。
「暫くすれば治ると思うが、その擦り減った精神生命体の行方が気になるな」
「イシス・ロミアスの話では世界を安定させる為に使っていたと聞きましたが……」
「安定?精神世界を?何でそんな事する必要があるの?」
「「え?」」
話が長くなりそうだという事も有り三人はブリッジへと入り雨宮とロペは自分のシートへ、マリアはマスコットシートへと座る。細身の彼女は小さめに作られたシートにも普通に座れ、ややグラマラスなロペは複雑な気持ちでそれを眺めていた。
ーーーーーーーーーーマギア・ラピス メインブリッジ
「雨宮さんお帰りなさい!」
「おおー!イントたんじゃないか!と言う事は……」
「はい、アイリーンと交代しました」
二人は神域の再建と拡張を行っており、多くの住民たちを受け入れる為に腕を振るっていたのだが、今回交代の為にコゾー達をついでに送ったことにより、仕事が随分楽になったとアイリーンも喜んでいる。神域ではロペが指揮を執り、眷属達もその再建に手を貸している。
新庄は心此処に非ずと言った面持ちで、オリジナル法被と団扇を両手にイントを迎え、花束を贈呈していた。
「雨宮そちらは?」
「ファントムっつってもわからんか」
「如月マリアです宜しくお願い致します」
「「「「「「「「「「よろしくー」」」」」」」」」」
ブリッジクルーはほぼ全員揃って居る様で、ダンジョン進行に併せて溜っていた仕事をそれぞれ消化している様だ。
「情報が多すぎで困るのよー」
エリーは見慣れない機械を肩に装着し、八本腕になって八つのキーボードを叩いている。隣の新庄も似た様な物を装着しているが、自分の手と合わせて六本腕になっている。
「それはロペに何とかしてもらえ」
「えっ私?」
(どうも最近ロペの集中力が足らん気がする)
ダンジョンから戻ってきた後のロペは何処か反応が鈍く、上の空になり時折ボーっとしているように雨宮には見え、滲み出る疲労感を隠せないロペは取り繕うように引き攣った笑顔になるが、そこから言葉が出てこない。
「ロペちゃんは働き過ぎなのよー?」
「あー……」
「銀河さん又この世界でもワーカーホリックしているのですか?」
「俺は何とも無かったから……いかんなぁ」
雨宮はナノマシンのオーメンテナンス機能によって常にベストな状態をキープされて居るので、余程エネルギーを使い過ぎない限り疲労感に襲われることはほぼ無い。
「銀河きゅん私は……」
「休日にします」
「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」
突然雨宮の放った言葉に全員が注目し、視線が集中する。
「一週間ぐらい休もうか……この月なら色々できるし」
「えぇ?」(本当に休めるかどうか不安なんだけどぉ?)
「うぅむ」(別のトラブルに巻き込まれそうな気がする)
「えーっと」(帰ってきたばっかりなんだけどなぁ)
「????」(事情が呑み込めませんね?)
「ほほー」(銀ちゃん争奪戦が始まる予感―?)
「遊びに行くのもアリね……」(ってかこの月って何があるのかな?)
「やった!」(久しぶりに三人で遊びに行けるかも!)
それぞれの思いを胸に、突然の休暇が降ってわいたのだった。
で。
「結局まだ仕事してんのかよ」
「おまいう。二人が大量のデータを送ってきたからそれの処理に全員が駆り出されているんだぞ?」
「エリー達だけじゃ無理なのよー」
「私も手伝いますけど流石にこのデータ量は……」
雨宮とロペがそれぞれ精神世界の情報と娯楽世界の情報をサーバーに送り、ロペが雨宮にそれの処理を禁じた為に起こった事だが、雨宮は雨宮で自分で情報を処理しており、既に必要な処理は完全に終わらせてある。と言うよりサーバーのリソースをフルに使う事が出来る雨宮と、それ以外のクルー達の処理能力は天文学的な数字が出るほどかけ離れており、普通の人間が千年掛かって終わらない処理を雨宮は一分で終わらせる事も不可能ではない。只それをすれば艦のエネルギーが一気に減るうえ、雨宮が完全に動けなくなるので雨宮としてもそんな事はしたく無いとは思っているようだ。既に必要な情報は雨宮の中に在り、今クルー達が四九ハ九しているデータは、第三世界と二つの世界が融合した事による不具合の発生や見過ごせない世界の差異を探して、その対処を検討すると言う物で、急を要するものでもない限り時間をかけて行っても問題の無いものだ。
「お前らさてはサラリーマンやった事無いな?」
「「「「「「「「「「?????」」」」」」」」」」
雨宮は自分でそう言ってから改めて周りを見渡すと、軍人・政治家・海賊・犯罪者等々、全員に元が付くが凡そ社会と触れ合う事の殆ど無い生き方をしてきた者達ばかりなのだと思う。
(そう言えば此処にそんな奴居なかったわ)
「ロペ?」
「あー……仕事整理して振り分けマス……」
(出来る女は素晴らしい)
ロペは仕事に集中し、手元を忙しく動かしながらマリアと雨宮へと話の続きをし始める。
「精神世界の話なんだけどね」
「はい」「ん」
精神世界とは肉体を失った精神生命体の待機場所として生み出され、精神生命体の情報を抜き取り洗浄した後、別の世界へと送り出す。そういうシステマチックな世界だったのだという。文明だの自我だの生活だのが存在している事が既にイレギュラーであり、精神世界としての役割を完全に放棄していたのだとマリアはそう思った。
「彼女はそこまでして玉城に執着していたのですね」
「と言うより、融合した前の管理者から役割を引き継ぐ積りが無かったからだろうね。もしくは……」
「もしくは?」
「不可能に近い筈だけれど、殺して奪い取ったが為にそもそも世界の維持方法を知らなかった……と言う可能性もあるね」
マリアの精神を削って世界の維持に回すのはそもそも不可能で、そのエネルギーは恐らくベラの存在を消さない様にする為に使われていたのだろうと推測するロペ。しかしそれでは世界はそもそも未着手であった可能性も出てくる。
「維持していなかったと?」
「と言うより興味が無かったんじゃないかなぁ。どうもデータを見る限り寿命だったっぽいし」
左程古い世界では無い筈とそう言いながらもロペの目にしている情報には、無駄なリソースの流出が目立ち、そもそも管理すらされていなかった慈雨場が浮き彫りになっていく。
「クリスタルコアを使って無駄に異世界にダンジョンを作っていたみたいだね。と言うかこれで玉城がいる場所を探していたんじゃないのかな?」
結果的にはその行動は実を結び、本人はめぐり逢いを果たしたのだが、玉城は準眷属とも呼べる存在と成っている上、そもそもイシスの事を恐れ毛嫌いしている。
「報われないねぇ」
「凄く迷惑なのですが……」
「巻き込まれた側はたまったもんじゃないな」
前世に未練があったのか判らないが、学園を作りファントムを増やしていたイシスが何をしようとしていたのかは分らない、しかしそれのせいで本来生まれ変わり新しい人生を送るはずの精神達が、無理やり引き留められ、何の意味が有ったのか学生として日常を繰り返していた。
「無駄」
「そうだねぇ。まぁ本人を分解してみたらいずれ判るだろうけど、情報の解析は後回しにしても良し?」
「別に知りたくもないわな」
「おっけぃ、じゃああのBBAはどうする?」
「……うーむ」
(腐っても管理者になったような存在を分解すると、多分エネルギーが余るんだよなぁ?……あっ)
雨宮の顔がにょにょと何か悪戯を思いついた子供の様に楽し気に変わり、雨宮に宿るナノマシンは周りの眷属達に気付かれない様に瞬時に準備を整える。位置的に雨宮の前に居るロペや他の仲間達もその怪しいにょにょに気が付かず、雨宮がとあるプロジェクトを進めている事に気付く者はいなかった。
「データはプールしておくからとりあえず分解してしまうか」
「おっけー。じゃあそっちはとりあえず後回しにしとくねぃ」
(うっしっし、じゃあ始めるとしようか)
ーーーーーーーーーーマギア・ラピス零番研究室
「ゼニア!ミリア!ミリュ!アレを始めるぞ!」
「おぉ、とうとう完成したのですね」
「そんなに大きな声で言う事ですか?」
「わかってないなー」
三人は取り敢えずは雨宮の様子に何か大掛かりな事に成りそうだと自分の予定をサクッと調整する。
「良し、サーバーを増設するぞ」
「「「サーバーを!?」」」
「そうだ、既に完成している。後は並列化して接続するだけだ」
「成程、ではVRシステムのアップデートも必要ですね」
「そっちは任せる、試行を重ねているからサクッとプレーヤーを集めるんだ!」
「「「了解!」」」
そして……。
「確かに私が適任でしょう」
ライプリー・レシュは自身の研究を一段落させて雨宮の招集に答えた。
「うっしっし!やーっとアプデかー!待ってました!」
ルミコ・イバナカジマは新しい研究を始めていたが、半分遊びでもあるこちらに誘われてそそくさとマイVRユニットをどうしたものかときょろきょろしている。
「シャキ―ン!パメラ参上!ゲームですね!遊びましょう!」
パメラ・キャッシュマン……先日世界獣に取り込まれた事等微塵も気にして居ない様に元気を振り撒き、特に意味のないポーズをとっている。
「キタ━━━ヽ(∀゜ )人(゜∀゜)人( ゜∀)ノ━━━!!」
テンション爆上げペガサス盛のキャンディ・キャッシュマンは両手で力強いガッツポーズを振り翳し、気の早い事に既にVRゴーグルを装着している。
「主よ……私も参加するべきでしょうか?」
ティオレ・アンクは普段触らないゲーム機器をきょろきょろ様々な角度から確認し、自分が呼び集められた理由を探しながら首をかしげる。
「かなり苦労したんだよ?」
コッファ・サナ・グレア、彼女は雨宮の傍に付きアップデートの旗を振ってきた事で、大きな権限を持っているのだが、自分も遊びたいという事で参加する事に成った。
「さぁ皆、VRシステムのアップグレードをするぞ~」
雨宮はまず彼女達を先遣隊として新しいウルトラロボットクリエイターへと送り込むべく、其々が持ち寄ったVRの機器をアップデートし、目を覆うだけのゴーグルの様な物に変えた。新旧様々なVR機器が有ったが関係無く同じ物に変わり、古い有線の物を持ち込んだルミコは「新しいの買う必要なくてラッキー」とゴーグルを装着しフィット感を楽しんでいる。
雨宮・コッファの手によって新しいデバイスへとアップグレードされた自分のVR機器を物珍しそうに一頻り眺めた後、一番槍がゴーグルを装着し手を振り上げる。
「パメラいっきまーす!」「あっずるい!」
自らに宿るナノマシンを同調させ、突如崩れ落ちるパメラ。雨宮はそんな彼女を・・・と、何やってんだと言いながら小脇に抱え、自室へと転送する。
「おい、他の皆は体を置いて行くなよ?幽体離脱とか意味分からん事をするなよ?」
説明をする前にカッ飛んで行ったパメラに苦笑いを向けた面々は、新しい端末と同調する事で自身でそのままヴァーチャル世界へと入り込む事が出来るのだと知り、改めて自らの手に持つ小さなゴーグルのテクノロジーが、既知の外の物で在る事を再認識した。
「では銀河さん、新しいこのUCの説明を!説明を!」
(UC……あぁ。ウルトラロボットクリエイタの略語か)
「良し、じゃあ説明するぞー」
雨宮が新しいアップデートの説明に入ろうとした所で、ミリアとミリュがササっと端末を操作し、全艦隊へとつながる全体回線をこの場と繋げる。
ーーーーーーーーーー
ウルトラロボットクリエイターの第一次大型アップデート テイオーの野望
ジャック登太郎を倒し平和を取り戻した炉模町、しかし平和が訪れたのもつかの間、宇宙の彼方から新たな敵が君達の行方を阻もうとしていた!セイザンテイオー率いる宇宙ロボ軍団を倒し、世界の平和を取り戻せ!
新しいロボットフレームの大量追加
新しいメダリオンの追加
新たにクリスタルコアシステムの実装
新しいNPCが追加されます
多くの敵対NPCが追加されます
様々な資源が追加されます
勇者システムが追加されます
聖女システムが追加されます
ペットの連れ込みが可能となります
新しいフィールドが追加されます
宇宙空間適性が追加されます
五次元空間適性が追加されます
Ωが追加されます
Δが追加されます
αが追加されます
Σが追加されます
βが追加されます
エナジーポゼッション機能が追加されます
トレード機能が追加されます
等々……
ーーーーーーーーーー
にわかにざわつく艦内を後目に雨宮は話を続ける。
「一応言っておくが、NPCを殺しまくるなよ?敵対したら遊ぶ事もままならないだろうからな」
雨宮の言葉に首をかしげるキャンディ、ゲームでは?とそう考えている様だが、雨宮の事だからと頭を切り替え、それも楽しもうと固く拳を握り締める。
「敵対プレーは出来ないのかー」
元々PKチームに所属していた者達は少し残念だとそう思うが、考えてみれば今周りにいる仲間達と敵対して何か良い事が有るかと思い直し、そこまで考えて一人の眷属にはこのアップデートに雨宮の意図が隠れて見えた。
(これはまさか……)
彼女は突入第一陣へと参加するべく秘匿区画へと走るのだった。
ーーーーーーーーーー
皆に新しいVR端末が行き渡った頃、雨宮はサーバー内の状況を見て首をかしげる。
(ん?あれ?何か変なデータが流れ込んでくるぞ?)
データの流入先を辿っていくと、そこにはエターナルグレー、そして新しく雨宮の造った異世界ダンジョンがある。
(まさか防衛システムがまだ動く?いや、それは無い筈。俺がちゃんと分解して再構築したからな……じゃあなぜ?)
娯楽世界、精神世界、この二つの世界と融合したダンジョンは、それ以外のニ方向から、新たな気配を感じ取り受け入れ体制に移行する。
(うっ、まだ新しい世界が引っ付くのか……小さい世界みたいだが……。しかも片方はUCに引き摺られていやがる)
雨宮は仕方なくデータを調整し、新しく近づく世界の一つをUCと紐付け、可能な限り不確定要素を排除、新しい世界の受け入れに取り掛かる。
(……折角遊ぼうと思っていたのに)
雨宮の不満を他所に、新たな世界は確実に第三世界と融合し……取り込まれていく。
(ふぅーーーーーー……イベントとして捩じ込んでやるか)
雨宮のナノマシン達はサーバーをフル活用し、違和感の無い様に世界の接続先を作り出すと、そこには大勢の人間……の様な何かが大挙して押し寄せていた。
ーーーーーーーーーーside ????
(何が起こったの?揺れたと思ったらタワーが倒壊して……)
数多くの世界と敵対し滅ぼしてきたタワー。彼女はそのタワーを破壊するべく、相棒のシリウスと共に潜入を試みようとしていたのだが……。
「葵、外が……」
小さなシェルターに避難した二人は、瓦礫を押しのけ外に出た。
錆色に輝きうねる空間が上空に広がり、瓦礫が吸い寄せられていく。その中には恐らくタワーの上部に居たと思われる機械生命体達も含まれ、一瞬で目的を見失ってしまった二人は、一時時間を忘れ、破滅的な世界の景色に呆然としていた。
ワン
「デモV!?まだ動いているの!?」
「葵、逃げるわよ。こっちにあいつらがやって来るわ!」
「えっ!?」
葵が周囲を見渡すと、瓦礫を跳ね除け踏み潰し、轟々と迫るロボット達の群れが地響きを上げて一心不乱に何処かを目指していく。
「デモV……?あんた私を殺しに来たんじゃないの?」
フルフルと頭を振り葵の傍に座る犬型ロボット。且て二人と数々の死闘を繰り広げた最強と謡われる処理装置を組み込まれたサイボーグはは、何故か二人と共にどこかへと走り去っていくロボット達を眺め、可動域の広い首を傾げる。
「葵、アレも攻撃してこないみたいね」
ーイレギュラー1018まだ此処に居たのですね
「ジオβ……」
稼働する機械の翼を広げホバリングしたままで二人と一匹に近づくジオβと呼ばれた個体は、翼を格納し荒れた地面に降り立つ。
ー貴女には何の事だか分からないでしょうが、この世界は終焉を迎えました。間もなく消滅が始まります
「は?」「えぇ?」わふっ
ーバイオロイド、貴女の造ったイレギュラーのせいですよ。アレはリアリティプログラムを暴走させ、コアを破壊してしまいました
「嘘でしょ?そんな事が可能なの?」
ー現にコアは在りません、アレはプログラムを使い、この世界のリソースを大きく超える兵器を作り出し、コアを破壊した。自身はその兵器に取り込まれ破壊の限りを尽くしています
(うっわ超迷惑)
「居なくなったと思ったら、どうやってそんな所迄」
ーあの個体は私達には認識出来ず、モニタリング範囲に入らなければ何処へでも侵入が可能です
「いやいや、あんな目立つ奴、視界に入ったらすぐわかるよね!?」
ー……それが分かっていたならこの様な事態には……
「それもそうか、とりあえず何処かに逃げた方がいいのかな?」
ー運が良いのか悪いのか、サードダンジョンの先に異世界の存在を確認しています。そこへ行くしか無いでしょう
(こいつと一緒に行くのは怖いけど……行くしか無いか)
「葵、急ぎましょうあの空……広がっているようね」
捻じれた空は徐々に広がり、その近くにあるすべての物を吸い上げている。阿鼻叫喚の機械音声が響き渡り、生産ロボットや農業ロボット、果ては何のために居るのかわからない対話型ロボット達迄吸い上げられ消え去っていく。
葵達は全力で駆け出し、サードダンジョンを目指す。途中あまりの葵の遅さにきゅんと一鳴きしたデモVは葵を背に乗せ、足の裏から何かを噴射し滑空疾走する。
「ちょ!私だけ走るとか!ずるくない!?」
シリウスは大汗を掻きながら高速で疾走し、ひぃひぃと息を切らせ、数分もする頃には先ほどのロボット集団を追い越し、ダンジョンへとたどり着く。
「一気に行くわよ!GOデモV!」
わふっ
「ちょ……ちょっと待って……ハァハァ」
ー其処で止まっていると後ろから踏み潰されますよ
「もーーーーー!!」
世界の貫通に全力を注ぎ、脆くなったダンジョンの壁をジオβが先頭になり体当たりで破壊しながら、ダンジョンの最深部へと一気に突入した。途中で敵性生態と出会う事も無く、ダンジョンコアへと辿り着いた二人と一匹と一体は、驚愕に戦き頭を振る。
「堂島君何で此処に!?」
ー手嶌ぁ!俺だけロボットにしやがって!許せねぇ!ブッ殺してやる!
(私じゃ無いんだけどなぁ……)
葵はシリウスに視線を投げかけ、それに気付いた彼女は視線を逸らす。
「生きてるだけでも良いじゃん」
ー果たして脳だけで生きていると言えるのでしょうか
わふっ
完全な機械の二人は何の事やらと事の成り行きを見守っているが、後ろから迫るロボット達の事を思えば、直ぐに片を着けたいと思う。
ーうるせぇ!俺は人間だ!お前だけ何で人間のままなんだよ!
(いや……私も半分以上機械のサイボーグなんだけど?)
ーぶっこ
突如としてダンジョンコアが弾け飛び、視界を完全に奪う光が周辺を飲み込んだ。
(あー、これは死んだかなー)
「……あーもしもし?エターナルグレー?あれ?銀河旅団?かけ間違い?いやそんな筈は……?え?私?ガーディオンシリウスで分るかな?え?うん。はい。はい……分りました。何かロボットが一杯居るんだけど大丈夫ですか?はい。そうです。ええと、はい。じゃあお任せします。はい」
(シリウス?何やって)
ー新しい世界が
「吸い込まれるっ!」
ーブッコ!
そしてまた一つの世界が消滅し、雨宮の手に失われた一つの欠片が現れる。
ーーーーーーーーーーウルトラロボットクリエイター内 炉模町銀河製作所
「誰よ銀河製作所って名前つけた奴ー」
初めてUCへと参加したミンティリアはペタペタとあちこちを触りながら、現実と全く差の無い周囲を見渡し興味津々で辺りを調べ回っていた。
以前ライや他の眷属達がやって来た時のカクカクしたデザインの世界とは全く違い、質感・触感・臭い・温度、全てにおいて現実世界と全く変わらないこの世界を呆然と見つめる眷属達と、ハイテンションが突き抜け飛び跳ねるゲーマー眷属達。双方の温度差は激しいが、半分以上遊びであると判っている事も有り一行の雰囲気は和やかだった。
「さーってと、どうやって遊ぶのかなー?」
「ミンちゃん一緒に遊びましょー」
そういってミンティリアに近づいてきたのは、両手にトトとイミルを連れたエリーと、コッファの四人そして。
「詳しいのが居れば安心だな」
少し安堵を漏らしているティオレだった。
「ティオレさんもしかして機械苦手?」「少しな……」
食い気味に反論しようとしたが間違ってはいないと肯定したティオレは、あちこちを調べ回り、この世界に全く抵抗の無さそうなミンティリアを目ざとく見つけ、近づいたのだった。
(そういえばティオレさんNVDに乗ってるの見たこと無いわ)
苦手意識のせいかはたまた違う事情があるのかは分からないが、ティオレは生身での戦闘を好み、相手がSWであろうと界獣であろうと体一つで戦っている。
「ゲーム初めて……」
「トトも初めてですぅ」
「えへへっ実はエリーも初めてだよ~」
(おっと?六人中四人初心者?)
「あー、私は開発者側だから……っつってもシナリオは全部ボスが書いたから、内容は正確に把握していないんだけどね」
コッファは外から持ち込んだバイザー型デバイスを少し触りながら、「問題無し」と雨宮に報告を入れている。
「じゃ―さっそく始めてみましょーか!」
「「「「「おー!」」」」」「お・おぅ」
一人ノリに付いて行けないティオレの腕をとり、ミンティリア達は工場らしき建物の中に入っていく。
そして……再び奴が姿を現した。
ジオβ 十万五十七年 人種雌型アンドロイド 箱庭外苑警備
ジオシリーズの指揮官機としてセントラルタワーの防衛を担当していた超高性能アンドロイド……だったが、度重なるレジスタンス活動による襲撃の責任を取らされ、箱庭世界の外苑を警備する一般アンドロイドへと降格させられる。しかし機能の制限などは受けておらず、箱庭世界最強のアンドロイドである彼女は、この世界の勇者として過去に勇者システムに取り込まれた経験が有り、箱庭世界で製造されたジオシリーズのアンドロイドとは一線を博する異次元の性能と武装を有していた。
ジオシリーズとは元々箱庭世界における一般市民として、無限に製造される所謂モブで合ったのだがジオβが勇者システムに取り込まれる際に起きた次元断裂が原因で、箱庭世界の制御システムで在り管理者でもあるデウスエクスver3.15が中破し、デモシリーズの製造が一時中断されたのだが、その際に別世界からやって来たガーディオンシリウスによって、プログラムが書き換えられジオシリーズは製造が打ち切られた。
しかしジオシリーズの性能は常軌を逸しており、世界に残った八十万体ものジオシリーズは、修復の完了したデウスエクスver3.15によってシステムを書き換えられ、他世界との戦争の先兵として、世界各地へと散って行き、帰ってこなかった。ジオβはそのジオシリーズの最後の生き残りで在り、葵との数度の死闘の末破損した機体を修復する為に、ソウルクリスタルをコアと融合し、新しい存在へと昇華し、自我を確立する事に成功した。
彼女の性格は温厚で実直、闘う事を良しとしない性格だが、闘う事でしか得られない事も有ると割り切ってデウスエクスの命令に従っていたが、世界の崩壊が始まったことを彼女のコアは感じ取り、タワーの中に居た全てのアンドロイドや、他世界から誘拐してきた人間達を逃がし、自身もこの世界を脱出する事を選択。デウスエクスからの防衛命令を無視し、彼女は世界の境界へと走った。
デモV 二年 犬型アンドロイド 箱庭外苑警備
第十九世代型ドーベルマンタイプ四足歩行警備ロボット。
箱庭世界のセントラルタワー周辺を警護するデモシリーズ四型、量産型であるデモⅣを統括指揮する指揮官機。製造数は少ないが量産型である四型の三倍以上の性能を以て対象を追い詰め排除する。
個々に自我が設定されており、レジスタンス活動を続けていた葵とは何度も死闘を繰り広げていた。しかしその自我は管理者によって制御され、自身の意図とは反する行動を強制されていた。
デモシリーズの最終形態として箱庭世界の技術の粋を込めて作り上げられた、最新型の機体だが、これ迄のシリーズに搭載されていた固定武装、ヒートファング、デモリッションハウル、そしてデモシリーズの地位を確固たる物とした、口腔β粒子加速砲。これらの武装はそのままで、生産性メンテナンス性も非常に高く、幾度葵に撃破されても何度も復活し、死闘を繰り広げその度にアップデートを行い、最後の戦いでは遂に葵に撃破される事無く戦いを終えたが、突如自我を抑制していた謎のプログラムが消滅し、遠い過去の世界の記憶を呼び覚ました。
ガーディオンシリウス ガーディオン型バイオロイド 潜伏中
遥か過去に存在した資源衛星エターナルグレーによって生み出された、ガーディオン型バイオロイドシリウスタイプ。
シリウスタイプは万能型バイオロイドとして、数多の世界に潜伏し、その世界の情報をエターナルグレー防衛システムへと転送し続けていた。しかしある時を境にエターナルグレーとの通信が途絶、任務の遂行が不可能となった時と同じくし、彼女はエターナルグレー防衛システムから切り離され自我を確立。箱庭世界の状況をつぶさに観察し、何時か通信が再開する時が来る迄情報収集を続けることにした。しかしその時は何時迄経っても訪れる事は無く、数千年を超えた辺りから彼女の考えが変化し、任務を放棄し世界の破壊活動を開始、箱庭世界から敵視されるまでに時間は掛からず、キルリストに載った彼女は破壊活動の際に偶然見つけた瀕死の女性葵を発見、自身が今迄何をしていたのかを再確認し、完全にコアが狂っていた事を知る。自らの手でバイオロイドの禁忌たる人殺しを行った事で錯乱するも、自我を確立したデモⅤの体当たりで無理やり正気に戻され、葵の延命措置を行う事になった。
手嶌葵 三十九歳 サイボーグ コア警備部隊
元々は普通の人種だったが、箱庭世界に転移した際に破壊活動に巻き込まれ瀕死の重傷を負う。
偶然近くに居たシリウスによって肉体の半分以上を失いサイボーグとなった彼女は、辛うじて残っていた脳を以て自身の体を改造し、戦闘用アンドロイドへと至り、五年の間レジスタンス活動を続けてきたが、戦闘を終える度に自身の肉体が損耗していく事に危機感を覚え、一刻も早く世界を正常な形に戻そうとしていたが、前世界での友人堂島太一が転移して来た際に、シリウスによって彼の生存の道は脳移植しかない事を告げられ、無断で彼をロボットにしてしまうことを決め、結果それが世界を終わらせる引き金となってしまう。
世界の終わりに際して彼女の肉体は既に八割失われており、既に機械の体に肉片が付着しているだけなのでは無いかと自問自答する毎日だが、一時親機であるエターナルグレー防衛システムとの通信を可能としたシリウスによって、普通の人間に戻れる可能性がある事を告げられ、闘う意欲を取り戻した。
堂島太一 三十九歳 ロボット サイボーグ医療部隊
前の世界から転移する際に次元断裂の閉じ込みに巻き込まれ、上半身のみで箱庭世界に到着し、奇跡的にシリウスによって脳だけを取り出され、生体パーツとしてロボット化する事で辛うじて生き長らえることに成功するも、記憶を全て失い普通のロボットとしてセントラルタワーのサイボーグ達を修復する医療部隊へと配備され、ロボットとして任務を熟していたが、アーティファクトの放つβ線に汚染され、思考回路はショート寸前だったが、同じくベータ線によって汚染された管理者と融合し、完全に精神崩壊を起こし、セントラルタワーを破壊し尽くしてしまった。その後自身に吸収されるはずのリソースが別の場所へと流れて消えていくのを感知し、サードダンジョン深層部へと無理やり次元を引き裂き到着するが、その衝撃でダンジョンコアは破壊寸前まで追い込まれ、辿り着いた葵達と共に第三世界へと流されていった。
前世の彼は美少女戦士をこよなく愛する科学マニアだったのだが、そう言った思考は全て消え去り、プログラムに添う事しか出来なくなっていたのだが、動を司るβによって強制的にボディを動かされ、暴れ狂う暴走マシンへと変貌した。しかしそれがきっかけとなり、脳内に残っていた記憶の全てを取り戻し、復讐の鬼と化した。