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第三世界トラブルツアー~世界すくってほしいんだけど?~  作者: もろよん
異世界ダンジョン編
100/110

EP96 始まりと終わりは零

明けましておめでとう御座います。今年もよろしくお願いします。


是非皆々様もご健康であります様に、今年も頑張りましょう!v

ーーーーーーーーーーside ????


ー足音一つ、足音二つ・・・・・・


 さらさらと液体の流れる様な音を聞きながら暗い何かに包まれたまま、外の様子を窺い知る。今迄感じた事の無い程の熱い想いがマナに乗って突き刺さる。


ー私を求めて、私に下さい、私を・・・・・・


 一際大きな音が外に鳴り響き、内部を盛大に振動させる。


ー時はキタレリ



ーーーーーーーーーー合同チーム


 零号機に近付くにつれて胞子の密度は濃くなり、胞子の海の中を泳いでいる様に周囲が白一色で覆われる。


 (声は届かないかな)


ーロペはん、振動は遮断されとるみたいやけど・・・・・・


 (リンクが生きているなら問題ないょ)


 眷属間でのナノマシンリンクが生きていると言う事は、零号機は未だ完全にパメラを取り込む事が出来ないで居ると言う事に繋がり、パメラが未だ生存していると言う事にも繋がる。そして超空間通信を傍受出来ず妨害も出来ないと言う事は、ナノマシンを止める事が出来ない存在で有ると推測が経つ。


 (行ける?)


ー勿論。ちょっとだけフィールドに気-使ってなー


 そう告げるとエクスは一人先頭に立ち潜る様に胞子を掻き分けながら零号機の前に立ち止まる。見上げてもその頂点が霞んで見えない程の巨大な樹だが、エクスの瞳には何も問題など映って居らず、その左手に強大なマナが収束しそのマナを身体に染み込ませる様にエクスは拳を握り、全身に蒼を通り越え黒く輝く炎が吹き出した。


 「燃えや!」


 位相空間から取り出したエクス秘蔵の一振り、何処かの異世界から流れ着き、数多の剣士の手を渡りその一振りはエクスの手に収まった。まるで自分の一部かの様に感じるその刀は眷属化する時にもエクスと共に在り、共に進化し、もはや本当に彼女の一部と言っても過言では無い。


 全身から吹き出した黒い炎はエクスの身体から抉る様に握る手を伝い、一振りの相棒ナノマシンブレード絆丸(きずなまる)へと吸い込まれていく。


 (有るべきは勝利、有るべきは死。全ての救いは死と共に)


 かつてのエクスを突き動かした衝動、死を求め死を与え死で救う。邪悪な幻想の元に一滴の愛が加わりその邪悪な幻想は、マナという触媒を以て新しい幻想へと昇華する。


 (全てを殺し全てを破壊し、生まれ変わる)


 刀に吸い込まれた炎は黄金の炎へと変わり、燦然と辺りを輝き照らす。軽く刀を振るうだけで黄金の炎は伝播し、周辺の胞子を一掃しそのまま炎は零号機へと着火する。


~~~~~~~~~~~!!!


 「こんだけ目の前で火ぃ()いとっても何ともゆわれへんポンコツが!」


 二・三度更に刀を振るい炎を纏った斬激を飛ばし、燃え盛る炎に包まれる零号機へと更に追い打ちを掛ける。斬激が当たる度に木片が飛び散りドスンドスンと巨大な欠片が大地へと降り注ぎ、切り口から更に出火し零号機は一分と経たず黄金の炎に包まれ、辺り一面へと白い煙を吐き出しながら炭へと代わっていく。


 「覚悟しいや!真っ二つにしたるさかいなぁ!」


 エクスは一度刀を鞘に戻し、その場に身体を据えると軸足が大地に少しめり込み、踏み込んだ脚は大地を割り、渾身の一刀は零号機を抵抗すらさせず切り倒した。支えを失った樹はその勢いを受けたまま後ろへと倒れるのだが、あまりにも巨大すぎる樹は世界の端っこに突き刺さり、斜めになってその場に落ち着いた。


 「・・・・・・良いなぁアレ・・・・・・」


 ロペはマスクに指を突き羨ましそうに左手に輝く紋章へと視線を注ぎ、ふと何かを忘れている事に気が付いた。


 (はて・・・・・・あ)


 「「ぱめらぁー!!」」


 エストとアーニーの叫びと共に倒れた零号機へと駆け寄るキャッシュマン姉妹達。その様子に首を傾げる他のチームのメンバー達だったが、リンクから情報を拾い慌てて零号機の近くへと駆け寄っていく。


 倒れた零号機の内側は黒く変色しているが、中心の一部分だけ燃える前と代わらず白くみずみずしい場所が有った。アメリアがその場所に耳を近づけコンコンとノックしてみるが特に何が有る訳でもない様で、単に火が届いていなかっただけかとそう思い倒れた木へと視線を移したその時、大地を引き裂き零号機の根が地上へと姿を現した。


 「まだ生きとったか!」


 「やはり根っこを潰さないと駄目ですね。植物とはやはりそう言う物ですか」


 ヒューニは直ぐさま自分のライフルを取り出し、大蛇の様に這い回る零号機の根っこへと発砲するが、効果が有った様には見えず、ヒューニの頬を何かが掠め零号機の綺麗な切り口に突き刺さった。


 「弾かれた!?」


 「そんなバカな、亜光速弾を?」


 戦艦の装甲を貫通する程の威力が有るミスリル弾を木の根っこに撃ち込んだのに、弾かれるとはコレ如何に?とヒューニが混乱している間に、藻掻く様にうねる根っこはその下で眷属達と戦っているメテオスライムを弾き飛ばし、先程銃を向けたヒューニへと超高速で撃ち出した。


 「へ?」


 一瞬思考の海に沈んだヒューニは反応が遅れ、尋常では無い重さになったメテオスライムの弾頭 に弾き飛ばされて遙か彼方へと吹き飛んでいった。


 「ヒューニっ!」


 ダメージはほぼ無いに等しい様だが、十トンも有るBM(バトルマリエ)を弾き飛ばす威力は流石に眷属達も驚いた様で、腐っても管理者だと改めて認識するに至った。


 「皆!スライムは放置!倒れたユグドラシルを分解するんだ!!エクス嬢ヒューニ嬢は俺に任せろ!あの根っこを何とかしてくれ!」


 広大な面積を誇る零号機の切り株を駆け抜けていくチーム新庄は周りの眷属達を引き連れ、倒れた木の胴を分解に向かう。しかしそれを阻む様に周囲を蹂躙していた木の根が這う様に現れ、事態は乱戦へと移っていく。


 「エクちゃん根っこを任せても?」


 「せやな、ウチ以外に切れるか分からんしな」


 チームロペは他のチームと分かれ、先程確認した火の届いていなかった零号機の中心部分へと向かう。


ーーーーーーーーーーチームロペ


 「やはり此処だけおかしいね。幾ら何でもあの炎に捲かれて無傷なはずは無いよ」


 エストは自身の武器を抜き、白く傷一つ無い零号機の中心部分を突き刺そうと剣を振りかぶるがその手に待ったを掛ける様に、切り株の表面が蠢きその内側から何かがせり出してくる。それは木で出来たマネキンの様で正に人形と呼ぶに相応しい外見をしているが、そのフォルムが何かを彷彿させる。


 「これは嫌がらせのつもりなのでしょうか?」


 「私こう言うの嫌いだなー」


 キャンディとアメリアはそのフォルムを見て直ぐに、それがパメラの外見を模して作られた物で在ると見抜き、這い出してくる側からそれを叩き潰し、切り刻んでいく。それを見て良しと思ったエストは、そのまま振り上げた剣を一気に根元まで突き刺してマスクの下で青ざめた。


 「ごめん、パメラ刺しちゃったかも」


 「「「「「アホか!」」」」」


ーいや、それで良い


 リンクから伝わってくる雨宮の力はエストの身体を伝い、その手から剣へそして剣からその先のパメラへと伝わり、パメラはメインブリッジで目を覚ました。


 「いやー焦ったなー。有り難う銀河」


ー問題は無い。パメラは少し解析に回すそっちは任せるよ


 ポリポリと勢いに任せて剣を振るった自分を恥じたエストは、ごめんねとリンクでパメラに詫び、周りの人形が湧き出すのが止まらない事に疑問を呈する。


 「パメラは救出した。なのに未だ人形が・・・・・・」


 「そりゃこの程度で死ぬ様な管理者じゃ無いでしょ。おっ?漸く分解が始まったみたいだねぇ」


 ナノマシンを通じて送られてくるエネルギーの量が、突如跳ね上がり周りに居る眷属達へと次々にリミッター解除の許可が下りる。エクスの抑えられていた力も解放され、次々と零号機の根っこが切り散らされ分解されていく。そして吹き飛ばされた腹いせか、アダマンタイトの弾丸を使ったヒューニがズダンズダンと木の根を弾丸で吹き飛ばしていく。


 力を抑えられていた事で圧されていた眷属達だったが、次々とリンクの完全再開を示す通知が雨宮に届き、木の根っこVS銀河旅団の闘いは気の毒な程分解され、根っこの無い切り株になった零号機とそれを取り囲む銀河旅団という何とも不思議な構図へと切り替わっていた。


ーーーーーーーーーーチームミンティリア


 (ユグドラシルか・・・・・・懐かしいな)


 ミンティリアのかつて居た世界はユグドラシル四号機によって世界が支えられていたが、何故かそのユグドラシルが腐り死んでしまった為消滅した。その世界では幼い頃から四号機の側で暮らし、その袂で語らい、人生の多くを四号機と共に暮らした。


 (私は外部管理者には成れなかったけど、それでも最後まで私達を守ってくれた事は感謝してるのよ)


 零号機とは全く違う存在と言って良い四号機で有ったが、彼女がそれに気づき管理者へと理解を深めるのは未だ少し先の話。


 「何というか、神々しさを全く感じない世界樹・・・・・・だな」


 「もうバラバラだしなぁ」


 「そう言う意味では無い、何というか・・・・・・こう・・・・・・あふれ出るアレ?的な物がだなぁ」


 「アレ!?」


 天使の二人は何かを話しているが会話のキャッチボールが大暴投し、会話として成立していない。


 「ん?」


 「ん?ミンさんなんか有った?」


 (ミンさんて)


 「ああ、あの樹未だ動いてるなーって」


 「確かに・・・・・・?」


ーーーーーーーーーー


 ユグドラシルゼロ ??歳 世界獣 


HP 845411/99999999


MP - /-


状態 妊娠


先天スキル


 マナアドミストレータープログラム(仮)ver0.1


 世界獣コントローラープログラム(仮)ver0.1


 ワールドプログラミングシステムver2.8


後天スキル


 念話


 魔法生物召喚Lv3


 洗脳Lv (M)


 遠隔操作 (M)


 暴れる


 生存本能


 大いなる実り


ーーーーーーーーーー


 「えぇ!?」


 「何々?はぁ?嘘でしょ?」


 ミンティリアとアイオネア、二人はナノマシンでそれをスキャンし、情報を共有する。その姿はパメラその物で有り姿格好はBMを模した物で有った。それはミンティリア達に気が付き、ゆっくりと近付いてくる。


 「ちょ!こっち来る!」


 「ヘラ!逃げなさい!」


 「はわわわ」


ーーまって


 「うわぁ!なんか頭に響くぅ!」


ーー止まって


 「何で私なの!?」


 ミンティリア達をスルーし肩越しに巨人娘ヘラを引き留める何か、理由も理屈も分からないがヘラは腰を抜かし、カメラを構え手それをフレームに収め続ける事しか出来ない。


 「って止まりなさいよバカ」


 二人を無視してヘラへと近付こうとした何かは、ミンティリアの拳で吹き飛び、切り株へと突き刺さる。


 「妊娠してるからって手加減するなんて事無いのよ」


 「パねぇ」


 流石にそれはどうかと思うとアイオネアは少し苦い顔をするが、相手は先程大苦戦を強いられたメテオスライムと同じ存在世界獣。但し人型ではあるが・・・・・・。


ーーやめて


 「うっさいわね!何なのよアンタ!もっと音量下げなさいよ!」


ーーぁゃめて


 「殺めて?」


ーーちがぅ


 「もぅ何なのよ!?何が言いたいのよ!」


ーー外に出たい


 「だから声がデカいっての!」


 ハウリングしない高性能なマイクとスピーカーで全開の大音量を出した密閉空間に居るかの様な衝撃が脳に直接響き、言葉として認識する事が難しいのか、ミンティリアは苛つきヘラは腰を抜かし、ロウフェルは空中へと逃げたが脳へと直接響く言葉には逆らえず落下し、シャムエルは頭の周りにマジックシールドを展開し、腕を組んでじっくりと何が言いたいのか観察をし咀嚼する。アイオネアは歯を食いしばって大音量を堪えているが、シャムエルを見てまねをしこれは便利だとミンティリアの後ろからヘルメット型マジックシールドをかぽっと被せ、落ち着けと背中を叩く。


 「はぁ~頭ガンガンするんだけど」


ーーごめんなさい、身体になれなくて、巧く使えません


 「・・・・・・それが目的だった訳ね」


 ミンティリアは何とか切り株から這い出してきた世界獣を見て、肉体を手に入れる事が目的だったのかと問い質したが、どうやら違うらしくどういう風に伝えたら伝わるだろうかと必死に頭を回転させ、言葉をひねり出そうとしている。しかし中々その言葉は出て来ず、ミンティリア達の様子がおかしい事に気が付いたロペ達が集まってくる。


 「ロペさん、コイツなんだけど・・・・・・」


 「世界獣が何で此処に・・・・・・」


ーー何処かの管理者、私と融合して


 「ええ?私は今厳密には管理者じゃ無いし、融合権限何てもう銀河きゅんに渡しちゃったよ」


ーー如何したら・・・・・・


 「てか何がしたいのよアンタ」


 のっそりと動きにくそうに身体を動かし、ミンティリアに近付いた世界獣だったが、ミンティリアはそのBMッぽい何かのマスクをはずす為両手でマスクを掴み、万歳する形で脱がせようとしたのだが・・・・・・。


ーーいたたたたたたたたたた!


 「ぅわ!」


 先程の倍ぐらいの音量で痛がる世界獣。その念話の大きさはマジックシールドを吹き飛ばし、ミンティリアの意識も吹き飛ばした。しかし側に居たシャムシェルによって回復され直ぐに立ち上がったミンティリアは、もう一度そのマスクに手をかけ、コンコンとノックをしてみるとその理由も判明した。


 「アンタこれ木で出来てるし・・・・・・しかも半分肉の身体って何なのこれ、痛いに決まってるけど・・・・・・やっぱうっさいわアンタ」


ーーユグドラシルの世界獣は木で出来ている


 「まぁそうでしょうよって、だからアンタは何なのよ?世界獣なの?」


ーーえーっと・・・・・・えっと・・・・・・


 「ウザーい!ハッキリ!・・・・・・」


 ミンティリアが地団駄を踏みどうした物かと助けを求めると、ロペがスッと横から入り、世界獣を分解した。


 「これでいいょもう」


 「うぅ・・・・・・あんなにどんくさい世界獣が居るとは思わなくて・・・・・・」


 「いや・・・・・・アレ?ミンちゃん気付かなかった?」


 「えっ?」


 「アレ世界獣ってスキャンで出たけど、零号機本体だょ」


 「うそぉ・・・・・・?あーでもユグドラシルゼロって・・・・・・そういうことかぁ~」


 漸く理解したミンティリアは肩を落とし、悪い事したかな?と分解された零号機を思うが、先程まで散々迷惑を掛けられたのはこっちだと思い直し、あれぐらい当然だと少し憤る。


 「さっ、皆帰ろっかコアは結局分解しちゃったし、くーずれーるぞー」


 「「「「「「「「「先に言えよ!」」」」」」」」」」


 零号機はやはりダンジョンのコアを融合しており、ダンジョンその物となっていた。それを分解した物だからそのダンジョンは消えて当然である。突入したクルー達は慌てて身を翻し、揺れる世界を尻目に長い階段をダッシュで駆け上がり、広い一層を走り抜けて統括監督署の地下一階へと戻ってきた。


ーーーーーーーーーー


フェアリー集落


 「ハッ!?動ける!」


 轟音響き渡るダンジョンの中で、自我を取り戻した二人が周囲の異常に気が付き慌てて違和感のある身体を動かして前へ前へと歩み続ける。


 「コリジョ、しっかりなさい。走るのよ」


 「うっ・・・・・・肉体が作り替えられていて、動きが・・・・・・」


 零号機の調整と可能であれば破壊を目的として派遣された二人は、予想を遙かに上回る成長を遂げていた零号機によってコントロールを上書きされ委員会の手を離れたが、元々彼女達に自我は無く、只操られコントロールされるだけの存在だった。しかし上書きされたコントロールは彼女達の精神に隙間を生み、個という認識を手に入れるに至るには充分すぎる瞬間であった。同じ任務を与えられ共に行動してきた二人だったが、それぞれがそれぞれを個として認識し、単一存在ではないことそして命令が無いと言うこと、思考すると言うことが彼女達の精神を急速に成長させ零号機に完全に支配されることを拒む選択を選び、自らの解放の可能性をエクスに託す事を選ぶことが出来た。


 しかし彼女達は意図せず改良を加えられた肉体に違和感を拭い去れず、揺れる世界の中走ることも儘ならず危機的な状況に陥っていた。


 「イリ・先に行きなさい。この身体ではどの道足手纏いになる」


 「生憎だけれども、私も真面に動けないから・・・・・・」


 「身体の何かが欠損している、それが認識出来ない」


 「委員会にも出来ない事が有るのね。救助にも来ないなんて」


 「使い捨ての駒に救助なんか・・・・・・」


 辛うじて二人で肩を貸し合いゆっくりと集落の入り口へと這う様に移動していたが、目の前に広がる無限とも思える程深い森を前に、可能性と呼べる物が遠ざかっていくのを感じる二人。しかしその視界の中、一本の大木の裏から二人の男女が現れる。


 「ふむ、この者達で間違いない様だな」


 「超急ぎましょ。もう時間の問題だし」


 「貴方達は・」


 何者か、そう問いかける間も無く二人は分解され、雨宮の(・・・)サーバーへと送られていった。


 「最初の因子超ゲットね」


 「此方も急がねばな」


 二人の忍びは任務の完遂を目指し雨宮の元へと戻る。


 コアを失ったダンジョン、柱を失った世界が又一つ。三千世界から姿を消した。


ーーーーーーーーーー


エターナルグレー統括監督署


 「あー・・・・・・どないしょか」


 「どないしょかてロペはん・・・・・・」


 事業者が未だ入って来て居らず、経済活動が殆ど行われていないエターナルグレーにおいて、ダンジョンは唯一と言って良い経済活動の場所だった。しかしそれが無くなってしまった事で冒険者ギルドが入る意味が無くなり、完全に経済活動がストップしてしまう事が目に見えている。


 頭を抱えたロペだったが、管理者その物を完全に分解しダンジョンその物も結果的に分解した事でエネルギー問題は完全に解決し、雨宮は次に何をしようかその手札を選んでいた。


ーソコに新しいダンジョン造ろうか。零号機とコアを手に入れたからコアをコピーできるようになったぜ?


 「マジで?」


ーあぁ、解析待ちだがコピーじゃ無くてオリジナルのダンジョンを造るのもその内出来るかもなー


 ルンルン気分で答えを出した雨宮は、何も無くなり只の穴と化した統括監督署の地下への階段の先を見て頭を抱えていたロペの手元へと銀色の金属の様な物を転送し、その感触に気付いたロペは物を見て慌てて階段の下へとそれを放り投げた。


 「今の何!?」


ーダンジョンコア


 「あんなちっさいの?」


ー圧縮されてっからなー。前の規模と同じぐらいのダンジョンにはなるはずだから、要経過観察かな?


 「そっか・・・・・・そっか・・・・・・アレがダンジョンコア・・・・・・?」


 「旦那様?ダンジョンコアって持ち運べますのん?」


ーアレはナノマシンでコーティングしてあるから。もう展開し始めてるだろ?


 眷属達が階段の下を覗き込むと、禍々しい何かが弾け、新しい異空間を造り出し奥へ奥へと進んでいく。ゴゴゴゴと何かを削り取る様な音は暫く鳴り止まず、皆が思い思いに休憩し、そろそろ船に帰ろうかと腰を上げた数分後、音が止み一人の眷属がそっと中を覗き込む。


 「えっ?又違うダンジョンになってる」


 「これマッピングやり直しじゃね?」


 折角マッピングしたのに・・・・・・とぶー垂れているその横で、アンジーがとことこと階段を下りちょっと見てきますねと中へと入っていく。それに続きアミィやゼルミィ等多くの眷属達も新しい物見たさにゾロゾロと中へと入っていく。


ーーーーーーーーーー


新・異世界ダンジョン


 「おー!明るい!」


 「これが銀河様の力ねっ」


 キャッキャと騒ぎ入り口付近をサクッと調査した眷属達は、新しいダンジョンが又違う異世界と繋がっている事に苦虫をかみつぶした様な顔で雨宮へと報告を送っている。


ーえー?又?


 「ハイ・・・・・・ダンジョンは全天候型と思われます。地平線の彼方まで一層が広がっておりまして、疑似太陽と思われる物も作り出されていて、十数キロ程先から異世界とがっちり繋がっています」


 スキルを使い繋がった先の居世界を覗く眷属は、高層ビルの建ち並ぶ町並みを発見し、その世界から戦車や武装車両など、旧世紀の遺物を思わせる四輪駆動車やヘリコプターや音速戦闘機等、第三世界では博物館にも無い様な化石が動きダンジョンに現れたモンスターと闘い、一進一退の攻防戦を繰り広げていた。


 「銀河様、向こうの世界、押されています。弱いです。文明が古いです」


 如何しましょうか?助けに行きましょうか?と焦りながら返事を待つ眷属テニー・マドマックスは、エルフの長い耳をピコピコさせ改造手術を受けた両目を凝らし、蛙の吐き出した溶解液に撃墜される音速機やゴブリンのパンチにひっくり返される戦車、ぷぷりんと思われる巨大なスライム型モンスターに呑み込まれる自動小銃を持った兵士、鳥形の鋭利なくちばしを持ったモンスターに串刺しにされる戦闘車両をその目に焼き付け、サーバーへと情報を送っていく。


ーアレは全滅するなぁ。でも助けても良い事無さそうなんだよなぁ


 「文明水準が凄く低そうですもんね」


ーなんかアーティファクトの一つでも有ればなぁ


 雨宮が助ける理由でも何か無い物かと考えていると、小柄なテニーの後ろから高身重な雪之丞が覆い被さる様に抱きつき、報告に割り込んできた。


 「し・銀河・さん?世界に一つはアーティファクト、有りますよ?」


ーお?それ朗報じゃん、おし。行って良し。


 「了解であります!」


 「私も参りますね」


 テニーは雪之丞に両肩を引っ掴まれ、運ばれる様に空へと飛び立っていった。それに続く様に救助する部隊が数チーム世界の境目へと飛び立ち、あっと言う間に現場へと辿り着いた。


樹木型管理者


 現状樹木型としてカテゴライズされている管理者システムは四種類あり、それぞれユグドラシル・マーテル・ディプレス・プリスリータと呼称されそれぞれ同じ役割を与えられているが少しずつ仕様が異なる。


 ユグドラシルシリーズはマナの完全管理を目的として造り上げられたプログラムではあるのだが、マナ自体の解析が殆ど進んで居らず、管理は疎か分析すら真面に出来ないのが現状である。しかし研究は続いており、零号機の他壱号機・参号機・八号機の三基が既に魔導文明世界へと浸透し、その魔導文明の開化を後押ししている・・・・・・が、現状はマナを循環する際に余計な物を濾しとるフィルターぐらいの役割しか果たせず、コレといって世界にプラスは無いのだがマイナスも無く、徐々に悪い物をその本体に溜め込みおかしくなっているとの報告が上がっている。

 ユグドラシルは全部で七十二基が製造されており、多くの世界への浸透が期待されているが、現状真面に機能しているのは委員会の手を離れた弐号機・五号機・六号機の三基だけで有り、其れ等は別の存在によって略取改造され元のユグドラシルとは比較にならない程の高性能化を果たし、その成長が期待されているらしい。尚四号機は雨宮が所持しているが、ダンジョンアタック時点では認識していない。


 マーテルシリーズはマナの高速増殖を目的として作られているのだが、これも又マナ自体の解析が進んでいない為、零号機がロールアウトしとある世界に根を張っているのだが、若干のマナを循環させるだけの普通の巨大な木として存在するに止まっている。只高速増殖の研究の方が僅かながら進んでいる為マーテルの根を下ろした惑星は僅かながら大気中の酸素が多く炎の勢いが強い。そのせいでマーテル自身は偶々巡礼にやって来る旅人の熾したたき火の火から飛んだ火の粉で出火し、二度程焼け落ちる寸前まで燃え上がった事が有る。


 ディプレスシリーズは人工的なマナの生産を目的として造り上げられたのだが、そもそもマナ自体がどうやって生み出されているのか判明していない為に、適当に作られプロトタイプがとある世界に根を下ろしているが、やはり只の巨大な木として観光名所になっている。現状僅かなマナの循環を行う事しか出来ず、七体の守護者は木を燃やしにくる狂者からディプレスを守るぐらいしかやる事が無い。


 プリスリータシリーズは樹木型管理システムの中でも一番研究の進んでいる、燃えない樹木管理者を造ると言うコンセプトの元、樹木系管理者本体の強化を目的として造られた。

 硬質化・本体内部の循環効率強化等強力な個体を造り出す為に様々なマイナーチェンジを行い、最も多くの個体を輩出しデータを集めていたのだが、ユグドラシル零号機を破棄する際に無数の試験個体が一緒に間違って破棄されてしまい、ユグドラシル零号機に取り込まれその個体を強化し、零号機を固める壁として周りに無数に配置されていた。

 とある世界に配置されたプリスリータ三号機は、その異常なまでの堅さをどうにかして切ろうとした人間の科学者の手によって切り倒され、超高級家具として無数の金持ち達の購買意欲を満たした。

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