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この空さえ嘘だとしても  作者: 成浅 シナ
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十五章

気が付くと誰もいない暗い路地に一人で突っ立ていた。

空はすごく暗い。まるで私の心の中をそのまま空に移したかのように。

脳裏には先ほどのカナトの言葉が鮮明に記憶され離れない。


「何かお悩みですかな?」

「……っ!!」

急に目の前から声が聞こえ、慌てて顔を前に向ける。

「あなたは…」

そこには昨日出会った神父が立っていた。

「おや、昨日ご一緒にいた御方はどうされたんですか?」

「あの人は……」

再び今朝のカナトの顔が浮かんだ。


「そんなお顔をなさらないでください。私で良ければお話を聞きますよ。」

「いえ…大丈夫です。」

これが夢ならいいのに……

「ほう…」

神父が興味深そうに声を上げる。

しまった。今の声に出してたかも…


「いや、今のは違くて…」

どう説明しようかと考えを巡らせていると神父が一歩後ろに下がる。その顔は陰になって窺えない。

「神父さん…?」

そう呼びかけた瞬間視界が霞んだ。

そして脳天が揺れるような感覚が襲い、壁に手をつきふらつく体を支える。

何とか体制を立て直し、まだふらつく体を支えながら神父の方に顔を向ける。

すると神父の姿が一瞬霞み消え、次に瞬きをした瞬間別の人影に変わった。

全身はローブに包まれ、顔全体が見えないどころか男か女か推測することも出来ない。

体はまだ自由が利かない。

逃げなきゃ…

この人はヤバい…

瞬間的にそう感じ、後ずさる。

「おやおや、どこに行くのですか?」

「…ッ!!」

声の高さからそのローブは男であると分かる。

「まあまあ、そう警戒しないでくださいよ。傷つくなぁ。…ああ、まだ自己紹介をしていませんでしたね。」

そういい、男は頭を垂れる。

「私は『ザントマン』。個人名はありません。短い間ではありますがどうぞお見知りおきを。」

「『ザントマン』…ってまさか…」


『ザントマン』。

昔話でよく聞いた名前だ。

睡眠魔法を使い、人々を夢の世界に引きずり込む老人の姿をした妖精……のはずなのだが、目の前の男の声は若々しい。


「ようこそ、私の世界へ!」

「…どういうこと?」

「ここは夢の中の世界…つまりキミが昨日まで過ごしていた街とは別の世界だ。キミがいた空間を切り取ってこの世界に移動させた。」

「何で…何でわざわざそんなことを…」

つまりこの『ザントマン』は自分の創った夢の中の世界に私だけを連れ込んだってことか。

でもわざわざそんなことをする理由が分からない。どうして私だけを…

「キミの言わんとしていることは分かるよ。キミも気付いていることだろうが神クラリスが創ったこの世界のすべては嘘で出来ている。この場所もそうだ。私は神クラリスにこの場所の管理者を一任されている。つまりここは私の世界だ。全て嘘で塗り固められた怠惰で傲慢で本物のない世界。だがこの世界の人間は私が作ったプログラムによって自我を持っている。しかしそれさえも私の退屈しのぎにはならない。そこで私の作った世界に突如入り込んだのがキミ達さ。私のプログラムで動かせない存在。だからわざわざキミ専用の世界を新たに創ったんだ。キミの心が壊れ、絶望に暮れるキミを見て…」

そこで『ザントマン』は舌なめずりをし、ニヤリと嗤う。

「遊ぶために。」

「…っ!」

その言葉に身をすくませる。

逃げれないのなら、戦わなければ。倒せば元の場所に戻れる。カナトも元に戻るはずなのだ。

「ほう…まあ、抵抗してくれなきゃね…。ほう、ほう!ほう!!面白くなってきたーー!!じゃあ、せいぜい楽しませてくださいよっと!」

そう言い男は後ろに大きく飛びながら手を前に出し、振るう。

すると先ほどまで男がいた場所に巨大な砂の竜巻が起こった。

「…っ!!」

巻き込まれる前にその竜巻から距離を取る。

「さあ、我が命により顕現せよ!火竜!!」

男が叫ぶと同時に砂の竜巻が飛散する。思わず目を閉じる。そして目を再び目を開けると、空の上に現れた大きな影が視界を覆いつくした。

「なっ…!あ、あれって…!!」


空の上には大きな翼を羽ばたかせ炎をまとった火竜が轟くような雄たけびを上げた。。



熱い…

目を開けたとき初めに感じたのはそういう感想だった。

自分は今炎の中心にいるようだ。

いつの間に倒れたのだろう…


記憶が曖昧だ。

体を起こそうと力を入れる。だが腕に力を入れても体が少しだけ上がるだけで思ったように動かない。

倒れたままでどうしてこうなったのか必死で記憶を探る。

その時遠くで魔物の雄たけびが聞こえた。

その瞬間全てを思い出す。

「……っ!」

急いで逃げなきゃ…

あの強さは尋常じゃない!

「おや、思ったより早いお目覚めでしたね。でも正直がっかりですよ。まさかこの程度だったとは。もう飽きてきましたしそろそろ終わりにしましょうか。火竜。」

男がそう呼びかけると、空を飛んでいた火竜が瞬時に降り立った。私の目の前に。

「グラアッ!!」

火竜が吠える。

「…ぐっ!!」

体さえ動けばまだ対処のしようがあったかもしれないのに…

ハハッと自嘲気味に乾いた笑みを浮かべる。

久しぶりに感じる死の感覚。

こうしている間にも死神はすぐ傍まで近づいている。

その瞬間諦めの気持ちが心を覆いつくす。

ゴメン…カナト…結局君の隣には立てそうにないや……


その時ちらりと何か小さいものが視界の端を霞めた。

じっとよく見るとそれは水色の小さいトカゲであると分かった。

何でトカゲがここに…?しかも水色のトカゲなんて…


そのトカゲは私の手に近づき触れる。

その瞬間ねちょっとした不快感と共に自身の体が淡く輝きだした。

これって回復魔法…!?

みるみる体から痺れが抜ける。

光が消えると同時にゆっくりと体を起こす。

そしてそのトカゲをじっと見る。トカゲはビクッと身をすくませてじっと私を見つめる。

「これって…」

ある予感がした。

そこでトカゲの頭を指でつつく。

するとトカゲはビクッと体を震わせた後淡く光った。

そしてその光はだんだんと大きくなり、次の瞬間光の壁から一つの人影が姿を現した。

透き通るような水色の髪と瞳。自信がなさそうに下がった眉。腰に差した短剣。

つい最近うっかり出会ったストーカー……

「シル師匠!?…えっと…大丈夫ですか?」

気まずそうに顔を背けストーカー―――『ウンディーネ』のシグル・エスティ―カは頬を掻いた。

「あんた…何でここに…っていうかいつから……」

自分でも驚くぐらいひどく落ち着いた声だ。

「はっ、はいぃ!!シル師匠の家からです!でもフィールドの途中で見失っちゃって!見つけたのは今朝なんですぅ!!」

シグルは謝罪の最終奥義・土下座を披露する。

確かにいつもの私なら無視か、張り倒すか、剣を構えるかをするところなのだが、今だけはこいつの姿が救世主のように見えてしまう。

「ねえ…」

「はいぃ!ナンデショウ!」

シグルは土下座のまま情けない声を上げる。

意を決して口を開く。


「手を貸して。」

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