十四章
『ミズガルズ』中央都市『雪消月』。
その中にある宿『ささめ雪』の一室にあるベットの上に仰向けに倒れこむ。
天井には何やら小さくて丸いものが光っていた。
宿はあまり混んでいなかったのでカナトは一つ隣の客間にいる。
「はあ…」
今日はすごい冒険をしたなぁ…
たった二人だけであんなに難易度の高いフィールドを攻略出来るなんて…
それにあんな数の敵を一撃で蹴散らすあのカナトの強さ。
私なんて足元にも及ばない。こんなんじゃカナトの隣に立つ権利なんてない。
カナトと出会うまでは心のどこかで剣に関しては私が一番だと自惚れていた。
でもそんなことは決してなかった。私が知らないだけでこの世界には剣に長けている人なんて沢山いるのだろう。
「こんなんじゃ…ダメだ…」
ベットから体を起こし下着姿からいつもの服に着替える。
そして壁に立てかけていた剣を持って外に出た。暖かな風が頬を撫でる。
少し歩くと昼間にここに住む人たちが体を動かしたり談笑していた広い広場が見えてきた。
夜中だからかあんなに賑わっていたその空間は閑散としている。
その空間の中心に立ち剣を抜いた。
そして腰を落として剣を構えた。
「セアッ!」
掛け声とともに何もない空間を剣で薙ぎ払う。
空気が震えヒュンッという音が鼓膜を叩いた。
「はあっ!」
間を空けずそのまま態勢を立て直し剣を振るう。
そのまま休む暇もなく剣を振るい続ける。
カナトの隣に立ちたい。
カナトに必要とされたい。
守られるんじゃなくて守ってあげられるような強さが欲しい。
その思いだけを胸に抱いて。
※
どのくらいの時間剣を振り続けていたのだろう。
空にはいつの間にか太陽が昇り始めていた。
「はっ……」
無理やり空気を吐き出し、息を整える。心臓は激しく鼓動し、全身が汗だくになっていた。
腕で汗をグッと拭い剣を背中の鞘に戻す。
徹夜で剣を振るっていた割には目が冴えている。
しかし両目をぎゅっと瞑るとこめかみの奥が鈍く疼いた。
ゆっくりと目を開けて空を仰ぎ見る。
カナトはまだ寝ているだろうか。
頭の中にカナトの顔が浮かぶ。
それと同時に昨日のカナトの姿が頭の中にちらついた。
自分の弱さを改めて感じ奥歯を強く嚙みしめる。
そしてブンブンと頭を強く振り邪念を払う。
ここで弱気になってどうする!
カナトは私のためにここまでついてきてくれた。諦めてたまるもんか!
「帰ろう……」
今日こそは上に行くための方法を見つけなくては、そう心に決め次の一歩を踏み出した。
※
宿に戻り部屋に備え付けられているシャワールームで汗を流した後剣の整備と服の洗濯が終わると時刻はもう午前八時を回っていた。
乾いたばかりの服を着なおしカナトの部屋に向かう。
軽く深呼吸をしドアを二回ノックする。
「カナト?起きてる?」
少し待つが返事はなかった。
「ん…?カナトー?」
何度ノックしても返事はない。
もうどこかに出たんだろうか…
ドアノブを回す。するとドアは抵抗することなくあっさりと開いた。
「ドア空いてる?…仕方ないよね、これはあくまで確認…だから…」
そう自分に言い聞かせ、失礼しまーすと心の中で言いゆっくりと中に入る。
カナトはあっさりと見つかった。
部屋の隅に置かれたベットの上で静かに寝息を立てている。
傍に近づきその顔を覗く。
相変わらずあどけない寝顔だ。思わず引き込まれる。一分くらいじっとその顔を見つめてからようやく自分が何のためにここに来たのかを思い出した。
声を掛けても起きないのでカナトの体を揺する。
「カナトー!朝だよ、起きて!」
「うーん……」
睡魔と闘っているのかカナトは呻き声を上げた。しかし結局睡魔に負けたのか再び寝息を立て始めた。
「もう!起きてってばぁ!」
耳元で大声で呼びかける。
するとカナトはようやく瞼を開いた。
「ん…」
「あー!ようやく起きた!」
「ん…?」
カナトは体を起こし辺りを見回した後私の顔をじっと見る。そしてきょとんと首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや、どうしたというか…」
口をもごもごと動かした後カナトは私の顔をじっと見て、その言葉を言い放った。
「あなたは誰ですか…?」




