十三章
神クラリスによって創られたというこの塔はクラリスによって『試練の塔』と命名されている。
はずなのだが……
「これのどこが試練よ!」
魔物なんて影も形も見えない。
塔の中より外のほうが難易度が高いなんて…
「あれって…」
カナトが指さした方に視線を向ける。
そこには談笑している一組のカップルがいた。
「…っ!ちょっとカナト!いくらカナトと縁遠いもので物珍しくても指を指すのは失礼だよ!」
「お前の方が失礼だっ!!そうじゃなくてよく見ろって。」
「よく見ろって言われても…」
よくお似合いのカップルだ。二人とも楽しそうに話している。
「ん…?」すると何やら違和感を覚えた。
私たち妖精の特徴は大きく二つ。羽ととんがり耳だ。
羽は飛ぶときに自然に顕現する。だからただ談笑しているだけの二人の羽は確認できない。
二人の容姿を改めてじっと見る。
だけどもう一つの方は……
「あの二人の耳…形が違う。それに髪と瞳の色も黒と茶色だし…スプリガンとノーム?いや、でもなんか違うような…」
よく周りを見るとその特徴を持つのは彼らだけではない。
「何の種族だろ…」
思いつく種族の特徴に当てはめていくが彼らはそのどの種族にも当てはまらない。
「『ヒューマン』だろ。」
そこでカナトがあまり聞き覚えのない単語を言う。
あれ…本当に聞き覚えはないか…?
昔…どこかで聞いたような…
記憶を必死に探る。
「あ…」
思い出した。
まだ母親と住んでいたころに読んだ絵本にそんな種族が出てきた気がする。
『ヒューマン』。人族。戦闘力はないが優れた知恵を持つ種族。
そうか。じゃあ、この場所は…
「ヒューマンの国『ミズガルズ』……」
「ああ、ほぼ間違いなくそうだろう。まさかただの想像上の種族だと思っていた『ヒューマン』が実在するなんてな……」
「でもなんで…」
「神様なんだからそんなものを創るのは楽勝ってことだろ。」
「ああ、まあ、そうか。じゃあ、とりあえず散策しよう。『レグルス』みたいに中央にフィールドがあるのかもしれないし。上の層に行くための手がかりも掴めるかも。」
「わかった、警戒はしとけよ。相手は神様だ。何かトラップがあるかもしれない。」
「ん…了解。」
※
しばらく歩いてもフィールドらしきものも魔物も見当たらなかった。
「もう!どうなってるのよ!」
いくら歩いても上の層に行くための階段も扉らしきものも見当たらない。
一体どうなっているのだろうか。
「絶対上に行くための方法はあるさ。こんな場所を造った神が嘘を言っているとは思えない。ひとまず街に戻ろうぜ。」
フードをかぶり直しながらカナトは振り返った。
それを合図に私は一応耳を隠すために街の店で買った『パーカー』という名の帽子付きの服を着て、フードを被った。
街に戻り先ほどは行かなかった細い路地裏を通る。
「それにしても手がかりなんて本当にあるのかな…」
「…………」
「カナト?」
カナトはまっすぐ前を見て立ち止まる。
「……あれ。」
そして目の前を指さした。そこには建物の陰によって光が遮られた暗い空間が続いていた。
「何かあるの?」
「ほら、あそこ。教会みたいなところがある。」
「んー?」
じっと目を凝らす。だが、やはり暗い空間の先には何も見えない。
カナトには何が見えてるのだろう。
あー……、そういえばカナトはスプリガンだった。暗視能力が備わっているのは当たり前か…
「教会ね…行ってみる?何かヒントを掴めるかもしれないし……」
「そうだな。行くか。」
暗い空間を進む。しばらく進むと明るい光が見えた。眩しくて目を細める。
そしてその先に進むと開けた空間に出た。すぐ目の前にはカナトの言った通り教会があった。
「ホントにあった……」
「なんだよ、疑ってたのか?」
「ん…そういうわけではないけど……ごめんくださーい!」
扉を開け中に入る。
正面には祭壇。そして天井のステンドグラスは太陽の光に照らされキラキラと輝いていた。
「きれー…」
思わず見惚れる。
「お祈りですかな。」
「…っ!!」
声に驚き顔を急いで正面に戻す。
そこには一人の老人が立っていた。服装から神父だと分かる。
「あなたは…ここの人ですか?」
「ええ、そうです。今日はお祈りで?」
「いえ、少し…道に迷ってしまって…」
「おやまあ、それは大変ですな。どこに行くのです?」
「ちょっと塔の上に…」
そこまで言うと神父が首を傾げた。
「塔とは何のことですか?」
「…いえ、なんでもないです。」
その反応を見てその先の言葉を言うのはやめた。
やはりここの人は上に行く方法を知らないのだろうか。ここが最近神によって創られたことを知らない可能性も高い。
「塔の上ですか…そういえば言い伝えにそんな話がありましたな。」
「言い伝え?」
「ええ、もう何年も昔からの言い伝えです。『互いに信頼する相反する存在がこの場所を訪れたとき神クラリスは顕現する』というものです。」
「相反する存在…?」
つまり同じ種族での攻略は不可能ってこと…?
そんなの普通にパーティを組んで攻略していくことが出来ないに決まってる。そもそも互いを認めていないし、仲良く攻略しようなんて思う人はほぼいないからだ。
「そういえば古い文献が裏にありましたな…」
「それ見せてもらってもいいですか…!」
「構いませんよ。」
そう言い神父は奥に引っ込む。そして一冊の古い本を持って戻ってきた。
神父がページをパラパラとめくりあるページを開く。
「ああ、これです。」
そう言いある文章を指さす。
『汝、知恵を示せ。さすれば神クラリスが新たな世界にいざなうであろう。』
「?」
意味が分からない。知恵?新たな世界?
「どうもありがとうございました。もう帰ります。」
カナトがそう言い私の手を引っ張った。
「カナト?」
呼びかけるがカナトは何も言わない。
「ああ、そうですか。では、お気を付けて。あなた様方に神クラリスのご加護が有らんことを。」
私はカナトに引っ張られるまま教会を後にした。
教会を出て暗い路地に入ったところでカナトは止まった。
「どうしたの…?」
「もうあれ以上は情報も手に入らなかっただろうからな。それにもう空も暗い。今日はひとまず宿を探そうぜ。それに僕、あの本の内容が何を表しているのか分かったし。」
「え…!分かったの?」
「ああ、知恵って言うのが具体的に何を指しているのかはわからないけど、新たな世界って言うのはこの上にある層を指してるんだろ。知恵っていうのは恐らくそこに行くためにしなければいけないことだと思う。」
「言われてみれば確かにそうかも…」
「まあ、あとはまた明日だな。今日はもうくたびれたよ。」
カナトは背伸びをして体をほぐす。
「じゃあ、行こうか。」
宿を探して歩く。
すると後ろから何かに見られているような気配がして振り返った。しかしそこには誰もいない。
「…?」
「シルフィアーナ?」
「ううん、なんでもない。ほら、行こう!」
カナトの隣に並んで街に向けて歩き出した。




