十二章
「まさか…本当にあるなんて…」
塔を見ながら呟く。
もっと取り乱すものかと思っていたが自分で思っていたより落ち着いている。
「大丈夫か?」
塔を眺めていると隣からカナトの声が聞こえてくる。
「大丈夫。」
「そうか…」
カナトは小さな声で言った。
「じゃあ、行くか。」
「うん。」
覚悟を決める。
もう後には引けない。
神なんて存在がいるなら私が否定する。
神――クラリスはこの塔だけでなくこの世界のすべてを創り上げた。
こんなに私が神という存在を否定するのには当然理由がある。
※
―――これは五年前に遡る―――
私には父親と過ごした記憶がない。
小さい頃は母親と一緒に住んでいた。その母親も私が十歳になる頃には何も言わずに出て行った。
周りの大人は言葉を濁していたが恐らく私は捨てられたのだろう。
それからは毎日生きていくために必死だった。
私みたいな子供を雇ってくれる働き先なんて当然ない。
だから生きていくためには依頼をこなしてお金を稼ぐしかなかった。
当然、採集の依頼だけで生活していくことは出来ない。私は生きていくためにフィールドや洞窟に頻繁に行っていた。
幼いので魔力量も少ないし、攻撃系の魔法も支援系の魔法も多く使えなかった。
だから剣に頼ったのだ。
初めは独学でただ生きていくためにめちゃくちゃに剣を振るった。
毎日いつ死んでもおかしくない戦闘を繰り広げボロボロになって痛む体を引きずって街に戻ったものだ。
あるときいつものようにフィールドに行った。
だが、その日は調子が良くなく、重症を負ったのだ。
命からがらに逃げ出したが逃げた先にいた別の敵に挟み撃ちにされた。
敵が手に持っていた槍を振り上げたとき私は死を覚悟し、目をきつく瞑った。
父を、母を、私を見捨て、助けてくれなかった大人たちを恨みながら。
「セアッ!」
その時だそんな掛け声が聞こえたのは。
恐る恐る目を開けるとそこには敵の姿はなく、敵を倒したときに現れる光の粒子がキラキラを辺りを照らしていた。
その中心には長い髪をなびかせた一人の剣士が立っている。髪色から同じシルフだと分かった。
「大丈夫?」
その剣士は剣を背中の鞘に納めながらそう尋ねた。
「あなたは…」
突然の出来事で思考が追いつかずそういうだけで精いっぱいだったのをよく覚えている。
「私の名前はユナ。ただの旅人だよ。」
「なんで…」
「ん?」
「なんで私なんかを助けたの…?」
「何でって…」
この後にユナが言った言葉をきっと私は生涯忘れない。いろいろな意味で。
「キミが死ぬために戦っているように見えたからだよ。」
「は…?何言って…私は死にたいだなんて思ったことは一度も…」
言葉はそこまでしか言えなかった。
目から暖かいものがこぼれ頬を伝う。鼻がつんとして喉の奥から嗚咽が漏れた。
ユナは柔らかく微笑んだ。
「キミは腕がいい。まだ幼いのにここまで剣を振るえるんだから。なんなら私が稽古をつけてもいい。この際だから特別にいいことを教えてあげる。この世界に期待はしちゃいけない。神なんて不確かな存在をむやみに信じて期待をするのはやめた方がいい。自分で何とかしないとこの世界は助けてくれないんだ。それでもキミは世界に期待する?」
その質問に私はすぐには答えられなかった。
その答えは今でも出ていない。
結局あの後私は一週間ほどユナに剣の稽古をつけてもらった。
生きていくための方法や旅の思い出話…他にも色々なことを教わった。
あれ以来ユナには会っていない。
※
「行くぞ…」
カナトが塔の中に繋がる扉を押す。
扉がゆっくり開き隙間から眩しい光が漏れる。
その奥にどんな脅威が待ち受けているのか…『試練の塔』というくらいなのだからよっぽどのものが待ち受けているに違いない。
覚悟を決めて剣を構える。
そして扉の奥がだんだんとその姿を現した。
行きかう人々、光り輝く街並み。
「何…これ…?」
そこは今までに見たことがないほどきれいな街並みが広がっていた。




