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この空さえ嘘だとしても  作者: 成浅 シナ
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十章

中立都市『レグルス』についたのは夕方だった。

多くの種族が行き交う街は夕焼け色に染まっている。

「すごい……」

入口の門をくぐった先に広がる街を見ながらフードを目深に被ったカナトが感嘆の声を上げた。

「カナトは《レグルス》に来るの初めて?」

「ああ…。シルフィアーナは来たことあるのか?」

「うん、ちょっと前入ってたパーティメンバーに誘われてね。」


それでもここに来るのは随分久しぶりな気がする。トーナメント以来だからもう半年ぶりくらいだろうか。


この街は人が多く集まるので他の種族の領地でしか売っていないようなレアアイテムも手に入れることが出来る。

だが、当然メリットばかりではない。

多くの種族が集まるってことは争い事も多く起きるってことだ。

それ故にこの場所では《ガーディアンズ》と呼ばれる治安取締役が多く配置されている。

だが、最近ではその《ガーディアンズ》の中に横暴を働くものが出始めるという。

それでも便利さ故にこの場所は人が絶えない。


でもまあ、正直あまり来たくない場所ではある。


「今はパーティに入ってないのか?」

「ああ…、なんか集団行動ってあまり合ってないみたいでさ…」

「あー…なんか納得…」

「遠まわしに私が自己中だって言いたいの!?」

なんか実際に人に言われるとすごいショック!?

その反応を見てカナトはポリポリと頬を掻いた。

「え…いや、そうじゃなくて…えーと…なんて言えばいいのか……」

カナトは何か言おうと口をパクパクしていたがそのまま言葉の続きは出なかった。

「はあ…まあ、いいけど…それで、宿でも探そうか。もうじき暗くなるし。」

「それもしないといけないけど…でも先に『あれ』見に行こうぜ。」

カナトの言う『あれ』というのが何を指すのかはすぐに分かった。

でも………

「あまり見に行きたくないな……」

「はあ?シルフィアーナがここまで来たいっていったんだろ。今更何言ったんだよ。」

「んー…なんというかですね…」

「ん?」

「…なんというか…少し怖いの…」

「怖い?」

「本当にそんなものが存在してたら『神』の存在を認めないといけないでしょ?ノーム集団でが作ったとしても十層もある塔なんてすぐには作れない。『それ』を見たら私は……」

唇を強く噛みしめる。

今まで自分の中で否定し続けたことが全部強制的に肯定されてしまう。


あんな存在、世界が肯定して受け入れても私は否定し続けるってあの時決めたのだ。

だが、『それ』を見た瞬間、ほぼ確実に自身の決意は変えられてしまうだろう。

それがたまらなく怖い。

後先考えずその場の感情に任せてここまで来てしまったけどまさかここに来てこんな感情に駆られるなんて……


「大丈夫だ。」


「…え?」

「お前が何に怯えてるのかは僕にはわからない。話したくないなら話さなくていい。でも僕はお前が嫌がらない限りずっと傍にいてやる。」

ニカッと笑いながらカナトは掌を頭の上に乗せた。

「もう、なによ、それ。ホントキミは変わってるよ。でも……ありがと。」

カナトの言葉に自然と頬が緩むのが分かる。


知らなかった。

誰かが一緒にいてくれることがこんなに嬉しくて、心強いことだったなんて。


その瞬間心臓がドクンと高鳴った。この前よりも強く。


新しい冒険を知らぬ知らぬのうちに楽しみにしているのかそれとも……


「さて、じゃあ塔に行くのは明日にするか。正直もうへとへとだったんだ。宿借りて旨い飯食べに行こうぜ。」

頭の上に乗せていた手を退けカナトは街に向けて歩き出す。

「あ、待ってよ!」

暗くなりかけていたモヤモヤしていた気持ちを頭の片隅に仕舞い、もうだいぶ先まで行っていたカナトの背中を追いかけた。


※  


時刻はもう深夜。

私はカナトと同じベットの上に横たわっていた。

お互いに背を向けたまま。


こうなってしまったことには当然理由がある。


―――これは数時間前に遡る―――

この街で一番おいしいと評判のレストランで夕食を澄ました後、急いでここまで来たせいであまりお金を持ってきてなかったので安い宿屋を探そうという話になりこの街で安いが過ごしやすいと評判の良い宿屋に行った。

だが私たちと同じようにあの張り紙を見てきた人が思った以上に多く、一部屋しか空いていなかったのだ。これじゃあこの宿には泊まれない。


「ん…、他のところ探すしかないか……ってカナトなんでもう鍵もらってるの!?」

「えー…、だってここに来る前シルフィアーナの家に泊まることになっていたし、それに宿代もバカにならないからな…」

「そういう問題じゃないでしょー!?今は寝袋もないんだよ!?ベット一つでどう寝るのさ!!」

「そんなに同じ部屋が嫌なのか?」

「そうじゃなくて!寝るときの話!」

「僕は別に床でいいけど……」

「うぐっ...」


それはなんか悪い気がする…

元はと言えば私のわがままでここまでついてきてくれたんだし……


「別に一緒のベットで寝ればいいよ!昨日も同じ部屋にいた割には何もしなかったし!カナトがヘタレなのは十分わかってるから!」

「ヘタレ!?その言い方なんか傷つく!?」

「で?寝るの!寝ないの!」

「いや…僕は別に床でいいって…」

「寝るの?寝ないの?」

羞恥に頬を染めながら剣の柄に手を伸ばす。

もう!!これ以上恥ずかしいこと言わせんな!

「わかった!わかったから!寝ます!寝ればいいんだろ!」


―――そして現在に至る―――


我ながらなんて恥ずかしいことを言ったのだろう。

もはや後悔しかない。

恥ずかしさで顔が熱くなっているのが分かる。

その上ベットが想像以上に狭いせいでカナトの体温を感じる。


弟みたいって思ってた男の子にこんなにドキドキさせられるなんて…

ドキドキしすぎて胸が苦しい。

今までの戦闘でもここまで胸が苦しくなるまでドキドキすることなんてなかった。


これって…もしかして……


寝返りを打ってカナトの背中の方を向く。

カナトはもう寝ているのか身じろぎ一つしない。

もう寝ているならと額をカナトの背中にくっつけた。

なぜだかそうするとさらに胸が苦しくなった。


もしかして……もしかするかもしれない…これは…この胸の痛みは………


「恋…?」


いやいや、でもそんな出会ってすぐの相手に恋だなんて…

もしかしてこれが噂の一目ぼれというやつなのだろうか。


色々な考えが頭の中で渦巻いていたがその思考を断ち切るように額をくっつけたままきつく目を瞑った。


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