九章
冗談にしては趣味が悪い。
大体中立都市のフィールドは三十キメルもある原っぱが広がっているだけだ。
だが実は周りから順に見えない壁のようなものが中央まで三層ほどありバームクーヘンのような作りになっている。
しかも外側から中央に進むにつれて魔物の強さが上がるのだ。
別名《死の国》。
そのフィールドの最外層には度の種族でも自由に出入りできる街が広がる。
そこからでも高い建物からはフィールドの中央まで見渡せるのだがダンジョンなんてものは存在しないはずなのだ。
『なんだこれ?いたずらか?』
『何かのいたずらだろ。こんなのマジにする奴なんていねーって。』
『一応、確認しに行くか?』
―――ザワザワ―――
周りの騒めきが聞こえてくる。
手の込んだいたずらだと信じていない者がほとんどだが、半信半疑の者もいるようだ。
あまりの唐突さに皆もまだ理解が追い付いていないようだ。
「うわっ、これなんのいたずらだ?」
いつの間にか隣にカナトが立っていた。
「カナト…人混み苦手なんじゃないの?」
「ああ…いつまで経っても戻ってこないから…」
無理してここまで来たのかよく見ると顔色が少し悪い。
「今時こんないたずらする奴いるんだな…」
カナトは信じていないようだ。
「……………」
「シルフィア―ナ?」
「…もし…これが本当なら……」
カナトが顔を覗き込んでくる。
「ねえ、カナト…私の家に泊めるって話、やっぱりなしでいい?」
「は?…いや、まあそれは別にいいけど…おい、まさかお前に行く気か?やめとけって。こんなのただのいたずらだろ?マジにすることないって。」
「でも…それでも私は確かめに行くよ。自分の目で確かめないと本当か嘘かなんてわからないから。」
「なんでそこまで……」
「だからゴメン。」
「あ、おい、シルフィアーナ!」
カナトをその場に残し、人混みを抜け家に向けて駆け出した。
※
家に駆け戻り戦闘用の服に着替え、荷物をまとめ外に出る。
「よし…!」
気合を入れるために頬を叩き羽を広げる。
「おい、ちょっと待て。」
いざ飛び立とうとしたところで後ろから声が聞こえた。
羽をたたみその声の持ち主―――全身黒ローブの人影の方を向く。
「いつからそこにいたの?」
「んー…シルフィアーナが出てくる少し前。」
その全身黒ローブ-――カナトはフードを取るとまっすぐこちらを見据えた。
「僕も行く。」
「これは私のわがままだよ。無関係な君をあんな遠くまで付き合わせるわけにはいかない。それにあそこは魔物も多いし、またここまで戻ってこれる保証もない。だから君を私のわがままに付き合わせられないよ。」
「だったら僕が付いていくのは僕のわがままだ。」
「え…何言って…」
「それに…宿ないからな……」
「え……」
「どうせ僕は身寄りも行くところもないんだ。ここを出た後どこに行くのかも決めかねてたし、それに……」
「それに?」
「お前といると退屈しなさそうだ。」
「…ふふふ…あははははっっ!!」
「笑うことないだろ。こっちは真剣に言ったのに。」
「…ごめんごめん。そっか…行くとこないならしょうがないね。」
本当…ぶっきらぼうに見えて意外と優しい…
「じゃあ、行こうか。今から行けば日が落ちるまでに着くだろうし。」
「ああ。」
二人でうなずき合うと羽を広げて飛び立った。




