1話:例え君が『他人』だとしても
煌々と照りつける太陽が、白い外壁を更に明るく染め上げる頃。
1人の少年は、息を切らしながら白い街を駆けていた。
「はぁ…はぁ…っ…はぁ」
人はなぜ走ると息切れをする?
──体内の酸素濃度が…減っているから…酸素を取り込もうとしてるんだよ…!
なら、なぜ君は走る?
──追っ手から逃げてるんだ!
なぜ、追っ手がいるのだ?
──しらん!とにかく、奴らは彼女を追ってるんだ!
なぜ、彼女を助けるのだ?
──…困ってる人を、ほおって置く理由には行かないだろ。
…
……
そうやって、自問自答をしながら俺は追っ手から逃げる。
彼女が何者かは知らん。
だが、今 後を追っている彼らには関係があるのは確かだ。
困ってる人を見捨てることを、俺は出来なかった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
彼女は長いブロンドの髪を靡かせながら、俺の手を握り、共に必死に逃げている。
その手にはとても強い力が込められており、その握り方や必死さが絶対に捕まりたくないという執念を語っている。
「こっちだ!」
俺は白璧の市街地を必死に駆ける。
通りすがる人々は、その光景に目を白黒させている。
「待てぇぇぇぇい!」
甲冑を身にまとった彼らは怒号をあげてまだ追ってくる。
「っ…くそったれ!」
俺は苛立ちからつい舌打ちをしてしまう。
彼らは尚も追ってくる。
…仕方ない。
「…っ」
俺は今まで走っていた足を止める。
「…!!」
瞬間、彼女は何事か振り返る。
そして彼女は俺を恨めしそうににらめつけ、必死に訴える。
『早く逃げよう』と。
だが俺はそれを振り切る。
俺達がいつまで逃げても彼らは追い続けるだろう。
なら、少しくらいは抵抗してもいいと、そう思った。
俺は懐から杖を取り出す。
「魔術」
杖の先端に魔力を集中させる。
「空気圧縮」
周囲の空気が圧縮され、半透明の球体が現れる。
…これでいい。
俺はそれを追ってくる甲冑の連中に向ける。
…いくぞ!
「発射!」
放たれた球体は連中目掛けて飛んでいく。
速さは大体鳥が飛ぶ速度と同じか、それ以上。
そして着弾する寸前で。
「解放!」
俺はその球体を解放させた。
着弾させたら爆発魔法並の威力なので、流石に甲冑を着ていても死傷させてしまうかもしれない。
そう思った俺は威力を減衰させるため、着弾前に解放させたのだ。
「うわぁぁぁ!!」
連中は爆風の威力で大きく後方へと吹き飛んだ。
「よし!今だ!」
俺は彼女に向かって手を差し出す。
それまで完全にフリーズしていた彼女だが、俺の手を見るなり、すかさず手を取った。
「…うん!」
その目には、何かを決心したような輝きが宿っている。
「行くぞ」
彼女の決心と共に、俺は走り出す。
ここから、いつ終わるかも分からない逃走劇が始まるんだ。
この時の俺はそう思っていた。