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超科学でつくる異世界ハーレム  作者: ウィッチクラフト
7/7

7話 インフラ整備と食事



城の外に広がる黒土を加工して、壁材を作っていく。先程砂状に崩壊させた元々の壁も外に運び出すのが面倒なので混ぜていく。カーボン製の柱で補強もする予定なので、特に強度としては問題無いだろう。さて、間取りはどうしようか。


1度着陸船に戻り、3Dホログラムを使って部屋割りを決めていく。あまりに一部屋一部屋が広すぎても落ち着かないし、狭すぎても窮屈だ。ティアにも一部屋用意した方がいいだろう。どの辺りにするべきか……。


そこまで考えてティアに仕事を頼んでいたことを思い出した。もう杭は刺し終わっただろうか。まだヘッドセットに慣れない彼女のことだから走って戻ってくるに違いない。そう思った俺は通信機能をオンにして口を開いた。


「ティア、どうだ?杭は打てたか?」

「ひゃっ!?サガラ様!?……ってヘッドセット(これ)でしたね……はい!今2つとも水の中に刺しました!」

「そうか、ならちょっと離れて見張ってて貰えるか?」

「……?わかりました!」


彼女と通信しながら、ゴソゴソと着陸船の機材入れから銀色に光る装置を2つ取り出した。

円柱の先にひょろっと1回り小さなドリルらしき物がついたそれを地面に突き刺す。そしてスイッチを入れると僅かな振動と共に、稼働中を知らせるランプが点灯した。


地中を掘り進める為の装置なのだが、先端に付いたのはただのドリルでは周囲の土を熱によって硬く変成させながら進んでいるのだ。つまり穴を掘ると同時に周りの土からひと繋がりの大きな管を形成出来るという優れものなのである。


これをそれぞれ上水道管と下水道管にすることにする。ついでに下水処理貯水槽も城の地下に作ってしまおう。ロボットアームを使い、必要な機材を城に運び込む。城の地下室だった場所を有機処理用の貯水槽にすることにする。


音波反射による測定を行ったところ、そのまま地下室として利用するには不便なほど、深くに地下室が掘られていた。もしかすると以前は地下牢か何かとして使われていたのかもしれないが、今度の拠点にそんなものは必要ない。従って地下室を作る場合は新たに地下空間を作ることにし、既存の空間を下水処理に使ってしまおう、ということなのである。


地下空間の外周を強度のある均質な素材で覆い水漏れを防ぐ。持ってきた水が入った有機性のパックをいくつか地下室の床に落としておいた。中には遺伝子組み換えによって分解能力が格段に向上した菌類が入っている。宇宙船などでも使われている実績のある細菌だ。彼らが下水に含まれる不純物を綺麗に分解してくれるだろう。後は下水道菅の方に熱消毒フィルターと濾過フィルターを付ければいいだけだ。

最後に地下室の入口だった四角い穴に、水道菅を繋げられるようバルブを取り付けた。これで城の中を通る上下水道の基礎造りは出来た。


そろそろ地中掘削の方も完了したかもしれない。俺は通信機能をオンにしてティアに話し掛けた。


「ティア、もう1度杭を見てもらえるか?」

「はい……えっと、あれ?杭の近くにさっきまでは無かった穴が開いてます。あれ、こっちにも?」

「それで水が城まで流れてくるようになったはずだ。ありがとう、杭を抜いてこっちに戻ってきてくれ」

「そうなんですね……わかりました!」


ティアに刺してもらった杭自体には、大した機能はない。ただ、地中を掘り進むドリルに目標地点を知らせる電波を出すので、湖に刺してきて貰う必要があったのだ。



区切りのいいところまで作業が完了したので、俺は一旦着陸船に戻ることにした。城の内装に取り掛かるのは、休憩を挟んでティアの意見を聞いてからにしよう。


「あっ、サガラ様。次は何をすればいいですか?」

「先に昼食にしないか?相談したいこともあるし」

「お昼ご飯ですかっ?私、何か獲ってきていいですか!?」


昼食、と聞いた瞬間目を輝かせたティアは、ブンブンと尻尾を振って今にも森の方へ走り出そうとする。狩りに行きたくて仕方がないといった様子だ。


「あー……今日はいい。ティアの分も持ってくるから机用意しておいてくれ」


生肉を持ってこられると、細菌検査や人体に有害でないかなど、調べなければならないことが多いのだ。

ティアが罹っていた紫敗病のような危険な病原菌がうようよしているかもしれない。


「はい……」


ティアはしょぼんと尻尾を落とすと、大人しく俺から円盤状のテーブルと椅子を受け取った。

真ん中のボタンを押すと簡易的なテーブルと椅子が展開する仕組みだ。


俺は着陸船に戻り、今日の昼食となる栄養ゼリーを呼び出す。バタバタしていたせいで朝食も食べられなかったので正直かなりの空腹だ。なので乾燥ペーストも呼び出し、俺はティアの元へと戻った。


着陸船から少し離れた丘にテーブル1式を展開させたらしいティアに昼食を渡す。ティアと向かい合う形で腰掛けた俺は、勢いよくペーストを包んでいたフィルムを剥がし、かぶりついた。


パサパサとしたペーストの濃い味が口の中に広がり、飲み込むと空腹を訴えていた胃が少しずつ静かになっていくのが分かる。


「あの……サガラ様?」


黙々とペーストやゼリーを口に押し込んでいるとティアが遠慮がちに口を開いた。


「ん……なんだ?」

「サガラ様は普段からずっとこのような物を召し上がっているのですか?」

「ペーストとゼリーか?……大体はいつもこれだな」


ティアに聞かれて少し思案した後、俺は頷いた。いつもこれと行ってもビーフベースだったりチキンベースだったり、味は変えている。


「えっと……これではあまり栄養にならない気がするのですが……」

「そんなことはない。1食分のカロリーと必須栄養素はきちんと入っている」

「か、かろりー?」

「熱量の単位だ。簡単に言えば食事でそれさえ満たしていれば餓死はしない」

「そ、そうですか……」


それ以上ティアは何も言わずモソモソとペーストを口に運んでいた。どこか無理をした様なその様子を見ているうちに、先ほどの彼女の質問の意図に検討がついた。


「もしかして簡易食は嫌か?」

「……っ。大丈夫ですっ、美味しいです!」


ティアはすぐに笑顔を浮かべる。彼女の性格を考えてみれば、「不味いか」と聞かれて正直に頷くようなタイプでは無かった。なので質問を変える。


「えっと……ティアの村ではいつもどんな食事をとっていたんだ?」

「私の村ですか? ……普段はお肉や木の実の入ったスープだったり、蒸した野菜を食べます。お祝いの日には焼いた大きなお肉を皆で食べたりしていました」

「ここでもそんな感じの食事がいいか?」

「い、いえ……これがサガラ様の好きな食べ物でしたら、私も好きになります」


健気にそう答え、ゼリーを口に含む彼女を見ていると、何だか申し訳なくなってきた。


別に簡易食が好きなわけでない。ただ、簡単に栄養補給ができるから……というだけの理由だ。


思えば火星にいた頃から俺は気がつくと簡易食ばかり食べてきた。栄養科学が一定水準まで発達していた為、同じものばかり食べても健康上問題が無かったのだ。といっても一般家庭では普通に食材が調理されて食べられていた気がする。俺の子供の頃でも、実家ではほぼ毎食母の作った料理が食卓に並んでいた。


ただ、エンジニアとして一人暮らしをはじめてからは……かれこれ5年ほど簡易食を食べ続けていている気がする。元々俺は食事に対する執着が弱いらしい。美味いものが目の前に並べばそれはそれで嬉しいが、最低栄養が取れれば構わない。それが俺の考え方だった。



今まで気にしてこなかったが、客観的に考え直してみると俺の食事スタイルはおかしいらしい。それは違う星に暮らすティアの目から見ても変に映ったらしい。だから栄養を心配したりしてくれたのか。


「ティア、午後の君の仕事が決まった」

「?何でしょうか?」

「森で食べられる物を集めてきてほしい。成分分析の時間もあるから、夕方くらいまでには」

「え?……でもよろしいのですか?私はぜりーでも全然平気ですよ?」


俺が気をつかっていると思ったのか、ティアが申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「別に簡易食が特別好きなわけじゃない。簡単だったからずっと食べてただけなんだ。それに、ティアの作った料理も食べてみたいんだが……頼めないか?」

「わ、分かりましたっ!サガラ様に美味しいご飯を作れるよう頑張りますねっ!」


とびきりの笑顔を見せた彼女は、残っていた簡易食を大慌てで食べると、森に向かって走っていった。もう調達をはじめるつもりらしい。


そういえば内装のこと相談し損ねたな……。俺はみるみる小さくなっていく彼女の背中を目で追いながらふとそんなことを思い出すのだった。



***



約束通り、陽が西に大きく傾いた頃、彼女は戻ってきた。両手には狩りで捕まえたらしい野鳥と野うさぎをぶら下げ、肩には大きな木の葉を折ってつくったらしい簡易的な袋を下げていた。


「はぁ……はぁ……いっぱい獲ってきました……!」


肩で息をしながら、達成感に満ちた表情のティアから食材を受け取る。成分分析と、細菌検査を行ってみると、意外なことに火星で消費される食材と大差ない成分であることが分かった。危険な病原菌とやらも付いていないらしい。


「よし……全部使えるみたいだ。大分疲れてるようだが大丈夫か?」

「大丈夫です!待っててください、今美味しいご飯を……えっと、火を起こして、水を汲んできて……」


フラフラと料理の段取りをはじめようとする彼女を止めて、食材を持って城へと連れていく。


「何か取りに行かれるんですか?」

「いや……ティアが食料を調達してる間、城の中を綺麗にしていた。まだ他の部分は出来てないんだが、ここを先に完成させるべきかと思ってな……」


ボソボソとそう言いながら、俺は城内の真っ暗な空間へと足を踏み入れた。


「うわぁ……綺麗です……」


生体センサーによって一瞬で明るくなったその空間を見て、ティアが思わず呟く。そこには厨房が広がっていた。城の一角のかなり広い空間を利用して作ったので数十人が一度に入って作業が出来るほど広いスペースになっている。


作業台には分子変換器を使って、火星で一般的な合金を敷いた。窒素融合による燃焼台や、水道も急ピッチで整備した。せっかくティアが料理を作ってくれるのなら、少しでも負荷を無くしたかったのである。


キラキラと光る出来たばかりの厨房にきょろきょろと見回しているティア。


「こ、ここで料理をしていいんですか?」

「その為に作った……使ってもらえると嬉しい」

「……ありがとうございます!サガラ様っ!えへへ、ここなら猪でも解体出来そうですね!」

「猪……?えっと、調理器具は調理代の下に収納してある」

「分かりました!すぐ出来ますからね!」


包丁を取り出し、楽しそうに野鳥を捌き始めるティア。すぐそばの水道から流れる水に驚いたり、包丁の切れ味にテンションを上げながら調理を続ける。


料理というものは楽しいものなんだろうか?俺には今ひとつ分からない。ただ、楽しそうな様子のティアを見ていることは結構楽しい。



「出来ました!」

「おぉ……」


しばらくして、大小様々な食器に盛られた湯気立つ料理が俺の前に並べられた。食欲をそそる香りを放つ料理の数々に思わず声が漏れる。


「食べてもいいのか?」

「どうぞ、召し上がってください」


彼女の許可を得た俺は目の前に置かれた赤っぽい色のスープを掬い、口に含んだ。途端に肉の旨みや、甘い野菜の風味が口中に広がる。


「美味い……!」


スープを繰り返し口に運びながら、隣のこんがりと焼けた鳥肉をナイフでそぎ落とし被りつく。チキンペーストでは味わえないパリパリとした皮。それに柔らかい肉の食感と、肉汁を味わう。


「お口に合いますか……?」


次第に食べ物を口に運ぶペースが上がり、無口になり始めた俺に、ティアが恐る恐る口を開いた。


「あぁ……凄く美味い。久しぶりに食事をした気がするよ」

「ふふっ、それは良かったです」

「ティアも食べないのか?1人で食べてしまっていいのか?」

「た、食べます!……でも、いっぱい召し上がってください!」


ホッとしたように息を吐いたティアは、俺の対面に座り、ようやく食事を取りはじめた。口元がだらしなく緩み、ニヨニヨとした笑みを浮かべる彼女を尻目に俺は目の前の料理にがっつく。


その後口数は少なく、だがとても充実した夕食の時間を俺は過ごした。ティアの料理を食べると、何故か昔母親が作ってくれた料理を思い出した。味は全く似ていないのに不思議だ。

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