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超科学でつくる異世界ハーレム  作者: ウィッチクラフト
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2話 生命体発見と治療



光子銃を構え城へ足を踏み入れる。石造りの床には枯れ葉や細かい木々が散乱していた。元々は木製の大扉が備えつけられていたようだが、もはや完全に朽ち落ちてその役割を果たしていなかった。


ヘルメットから赤外線や可視光線、電波等が順に周辺へと照射され、ヘルメット内部スクリーンに城の内部マップが出来上がっていく。


どうやら生命体の反応はこのフロアにはないらしい。


ゆるく螺旋状になった階段を登ると、下とは違って細かく区分けされた造りになっていた。扉は例外無く朽ちている為、一部屋ずつ順に調べていく。奥に進むにつれて徐々に外から入ってくる光が減少していく。外から見た通りかなりの広さだ。減少した光量に反応して暗視用赤外線フィルターが作動した。


部屋の中だが、部屋の外と同様に大したものは無く、元々は何らかの家具だったらしい木片や布の切れ端が落ちているだけだった。布は後で持ち帰って組成鑑定をしてみてもいいかもしれない。だが今は知的生命体との接触が先だ。


俺は拾い上げた布を再び床に落とすと、部屋を後にした。



レーダーと照合されたマップによれば、生命体はこの通路の奥、他の部屋と比べても極端に狭い空間にいるらしい。そんな小さな空間に収まっているのだから、ドラゴンやその他の巨大生物が待ち構えているということはなさそうだ。


とは言え、全く未知の危険生物である可能性も捨て切れないので、俺はあくまでも慎重に生命体への距離を縮めていった。


通路の奥ともあって、ほとんど真っ暗なその空間はどうやらトイレのようだった。所々タイルらしき装飾が壁面に残り、壁際には、陶器製と思われる便器が並んでいた。

生命体の反応はその反対側、壁でいくつかに区切られた場所の一番奥にある。


極々距離が縮まったことで、生命体のバイタルデータが表示された。

それを見て俺ははて、と首を傾げる。心拍がやけに速いのはまだ分かる。向こうからしても俺という『外敵』に接近されているわけだから緊張するのも当たり前だ。問題は呼吸の深さと体温だ。やけに浅い呼吸だし、体温も高過ぎる。


病原菌に感染しているか、深刻な怪我を負っているのかもしれない。


『病原菌』であればこの星に来たばかりの俺にとって死に直結しかねない。ヘルメットと密閉性の高いスーツによって感染はまず有り得ないとは分かっているが、それでも怖いものは怖い。


俺は少し躊躇った後、意を決して生命体のいるだろう場所を覗き込み、そして驚いた。


中に居たのは、人類と非常に良く似た姿の少女だったからだ。頭部についた獣のような大きな耳以外は、全く俺たちと見た目に差がないように思える。着ているものは服とは呼べないようなぼろ布で明らかに栄養状態も悪そうだった。


そんな少女が息も絶え絶えになって、便器の上に座っていた。いや、座るというより崩れ込むと言ったほうがいいかもしれない。とにかく見るからに死にかけの少女がそこに居たのである。


その少女は俺が接近したことにようやく気づいたのか、グルル……と低い声を上げながら俺を睨んできた。犬歯と牙の間くらいの歯が見える。


「大丈夫か?」

「……?*…****……」


声を掛けてみると、一瞬躊躇ったような表情を浮かべた後、弱々しい声が返ってきた。当然何を言っているのか全く分からないし、向こうにも何も伝わっていないだろう。


だが、それでいいのだ。俺は話し続ける。


「立てるか?」

「***……***…!**いで……」

「母船に薬があるんだが」

「**たい**を**してい*の……?たべ*いで……」


彼女の話す音の組み合わせ、それと表情、脳波測定による照合によってヘルメットが言語置換を行っていく。その後、2、3のやり取りによってほぼ完全に彼女の言っていることの翻訳に成功した。


「いったい何を話しているの?食べないで」


だ。ヘルメットから出力される声を彼女の話す言語に設定し直す。


「襲うつもりはない。乗ってきた船に薬がある。君を治療してもいいか?」


彼女は、急に同じ言語を話しはじめた俺に、ビックリしたのか口をポカンと開けていたが、すぐに弱々しく首を横に振った。


「駄目……治せない。村の魔法師様も治せなかった……貴方も移れば死ぬから……離れて」


激しく咳き込む彼女。赤外線を解除し、少女に可視光線を当てた俺は、思わず声を出しそうになった。


身体中に広がる紫色の痣、元々は整った綺麗な顔立ちをしていたのだろうが、右頬にまで広がった痣のせいで痛々しさのほうが優ってしまう。


「これは……紫敗病か……?」

「……?分からない……けどこれになったら誰も助からない……コホッコホッ、移るといけないから、私もここに来た……」


彼女はそう言うとフラフラと痩せた右手を持ち上げ、俺の後ろを指さした。振り返ると、そこには明らかに人骨と思われる骨が転がっていた。どうやら随分と前に同じ病気で死んだ仲間の骨らしい。

なるほど、不治の伝染病から隔離する為にここにやって来たのか。(もしくは連れてこられたか)



彼女の病気は、地球ではかつて紫敗病という名前で蔓延した伝染病だ。栄養不足による免疫機能の低下によって、傷口から入り込んだウイルスが繁殖して起こる病気である。厄介なのは極々小さな傷でもいとも簡単にウイルスの侵入を許してしまうこと。それに各種合併症を引き起こすことが多いということである。

彼女の場合も肺炎らしき症状が見られ、このまま放っておくとまず助からないだろう。


だが、この病気は既に根絶されたものだ。しかも21世紀中にそれが達成されたという比較的簡単な部類の病気なのである。


勿論、着陸船に積んである治療キットでも根治が十分可能だ。


「もし君の病気が俺の知っているものなら、簡単に治せる方法がある。」

「……ホント?また村に帰れる……?」

「治ったら好きな所に帰ればいいさ。ついてこれるか?」

「う、うん……ゴホッ」


少女は血色の悪い顔を僅かながら輝かせ、何度も頷いた。そして身体に力を込め立ちあがろうとするが、もはやそんな体力も残されていないらしい。


「……」

「ま、待って……!今、立つから……置いていかないで……ください」


黙ったままでいる俺を見て、放置されると思ったのか彼女は泣きそうな表情を浮かべ、壁に身体を預けながら何とか立ち上がろうとする。だがズルズルとその場に崩れ落ちてしまった。


「……おい」

「ご、ごめんなさい……!ゴホッゴホッ!置いていかないで……もう1人は嫌だよぉ……」


俺が痺れを切らしたと勘違いしたのか、とうとう泣きだしてしまう少女。つい先ほどまでは全て諦めきった顔をしていたのに、今は1人取り残される恐怖に顔を歪めている。


「違う、ちょっと待て」


バッテリー充填まであと3…2…1…完了。ヘルメット内部にピピッと電子音が鳴った。スーツ内に完全に電力が充填されたのを確認した俺は、彼女を勢いよく持ち上げた。


「ちょっと捕まってろ。着陸船まで推定45秒」

「へっ……?え……?」


突然抱えあげられ、訳が分からない様子の彼女を背中に背負った俺は走り出した。スーツの繊維に仕込まれた極小の動作補助パルスが動き、常人では考えられないほどのスピードで通路を駆け抜ける。彼女1人の重さも元々軽いせいもあってかほとんど感じない。


動作補助パルスは本来重力が地球より強い星において使われる機能の1つだ。スーツを身につけた人間に微弱電気を流し、筋肉を活性化させることで高いパフォーマンスを引き出す。ただ、使用には少々の充電時間がかかるのが難点である。あと、使った後に身体がピリピリすることも。


とにかく、動作補助までして彼女を城から運び出した俺は着陸船へと向かった。ハッチを開け、エアベッドと毛布を引っ張り出し、近くの地面に簡易的なベッドを作る。


背負っていた彼女をそこに寝せる。


「薬を取ってくる」

「お父さんより……速かった」


スーツのお陰だから何とも言えない俺は、彼女に毛布を被せ一旦着陸船へと戻った。着陸船 のハッチを閉め、完全に彼女から見えなくなってからスーツの損傷を調べる。もし穴が開いていれば、俺も紫敗病の感染の恐れがあるからだ。


「……よし」


損傷していないことを確認した俺は、着陸船のメインパソコンで紫敗病の血清といくつかの栄養剤を呼び出した。分子保存されていた血清が注射器に入った形となって目の前に浮かび上がる。それとあまり美味くなそうな半固形状の栄養ペーストを掴んだ俺は彼女の元へと戻った。



寝ているかもしれないと思ったが、彼女は起きていた。というより紫敗病による全身を襲う鈍い痛みと息苦しさによって眠れないのだろう。


注射器をパッケージから取り出し、針先をトントンと弾く。勿論滅菌済みの手袋は装着してある。


「ひっ……」

「チクッとするが、すぐに良くなる。少し我慢してくれ」


俺の手元で光る針を見て、怯える彼女だったが、覚悟を決めたのか抵抗できないことを思い出したのか、ぎゅっと目を瞑った。


「はい……チクッと」


子どもの頃受けた予防接種の時の記憶を頼りに声を掛けながら、彼女の華奢な二の腕に注射針を突き刺す。と言っても針の表面は加工されているから殆ど痛みは感じないだろう。


チューと中の薬液をピストンで押し込む。針を引き抜いてしばらくすると、みるみる内に全身の痣が引いていくのが見て取れた。


「はぁ…はぁ…ふぅ……」


全身の痛みに辛そうな表情を浮かべていた少女も、少しずつ痛みが引いてきたのか徐々に穏やかな顔に戻ってきた。


「楽になったか?」

「はい……!ありがとうございま…うむっ!?」


ポロポロと涙を流しながらお礼を言ってくる少女の口に無理やり栄養ペーストの飲み口を押し込む。


「飲め、まだ完全に治せてない」

「……こくっ、こくっこくっ」


素直に口の中に流れ込むペーストを咀嚼し、喉に流し込んでいく少女。完治していないといっても後は栄養不足の解消と十分な休養を行えばいいだけだ。だが、これくらいの子どもには難しく説明するよりも、無理やり実行させた方が早い。




「……ぷはっ、ご、ご馳走様でした」


やがてペーストを飲みきった彼女が飲み口から勢いよく唇を離した。先程より目に見えて血色はよくなっている。もう大丈夫だろう。


「あとはゆっくり休めばすぐ良くなる。ベッドは使っていいから寝てろ」

「え、えっと……でも……」

「サガラだ。サガラ・シンヤ」

「……サガラさんがお休みになる為の物ではないのですか?」

「あの中にも休む所がある。気にしなくていい」


そう言って俺は背後の着陸船を指さす。それでも何か言おうとする少女。別に病人が遠慮などする必要ないと思う。


「早く村に帰りたいんじゃなかったのか?」

「か、帰りたいです!」

「なら、そこで寝てろ。完全に治るまでは言うことを聞け」

「……はい」


大人しくベッドに寝転び布団をかぶる少女。よく見ると腰の辺りから彼女の髪色と同じ焦げ茶色の尻尾がはみ出している。病気のせいか所々毛が抜けているが。


明日は近くで身体を洗いたい。出来れば彼女も身体を洗ってほしい。使われていないとは言えトイレに居たのだから。


そんなことを考えながら、着陸船に戻ろうと踵を返すと、後から「ありがとうございます」と小さな声が聞こえてきた。だから病人は細かいことなど気にする必要ないのだ。


俺はひらひらと手を振りながら着陸船へと戻り、ハッチを閉めた。








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