序章3 「暗黒侵略委員会?」
「武力を用いず、この大陸を恐怖と暗黒に染め上げるのだ!!!」
上げるのだー げるのだー のだー だー と山彦のように響き渡る声。
「なるほど……わかりました」
私はスッと立ち上がるとニコリ、と微笑む。
「がんばってくださいね。では私は仕事が残っているのでこれで失礼します」
クルリ、と踵を返しツカツカ足早に出口へと向かうと
「ちょっと待てぃぃ!!」
ずざざざーーーーー、とスライディングカニ挟みで私をすっ転ばす陛下さま。
「なに……するん……ですか……この……ダメ……皇帝……は……っ!」
ギリギリギリ、床に倒れた私にまとわりつこうとする手を掴み必死に押さえつける。
「この一大プロジェクトに……貴様を加えてやろうと言うのだ……光栄に……思うがよい……!」
ギリギリギリギリギリギリ
「いえいえ……この愚鈍で矮小なる私ごときには……過ぎたる任務……謹んでお断りいたします……!」
ミシミシミシミシミシミシ
「いだだだだだだっ」
スゴイ、なにがスゴイってただの一文官が皇帝にアイアンクローを食らわしてるのに「相変わらず仲がいいですねぇ」とか言って微笑んでる近衛兵とか、なにか報告にきた大臣が「ああ~、取り込み中ですかな?」と言いながら書類を置いて去っていくこの国の人たちがスゴイ。
これでいいのか暗黒帝国。
「や、役職手当がつくぞっ!」
ピクリ、陛下の言葉に私の手が止まる。
別に私は守銭奴ではない。給金がそれほど少ないわけでもない。しかしまぁ、給料が増えるのならば別にそれに関してはやぶさかではないと言うかうん。……うん? うん。
「まぁ……話くらいは聞きましょうか」
立ち上がり服を正す私。決して金に目が眩んだわけでは無い。ないですよ?
「いたたたた……」
コメカミを押さえながら涙目で帝座に戻る陛下。文官とはいえ、戦闘訓練ではそれなりに成績がいい私は
こういうやりとりで陛下に負けた事は一度もない。
「このプロジェクト遂行のために「暗黒侵略委員会」という組織を立ち上げた。ウェルダにはその参謀役に就いてもらう」
ひどいネーミングセンスである。
「はぁ、それで他のメンバーは誰がいるんですか?」
一応聴いてみる。
「それはこれから探します」
急に丁寧な言葉使いになるアルシャナ様。
なんのことは無い、思いつきとノリと勢いだけで生きてるのだこの人は。
その割には意外とコミュ障だったり色々めんどくさい人だったりするのだが。
しかしまぁ、国のために何かをしようとするその姿勢だけは評価せねばなるまい。少なくとも、ゴロゴロしながら漫画を読んでいるよりは多少は有意義ではあるだろう。……あるのかなぁ?
フム、と私は顎に手をやり一考する。
「え~と、その暗黒侵略委員会、でしたっけ?さすがに二人だけでは心もとないですし、あと何人かメンバーを入れたほうがよいのでは?」
「うむ、しかしこれは極めて重要なプロジェクトだ。人選は慎重に行わなければな」
なるべく暇そうでかつ悪ノリしすぎない人……と。
「では何人かピックアップをし、ここへ呼びましょうか」
「うむ!でも今日はこれからTRPGのシナリオを考えなきゃならないから続きは明日でお願いします」
陛下はやっぱりダメな人だった。