生徒会を受け継ぐ者
一一月某日。 快晴。 今年も生徒会選挙の季節がやってきた。
「次期生徒会長は東大寺海斗に決まりました」
盛大な拍手が沸き上がる。
勿論、彼の他にも立候補者がいたのだが、東大寺海斗の圧倒的人望の前には敵わなかった。
「元生徒会長から一言」
その瞬間、辺りは一斉に静まり返る。
元生徒会長、東野院空はゆっくりと壇上に上がり、全校生徒に一礼してマイクに顔を近づける。
それと同時に全校生徒は固唾を呑み込んだ。
「ドーモ! 全校生徒ノ皆サン、東野院空デス!」
某忍者を殺す忍者の様な表情を浮かべながら言った。
しかし、全校生徒に笑みが零れる事はなかった。
空は気にせずそのまま言葉を続ける。
「こんなことを言えるのも、残り少なくなった。 二年の頃に生徒会長に就任して、気が付けばもう世代交代の季節だよ」
皆、と空は目前に座って自分を見ている全校生徒たちに一人ずつ顔を見渡して話を続けた。
「俺はお前らにとって立派な生徒会長であれたか? あの元生徒会長を超えた存在になれたか? お前らに満足のいく学校生活を送らせてやれたか?」
自分自身に問いかけている様にも見える空の言葉に、全校生徒は以前の生徒会長の姿を投影し、そっと息を呑む。
「お前たちが満足しようが、しなかろうが俺はこの私立橘高等学校の生徒会長になれて良かったと心の底から思っている。 最高の同級生、最高の後輩たちの生徒会長になれて俺は本当に良かった」
最後に一言だけ言わせてくれ、と空は今にも溢れそうな涙を堪えながら、全校生徒に笑みを見せつける。
「俺の最高の同級生、後輩たちでいてくれてありがとう……! 卒業式まで宜しくな!」
ワッ! と歓声と拍手が沸き上がる。
中には涙を流す生徒や教員がいた。
あいつのあんな姿は初めて見た。 俺はあいつの最高の親友であれたのだろうか?
大地は空との今までの思い出を振り返る。
いつも笑顔でいる空。 しかし、今日の彼の笑顔はどこか憂いを帯びていた。
そんな親友の姿を見れば見る程ナイフで胸を抉られる様な痛みを覚える大地であった。
放課後。
大地と空は教室の窓際で肩を並べて外の景色を眺めていた。
他の友達やクラスメイトは気を利かせて彼らを二人きりにして下校した。
「あーあ。 とうとう終わっちまったよ! 俺の生徒会活動」
そう口にしながら空は大きく伸びをした。
それに対して大地は「お疲れ様」と労いの言葉を掛けた。
「どうだった? 俺の生徒会長っぷりは? この学校の誇りとなれたか?」
空の問いに、大地は「少なくとも、俺には申し分ないくらいに誇れる生徒会長だった」と優しく微笑んだ。
「そうか」と空は口を横に広げ大地に視線を向ける。
そして暫く間を空けて「なら悔いは無ぇ!」と歯を見せて笑った。
大地もそれにつられる様に笑った。
再び沈黙が走る。
空は一つ、教室の空気を堪能する様に深く呼吸をすると新たな決意を秘めた瞳で大地を見る。
「帰ろうぜ!」
大地は静かに首を縦に振ったのだった。




