魔王と陽子
「リア、お願いを聴いてもらっても良いか?」
苦い表情を浮かべながら言う大地にリアは「大地の願いならば何でも聴いてやるぞ」と腕を組んだ。
「リア、そろそろ俺の膝の上から降りてくれないか?」
大地の切なる願いに「嫌じゃ」とリアは躊躇なく一刀両断した。
さっき何でも聴いてやると言ったじゃん……。
そんな大地の心情を察したリアは「聴いてやるぞとは言ったが叶えてやるとは言っておらん」と意地悪な笑みを浮かべた。
リアは早朝、大地と毎日共に登校しては、こうして教室までついてきて、彼にちょっかいを出している。
そんな様子を隣の席で陽子は黙って見ていた。
リアくんって男の子だよね……? でも大地にくんにはベタベタしている……。 まさかそっちの気でもあるのかな……?
考えれば考えるほど彼に対して謎が深まり、陽子は遂にある決心をしたのだった。
昼休み。
渡り廊下で陽子はリアを見つけ、呼び止めた。
「リアくん。 ちょっと良いかな?」
声を掛けられたリアは陽子を見ては「何じゃ、お主か。 妾に何用じゃ?」とつまらないものを見るような目で言った。
「大地くんについてだけど……」と陽子が口にするとリアの目の色が変わった。
そして彼は次第に口元を横に広げ、「良いじゃろう。 ここではなんじゃ、ちと場所を変えよう」と言って陽子を別の場所へと先導した。
辿り着いた場所は校舎裏。
薄暗く狭いので、秘密の話をするにはうってつけの場所である。
「して、大地のことについてであったな」とリアは思い出す様に口を開いた。
陽子は固唾を呑み込みながら首を小さく縦に振る。
するとリアは笑みを浮かべて言葉を放った。
「妾は西野大地が欲しい」
意味深な言葉に、「それはどう言う意味でなの?」と陽子が問うと、リアは顔色を変えぬまま「その意味を知っているから妾に聞いたのではないのか?」と返した。
「でも、男同士じゃ報われないよ?」
それは、手を引いてくれと言っているのと同じだと言う事は陽子自身気づいていた。
勿論、その言葉の真意を理解しているリアは「それはどうじゃろうか?」と不敵な笑みを浮かべる。
「どういうこと?」と首を傾げる陽子に対してリアは「それは妾が『ただの男』ならと言うことじゃろ?」と口にした。
『ただの男』なら? まさか、男装した女の子とでも言いたいの? いや、でも皆で海に遊びに行った時、確かにリアくんは男子更衣室にいた……。
思考を巡らせていく程に陽子はリアに対する謎が更に深まった。
そんな陽子の心情を無視して、リアはどこか寂しそうな表情を浮かべながら口を開いた。
「じゃが、妾の思いはきっと届かない」
それは以前、休み時間に月華とレベッカが口にしたことと同じ言葉だった。
余りの意外な発言に、陽子は「どうしてそう思うの?」と不躾ながらも聴いてみた。
するとリアは呆然とした表情を浮かべ、そして一つ深い溜息を吐いた。
「お主、まさか気づいておらんのか?」
彼の言葉に、陽子は頭にクエスチョンマークを浮かべる。
それに対して更に呆れるリアであった。




