ハロウィンな先生、再び
昼休み。
大地はいつもの面子で他愛のない会話をしていると、不意に近くの扉が開かれた。
視線をそちらに向けると、そこに立っていたのは、フランケンシュタインと言うまだハロウィンにしては少し早すぎる格好をした道徳の教師、不蘭拳だった。
それにより、一斉に静まり返るクラスメイト一同。
不蘭は教室を見渡し、大地を見つけると彼の下へと足を運ぶ。
「西野大地。 少し良いか?」
「お断りします」とは言えず、大地は彼の気迫に圧され、「はい……」と彼の跡をついて行く形となってしまったのだった。
連れていかれた場所は科学室だった。
遂に解剖される……!
身の危険を感じた大地は静かに踵を返し、教室に戻ろうとしたが、「どこへ行くつもりだ?」と不蘭に寒気の感じる低い声音で襟首を掴まれ、そのまま中へと連れさられた。
「お、来たか」
科学室には大地のクラスの担任を務めている清水義孝がいた。
彼は実験道具を使って何やら得体の知れない毒々しい色をした液体を精製していた。
「何やっているのですか? 先生」と大地が聴くと義孝は「クスリ」と不敵な笑みを浮かべながら危険な発言をした。
「俺を実験体にするつもりですか?」と後退りながら冷や汗を掻く大地に対して「するわけねぇだろ? あのバカじゃあるまいし」と義孝は呆れる様に否定した。
義孝が口にした「あのバカ」と言う人物が用意に想像できてしまった大地は少しげんなりと肩を落とした。
それで、と大地は気を取り直して不蘭に視線を移す。
「何故、俺をここに連れてきたのですか?」
それは……、と不蘭は無表情のまま固い口を開いた。
「ジャックの事でお礼をしたかったのだ」
ジャックについて? と大地は首を傾げる。
「大地。 気付いていないのかもしれないが、お前はジャックを更生してくれた。 とある事件をきっかけに人間たちに対して心を固く閉ざしたあいつを、君は光を照らしてくれた」
お礼をさせてくれ、ありがとう、と不蘭は大地に深く頭を下げた。
それを見た大地は優しく微笑み「別に、俺は何もしていませんよ?」と告げた。
不蘭は頭を上げ、大地を見る。
それと同時に大地は言葉を続けた。
「ジャックが自分で変わったんです。 俺はただ彼の相談を聞いただけですよ」
その言葉を聞いて、不蘭は初めて小さく口元を緩めた。
「所で、何故俺はここに連れて来られたのですか?」
大地の問いに、不蘭は僅かながらも頬を朱に染め「あそこじゃ恥ずかしいからここに連れて来てお礼を言いたかった」と告げた。
意外とシャイなんだな、と大地は思ったのだった。




