東大寺海斗の憂鬱
九月上旬。 夏休みが上げた最初の土曜日。
大地は居候のリアに(いやらしい意味で)責め立てられていた。
学校の日も、休日も所構わず発情した猫の様に寄ってくる。
彼にそっちの気があると勘付いた大地は自分の貞操の危機に毎日悩まされていた。
その内、本当に(性的な意味で)喰われるのかと思うとリアが悍ましい存在に思えてならなかった。
リアの(色々と危ない意味で)スキンシップを受けている中、不意に家の呼び鈴が鳴った。
現在午後一三時半。 隣の家に住んでいる親友なら午前からやって来るので多分彼ではない。
宅配便か、母の客か、はたまた自分の他の友達がやって来たのか。
考えていると一階から自分を呼ぶ母の声が耳に入った。
大地は返事をしてリアと共に一階の玄関へと向かう。
その先に待っていたのは、
「こんにちは、大地先輩。 何の連絡も無しに突然訪れて申し訳ございません」
空が目に付けている一年生、東大寺海斗であった。
彼は突然の勝手な訪問に申し訳ないと言った表情を浮かべながら頭を下げ堅苦しい謝罪をする。
嗚呼、貴方が神か。
大地は嬉々とした表情を浮かべながら彼に寄っては「よく来てくれた海斗!」と肩を叩いた。
その様子を見ていたリアはどこかつまらなさそうに頬を膨らませた。
それから海斗を部屋に入れ、話を始める。
「で、今日は何しに来たんだ?」
急に来るもんだから驚いた、と大地が聴くと、海斗は表情を曇らせ黙り込んだ。
話しにくい内容と察したリアは「席を開けよう」と一人部屋から出て行った。
「何かあったのか?」という大地の問いに、海斗はゆっくりと口を開いた。
「大地先輩たちと出会って、俺の学校生活は劇的に楽しいものへとなりました。 先輩たちには感謝してもしきれません」
しかし、と海斗は表情を曇らせたまま言葉を続けた。
「先輩たちがいなくなったら、どうなるのだろうと」
彼の言葉に、大地は深く胸を締め付けられた。
コイツ、去年の俺と同じ悩みを持っている……。 そうか、俺たちは三年生。 海斗は一年生。 俺が学校生活二年目で経験した悩みをコイツは今、感じているのか……。
そう考えると他人事とは思えなくなった大地は彼に伝えるべき言葉を考慮する。
その時、不意にある一人の先輩の言葉を思い出した。
「今はその気持ちに目を背けておけ」
大地の言葉に、海斗は目を丸くする。
それに構わず大地は言葉を続けた。
「どうせ、来るべき日には嫌と言う程向き合うのだから。 今は目を背けておけ」
今なら解るかもしれない。 三人の先輩の気持ちが。
まさか自分が後輩に言う日が訪れるなんて、大地は考えてもいなかった。
それを聞いた海斗はどこか満足のいった様子で口元を緩めた。
「今日はありがとうございました」
彼はそう言って一礼し、立ち上がる。
玄関まで送ろう、と大地は海斗を玄関まで案内した。
「また、何かあったら来ると良い。 歓迎するぞ?」
対して海斗はニコリと微笑み「ありがとうございます」と言って踵を返し、帰路へと着いた。
そんな彼の後ろ姿を見つめ、大地はどこか寂しい何かを覚えるのであった。




