押し掛け魔王
午後一七時を回った頃、大地は酷く疲れた様子で家に戻った。
「ただいま」と言って玄関を開けるとそこには母の靴とは別に見た事が無い靴が二足並んでいた。
その二足は黒の革靴で高そうな輝きを放っている事が素人目でも見て解る。
お客さんが来ているのかな? と大地は思いながら靴を脱いでリビングへと向かった。
「あら、おかえり大地」と聞き慣れた声が耳に入る。
「戻ったか」と今日どこかで聞いたことがある様な声が耳に入る。
「お帰りなさいませ」と聞き慣れない声が耳に入る。
その二人の声の主を見て、大地は拳を強く握りしめ、身体を小さく震わせた。
「何故……、何故お前がいるんだ!? そしてそこにいる執事は誰だ!?」
叫ぶ大地に対して、「何だ? 騒々しいの」とリアはどこか呆れる様に言った。
「今日会ったばかりのヤツと知らないヤツが家に上がっていたらそりゃ驚くわ!」とツッコんだ。
「ウム。 それもそうだな。 妾は今日からこの執事と共に暫くここにホームステイさせておらう事になった」
は……?
リアの発言に口を開いたまま呆然とする大地。
暫くしてその言葉の意味を理解すると「何でそうなる!?」と戸惑いを隠せずにいた。
するとリアは「まあ、妾はこの国に住居が無い身じゃ。 ジャックとガルム同様、ホームステイ先を探しているところ何と『たまたま』お主の家が空いていた、ということじゃ」丁寧に説明した。
その説明に大地はどこか意図的なモノだと感じ取った。
「まあ、良いじゃない大地。 弟が出来た思えば。 それに貴方も弟欲しがっていたでしょ?」
母の言葉に「こんな洋風な弟を欲しがった覚えは無い!」と大地は声を荒げた。
「ダメ……、なのか……?」とリアは両の拳を顎の近くまで上げて、美少女だけが許される
涙目上目遣いをしながら甘えて来る猫の様な声で大地に迫る。
うっ……! コイツ、パッと見女に見えるからってあざといマネを……!
『許さないから』
放課後の教室での陽子の忠告を思い出し、大地は我を取り戻し一つ深い息を吐いた。
「解った。 住まわせてやる代わりに絶対に可笑しな真似をしてくれるなよ?」
「それは所謂フリと言うヤツか?」
「フリじゃねぇよ!」
こうして、リアとその執事との同棲生活が始まったのであった。




