魔王襲来
昼休み。 大地たちはいつもの様に談笑している時、少年はやってきた。
日本では有り得ない赤い髪。 身長は陽子より少し下回るくらいか、とても高校生とは思えない風貌をしている。 女性が羨む白い肌をしており、その中世的な顔立ちは女の子と間違われてもおかしくない。
そんな少年を見て、近くに座っているジャックとガルム、菅原と金子がガタッ! と席から立ち上がった。
「そこの者」
大きな瞳で辺りを見渡し、大地を捉えると同時に指を指す。
指を指された大地は「えっ、俺?」と素っ頓狂な声を上げた。
「そうじゃ。 主が西野大地か?」
こいつ、年下の癖に初対面の先輩に対していきなり呼び捨てかよ、と大地は思いながらも「ああ、俺が西野大地だが?」と答えた。
すると「馬鹿者!」とジャックが叫び少年の近くに移動する。
「この方を何方と心得ているんだ!」と言うジャックの言葉に「いや、知らねぇわ」と大地は答える。
大地たちの事情を思い出したジャックはそうだったと額に手を置いて脱力する。
「ジャック、別に良い。 この者たちが妾の事を知らないのは無理もなかろう」
少年はそう言ってジャックより少し前に立ち、自己紹介を始めた。
「妾の名はリア。 ジャックたちの国の長をしておる」
その発言に驚愕の顔を浮かべる空を除いた大地一同。
ガルムはと言うと部屋の隅で丸まってブルブルと震えている。
「し、しかし陛下。 何故この様な場所へ……?」
ジャックの問いにリアは「なに、ジャックたちの心を繋げた人物たちがどの様な者なのか一目会いにきたくなっての」と言って大地に視線を送る。
「ほう……。 中々に良い眼をしておる」
気に入った、と言ってリアは大地に指を指して言葉を続けた。
「西野大地。 お主、妾の家臣となれ」
思わぬ爆弾発言に驚きを隠せない大地一同。
すると「ちょっと待ちなぁ!」と空が横から口を開いた。
「何じゃ主は?」と言うリアの問いに「俺の名は空。 東野院空。 大地の親友だ」と言った。
対してリアはどこか嫌そうな表情を浮かべながら「そうか……、お主が『あの』東野院か。 噂はそこの馬鹿共から常々聴いておる。 して、何用じゃ?」と言った。
「大地をテメェの家臣にする訳にはいかねぇのよ」と空にしては珍しく真面目な顔つきをしていた。
月華から見た空のその姿はまるで恋人を悪手から護る王子の様に見えた。
「ほう? それは何故じゃ?」
「何故も何も、大地は俺の、俺たちの友達だ。 もし大地を家臣にしたければ……」
「したければ……、何じゃ?」
「大地をその気にさせてみろ!」
空の言葉に、「ちょっと待て! 何故そうなる!?」と驚きを隠せない大地。
「フム。 家臣にしたくばその者の心を魅了すれば良いのだな? 良かろう」
リアの言葉に「ちょっと待て。 何か話が変な方向に向かおうとしているぞ?」と大地は言った。
しかし、そんな彼の言葉を耳にすることなく、「さらばだ」とリアは教室から出て行った。
「陛下!」とジャックとガルムが焦りながら彼の跡を追っていった。
「おい! どうすんだよ!? 何か変な感じになったじゃねぇか!?」と声を荒げる大地に空は小指で耳をほじくりながら「別に良いだろ? お前があのショタ王子に心を惑わさなければ良いんだ」とどこか面倒臭そうに返した。
「リアと大地……。 イイッ!」と恍惚な表情を浮かべながら身体を小さく震わせる月華に対して「良くないよ!? 全っ然っ良くないよ!? ってか何で俺が受けなの!?」と大地はツッコんだ。
「信念が強い大地なら大丈夫だよ!」とジャスティスは何の根拠も無くそう言った。
「信念が強い大地殿なら大丈夫ですぞ!」と一騎は何の根拠も無くそう言った。
「そうだな。 大地は信念が強い。 だからきっと大丈夫だ!」と菅原は何の根拠も無くそう言った。
「信念が強い大地ならノープロブレムだよ!」とレベッカは何の根拠も無くそう言った。
「投げやりに言われても困るのだけど!? それより助けてよ!」と叫ぶ大地。
「大地くん」と陽子は大地に近付いて言葉を続けた。
「もし彼に靡く様な事があれば、その時は私……、許さないから」
近くにいる鉄仮面の雪姫でさえ悪寒が走る様な酷く冷たい笑みにその場に居た一同は戦慄を覚えたとか。




