新学期
目覚まし時計の鐘が部屋中に鳴り響く。
大地はベッドの上で横になったまま腕を伸ばしそれを止める。
重たい身体をゆっくりと起こして大地は目覚まし時計の時間を確認する。
現在午前六時。
大地はベッドから降りてリビングへと向かった。
「おはよう、大地」
聞き慣れた母の声が耳に入り込む。
対して大地は「おはよう」といつもの様に返して洗面所へと向かった。
顔を洗い、再びリビングの食卓に着く。
すると母が用意していた朝食を大地の前に並べて「はい、どうぞ」と言った。
「いただきます」
大地は合掌して朝食を摂り始める。
母は大地の前の席に座って「今日から新学期ね」とコーヒーを啜った。
そう、今日は四月一日。 春休みが終わり、新学期が始まる。
またあの親友に振り回されるのかと思うと大地は肩を落とした。
「もう三年生なのね」
その言葉に大地がピクリと反応する。
それに構わず母は言葉を続ける。
「進路は決めているの? 何かあったら相談してね? 最期の高校生活、悔いが無いように」
今の大地には耳が痛い言葉であった。
母の言う通り、泣いても笑ってもこれが最期の高校生活である。
皆、それぞれの進路に向けてより一層、勉学に励むことであろう。
もし、今の学校を巣立つ時が来たら、俺は笑っていられるのだろうか?
きっとあの空とも離れ離れになる。 あいつだけじゃない。 月華や陽子とも……。
今まで自分に付き合ってくれた友達とも……。
大地は自分たちより先に巣立った三人の顔を思い浮かべる。
彼らがいない春休みは、空には悪いが物足りないと感じていた。
考えれば考える程、胸が締め付けられる感覚を覚える大地はそこで思考を停止して皿に残っている朝食を全て口に放り込み「ごちそうさま」と言って使った食器をシンクに移し自分の部屋へと戻り制服へと着替える。
そしてそのまま姿見の鏡の前に立ち、それに映る自分の姿を見た。
この制服を着られるのも今年が最期。
大地はほうっと一つ息を吐き、決心がついたのか、よしっ! と目を光らせ通学鞄を持って家から出て行った。
それと同時に隣の家に住む空も出てきた。
「よっ! 大地! 学校行こうぜ!」
彼にしては珍しく普通の登場に大地は少し驚きを感じながらも空と肩を並べて学校へと向かうのであった。
「お、空、大地。 おはよう」
「おはよう。 空くん。 大地くん」
学校の坂の下で出会うは空と大地の女友達の月華と陽子。
空と大地は「おはよう」といつもの調子で返した。
「今日はクラス替えだね?」
陽子の言葉に「そうだね」と大地が反応した。
「また同じクラスになれるといいな」と月華が口にすると「だよなー。 また同じクラスになりてぇわ」と空が言った。
そうして四人は春休みでの思い出を語りながら坂を上り、学校の下駄箱へと辿り着き、靴を履き替え、近くに張り出されているクラス表に目を向けた。
「お、良かったな。 俺たち四人、今年も一緒だぜ」
そう口にするは空。
「今年も楽しい事が起こりそうだ」と月華は微笑んだ。
「今年度も宜しくね!」
陽子のその言葉に「こちらこそ!」と空と大地、月華が答えた。
「やあ、皆」
不意に声を掛けて来るは世界最弱の正義の味方、ジャスティス・正義であった。
彼はクラス表に目を向けると口元を横に広げ、
「嬉しいな。 今年も君たちと同じクラスだよ」と言った。
「今年も宜しく」と空たちは返した。
すると後方から「皆さん!」と大声上げながら駆けて来るは自称侍兼大地の下臣の宮本一騎だった。
彼は皆の前で立ち止まり「おはようございます!」と勢いよく頭を下げた。
皆は彼に「おはよう」と返すと一騎は視線をクラス表へと向けた。
「おおっ! 今年も皆さまと同じでゴザル! ありがたい! 皆さま、不束者ですが宜しくお願いします!」
対して空たちは「おう、宜しく」と返した。
「皆揃っているな」
そう言ってやって来るは相変わらず痛いオーラを発しているヴィジュアル系男子の菅原葵。 彼の後ろには白く長い髪が特徴的な女の子、金子雪姫がいた。
お互いに挨拶を交わし葵はクラス表へと目を向けた。
そして不敵な笑みを浮かべて「どうやら俺たち二人も同じクラスの様だ。 よろしく頼む」と口にした。
後ろに控えている雪姫もヒョコッと顔だけ出して「よろしくー」とピースサインをする。
この様子だとアイツもきっと同じクラスなのだろうな……。
そう大地が思っているとそれはやってきた。
「はぁーいっ! 新学期早々ジャジャジャーンッ! 皆大好き! ジャック・オ・ランタンだよー!」
どこからか突然現れるはカボチャ頭を被った季節外れなハロウィンボーイのジャック・オ・ランタン。
皆慣れてしまったのか、特に驚く様子もなく「おはよう」と挨拶を交わす。
そんな皆の反応を気にする事無く彼はクラス表へと目を向ける。
「同じクラスだね。 宜しく」と淡々と言ってきた。
やはりか。 と大地は思った。
「ハーイ、空、大地。 久しぶりね」
空と大地の二人に声を掛けて来るはいつかの特撮ヒーローの仮面を被っている少女、レベッカ・ブラウニー。
その時、月華と陽子の目が鋭く光る。
「おい、大地。 その娘は誰だ?」と月華はどこか浮気現場を目撃した嫁の様な声音で問うた。
「ねえ、大地くん。 その娘は誰なのかな?」と陽子はどこか浮気現場を目撃した嫁の様な声音で問うた。
その二人の氷の様に冷たい視線に大地は冷や汗を掻きながらレベッカとの出会いの経緯を話した。
理解した二人は「なるほど」と言ってレベッカに近付き右手を差し出した。
「私の名は月華だ。 宜しく」
「私は陽子! よろしくね!」
「ミーのネームはレベッカ。 ナイストゥミーチュー!」とレベッカは二人と握手を交わし、クラス表へと視線を送る。
「どうやらミーも同じクラスのようだね。 よろしく!」
レベッカも同じクラスなのか。 今年度も何かと賑やかになりそうだ。
そう思いながら大地は皆と共に教室へと向かうのだった。




