アナタたちがいなくなる前に
いつかこの日が来ることを大地は理解していた。
長いようで短かった、自分が尊敬する彼らとの学校生活。
三月一日。 卒業式。
校庭にある桜は卒業生と別れたくないのか、まだ蕾のまま。
大地にとって、この日はどこか陽光が眩しく見えた。
卒業式が終わり、在校生たちは皆、自分がお世話になった卒業生に涙を流しながら別れを告げる者もいれば、笑みを浮かべながら再開を約束する者もいた。
勿論、大地も空たちと共に進、九十九、土御門の三人の下へと向かう。
「卒業おめでとうございます」と皆で三人を祝福すると、「ありがとう」と特にふざける様子もなくお礼を述べた。
この時、大地は自分が今まで目を背けていた感情に気付く。
三人の先輩と過ごした思い出が次々と蘇る。
初めて出会った時のこと、ゲームセンターでの出来事、海でビーチフラッグをした思い出、花火大会、草スキー、クリスマスパーティー、温泉、雪合戦、春休みのお泊り会、観光名所巡り……。
気づけば大地の頬には涙が流れていた。
「進先輩……。 九十九先輩……。 土御門先輩……。 その……」
今までありがとうございましたって言わなきゃ……!
しかし、口が堅く閉ざされて言えない。
言わなくては……。 ありがとうございましたって……。
言わなきゃ、言わなきゃ……!
「大地」
不意に進むから声を掛けられた。
大地は俯かせた顔を上げ、彼を見る。
進のその顔はどこか愛しい家族を見るような表情だった。
「いつかこんな日が来ることは解っていた。 お前だけじゃないんだぜ? この日が来ることをどれだけ恐れていたことか」
その言葉に、大地は自分だけではなかったと気づかされる。
「でも、会うのはこれで最期とは限らない」
そう口にするは九十九だった。
「あの青い空が繋がっている限り、俺たちは必ずどこかで再開する日が来る」
その時はさ、と土御門が口を開いた。
「また、馬鹿みたいに騒ごうゼ?」
そうか……。 そうだよな……。 会うのはこれで最期とは限らない。
大地は溢れ出る涙をブレザーの袖で拭い、勢いよく頭を下げた。
「卒業おめでとうございます!」
こうして、大地は進、九十九、土御門の三人との学校生活が終わったのだった。
その時、彼らの頬を撫でた風はどこか祝福してくれるかの様に生暖かった。




