チェンジ・ザ・パンプキン
新学期が始まって、気が付けばもう十月に入っていた。
あれから進たち三人とあまり関わる事がなくなり、大地は何とも遣る瀬無い気持ちに襲われる。
時間は有限だ。 また三人と関わる事が好機があれば後悔しない様にじっくりと味わおう。
そう心に言い聞かせながら大地は目前に映る丘の下に広がる住宅街を眺めた。
時刻は夕時。 今日は大地が一人になりたいと言って、自ら皆の輪から離れた。
生暖かい風が大地を慰めるかの様に頬を撫でた。
それにより一層、悲壮感が増す。
嗚呼、何か切ないな……。
目前に映る景色を見て黄昏ていると、不意に後方から「やあ」と声を掛けられた。
そちらに顔を向けるとそこにはいつかの季節外れのカボチャ頭のハロウィンな少年、ジャック・オ・ランタンがいた。
大地はそっと景色の方へと視線を移し、そのまま頭を抱えた。
今日は一人でいたい気分だったんだが……。
そんな大地の心情を知る気も無いジャックは彼の許可無く隣に移動する。
何で隣に移動するんだよ……。
「西野大地くん」
そのカボチャ頭に似合わない真面目な声音に、大地はピクリと反応した。
ジャックはそのまま言葉を続ける。
「今まで自分たちを敵視して来た他人種が、これからは仲良くやっていこうと言われた時、君ならどうする?」
どこかで似たような事を聞いたことあるような気がしてならない感覚に襲われる大地。
他人種、きっと菅原の事を言っているのだろう。
「どうすると言われても、何か敵視されるような事をしたのか?」
大地の問いに、ジャックは小さく首を縦に振り、包み隠さず話した。
「年に一度の行事で少し手を滑らせてしまってね。 一人の他人種の命を奪ってしまった。 悪気があってやった訳ではないんだ。 しかし、他人種は僕らを『危険な存在』と見なし、敵視する様になったんだ」
そんな事があったのか、と大地は少しだけ驚いていた。
「一応、和解は出来たんだ。 ただ一人だけを除いて……」
その言葉に、菅原の姿が脳裏に浮かぶ。
「でも、そんな彼が、何のきっかけがあったのか、僕たちと和解しようとしてきたんだ。 余りの突然過ぎて、訳が解らなかった……」
ねえ、とジャックはカボチャ頭を大地に向けて言葉を続けた。
「どうすれば良いと思う?」
対して大地は顎に手を添えて思考を巡らせる。
そして答えが出たのか、ゆっくりと口を開いた。
「そこは素直に受け入れて良いと俺は思う。 お前ら自身もその過ちを悔いている。 だから必死に和解をしようとしてきたんだろ? 『待ち望んだ結果が来た』それで良いじゃないか。 それから新しい思い出を一緒に作っていけば良い」
大地の言葉に、ジャックは黙りこんだ。
沈黙が走る中、生暖かい風がゆっくりと二人の頬を撫でる。
「僕たち、また最初からやり直せるのかな……?」と言うカボチャ頭に似合わない不安気な言葉を口にするジャックに対して「そこはお前たちのこれからの行動によるんじゃないか?」と大地は口を横に広げた。
その言葉が彼の背中を押す形になれたのか、ジャックは「そうだね! うだうだ考えても答えなんてやってこないもんね!」といつもの様なおちゃらけた感じが出てきた。
「ありがとう! 西野大地! 君のこれからに幸あれ!」
ブンブンと手を振って大地の前から立ち去って行った。
上手くいくと良いな、と大地は去って行くジャックの後ろ姿を見てそう思ったのだった。




