君たちがいる夏
八月某日、今宵もこの日がやってきた。
真っ暗なベランダで並べられた料理や飲み物を片手にいつもの面子は談笑する。
「今年の夏休みも楽しかったなー」と言う空の言葉に賛同する様に「いやぁ、今までの夏休み以上に満足させてもらったぜ」と進は片手に持っているコーラを口に含む。
「ありがとな、大地ちゃン!」
土御門は本当に楽しかったのか、ベランダに並べているホールピザの一切れを豪快に食べた。
「一年生たち、今年も沢山の思い出をありがとう」と言う九十九の言葉に「楽しんでくれて何よりです」とどこか憂いを帯びた笑みを大地は浮かべた。
その瞬間を九十九は見逃さなかった。
「まだ時間はありますし、これからももっと楽しい思い出を作っていきましょう!」
ジャスティスの言葉に、土御門が「その案には乗ってやりてぇんだがなァ……」と彼にしては珍しく気まずそうな表情を浮かべて言葉を続ける。
「俺たちは三年ダ」
三年生、と言うフレーズに大地は僅かな胸の痛みを覚えた。
その理由は思考を巡らせなくとも嫌というほど理解出来る。
大地は固唾を呑み込み覚悟をしながら土御門の言葉の続きに耳を傾けた。
「それぞれ進学や就活で忙しくなル。 だからこれからは余りつるめなくなるナ」
それを聞いた大地はまるで現実を押し付けられたかの様な表情を浮かべながら俯かせる。
「まあ、暇な時間があればすぐに駆け付けるぜ」と進は笑みを浮かべると同時に花火が上がった。
皆はそれぞれ、夜空に打ち上げられる色とりどりの花火を忘れない様に、この瞬間を味わう様に、その目に刻むのだった。
親友と同じ雰囲気を纏っているバカな生徒会長、神藤進。 面倒見の良い九十九悟。 見た目は怖いけど実はとても優しい先輩、土御門良平。 最弱の正義の味方、いつかは真の正義となるであろう、ジャスティス・正義。 ヴィジュアリズム全開な菅原葵。 大地の下臣兼自称侍の宮本一騎。 そして親友、東野院空。
まさかこんな個性的な友達が出来るなんて、当初の大地は思いもしなかった。
そんなものとは縁が無いものだと思っていたのだから。
三人の先輩はこれから進路で忙しくなり、中々遊べる機会がなくなるのだろう。
この時の大地は、胸を締め付ける感覚が何なのか解らないまま、ただ夜空に上がる花火をその目に焼き付けるのだった。




