闇の住人、再び
放課後、大地は珍しく学校の裏にある丘で一人景色を眺めていた。
空は『面白い』事を探索しに、月華と陽子は二人きりでどこかへと消えて行った。 ジャスティスは用事があるらしく一人で先に帰った。 菅原と金子は珍しく欠席をしていた。 一騎は部活と言う名の修行へと向かった。
六月中旬。 生徒たちは全員、夏服へと衣替えを済ましている。
日本らしい湿気のあるジメジメとした嫌な季節がまたやってきた。
生暖かい風が大地の長く伸びた黒い髪を靡かせる。
この場所に訪れるのは久しぶりだな、と大地は懐かしむ様に目に映る住宅街を見回す。
暫く黄昏ていると、後方から誰かがやってきた。
そちらの方に振り返ると、今日は学校を欠席していた筈の菅原葵がいた。
勿論、欠席している為、制服ではなく私服を着ている。
お互いの目が合い、沈黙が流れる。
気まずく感じる大地はすぐに視線を景色の方へと戻す。
すると、菅原は大地の隣へと移動した。
いや、何ちゃっかり隣に移動してんの? それより何で今日、学校をサボったの? 何でいつにも増して痛いオーラ発してんの?
大地はいつにも無く気まずい空気を感じた。
二人は黙ったまま、ただ生暖かい風に自分たちの長く伸びた髪を靡かせる。
「大地」
風が止むと同時に、菅原が先に口を開いた。
「大切なものを奪われた時、お前ならどうする?」
また何とも痛い発言を……。
大地は頭を抱えた。
視線を菅原に向けると彼の顔はいつになく真面目だった。
「何か大切なものを奪われたのか?」と言う大地の問いに菅原は「そうだな。 他人種に事故とはいえ、大切なものを奪われた」と目つきを鋭くさせ拳を強く握りしめた。
他人種、外国人かな?
大地は思考を巡らせる。 もし自分が目の前で大切なものを奪われたらどうするか。
暫く考えて答えが出たのか、大地は口を開いた。
「俺は多分、何もしないと思う」
その答えに菅原は大きく目を見開いて驚いた。
「何故だ?」
「奪っていったそいつに何か仕返しした所で大切なものは戻って来るのか? 例えそれを達成した所で次から次へと負の連鎖が生じて奪い合いが続くだろう」
だからさ、と大地は言葉を続ける。
「自分で終わるんだよ。 水に流すんだ。 そうすればいつか自分から奪っていったそいつも気づく筈さ。 自分が犯した罪に」
「気づくのだろうか?」
「気づかなければそいつはそれまでの人間だったって話さ。 いずれ捕まって法に裁かれる」
大地の言葉に、菅原はどこか吹っ切れたのか、その口元は僅かに横に広がっていた。
「ありがとう、大地。 俺、少し頑張ってみるよ」
その言葉を残して菅原は目の前から去って行った。
何か解らないが、上手く行くと良いな、と願う大地であった。




