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ツッコム俺の身にもなってくれ!!  作者: 楽椎名
レベルアップ!! 二年生編
36/80

魔女と狼少年

 それは、大地が学校の廊下を歩いている昼休みの出来事であった。

 その日は珍しく一人になってしまった。

 空は「『面白い事』を探索しに行く」といつもの病気を発しながらどこかへと消えてしまった。 月華と陽子は「たまには二人で話したいことがある」と意味深な言葉を残してどこかへと去って行った。 ジャスティスは「困っている人がいないかパトロールしてくる」と何とも彼らしい発言をして廊下へと飛び出していった。 菅原と金子は「用事がある」とだけ残して教室から離脱した。 下臣兼自称侍の一騎は「鍛錬しに行ってくるで候」と言って剣道の道具を持って体育館へと修業の旅へと行った。

 こうして一人になった大地は暇つぶしに校内を歩き回ることにしたのだ。

 しかし、あいつ等がいないだけでこうも静かなのか……。

 いつもの面子がいない事で、その者たちの存在がどれだけ大きな存在かと言う事を大地は改めて認識する。

 また、こんな日が来ても良いようにプランを立てようと心に誓ったその時だった。

「どいたどいたぁっ!」と後方から男の声と廊下を駆ける足音が耳に入る。

 何事だと大地がそちらに振り向いた時、大きな衝撃を覚え、その場に勢いよく尻餅をつく。

 地味に痛む腰を抑えて「何なんだ?」と目の前を睨みつけるとそこには自分と同じく尻餅ついた腰を抑えて痛みに耐えている男子生徒の姿があった。

 身長は大地より十数センチ程高いくらいで、ボサボサに跳ねた茶色の髪、赤く鋭い鋭利な瞳は獲物を探す狼を連想させる。

 制服を雑に着ており、そして何より獣臭く、不潔なものを感じた。

「いやぁ、悪ぃ悪ぃ! すまねぇが先急いでいるからよ」

 少年はそう言って立ち上がると何か匂いがするのか、鼻を嗅ぎ始める。

 そしてそれは大地の身体に降りかかる。

 それにより背中に悪寒が走る大地。

「お前、良い匂いがするな!」

 目を輝かせながら少年は大地に抱き付き匂いを堪能し始めた。

「な、何だ!? おい、止めろ!」

 身体全体に鳥肌を立たせながら大地はもがくが少年の力が強すぎて振り解けない。

 周りにいる生徒たちは彼ら二人とどこか身を退くような冷めた視線を送っていた。

(色んな意味で)食われる……!? 誰か、助け……!

「コラッ! ガルム!」

 後方から小鳥の様な可愛らしい声が耳に入ってきた。

 すると大地に抱き付いている少年はビクッ! と身体を跳ねあがらせ、そのままゆっくりとそちらに振り向いた。

「もう逃がさないわよ!」

 陽子よりも少し背が低い位か。 何とも華奢な身体つきをしていた。

 少しパーマがかかった桜の様な淡い桃色をした長い髪。 大きな瞳は深い海の様に青く、健康的な白い肌にその整った顔つきはその年齢に似つかわしいあどけなさと美しさがあった。

 気になる点を述べるとすれば、彼女は頭に魔女の様な黒いトンガリ帽子とブレザーの上に黒いマントを羽織っている。

 大地に抱き付いている獣臭い少年は「ゲッ!? ジェシカ……」とそのまま後退る。

 魔女のコスプレをした少女は対して怖くも無い膨れっ面をしながら大地たちへと歩み寄る。

「もうっ! 一人で勝手に動き回っちゃダメって言われているでしょ!?」

 ジェシカと呼ばれた少女のその言葉にガルムと言う少年は「うるせぇな。 別に良いだろ?」と大地を抱いたまま片耳を指でほじくりながら面倒くさそうな表情を浮かべる。

「アンタ、この世界での常識を知らないんだからアタシと一緒にいないと駄目じゃない!」

 彼女の「この世界の常識」と言う発言といい、その魔女のコスプレといい、菅原とは違った痛いものを大地は感じた。

 そんな彼女の友人であろうガルムは「そ、そうだ! ジェシカ、聴いてくれよ! コイツ、人間の癖に良い匂いするんだぜ?」と半ばやけくそになりながら抱いている大地を差し出す。

 するとジェシカは少しだけ目を丸くした後、すぐに呆れる様に深く溜息を吐いて「ごめんね。 獣臭かったでしょ?」と謝罪した。

「獣臭いとは酷いじゃねぇか!?」というガルムの言葉を無視してジェシカはブレザーの胸ポケットから杖を取り出し「デオドライズ」と呟きながら振るった。

 すると、ガルムの身体が小さく輝き、光が収まると彼から獣臭さが無くなった。

 何をしたんだ?

 そんな大地の心情を知らないジェシカは「ほら、行くよ!」と言ってガルムの首根っこを掴んでどこかへと連れて行く。

 彼女に引っ張られているガルムは「またな!」と軽く手を振ってそのまま引きずられていった。

 奇怪な二人組だったと大地は苦い笑みを浮かべながら立ち去る彼らの姿を見送った。

「大地!」

 後方から駆け付けてくるは厨二病患者の菅原葵とその友人、金子雪姫。

「怪我は無いか?」

 菅原の問いに「いや、してないが?」と大地は答える。

 すると彼はどこか安堵したのかホッと息を吐き、すぐに真面目な面持ちで大地と顔を合わせる。

「あの二人組は危険な存在だ。 もし、また出会うことがあれば気を付けろ」

 お前の方がよっぽど危なく見えるが? とはあえて大地は口にせず、「解った」とだけ答えた。

 ガルムとジェシカ。

 個人的にはどこかのカボチャ頭をした少年ばりに関わりたくないと大地は思うのであった。


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