ドキドキ! バレンタインデー!
目が覚めた大地はそのまま視線をデジタル時計に記してある日付を見て小さく溜息を零す。 そして重たい身体に鞭を打ってベッドから降りてリビングへと向かった。
「おはよう、大地」
リビングに辿り着くと聞き慣れた母の声が耳に入る。
大地は「おはよう」と軽く返して食卓へと着いた。
「はい、どうぞ」と目の前に朝食が並べられる。
「いただきます」と合掌して端を手に取り大地は母が作った朝食を口に運ぶ。
今日も美味い。
朝食を食べ終えた大地は「ごちそうさま」と言って使った食器をシンクに移し、自分の部屋に戻り制服へと着替えた。
洗面所で歯を丁寧に磨き終え、通学鞄とプレゼントを運ぶサンタが持っている袋くらいの大きさをしたビニール袋を持って、「行ってきます」と家から飛び出すと同時に隣の家絵の玄関から親友、東野院空が現れる。
彼は大地と同じく、大きなビニール袋を手に持っている。
「よっ!」と軽く手を振り、空は大地と肩を並べて学校へと向かうのだった。
「おはよう、大地くん! 空くん!」と学校の玄関で声を掛けて来るは大地たちの友達の一人、北村陽子。
「おはよう、二人とも」と彼女の隣にいる月華も後に続く様に挨拶をした。
対して空と大地は「おはよう」といつもの様に返した。
月華は二人の手に持つビニール袋に気がつき、「何だそれは?」と指摘した。
「ビニール袋だ」と空が答えると「いや、それは解るが何故、必要以上にデカいビニール袋を持ってきているんだ?」と月華が問いかける。
彼女のその疑問に空はフッ! と鼻で笑い「何故なら」と勢いよく自分の下駄箱を開く。
すると中から大量の可愛いらしい包装が施された色んな形をした箱が大量に出てきた。
「今日は二月一四日。 バレンタインデーだからな」
空はそう言って下駄箱から溢れ出たチョコをビニール袋へと詰めていく。
大地も自分の下駄箱を開けると空と同じようにチョコが溢れ出てきたのでそれを袋の中へと詰めていった。
「二人とも……、意外とモテるんだな……?」と月華は少し驚愕しながらそう言った。
その言葉に、「まあな」と空と大地が揃えて口にした。
「ふ、二人はそのっ! き、きき、気になっている人とかいるの?」
二人の様子に戸惑いを隠せない陽子の問いに、空と大地はピタリと止まって彼女たちに目を向ける。
「ぶっちゃけると俺はマジでいないな」
そう答えたのは空だった。
「こうは言っているが、実際、空は本当にそう言った奴はいない」と大地がフォローする様に言った。
「そうか、大地がそう言うのならいないのだろうな」と月華は納得した。
あれ? 俺、意外と信用されていない? と空は少し焦る。
そんな心情を知らない月華は、「で、大地はどうなんだ?」と聴いた。
それには陽子も緊張した様子で耳を傾けた。
対して大地は「いるぞ」と恥ずかしがる事無く堂々と答えた。
すると陽子はショックだったのか、ズキリと胸が痛んだ。
「へぇ……、付き合おうとはしないのか?」と言う月華の問いに、大地は「しないな」と答えた。
余りにも意外な答えに「どうしてだ?」と月華は首を傾げる。
「確かに、意中の人とは付き合いたい。 だが、お前らの事もある。 俺はお前らとの思い出を沢山作りたい。 恋愛は、高校卒業してからでもなんとかなると思うしな」
それに、と大地は続けた。
「今、彼女を作ったとして、いったい何をするんだ? いや、普通にデートとかするんだろうけど、将来結婚したい俺にとっては必要のないことだと思ってな」
意外としっかりと考えられた答えに、空たち三人は目を丸くした。
そして次第に口元を緩めるのだった。
「そうか、確かに今、彼女を作ってもナニするの? としか言いようが無いからな」と言う月華の言葉に「月華のその言葉が何か違うと感じるのは俺だけか?」と大地は苦い表情を浮かべる。
「気にするな」と月華は通学鞄の中から可愛らしい包装が施された箱を二つ取り出し、それを空と大地に渡した。
陽子もそれに続く様に空と大地にチョコを渡す。
「私たちの手作りチョコだ。 味わって食べよ」と月華は少し偉そうに言った。
「く、口に合うと良いんだけど……」と陽子は頬を朱に染め、指先をモジモジさせながら言った。
チョコを受け取った二人は「ハッピーバレンタイン!」と少し照れ臭そうに頬を緩めるのであった。




