恋する陽子ちゃん
入学式が終えて一週間が経った。
校庭に咲く桜の木も所々、緑の葉が見え始めてきた。
現在、昼休み。
大地は空と月華の三人でいつもの様に昼食を摂っていた。
「…………」
ただ一人、横列の一番左側の席に座っている可憐な女の子からの視線を浴びながら。
正直、食べ辛いったらありゃしない。
視線を向けられている理由は遡ること昨日の放課後。
それは、珍しく大地が一人で下校している時であった。
「や、止めてください!」
不意に前方から女の子の嫌がる声が耳に入る。
そちらに視線を向けると自分と同じ学校の制服を着た女子生徒が三人の不良に絡まれているではないか。
ハアッと呆れたように溜息を吐き、大地は女の子の救出へと向かった。
「おい、お前ら」
「あん? 何だテメッ!?」
不良の一人の顎に掌底し、気絶させた。
「テメェッ! 何しやがる!」
他の二人が襲い掛かってくるが、大地は落ち着いた様子で宙に舞う蝶の様にヒラリとかわし、隙が出来た横っ腹に思い切り回し蹴りをいれ、一人を気絶させた。
残った一人は怯んだのか数歩後ずさる。
大地は力いっぱい地面を踏んで「ああなりたくなければ今すぐこいつらを連れて帰れ」と威圧した。
「は、はい……」
一人の不良は地面で伸びている二人の仲間を担いでそそくさと走り去った。
「あ、ああ、あのっ!」
「ん?」
恥ずかしいのか、女の子は頬を朱に染め手をモジモジとさせていた。
そんな彼女の頭を撫で、「次からは気を付けて帰れよ?」と微笑みその場から去って行った。
去って行く彼の背中を女の子はどこか恍惚とした表情を浮かべながら見惚れていた。
それから今日の朝からずっと彼女の視線を浴びている。
声を掛けてやろうかと大地は考えたが、自分の思い違いだと恥ずかしくて爆死してしまうのでここは一先ず様子見しておくことにしたのであった。
そして放課後、大地たちが下校の準備をしている時に、それはやって来た。
「あ、あのっ!」
昨日助けた女の子。
身長は大地の鳩尾辺りか、月華と違ってスリムな体型をしており、少しパーマが掛かった栗色のショートな髪、愛嬌のある顔立ちは見た者を和ませる力を感じる。
彼女はどこか緊張した様子で両手を絡ませモジモジとしていた。
言わなきゃ……。 一緒に帰りませんかって……。
そんな彼女の様子を空と月華は愛する娘を応援する様な眼差しで見守っていた。
「そっ……、そのっ!」
言わなきゃ……、言わなきゃ!
「よっ、よよっ、良かったら私もっ、ああ、あの、あなた達と一緒に帰らせて貰えませんか!?」
言い切った時、ハッとなった。
空と月華はやってしまったと額に手を置いている。
ああっ! バカバカバカバカ! 緊張しすぎてちゃんと誘えてない!
「別に良いぞ」
大地は空と月華に視線を移し「良いよな?」と聴くと二人は「う、ウン。 イイヨー」と棒読みでそれを承諾した。
「俺は西野大地。 君は?」
「よ、陽子です。 北村陽子」
「俺は東野院空! 宜しく!」
「私は南波月華だ。 宜しく頼む」
互いに自己紹介を終えると「よし、帰るか!」と大地が言って、皆それに続いた。
陽子はふと微笑み、今はこれでいいやと感じたのであった。