イケメンハーツ
それは、休み時間に教室で体操着に着替えている時の出来事であった。
「なあ、女子っていったいどこで着替えているんだ?」
一人の男子生徒がそんな事を口にしてきた。
その問いに「女子はこの学校にある更衣室で着替えているらしいぞ?」と空が答えた。
何故そんな事をお前が知っている? と大地は問い正したい気持ちを抑えながら黙々と体操着に着替えていく。
女子更衣室の存在を知った男子生徒は「マジか!?」と鼻を広げた。
「なあ、ちょっと覗きに行ってみようぜ?」と他の男子がそう言った。
それにより盛り上がる男子生徒一同。
「やめておけ」と大地はそう言った。
「何でだよ?」と男子生徒たちの視線が大地に向けられる。
大地は一つ溜息を吐き男子生徒たちに視線を向けて「覗きは犯罪だ。 バレたら今後の自分の学校生活は絶望的なものに変わってしまうぞ? お前ら、それで良いのか?」といつになく真面目な雰囲気を纏って問うた。
最もな事を言われ、押し黙る男子生徒一同。
「でっ、でもよ! 普通見たいと思わないか!? 女子の着替えているところ!」と最初に口にした男子生徒が訴える様に聞くと「見たいに決まっているだろ!」と大地が喝を入れるように声を張り上げた。
珍しくアホな発言をした大地に、見たいのかよっ!? と空はツッコミたくなる衝動を抑えた。
だが、と大地は言葉を続ける。
「たとえ覗きに成功したとしても虚しくなるだけだぞ?」
その言葉に、その場にいる男子生徒たちは黙った。
「流石イケメン。 言う事が違うな」と男子生徒が冷たくそう言った。
対して大地は口元を緩め「イケメンじゃないさ。 ただ顔が良いだけ男だよ」と自嘲する様に言った。
「どうせ、エロ本とか持ってないだろ?」と言う男子生徒の問いに「持っているぞ?」と大地は恥ずかしがることなく、寧ろ当然だろ? と聴いてくるように答えた。
彼の意外な答えに、男子生徒は目を大きく開いた。
「何をそんなに驚いている? 俺も年頃の男だ。 エロ本の一冊や二冊、持っていても可笑しい話ではないさ」と大地は微笑んだ。
男子生徒たちは、彼のその微笑みが神々しく見え、自分たちがどけだけちっぽけな存在かと言う事を思い知らされる。
「良いか? 女性の下着、いや、女性の身体は漢の浪漫だ! 簡単に見れてしまったらつまらないだろう!」
だから、と大地は熱弁を続ける。
「妄想しろ! 自分の好きな女性と一緒にいる妄想を! 努力を怠らなければ自分を認めてくれる女性は必ずいる! 希望を持て! その時が来るまで! 紳士であれ!」
ワッ! と波の様に教室中に歓声が沸き上がる。
ニ・シ・ノ! ニ・シ・ノ! ニ・シ・ノ!
「行くぞ!」
大地のその一言と共に、男子生徒たちは浪漫を求め、グラウンドへと旅立った。
この日の大地の熱弁に、男子生徒たちのイケメン度が上がったのだった。
親友の意外な一面を垣間見た空は、嬉しかったのか、口元を微かに緩め、「自分の目に狂いは無かった」と彼の後に続くのであった。




