草スキーと言う名の罠
一二月某日、快晴。
予定通り、草スキー場に辿り着いた空一向。
菅原やジャスティスは初めて来るのか、どこか唖然とした表情を浮かべていた。
そんな二人の様子を気にもしない空は「入ろうか」と言って我先に草スキー場の受付へと足を踏み入れた。
中で受付を済ませ、受付嬢からそれぞれ渡されたスキーの道具や防寒着を更衣室で身に付ける。
皆の準備が整ったことを確認すると空は口元を緩め「よし! 行くぞ!」と草スキー場へと足を運んだ。
そこには深緑色をした芝が敷地内いっぱいに広がっていた。
心なしか菅原とジャスティスは初めてテーマパークへと連れて来てもらった子どもの様に目をキラキラと輝かせている。
全員、それぞれに別れてリフトに乗り込みコースの頂上へと向かった。
「さて! 誰か滑った経験が無いヤツはいるか?」
皆が頂上に集まったのを確認し、空はそう口にした。
すると、大地が予想していた二人、菅原とジャスティスが少し恥ずかしそうに手を上げた。
「じゃあ、俺と空が教えてやろう」
何と、意外なことに私立橘高等学校が生徒会長、神藤進がそう言った。
「九十九先輩は滑れるのですか?」と言う大地の問いに、九十九は「問題ない。 よく人付き合いで来ることがあるからな」と答えた。
九十九の人付き合い。 それは、大地には想像もつかないことだった。 いや、彼は数少ない(多分)真面な人間の一人。 自分たち以外にも他に友人がいるのだろうと大地は察するのであった。
よく理姉さんに色んな所へ連れ回されているからな……、とは本人たちの前では口が裂けても言えない九十九であった。
「だったら九十九先輩と大地は先に滑っておいてくれよ。 その間に俺と進先輩で菅原とジャスティスに滑り方を教えておくからさ」
と言う空の意外な心配りにどこか裏があると感じてしまうのは彼の今までの行動が自分をそう思わせているのだろうなと大地は感じた。
しかし、そこで疑いの言葉を掛けても彼に失礼で何より無意味なことだと悟った大地は九十九と一緒にコースを滑り始めた。
それから暫く経って、菅原とジャスティスは空と進むの指導の元、それなりに滑れるようになった。
「二人とも呑み込みが早いな」と感心する大地に「二人の教え方が良かったんだよ」とジャスティスが笑った。
滑れるようになった彼ら二人はどこか嬉しそうに頬を緩めていた。
「よしっ! 菅原とジャスティスも滑れるようになったことだし、競争しようぜ!」
パンッ! と手を叩きながら言う空。
「競争って……、菅原とジャスティスはさっき滑れるようになったばかりじゃないか?」
大地が最もな答えを返すと、「俺は別に構わない」と菅原が言った。
「僕も構わない」とジャスティスもそれに賛同した。
「ほら、二人もこう言っているんだし」
それとも、と空は言葉を続ける。
「初心者に負けるのが怖いのか?」
挑発するような笑みを浮かべながら煽り文句を言った空に、大地の何かがキレた。
「面白ぇ! やってやろうじゃねぇか! 菅原とジャスティスが俺より遅くゴールインしたら空は皆に○―ゲン・○ッツな!?」
大地のその言葉に「計画通り」と言わんばかりに口端を吊り上げ、空は「良いだろう」と承諾してレースが始まった。
負けた。 それも、呆気なく。
大地は未だにその事実に向き合えずにいた。
菅原とジャスティスと言う初心者に敗北したと言う事実に。
元凶である空はとても愉快に笑っている。
進もどこか嬉しそうに卑しい笑みを浮かべている。
「何故だ……? 何故、あの二人はあんなに上達しているんだ?」
戸惑いを隠せずにいる大地に空が「おいおい。 あの菅原とジャスティスに草スキーを教えたのは俺と進先輩だぜ? そこらにいる指導員とは格が違うのだよ、格が!」と腹立たしいことこの上ない笑みを浮かべて言った。
大地はその言葉にただただ絶望するしかなく、全員に黙って高級アイスを買ってあげるのだった。




