パンプキン・ボーイ
十月に入り、それなりに涼しい風が吹く様になった。
衣替えをする日もそう遠くはないだろう。
昼休み、大地が弁当を忘れたらしく、購買にパンを買うために移動している途中に一緒にいる陽子が通り過ぎる生徒たちを見て口を開いた。
「そう言えば、内の学校って変わった格好をした生徒もそれなりにいるよね?」
そう、彼女が言った通り、大地たちが通う学校の生徒たちはそれなりに変わった格好をした者たちが存在する。
別にこの私立橘高等学校は校則はそれなりに緩い。 いや、緩すぎると言っても過言ではない。
何故、この様な変わった生徒がいるのだろうか? と大地は前から考えていた。
「良いんじゃない? 個性あって。 俺は好きだぞ?」と空が言った。
「私もだ」と月華も同意する。
個性があると言うレベルで済まされるものでもないと思うが……。
そんなことを考えていると、大地たちの目の前に「ワッ!」とカボチャを被った男子生徒が大きな声を上げながら現れた。
驚きの余りに空以外の三人が腰を抜かした。
その様子に満足がいったのかカボチャの生徒はゲラゲラと笑った。
「何だ、お前は?」
冷静を取り戻した大地は腰を上げて彼を睨みつけた。
「僕かい? 僕はジャック・オ・ランタン! ハロウィンの王様さ!」
その瞬間、大地たちの空気が死んだ。
駄目だコイツ、早く何とかしないと。
「その顔、信じてないね? まあ、信じられないだろうけど!」
ジャックは再びゲラゲラと笑いを上げた。
彼を危険視した大地は空たちに「行くぞ」と言ってその場から去ろうとした時、「まあ、待ちなよ」とジャックに肩を掴まれて制止された。
「何だ?」
睨みつけてくる大地にジャックはおどけながら「まあ、ここで会ったのも何かの縁だ」と言って目にも留まらぬ速さで腕を振るったが、空に止められた。
その一瞬の出来事を目に捉えられなかった大地たち三人は目を大きく開いた。
「お前、何のマネだ?」
空が怒っている……!?
大地と月華、陽子は驚きを隠せなかった。
あの陽気で明るい空がこれ程までに怒りを露わにしているのを始めて見たからである。
彼に掴まれているジャックの手にはナイフが握られていた。
コイツ……、僕の動きを止めるなんて……。 本当に人間か?
そんな事を思いながらもジャックは再びおどけながら、「ただのマジックナイフだよ。 刺さったりしないから安心しな」と言って手に握っている刃物が玩具である事を証明してみせた。
空は未だに怒りの表情を変えない。
二人の息を呑む睨み合いに沈黙が走る。
「ジャック・オ・ランタン!」
声を荒げて現れるは大地の友達の一人、菅原葵。
今日は普段の痛いオーラなど一切出ておらず、その瞳はただ怒りに燃えていた。
「君はいつぞやの無力な少年じゃないか。 僕に何の用だい?」
「何故、この学校にいる……?」
「ふむ、僕もこの学校に入るのは不本意だったのだが、上の人間が行けって五月蠅かったからさ、仕方なく入学することになったのだよ」
まあ、でもとジャックは彼にそのカボチャの顔を向けて言葉を続けた。
「君たちもこの学校に入っていたのは好都合だ……! いつでも君たち愚者を殺れる……!」
その言葉と同時に辺りの空気が凍り付いた。
これから何が起ころうとしているのだろうか? 不安が募る。
殺れるとはどう言う意味なのだろうか?
大地たちはただ二人の様子を黙って見守ることしか出来なかったそんな時、
「何をしている?」
助け船がやってきた。
このドス黒く低い声の主が不蘭のものだと気づくのに時間は掛からなかった。
「不蘭先生……」と菅原が呟く。
「ジャック、騒ぎを起こす事は私が許さない」
「黙れよ『裏切り者』。 僕もこんな所で騒ぎを起こすほど馬鹿ではないよ」と先程のおどけた様子とは打って変わり、そのカボチャ頭には不似合いな怒りの声音で吐き捨てその場から立ち去った。
それにより、緊張から解放される大地一向。
不蘭と菅原に色々と聴かれたが大地たちは「特に何もされてない」と答えた。
それを聞いて安心したのか、「何かあったら俺たちを呼んでくれ」と言って菅原と不蘭教員は目の前から立ち去った。
菅原に不蘭、そしてジャック・オ・ランタン。
個性的な三人の意外な一面を垣間見た一日だった。




