マスクガール
九月中旬。 まだまだ暑苦しい日が続く中、大地は三度目の一人きりの下校をしていた。
空は「少し用事がある」と言って一人でどこかへと消えて、月華と陽子はそもそも家が逆方向の為、学校から少し出た所で解散した。
いつもなら隣で空が騒いでいる筈だった。
だが、高校に入ってからこうして一人で行動することが多くなった。
五月蠅くない下校も、これはこれで寂しいものだと大地はしみじみと思うのだった。
下校の途中、不意に一つの小さな人だかりが目に映った。
「よぉ、嬢ちゃん。 悪いけどマスク外してくんねぇ?」
不良だ。 十人くらいいて、自分と同じ制服を着た頭を覆い隠す特撮ヒーローの仮面を被った一人の少女に群がっている。
誠に関わりたくない状況である。
しかし、ここでか弱い少女を見捨てるのも男としていかがなものかと感じた大地はその場に立ち止まってそっと彼女の様子を見守った。
不良が少女に手を伸ばした時、彼女はその腕を掴み取り、投げ飛ばした。
唖然とする大地と不良一向。 しかし、一人の不良が「テメェッ!」と叫んで少女に突っ込んでいった。 他の不良たちもそれに続いた。
少女は巧みな足さばきで不良たちの攻撃を避けては隙が出来た箇所に強烈な左ストレートをお見舞いして撃退していく。 その姿はさながら敵を倒す特撮ヒーローそのものに見えた。
「そこまでだぜ、嬢ちゃん」
少女の背後から不良が抑えたことで動きが止まった。
「手こずらせやがって……! 覚悟は出来てんだろうなぁ?」と不良たちはジリジリと少女に詰め寄る。
やはり無理があったか、と大地は近くにある小石拾い、それを不良の背中に目掛けて思い切り投げた。
その石はビュッ! 風を切る音を出しながら不良の背中へと直撃した。
「痛ぁっ!?」
諸に喰らった不良は、余程痛かったのか、その場に転げ回った。
「誰だ!?」と不良たちが一斉に大地の方へと視線を向ける。
大地はゆっくりと歩きながら不良たちの方へと向かっていく。
「大の男が寄ってたかって一人の少女をイジメるとは感心しないな?」
その言葉に「うるせぇ! 何だ、テメェは!?」と不良が吠える。
対して大地は「誰でも良いだろ。 どうせお前らの様な腐った頭じゃ覚えきれないだろ?」と煽った。
「何だと!? 野郎共! やっちまえ!」
不良たちはそれに呼応し一斉に大地に襲い掛かった。
しかし、大地は臆することなく持ち前の身体能力で不良たちの攻撃を難なく避けては隙を突いて鋭い右ストレートをお見舞いする。
こうしていく内に、不良たちは全員倒れ、残るは少女を抑えている男一人だけになった。
「何……、だと……!?」
予想外の出来事に小刻みに身体を震わせる不良。
少女を抑える力が弱まったのを機に、彼女はスルリと不良の拘束から抜け、彼の顎に目掛けて掌底を食らわせた。
「ゴフッ!?」と諸に喰らった不良はその場に倒れ、気絶した。
彼女を助ける事が出来た大地は面倒臭い状況にならない内にその場から立ち去ろうとしたが、不意にシャツの襟首を掴まれ制止された。
「待て(ウェイト)」
何だよ? 助けたから良いだろ? もう帰らせてくれよ……!
「ユー、何故ミーを助けた?」
所々英語を混ぜている所から、菅原葵と同じような雰囲気を感じ取った大地は頭を抱えた。
何故、自分はこうもこの様な輩と縁があるのか?
「別に、女の子が危険な目に遭っているのにそれを黙って見過ごす訳にもいかないだろ」
兎に角、自分が思った事を口にすると彼女は仮面越しにフフッと鼻で笑った。
「こんな特撮ヒーローの仮面を被った奇妙なミーをか?」
それ自分でもおかしいって気づいていたんだな……、と大地は苦い笑みを浮かべる。
「まあ、今日は助かった」
少女は大地の襟首から手を放す。
「ミーのネームはレベッカ。 レベッカ・ブラウニー。 ホワッツ・ユア・ネーム?」
「西野大地だ」
「オーケー、大地。 この借りは必ず返させてもらうわ!」
グッバイ! と手を振ってレベッカはマスクから出ている長い金の髪を靡かせながら去って行った。
出来ればこのまま二度と会わない事を願う大地であった。




