生徒会長の急襲
九月一日。
久しぶりの登校、空と大地はいつもの様に馬鹿なやり取りをしながら教室へと入った。
「おはよう、空、大地。 久しぶり、少し焼けたか?」
いつもの席には月華と陽子が座っていた。
外出してないのではと疑ってしまう程に彼女たちは何も変わっていなかった。
大地は「久しぶり。 月華と陽子は夏休みの間は何をしていたんだ?」と聴くと、月華は「家でゲーム三昧だ!」とどうだと言わんばかりの笑みを浮かべながら親指をビッ! と上げた。
駄目だコイツ、と大地は口にしなかった。
「私は親と一緒に遠い婆ちゃんの家に遊びに行ったよ!」と陽子は見た者を全て癒す様な愛らしい笑みを浮かべて夏休みの思い出を語った。
「可愛いヤツめ!」と不意に月華が陽子を抱きしめ頬を寄せる。 いきなり抱きしめられた彼女はどこか苦い笑みを浮かべている。
それを見た空が「夏休みが終わったとはいえ、まだ暑いからそう言うのを見せつけるのは止めてくれ。 溶けそうだ」と彼にしては珍しくげんなりとした表情を浮かべながら言った。
こう言った空の姿を見たのは初めてだったので、大地にとってはとても新鮮に思えた。
これもこの学校に入って友達が増えたからなのかどうかは定かではない。
「そう言えば、大地くんたちは夏休み何をしていたの?」と陽子の問いに「俺が教えてやろう!」と空が胸を張って自分たちがどう言った夏休みを過ごしたのかを述べた。
全てを話し終えると陽子の背後には般若の影が見えていた。
彼女は笑顔なのにその瞳は笑っていなかった。
あの能天気な空でも「よ、陽子さん……?」と不安の色を見せている。
陽子はフルフルと身体を震わせながら「へ、へぇ! ず、随分と楽しそうな夏休みを過ごしていたんだね。 大地くぅん?」と片眉をピクピクと動かしていた。
有無を言わさぬその迫力に大地は思わず戦慄する。
すると、大地たちの席の近くにある扉がドォンッ! と爆音を上げて壊れた。
何事だとクラスメイトたちはそちらに視線を向けた。
煙の中から出てきたのは我が私立橘高等学校が生徒会長、神藤進だった。
彼は百戦錬磨の戦士の様なオーラを発しながらゆっくりと大地の前に移動した。
「な、何ですか……?」と若干顔を引き攣らせてながら大地が聴くと、進は「九十九から話は聞かせて貰った」とだけ告げて一枚のメモ用紙を手渡し、破壊した扉をまるで手品の様にパッと元に戻して教室から立ち去った。
な、何だったんだ?
大地は進から受け取ったメモ用紙に目を向けた。
そこには、『次からは俺も誘え』と彼の連絡先が記してあった。
羨ましかったのだな……、と大地たち四人は彼の気持ちを察したのだった。




