水着回だと思った? 残念、俺だよ!
七月某日。
今日は一つ上の不思議な先輩、九十九悟と大地たちの痛い同級生、菅原葵の予定が空いていた為、海へ行く事になった。
勿論、男だけで。
「青い空! 青い海!」
広大な海を目前にして空は「さあ!」と他四人の方へと振り返り拳を強く握りしめ、
「遊ぶぞ!」と高く上げた。
相変わらず元気だな、と大地は感じた。
空は高笑いを上げながら一人海の方へと飛び込んだ。
「今日はありがとうな」
不意に菅原が大地にそんなことを言ってきた。
「昔はこうやって、友達と遊ぶ事なんて余りなかったからな……」
そう口にして遠くを見つめる菅原の横顔はどこか憂いを帯びていた。
彼はこんな痛い性格をしているものだから、きっと理解してくれる友達がいなかったのだろう、と大地は少し同情した。
「今日はとことん楽しめよ」と大地が言うと、菅原は「ああ」と素っ気なくもどこかまんざらでもなさそうに返した。
すると泳ぐことに飽きたのか、空は海から上がり、「ビーチ・フラッグスやろうぜ!」と言ってきた。
「面白そうだな」と九十九が言う。
「やろうか!」とジャスティスは空の案に賛成する。
「異論はない」と菅原は決め顔でそう言った。
しかし、空と言う人間がどういう存在かを知っている大地は乗り気な三人とは違ってどこか苦い顔をした。
「敗者は罰ゲームな」
これである。 嫌な予感がする大地は頭を抱えながら闇のゲームに挑むのであった。
空は二〇メートル先にフラッグを突き刺してルールの説明を始めた。
「ルールは至って簡単。 トーナメント式で負けたヤツが上がって行く。 最後に上り詰めた敗者が罰ゲームを受ける」
「因みに罰ゲームは何だ?」
大地は念の為に聴いてみる。
「別に、ただ皆に今日の昼飯を奢る」
それだけだ、と空にしては良心的な罰ゲームだと感じる大地。
だが、それでもお金が掛かっているので負けられないのだが。
「皆、異論はないな?」
空の言葉に首を縦に振る他四人。
「それじゃ、これより闇のゲームを開始する……!」
『闇のゲーム』と言うフレーズに、菅原の表情が真剣なものへと変わったのを大地はあえて気にしなかった。
「一回戦は大地と菅原だな」と空は審判としてスタート地点へと立った。
トーナメントはくじ引きで決めた。
空が仕組んだのかどうかは定かではないが、一回戦は大地と菅原、他は九十九とジャスティスに別れた。
言い出しっぺの空は「ハンデだ」と言って自らいきなり決勝の枠に入った。
それを見た大地は察した。
この『親友』と言う名を被ったクソ野郎はどうやら俺を潰したいらしいと。
ますます大地にとって負けられない戦いになった。
「それじゃ、始めるぞ? 二人とも位置に着け」
空に言われるがまま、大地と菅原はフラッグとは逆の方向にうつ伏せになった。
「位置について、よーい……」
ドンッ! と空が言うと同時にいつの間にか菅原はフラッグを取っていた。
何が起こった……!? と大地、九十九とジャスティスの三人は唖然とした。
審判の空は特に気にする様子もなく、「勝者、菅原」と大地に現実を突きつけた。
「いやっ! おかしいだろ!?」と言う大地の抗議に空は「何が? ちゃんとスタートの合図と同時に走ってフラッグを取ったじゃないか」と答えた。
「だが、もし仮にそうだとしてもあんなスピードに勝てる訳無いだろ!」と声を荒げる大地に空は鼻で笑い、「知るか! テメェが遅いのが悪いのだろうが! この亀野郎!」と一蹴した。
「西野。 この場は諦めろ」
大地の肩に手を置き、九十九が言った。
納得がいかないがここは仕方がないと大地は退くことにした。
それから九十九とジャスティスのビーチ・フラッグスらしい勝負が始まり、僅差でジャスティスが負けてしまい、大地と対戦することになった。
「よろしく」
ジャスティスがそう言うと、大地も「よろしく」と返し、スタート地点についた。
次こそは負けられない。 大地は今までにないくらいに集中した。
審判の空は片腕を上げスタートの合図を取った。
「位置について、よーい……」
ドンッ! と同時にスタートを切った大地。 ジャスティスは少し遅れてスタートした。
二人の間にはそれなりに距離があいていた。
いける! いけるぞ!
大地が勝利を確信したその時だった。
走らせている片方の足にバシッ! という強い衝撃が走り、大地は「っ!?」と態勢を崩してそのまま砂浜に顔から突っ込んだ。
「しまった!」と身体を起き上がらせた時には既にジャスティスがフラッグを取っていた。
クソッ! と大地は砂浜を強く叩いた。
何があったのだと足もとを見るとそこには太さ三センチほどの輪ゴムが落ちてあった。
きっと空のものだろう。 九十九と菅原が気づいていない様子だったので抗議するにも出来なかった。
そんな大地の前に空がやってきた。
「さあ、次は俺と対戦だな?」
その顔は狂気に満ちていた。
だが、大地は彼に屈する訳にはいかなかった。 この傍若無人の魔王を一矢報いなければならぬと強く立ち上がり、スタート地点についた。
その後、どちらが勝利し、どうなったかはお察し願いたい。




