ハロウィンな先生
休み時間。 大地は三人に次の授業が何かを聞くと、「次は道徳だ」と月華が答えてくれた。
「道徳か。 そう言えばまだ一度もやってなかった様な気がする」と言う大地の言葉に「何でも担当の先生の体調が優れなかったらしいぞ?」と空が答えた。
対して大地は「そうか」と特に興味を示さなかった。
チャイムが鳴る。 それと同時に扉が開かれ、教師が入ってきた。
「授業を始めるぞ。 トリック・オア・席につけ」
その教師の肌は青く、筋肉質な身体をした大男で、頭には極太なネジが捻じ込まれており、更に上半身裸の上に白いジャケットと言う季節外れなハロウィンの格好をしていた。
クラスメイトたちは彼の異様な格好と雰囲気に呑みこまれる。
何だ? あの先生は……。 と少し苦い笑みを浮かべる大地。
隣で座っている空は特撮ヒーローを目の前にした子供の様にキラキラと目を輝かせていた。
そんな生徒たちの視線を気にもとめずにハロウィンな教員は教卓に移動し自己紹介を始めた。
「この学校の道徳を担当する不蘭拳だ」
見た目のまんまじゃないか! と大地はあえて口にはしなかった。
「真面目に授業を受けないと解剖しちゃうぞ?」と不蘭は低い声音でリズミカルに言った。
怖い!? この先生怖いよ!?
そんな大地の心情など知らない不蘭は授業を開始した。
何も起こらなければいいが、と大地は切に願うのであった。
「この様に、人は独りでは生きてはいけない。 だからこそ人は人と……」
授業が開始して二十分が経過した。
今のところ、変わった様子はない。
大地は淡々と授業を進めている不蘭の背中を眺める。
何故彼はあの様な季節外れな格好をしているのだろうか?
不思議に感じていると、不意に大地の近くの席に座っている男子生徒が顔を伏せて眠っている姿が目に入った。
それと同時に不蘭が振り返り「フンッ!」と指先から黄色いビームを発して眠っている男子生徒に直撃した。
男子生徒は「アベベッ!?」と声を上げながらボンッ! と煙に包まれた。
何事だとクラスメイトの視線が男子生徒に向けられる。
煙が晴れた時、そこにいたのは、
「ブヒッ!? (何だ!?) ブヒーッ!? (何が起こったんだ!?)」
小さな豚へと変貌を遂げた男子生徒の姿だった。
男子生徒がブヒブヒと騒いでいると不蘭に首根っこを鷲掴みされ「ブヒブヒ五月蠅い。 解剖するぞ?」とドスの効いた低い声音で脅迫した。
心の中で、ちょっ……、えー……、となる子豚に変わった男子生徒。
「先生! 今何をやったのですか!?」と目を輝かせて聞く空の問いに、「手品だ。 時間になったら戻る」と答える不蘭。
それに感動を覚えたのか、空は「凄ぇ!」と更に瞳を輝かせた。
本当に凄ぇよそれ……。 と大地はどこか微妙な気持ちに襲われた。
クラスメイトたちは男子生徒が無事、元の姿に戻れるように、そして自分たちが豚に変えられないようにと願いながら静かに授業の続きを受けるのであった。
それから二十五分が経過して、学校のチャイムが鳴り授業が終了した。
それと同時に子豚に変わった男子生徒がボンッ! と煙に包まれる。
煙が晴れるとそこには元の人間の姿へと戻った男子生徒の姿があった。
「戻っ……、た……? 戻った! 戻ったぞ!」
無事に元の姿に戻れたことに安堵と喜びを覚える男子生徒。
「次から居眠りしないように」と言う不蘭の注意に男子生徒は「はいっ! 解りました」と元気に答えた。
「凄ぇ!」と空は未だに目を輝かせている。
対して大地は「先生何者だよ……」とただ苦笑浮かべるのであった。




