ジャスティス×ジャスティス
夕方。 今日はまたも珍しく大地は一人で帰路についていた。
三人ともそれぞれ用事を済ませて帰るとの事だ。
七月中旬。 それなりに夏らしくなってきたのか、この時間帯でも大分蒸し暑く感じる様になった。
頬に伝う汗を拳で拭いながら帰っている途中、不意に人とぶつかってしまった。
大地は振り返り謝罪しようとした時、
「おい、痛ぇな!? 何してくれてんだ!?」
と不良が騒がしい声音で威嚇してきた。
相手は三人。 この感じだときっと金品渡したところで簡単に返しては貰えないだろう。
仕方がない、やるか。
大地は通学鞄を下ろすと不意に「待て!」と後方から男の声が耳に入った。
皆がそちらに視線を向けるとそこには黒縁眼鏡を掛け、黒い髪を七三分けにした大地と同じ制服を綺麗に着こなした如何にも真面目そうな男子生徒がいた。
「誰だ? テメェ」と一人の不良1が聴くと男子生徒は眼鏡をクイッと上げて口を開いた。
「僕は人々のピンチに駆け付ける正義の味方高校生! その名も、ジャスティス・正義だ!」
その名前にちょっと待てと言う気分に襲われる大地。
「何だよ!? ジャスティス・正義って!? 何!? ジャスティス・ジャスティスって!? ○ンター×○ンターみたいな名前しやがって!」
「因みにこれは本名だ」
「コンプレックスに陥りそうな名前だな!?」
盛り上がっている大地と正義に「おい、お前ら。 何俺ら無視して漫才始めてんだ?」と額に青筋浮かべながらドスの効いた低い声音で自分に意識を向かせる不良1。
対して正義はフンッ! と鼻を鳴らして眼鏡の位置を直しながら「社会を蝕む小さな悪め。 僕がこの手で直々に更正してやる! さぁ、行くぞ!」と言って不良たちに向かっていく。
不良1はオラァッ! と正義の腹部にキレのある右ストレートをお見舞いした。
諸に喰らった正義は「グハァッ!?」と後方に吹っ飛び倒れた。
その予想外の展開に「弱っ!? 正義弱っ!?」と驚愕する大地。
「ったく、無駄な時間取らせてんじゃねぇよ!」と不良1は拳を擦りながら叫んだ。
大地は倒れている正義に駆け寄り「大丈夫か?」と声を掛けるが彼は「クッ! ここまでか……」と悪に倒された正義の味方の様な事を口にしたので大丈夫だなとそのまま横にさせた。
「ここで寝とけ。 すぐ片付ける」
その言葉が癪に障ったのか、不良たちは「あ? 甞めてんじゃねぇよ!」と一斉に大地に飛び掛かった。
刹那、大地は一陣の風の如く素早く不良二人の懐に入り込み、顎に掌底を食らわせ気絶させた。
それにより、一人残った不良の動きが止まる。
「おい」と大地が低い声を掛けると不良は「ひっ!?」と悲鳴を上げて両肩をビクッ! とさせた。
「そこに伸びている二人を連れて帰れ……!」
有無を言わせないその迫力に圧された不良は首が思わず捥げるような勢いで縦に振りながら倒れた仲間を担いで消えていった。
「さ、終わったぞ?」と倒れている正義の肩を担いで立たせた。
正義は「すまない、一般生徒に助けられるなんて僕もまだまだだな」と苦い笑みを浮かべる。
そんな彼に疑問が生まれたのか、「何故、あんな無茶をしたんだ?」と聴くと、「困っている人を助けるのに理由なんていらないだろ?」とさも当然の様な口振りで返した。
その様は正に『正義の味方』その者に見えた。
「助けてくれてありがとう。 また学校で会おう」
「ああ、気を付けてな」
大地のその言葉に親指を立てて正義は去って行った。
「大地じゃないか」
後方からそう声を掛けられたのでそちらに振り向くと月華と陽子がいた。
「さっきの人は誰だったの?」と言う陽子の問いに大地は顎に手を添えて考えると不意に先程彼が言った言葉を思い出した。
『困っている人を助けるのに理由なんていらないだろ?』
大地は口元を緩めて言った。
「通りすがりの『正義の味方』だよ」




