認めない、認めたくない!!
三月八日。 快晴。
卒業式も無事に終え、友と肩を組みながら家へ帰る生徒や、この日を機に好きな人に想いを告げる生徒もいた。
そんな中、本校の卒業生の一人、西野大地は校庭に咲く一本の桜の木の下で静かに花弁が散るのを眺めていた。
「終わったな。 俺たちの中学校生活」
彼に近付き声を掛けるは、金髪と言う校則破りな髪色をした少年、東野院空。
「そうだな」と大地は瞼を閉じた。
「もう、お前のツッコミが見れなくなると思うと残念で仕方がない」
「俺はお前の無茶振りがこなくなると思うと清々するよ」
ゆっくりと風が吹き、薄ピンクの雪が舞う。
空は何かを悟ったかの様な笑みを浮かべた。
「相変わらず、不細工だな?」
それを言うなら『無愛想』では? と口にしそうになったがグッと押し殺した。
沈黙が走る中、ただ肌寒い風が二人の頬を優しく撫でた。
「またな、相棒」
「個人的には二度と会いたくないな」
こうして二人は特に何を語る訳でもなく同じ帰路を辿って自宅へと戻るのだった。
四月一日。 快晴。
今日は自分が受かった高校の入学式。
大地は自分の部屋で軽く鼻歌を歌いながら真新しい制服に袖を通すと、姿見の鏡の前に移動し、可笑しな所はないか確認した。
深緑のブレザーに黄色のラインが入った赤いネクタイ、灰色のズボン。
新しい自分の姿に大地は少し口元を緩めた。
通学鞄を手に取り、家を出た。
それと同時に隣の家に住む空も家から出た。
この光景は中学の時から変わらない。
それよりも大地が気になったのは彼が身に付けている制服だった。
「お前……、何故俺と同じ制服を着ている……!?」
そう、空の今の格好はどの角度からどう見ても大地と同じ制服だった。
「何故って、大地と同じ学校に通うからに決まっているだろ」とさも当たり前の様に答えた。
俺と同じ学校だと?
「おかしいだろ! お前、入学試験会場にいなかっただろ!? それ以前に俺はお前に自分が通う学校を教えていない筈だ! なのに何故!?」
大地の疑問に「愚問だな。 探偵ホームズの隣にワトソンくんがいる様に、大地の隣には俺がいる! これは自然の法則、即ち真理なのだ!」と空は得意気に胸を張った。
「そんな真理糞喰らえだ! 認めん、俺は認めんぞ!」と大地は吐き捨て、全力で自分がこれから通う新しい学校へと向かって走り出す。
「どこへ行こうと言うのだね!」と笑いながら自分の後を追いかけてくる空に対し、「学校だよ!」と律儀に返す大地であった。
今日は四月一日、快晴。
二人の新しい学校生活を祝福するかの様に、春の暖かい風が優しく街を吹き抜けた。