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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

出張南極研 『新春恒例! 名作アンコール劇場 ヒノデ村恒例! 年末デスゲーム祭り(再)』

{:ナレーション (以下:ナレ)まんま再録では無茶すぎるので、作者によるコメンタリーっぽいものが入っております。どこのこと言ってるのかわかりにくい時は、行の頭に「;」を入れております}


{:ろくごまるに(以下:R)いやね、ツイッターで、どすこいどすこいとつぶやいてた辺りでは、まだこの企画は影も形もなかったんで実質的には25日ぐらいから始まった企画なんですよ。

  どすこいどすこいのインパクトに触発された企画とも言えますが、どすこい要素は当然ありません。あってたまりますか}


{:ろくごまるに(以下:M)ツイッターで、どすこいとつぶやいていた時には、この企画は影も形もなかった。お気づきの方は最初から判っていたであろうが、この企画は最初から矛盾している。

  この企画が、27日以前(具体的には25日ぐらいか)に私の頭のなかに存在しているなら、27日分は前もって用意できるからだ。

  とはいえ、厳密にこのルールを適用するのは個人では不可能で、私以外の人間が企画を立案し、沢田のセガクラ辺りでランランランとスキップしている私をとっ捕まえて絶海の孤島にでも隔離、26日から27日に日付が変わる辺りに企画を伝えるしか手はない。

  このことから『ヒノデ村』は、絶海の孤島に隔離されたタケヤが27−31日に書いた小説であるという解釈も出来よう。…出来ない! だってそんな伏線何処にも書いてない! なあに構いやしねえ、ないなら今書けばいい。

  人生に遅すぎるなんてことはないんだ! なんという凄惨な動的構成}


00-00『孤島』ZZ/ZZ


 一枚、二枚、結構結構。枚数にも内容にも制限はありません、すべてはあなたの名において自由にどうぞ。

 三枚、四枚、紙数は遥かな荒野であり、常に多すぎて常に足りません。

 五枚、六枚、紙はあっても時間は足らず、少ない枚数で鮮やかに斬り捨てようにも、そんな刃があなたにありますかな?

 七枚、八枚、放り出しても構いません、一枚で済まそうが、やっぱり昨日のは無し! とやってもいいんです。ただしすべてはあなたの名において。


{:M まあこんなもんでよかろう。冒頭の謎の数え歌にこそ、『ヒノデ村』の謎を解く鍵がある説。ほら、数えてるのが本の紳士で書かされてるのがタケヤなんだよ説。いやいや数え歌なのに九枚がないのがポイント説}

 

00-01『序』XX/XX


 皆様におきましては、とっくに御存知だとは思いますが、恐怖が怖いのは恐怖のタガが外れるまでで、外れてしまえばもうこいつは恐ろしいとかは関係なくなってしまいます。

 あー、なんだ恐怖が怖いって間抜けな言い回しは? 恐怖が怖い、恐怖が恐ろしい、頭痛が痛い。まあいいや、ご勘弁いただきましょう。

 漢字で書くと『箍』のタガでございますよ、何、タガが判らない? 樽とか桶をですね、あの形にしておく為の輪っかみたいな、え、樽や桶が判らない? 判るけどあれはプラスチックで一体成型してるって?

 まあ留め具と思っていただければ構いません。


 つまり、あまりの恐怖で留め具が外れて心はガタガタ、精神の歯車が現実と噛み合わなくなって、噛み合わないンじゃぁ怖いもへったくれもありゃしない。

 そのまま戻らなきゃ発狂ってことでありまして、万事めでたしめでたしでございます。万事じゃないか。少なくとも本人にとってはで。

 ですが大概、この噛み合わなくなった歯車は、結構都合よく元に戻ってしまうのでございます。

 なんで留め具で済むとこを、タガなんて言葉を使ってたのかと言いますと、幸か不幸かタガってものは外れても締め直しが利くのですよ。


 この宇宙、いや宇宙という概念さえ否定する根源たるウネウネにゅるにゅるピカピカした恐怖の使徒の皆様が呑気にフラフラ散歩してて、それをこっそり覗いているといたしましょう。

 ところが不注意にも、うっかり足元の小枝を踏んじゃった、ポッキリ音がしてこっちの存在が気づかれちゃって、さあ大変、ザラザラふさふさギラギラした使徒の皆様方が、てめえぶっ殺してやる! と息巻きながらこちらに向かって迫り来るとこで恐怖のタガがポンと外れ、……ハイ、ここまではよろしい。そりゃタガも留め具も外れますわね。今どき、小枝が地面に落ちてるのかはおいといて。

 問題はそのタガがスコンと元に戻って正気になった、辺りを見渡して考えるに、どうやら僕は使徒から上手い具合に逃げ切って、学校の裏の雑木林で気絶していたようだね、アッハッハ。ってンじゃぁ困ります。


 まあ、どこにでもいる普通の高校生である、我らがタケヤ君の災難は、恐怖のタガがスコンと戻ったとこからはじまるわけですが。あぁ、タケヤ君の一件と、恐怖の使徒がどうこうの与太話は関係ありません。

 ちなみに本名は、竹屋影一郎。えいいちろう。かげいちろうじゃありません。なんとなく忍者っぽい感じもしますがまったくの名前負けでございます。


{:R 謎のストーリーテーラーといえば、ロッド・サーリングでございます。なにTZ知らない? だったら世にも奇妙な物語のタモリみたいなもんだと思いましょう。

  個人的にはTZよりTZの亜種の方をよく見ていて亜種だからスゲー話がショッパいのよ。

  日本でもTZの亜種があって、それのストーリーテラー役が落語家だったような。池乃めだかが同じような役目をしてたようなのもあったか? 覚えてないや)


00-01『夜の森』??/??


{:R ここの序盤はあんまりグダグダしゃべることもないですな。27日より前からフライング気味にネタが練れているので、割りと普通。だがコメント的にはつまらないのでカットだ}


 パキッ。


 藪の小枝が折れる音だと思ったタケヤは、慌てて左手を元に戻し周囲を見回す。正体不明の襲撃者が藪を踏み越えてやって来た音ならどうしよう。……いや、襲撃者などいたのか? だいたい、僕は何から逃げていた?


{:R 小枝折れちゃったよ! 笑うとこ}


 パキッ、ベキッ。ガタ。


 周囲は明るく、しかも温かかった。あれは小枝を踏んづけた音なんかじゃない。木が爆ぜる音、焚き火の音だ。

 いや、焚き火どころじゃない。少し離れた所で井桁に組まれた材木が盛大に燃えている。キャンプファイヤーだ。人影も見える。それも一人じゃない。遠くてよく判らないが何か話しているようだ。


 ほっと息を吐く。


; 人影を見た安心感と共に、タケヤの耳に激痛が走った。急激な気圧変化で耳がキーンとなる、あれを酷くした痛みだ。耐えられないほどではないが、苦痛なことに変わりはない。

;「なんだこれ!」

; 耳を押さえ思わずタケヤは声を上げると喉にも痛みが走る。

; タケヤは助けを求めようと人影に視線を向けた。人影はこちらに背中を向けているので、まだ自分の存在には気がついていない。

; 人影はどれも赤い革のコートのようなものを着ている。長いコートだ。コートの右肩には文字? いや数字が……途端、眼球にも激痛が起きる。


{:M 異世界に飛ばされてるのに言葉が通じ、文字が読めるのは変だ。

  でも、そこをいちいちやってるとかったるくて仕方ないので、この現象を経験してるから言葉も判り文字も読めるとしている。脳が凄く頑張って尋常ならざる適応をしてるというってことで。

  翻訳というよりバイナリデータを直接理解する感覚ですな。なんで異界のバイナリが直接読めるかという設定はあるが、いちいち説明するのはかったるくて仕方ないからしない}



 刺激のある液体の中で突如溺れるような苦痛にタケヤは襲われる。とうとう鼻まで痛くなってきた。


 が、その痛みは唐突に去った。


 痛みは消えたが耳や喉、そして目には少しの違和感が残る。こうなれば、鼻にも残っているのだろうがこれはよく判らなかった。

 鼻に問題があるかが気になったタケヤは周囲の匂いを嗅ぐ。森特有の、木の匂い、土の匂い、キャンプファイヤーからだろう、木の燃える焦げた匂い。

 焦げた匂いが少し強い。脂の混ざったようなまとわりつく感じがする。


 (まあ、そんなことはどうでもいいや)


 あまりどうでもいいことではなかったと、人影に向かい軽やかに走りだしたタケヤはすぐに知ることになる。彼のタガも歯車もまだ完全に元に戻ってはいないのだ。


 全てはゆっくりと、スローモーションで。


 タケヤは、オーイと声を上げゆっくりと人影に向かい走る。

 人影はタケヤの声に気が付き、ゆっくりと振り向く。

 人影は火の側以外にも数人いた。全員同じ格好をしている。赤い革のロングコート。

 制服なんだろうかとタケヤは考えた。制服の人間が制服を着たままキャンプファイヤー。タケヤは考えた。制服とはいえ学生には見えない。会社員にも見えない。これは少しおかしい。ゆっくりとタケヤの足が地面を蹴る。

 振り向いた人影の顔は判らなかった。全員仮面を着けていたからだ。銀色の鏡のような仮面。表情を形作るものはない。のっぺりとした鏡の仮面だ。

 

 振り向いた人影が剣を抜く。

 剣を抜く動きだけがヌルリと速い。


 コートの連中は全員、剣を所持していた。コートの腰に杖というか板状のものが差し込まれていたのは見えていたが、それがまさか鞘だとは思いもしなかった。

 異形の剣、大きさは日本刀に近い。


 長い薄めの板にグリップが付いたようにしか見えない。黒色の金属板、あるいは滑らかな板状の石。

 形以外に異様なのはその表面に浮かぶ模様だった。油膜、シャボン玉の表面に浮かぶ縞模様。あれに似ているが、色は青単色で、その青い線が板全体を覆っている。

 薄いとはいえ、そこそこ厚みがあり、とても刃を連想させるものではないはずだった。


 とても剣には見えないものを、タケヤが正確に剣と認識できた理由はたった一つ。武器を構えるコートの連中の動作に、手慣れてはいるが、それでも危険な刃物を扱う慎重さを感じとったからだ。


 これはもう、絶望的にキャンプファイヤーじゃない、これでキャンプファイヤーだったら、そっちの方が異常だ。

 キャンプファイヤーじゃなければなんだろう? 暖を取る、明かりを取るにしては少々火力が大袈裟過ぎる。煙の量も多い。

 さすがのタケヤの薄々気が付き、嫌々ながらも炎の中を覗く。

 予想は当たり、材木と一緒に燃やされる焼死体と目が合う。いや目の部分はとっくに焼け落ちているので目が合うというのはおかしい。おかしいといえば、焼け死んだ死体を焼死体というわけで焼かれている死体を焼死体と呼んでいいのだろうかとタケヤは考えた。どうでもいいことを考えて現実逃避をしようしても、コートの連中が剣を構え自分にゆっくりと迫る現実からは逃げられない。


 タケヤは考える。彼らは死体処理をしている軍隊的な何かで、別にここの死体は彼らが殺したわけとかじゃなく、剣を構えているのも唐突に現れた僕を警戒しているだけで、あの剣で殺戮の限りを尽くしたとかじゃ……タケヤの背後で音がし、彼は振り向く。

 いつから居たのか、そこにはコートの男が立っている。彼はタケヤに剣を向けてはいない。おそらく彼のものと思われる剣は、彼が足を持って引きずっている死体の胸に突き刺さっていた。

 鏡の仮面に、タケヤは絶叫する自分の顔を見た。

「う、うわぁぁ!」

 男は言った。

「うるせぇ。驚いたのはこっちだよ」

 タケヤの意識はそこで途切れた。


{:R 上記の辺りは、まんま、ろくごまるにの小説って感じだよね! この時点ではまだ余裕があったんでしょうな}


01-01『到着』12/27

「……で、ございます。いろいろご質問もございましょうが、私も村長代理などという職務を預かっておりますが、立場的にはこの『村』に到着された新しい仲間の皆様とあまりかわりはございません。

 えぇ、勿論、知っている事案に関しましてはお答えします。ただその前に色々と決め事、ルールなんてものをご説明しておかないと村の生活に支障がございますので……」


{:R みなさんはじめまして。『村長代理小説』界のホープ、ろくごまるにです}


 タケヤの意識はまだ朦朧としていた。ここはどこだ? うわ言のように言葉が漏れる。

「村?」

「あぁ、それぐらいは先にお答えしときましょう。えーと、そうそう、ここはヒノデ村です。人口は38名、今日、新たにあなた達が仲間に加わったので42名になります。まあ小さい村です。

 小さいですが海に面しておりますし、小さいながらも里山、森もある豊かな場所です」

 目の焦点がまだよく合わない。薄暗い。夜なのであろう。外気の冷たさはないので屋内か?

「ここは何処ですか?」

「いや、だからヒノデ村でして。あぁ、場所という意味なら『わかりません』 村を囲むように白線と緑線というものがありまして、実際に線はありませんが目印があるので判ると思います。まあ、線に近づく必要なんてないでしょうが。

 緑線が内側、白線が外側、線の外に出てはいけません。基本は緑線より出てはダメですが時期によっては緑の外、白の内側までは許可されます」

 聞きなれない声がした。4人。自分以外に3人居るなら、その一人の声なのか。

「ダメってなんですか! 村から出ようとしたらどうなるんですか!」

「良くて連れ戻され、悪くて殺されてキャンプファイヤーです。皆様も御存知の、あの赤い革のコートの連中に」

 赤い革のコート。夜の森。焼死体。

 村長代理の説明は続く。

「逆らわないほうが身の為なのはご理解いただけますね。まあ、あいつらは鬼じゃないんで、いやあいつらもですかワッハッハ。ともかくうっかり線を超えた程度ならセーフですよ、その程度で惨殺されたりはしません。まあじつに慈悲深い話ですな、ハッハッ

 とまあ、窮屈な話ですが村人たちで殺し合いでもしない限りは身の安全は、ほぼ保証されております」

「あの連中に誘拐され、この村に監禁されているということですか?」

「どうなんでしょうね。ここまでの説明で終わるなら、それ以外の理由は考えにくいでしょうな。あの連中がテロ集団の類で身代金目的とかで。しかしこれから説明します特記事項でその線は考えにくくなります」

「どういう意味です?」

「この村には『鬼』が来ます」

「へ?」

 あまりに気の抜けた声に、それが自分の声だとはタケヤはしばらく気が付かない。

 しかし村長は当然だとうなづく。

「12月27日から31日までの5日間、鬼が一人現れ村人たちを殺します。鬼を殺すか、1月1日まで生き延びれば平穏な360日が約束されるわけですな。えぇ、勿論丸腰で逃げ回れとかじゃなく、そこそこの武装はありますので生きるか死ぬかが五分五分の殺し合いになりますね、例年の記録ではそうなってるんで間違いない」

 説明の意味を理解しないまま、タケヤはボンヤリと質問する。

「すいません、今日は何月何日ですか?」

「ほら、そこにあるカレンダーをご覧なさいな。今日は12月27日です」

「へ?」

 村長代理は自棄ぎみに笑う。

「この年末の腐れ忙しい時期にヒノデ村にようこそ!」

 扉が開き、若い男が現れる。男は言った。

「村長代理。見回りからの報告です。鬼の出現を緑線外セクション18の南東で確認。ポイントでいうとCです。同時に錠前式コンテナも確認。外見、武装から戦闘タイプだと思われる。だそうです」

「やれやれ辛うじて10時前ですか。7時にはやって来ると思ってたんですが、かつかつですな」

 タケヤは言った。

「待ってください! 鬼だかなんだか知らないですがそんなもの相手に、僕に殺し合いをしろっていうんですか!」

「あー、別に嫌ならいいですよ」

「え? いいの?」

「はい」

「なあんだあ、驚いて損しちゃいましたよハッハッハ」

「ハッハッハ」


{:R ハッハッハ もう時間はカツカツで惨状めいてまいります。余裕というプラス部分がだんだん追い込まれて限りなくゼロに近づいてる感じで。ラスト辺りはギャグっぽいですが、ハッタリです。一晩眠ればどうにかなるだろうと甘く見ているね。ハッハッハ}


02-01『眠る鬼』12/28

「何を呑気に。笑ってるの。なあんだあ、で済むわけないでしょ」


{:R 済ましても面白かったがまだ二日目である}


 女は言った。

 打ちっぱなしのセメントに、壁には松明。低い天井の下には換気用に開かれた横に細長い窓があった。窓の外は暗い。

 講義の場、あるいは集会場。村長代理と名乗る男がさながら講師だ。

 村長代理が何歳ぐらいの男か、タケヤにはよく判らないが若くは見える。本当に若いのか若く見える中年の男なのか。

 質素な長椅子が置かれ。タケヤたち四人が村長代理と向かい合い座っている。

 今、言葉を発したのは若い女だった。歳はタケヤと同じくらい、タケヤほど緩んだ感じはなく。引き締まった表情をしているが、この状況ではそっちの方が当たり前だろう。綺麗な銀髪を首のうしろで括っている。

 タケヤには彼女の笑顔が想像できなかった。

 鬼の出現を報告した男に指示を出し、村長代理は女の言葉に応える。


{:R ペースを取り戻そうとして、ろくごまるにっぽい文章を頑張って書いてます。が、もうこの時点で時間はなく、世にも悲惨な『会話を必死に進めて伏線を仕込もう祭り』が、ここから始まります。以下ノーカットでお楽しみください}


「まあ、お嬢さんの」


 お嬢さん呼ばわりが気に食わなかったのか、女は吐き捨てるようにアカガワと名乗った。ついでにタケヤも名乗ったが反応はない。村長代理は続ける。


「えーと、アカガワさんのおっしゃるとおりですが、別に嘘はついていません。常識的に考えれば無茶な話ではないですよ。

 つまるところ、鬼を相手に命がけで戦う、つまり我らの仲間となっていただけるなら、当然こちらの資材は共用していただけます。できうる限り平等にですね。はい、タケヤ君」


「資材ってなんですか」


「資材というか資源ですね、食料、燃料、衣料品に抗生物質等の薬品、鬼と戦う為の刃物や武器です」


 噛み付くようにアカガワは言った。


「つまり協力しないものは野垂れ死ねってことでしょ。選択の余地なんかないくせに」


 困ったなあと村長代理は首をかしげる。


「いえいえ、鬼討伐に協力しないからといって、別に餓死しかかってる、病気で死にかかってるってのを笑いながら見殺しにはしませんよ。

 ただどうしても資源に限りはあるんで協力者を優先します。余裕があれば提供します。抗生物質は貴重なんで無理かもですが。第一、その資材も皆で協力して手に入れてるわけで」


 アカガワの相手をしているより、タケヤの相手をしている方が気楽なのか、村長代理はタケヤに説明する。


「さっきの報告を聞いてましたかタケヤ君。コンテナの話が出てたのを覚えていると思いますが、覚えてない? ……あなた、結構凄いですね、色んな意味で。

 まあいいや。鬼と同時にコンテナが出現します。湧いて出るんでなくコートの連中が鬼と一緒に運んでくるんですが。

 五日間逃げ切りではなく、鬼を殺すことに成功したらコンテナの鍵が手に入り中身はこちらのものです。食料はほぼ自給自足でまかなえますが、薬品の類は貴重なんで、基本、こちらも鬼は殺す方向で作戦を立てます。

 鬼は装備の何処かに液体の詰まった小瓶を持っているんで、鬼を殺したらそれを手に入れてください。

 絶対割らないでくださいよ、絶対ですよ、絶対。タケヤ君はそういう絶望的なボケをかますタイプの気配がビンビンしてますんで、本当にマジでよろしくお願いします。

 小瓶の中には外気に触れると12分程度で腐食して使い物にならなくなる特殊な合金製の鍵が入ってます。その鍵を使ってコンテナを開けると、中は抗生物質やらの宝の山ってわけです」


 すべては戦いのための仕掛けだ。逃げ惑う村人を一方的に殺すのではなく、こちらも鬼を殺す為に戦う。戦う気がないと鬼がみなせば、自ら瓶を割り鍵は失われる。勝利には報酬を伴わせる、公正なルールではあるが悪趣味な仕掛けだ。

 そういう深いところはタケヤは考えもせず、村長代理の説明を素直に受け取る。

 タケヤと違い、アカガワは村長代理を睨みつけたままだ。


「困ったなあ。納得するしないとかの話じゃないんですけどねえ。私に噛み付いたってどうにもなりませんよ」


「仕方ないさ村長代理。我が子を守る為だから彼女も必死なんだよ」


 アカガワの足元には、彼女にしがみつく一人の少年が居た。四歳ぐらいだろう。アカガワと同じ銀髪をしている。

 突如現れた男にアカガワは言い返す。


「子供じゃありません。弟です」


 村長代理は男に迷惑そうな視線を投げる。


「来たんですか、イタチさん。いつものことですが、何処から入ったんです。来なくていいです、帰っていいですよ」


 ヒョロリとした優男を村長代理はイタチと呼んだ。


「弟さんですか、これは失礼お嬢さん。そこの村長代理を名乗るオジサンの話は嘘じゃありませんよ、この私が言うんだから間違いない」


 アカガワ姉は言った。


「あなたの言葉の何を信用しろというんですか」


「ごもっとも。ただ、僕は鬼との戦いを拒否した男ってことです。少しばかりのサバイバル能力と、馬鹿な錠前を破る器用さがあれば、連中とつるまなくても生きていけます」


「馬鹿な錠前で悪うございましたな」


「ね? 盗みの犯人は僕しかいなくて、自白までしてるのに、現行犯じゃないと捕まえない、この村のルールを尊重してるわけですよ。現行犯で捕まれば死刑なんですが、まあそれぐらいは仕方ない」


「私や弟にも、あなたと同じ選択をしろと?」


 軽口を叩いていたが、ここでイタチは少し考える素振りを見せる。


「さて、どうですかねえ。僕一人なら、畑の野菜を盗んだりして、快適に村に寄生して生きていけるんですが。三人だとどうかなあ。お嬢さんが漁の達人とかならいけるかな」


 タケヤは言った。


「でも鬼との殺し合いを避けられるんでしょ?」


「ああ、そこね。そこはあんまり利点じゃない」


「?」


「今年みたいな戦闘タイプは、適当に村人連中の戦いを高みの見物してりゃいいんですが」


 村長代理は露骨に不快な顔をする。


「こっちは命がけなのに、高みの見物ってあなた」


「まあまあ、言葉のアヤで。大まかに分けて鬼の種類は三種類、戦闘タイプ以外に隠密タイプってのが居てね」


 タケヤは質問する。


「残りの一つは?」


「ヒ・ミ・ツ。隠密っていうぐらいだから、何処に居るのか判らない。コンテナがあるから鬼が来てるのは判るんだけど、居場所は不明。そして一人また一人と狩られる村人って感じの鬼でね。

 このタイプに真っ先に狙われるのが、村から離れて暮らしてる僕みたいな連中ってわけで……あ、今は僕だけか。鬼と戦わないと決めようがどうしようが、鬼は殺しに来るんですよ」


 もうひとつタケヤは質問する。


「でもイタチさんは、隠密タイプが来てもちゃんと生き延びてますよね?」


「ふむ。良い質問だね。それは僕の卓越した身体能力と知性に裏付けされた抜群の洞察……」


 村長代理は最後まで喋らせない。


「何をボケてるんですかタケヤ君。目の前で見てるでしょ。この人は鬼の出現が確認される二十七日は毎年こうやって村に紛れ込んでるんですよ。で、隠密タイプならそのまま村の中に潜伏して五日間をやり過ごしてるんです」


 イタチは反論する。


「去年の話を見てきたように語るとは、見事な引き継ぎじゃないか、村長代理。それに『日付はとっく二十八日』だ」


「あれ、さっきまで二十七日の十時過ぎの気がしたんですが」


「なあに時計がちょっと狂ってたんだよ。『お嬢さんが最初に発言したのが丁度日付が変わった二十八日頃』だよ」


「よし! 『だったらなんの問題もない』ね、あっはっは」


 アカガワ姉が苛立たしく吐き捨てる。


「なに、このくだらない茶番は……」


「そう! まったくなんとくだらない茶番であろうか! こんなにひねくれた茶番はくだらなすぎて、面白いじゃないか! ちなみに故あって名前は名乗れぬが、不便かもしれないんでイシガキとでも名乗っておこう! ハカセとでも呼んでくれたまえ!」


 村に送られたのは四人。タケヤ。アカガワ姉弟。今まで押し黙り話を聞いていたイシガキが叫ぶ。白衣を着た初老の男、爆発したマッドサイエンティストにしか見えない。


「この恐るべき陰謀であり茶番の犯人はこの中にいる! かな?」


 村長代理は優しく微笑み、イシガキ(2016/01/12イタガキをイシガキに修正)の注意をひくように手をポンポンと叩く。


「はい、おじいさん、落ち着いてくださいねー。これは犯人がどうとかいう問題じゃないですよー。もしも犯人がいて、そいつをとっ捕まえても状況は変わりませんからねー」


「それもそうじゃの!」


 ノックのつもりかガンガンと扉が叩かれ、返事を待つ前に扉が開く。

 無精髭の男が面倒そうに顔を出す。


「村長代理、いつまでチンタラやってんすか。向こうじゃ村の連中が待ってるんで、さっさとミーティング始めたいんですがねえ。お。イタチ」


 次の瞬間に何が起きたかタケヤには理解できなかった。視界の端で唐突に猫がとんでもない動きを始めたかのようだ。せいぜい何かが動いた程度にしか判らない。

 バサ。という衣服が風を切る音が恐ろしく遅れて聞こえたような気がする。

 無精髭の男の剣がイタチの首に添えられていた。イタチはイタチでふざけたように驚いた顔をしている。

 村長代理は特に止めようともしない。


「すいませんね、時間が押してるんでみなさんも向こうに来てもらってミーティングを始めましょう」


 イタチは言った。


「ほら、村長代理。紹介しときましょうよ。彼がこの村の戦闘班班長キガシラさんですよ。向こうの鬼に対抗する村側の鬼です」


「誰が鬼だ。ふざけたことを」


「そうかな? 下手な鬼よりきみに殺された村人の方が多いじゃないか」


「まあな」


 二人の会話はタケヤの耳には届いていない。

 板状の異形の剣。キガシラが持つ剣はあの剣だった。剣から目が離せない。



 アカガワ姉が言った。


「ねえ、今更あれなんだけど。村人を殺しに、その鬼ってのが来てるのに呑気すぎない?」


 ふむふむとイシガキは頷き言った。


「たぶん鬼は寝てるんじゃないかな!」


「……あのね、おじいちゃん。これから殺し合いをしようとしてるのに寝てるわけないでしょ」


 村長代理は言った。


「いえ。正解です。よく判りましたね」


「ハッハッハ。見るべきものを見れば、おのずとそこに答えは書いてあるのですよ!」


{:編集者 会話主体は構いませんが、全体的に描写が薄く、書き急いでいる感じがします。会話と地の文のバランスを考慮お願いできませんでしょうか}

{:R ↑的な指摘が担当編集者から入り、うわああああとなって全面書き直しになる見本のような文章で、こんなものを世間に公開してしまう私の悲惨な気持ちが判るか! うるせえ読まされる方はもっと悲惨だ! なんとワシより悲惨な奴がいた、ラッキー! 全くラッキーではなく阿鼻叫喚の惨劇であります。

   ここがどん底、ゼロ地点だと思っていたら底が割れて、マイナス領域ならまだしも複素数領域の三日目に突入です} 


03-01『総集編』12/29


{:R ハイやらかした! もはや正気も枯れ果てた第三話のはじまりです。もう何を書いてるか自分でもよく判ってない。ここに謝罪申し上げます}


{:M 最初の方にも書いたが、本当に企画内容が守られているか担保するものは存在しない。一日ごとに書き下ろしをうたって、前もって用意された原稿を掲載しても読者視点ではわからないのだ。

  でもって、綺麗に5話完結の中編を載せて、『ろくご先生は凄いなあ』ってのもつまらない。

  無茶な企画に期待されるのは、いつだって無様な醜態なのである。

  らくごのご、で言うと笑福亭鶴瓶がきっちりお題を3つ取り入れてオチも綺麗にまとめましたよ。だけではつまらないのだ。

  桂ざこばが、最後のお題『マヨネーズ』がどうしても噺に組み込めなくて「マヨネーズ? なんやボン、マヨネーズって。…やっぱボンなんかおらんかった、おらんかったよ! マヨネーズマヨネーズマヨネーズ」で、ついには「マヨネーズ♪ マヨネーズ♪」と泣きながら歌い出したとこでゴングが鳴って、転げ落ちるように舞台袖に逃げる姿が期待されているのである。

  

  つまり、『追い込まれる作家』(企画が真なら作家は追い込まれるはず)を表現する為に『崩壊する物語の様子』を組み込ませる必要がある。

  一話目から徐々に劣化させ、二話目の冒頭で持ち直したと思わせて、そこから一気に品質を落としてみた。本気で低品質なので公開を躊躇したぐらいである。この作品で一番グロいのは二話の終盤だ。


  ガチじゃなかったのかとお怒りになるのは当然だろう。が、舞台の上で手品師が昏睡状態の人間を八つ裂きにしても、もう観客は驚かない。せいぜい、血糊は多いし断面はグロいし、手品師は死体をほっといて途中で舞台袖に帰っちゃうし今の手品は面白くなかったね、ぐらいの感想が出るだけである}


  

 テレテッテーテレーテテテレレーレー♪(皆様おなじみ『ヒノデ村恒例! 年末デスゲーム祭り』オープニングテーマ曲『Antarctic Love! of the sannta sangree』インスツルメントロングver)


{:R ついに歌い出しちゃったよ。ざこば師匠の気持ちを今、僕ははじめて理解した。ちなみにこのイントロは元ネタがあるけどわかるかな? 長めに歌うと、テレテッテーテーレーテテテレレーレー、テレテッテーテーレーテテテレレーレー、テレレレレレン、テーテレレレー。はい、もうお判りですね。懐かしい}

{:M アニメやドラマでよくある、タイアップしているだけで物語の内容とはなんの関係もない主題歌のイメージ。ちなみにArcticが北極で頭に否定のantがつくと南極}


 ♯空白の世界でカメラがパンすると、膝から崩れ落ちたタケヤが、絶叫しながら白い地面を叩き、叫び声を上げている。


「3日だぞ! たった3日でもう破綻するってどういうことなんだよ! いや、そりゃ破綻するさ、こういうのは年末に向けて、秋ごろからコツコツ書き溜めて、5回完結する原稿を用意してからやるもんじゃないか!

 なんだよ! アイデアストックも何もないのに、その日に発表する原稿をその日に書いて、一日一話、それを五話でまとめるなんて、月刊で連載やってる時よりある意味ヘビーじゃないか! 

リハビリ代わりに軽い短編でも載せようかねえぇってノリじゃなかったのかよ! なんでリハビリ初日で自己ベスト更新を狙うような真似をしたのさ!」


 ♯抑揚のない女性ナレーション


(それでは第一話のダイジェストをご覧ください)


 ♯古い本を持つ、初老の紳士が恐怖をテーマに語り始める。カメラは意図的に紳士の顔を映さない


「皆様におきましては、とっくに御存知だとは思いますが……」


 ♯饒舌ではあるがザラザラした声。やはりカメラは顔を映さない。顔の代わりか不自然にフレームに古い本が映り込む。本の題名は


(何処にでもいる、平凡な高校生タケヤ君は夜の森で正気に戻ります)


 ♯森を走る、タケヤ。崖を転げ落ち赤い革のコートを着た連中と遭遇。焼かれる死体、異形の剣にタケヤは怯む


(タケヤ君はいったいどうなってしまうのでしょうか)


 ♯何処かの建物の中。棺桶が5つ。村人が釘抜きで棺桶の蓋を開け、中の人間を取り出す。医者が棺桶から出された5人に注射を施す。村長代理の問いかけに医者は応える


「村長代理は到着者を初めてご覧になられるんですねえ。薬の効き目は人それぞれで覚醒には個人差がありますねえ。ああ、支えれば部屋の移動ぐらいできます。泥酔者の介抱よりは楽なもんですよ。じきにシャンとします」


 ♯村人に肩を貸されながら、フラフラとタケヤたちは村の集会場に到着。タケヤはまだしっかりしてないが、他の到着者に催促されて説明を始める


(以上、第一話のダイジェストでした)


 ♯開幕シーンの使い回しの白い世界。しかし途中でタケヤの動きが止まる

;「え? お医者さんなんて居ましたっけ? 5人?」


{:R この謎の一人は、村から逃げだして、次の日に川に死体が流れてくるだけの人物だったので消しちゃった。ちなみに名前はコヤマさん}

{:M 矛盾した再帰が始まる。コンテキストの分裂、どの要素を真として取り入れるかは読者に委ねられ、選択によって全体の意味が変わってくる}



 ;CM

 ;妙に和風のコンビニの宣伝映像 15秒

 ;言語不明、おそらくスキャットに近い歌と共に映る皿の宣伝映像 15秒

 ;ねばり気のある液体が滴り落ちるだけのイメージ映像 30秒

 :CM終わり


{:R 重要なんで、ヒ・ミ・ツ}

{:M たいしたことないが、ノーコメント}


(続きまして、風雲急を告げる第二話のダイジェストです)


 ♯引き続き行われる村長代理による説明。戦闘班班長キガシラ、謎の男イタチの登場


(弟の為、鬼と戦うと決意するアカガワ姉。参加するに決まってるじゃないかと参加を表明するイシガキハカセ。しかしなかなか決断がつかないタケヤ君をキガシラは鬼の見物に誘います。アカガワ姉も同行します)


 ♯木枯らしが雪と共に吹き荒れ、崖の上に立つ一同のマフラーをなびかせる。キガシラが崖の下を指さす


「あれが鬼だ」


 ♯タケヤは呆気に取られる


「え! そりゃなんかデカくて凄い鎧っぽい物も着けて側にデカイ剣もありますが、あれって野垂れ死んでるか行き倒れじゃないんですか?」


 ♯アカガワ姉は剣を抜く


「死体にしか見えないけど、死んではいないんでしょ。でもここで殺せばすべてが終わる」


 ♯キガシラはアカガワ姉を制す


「そうさ。殺せればな。だが殺し損ねれば一気に活性化して奴は動き出す。放っておいても数十時間のうちに起きるがな」


「でも」


「一か八かの賭けに負けて、あいつと余分に十時間も戦うなんて真平ごめんだね」


 ♯書庫の文献を漁っていたイシガキハカセが叫ぶ


「判った! 判ってしまったぞ! 鬼の正体は!」


 ♯イシガキハカセの背後の扉から村長代理が登場


「さすがですなイシガキセンセイ。知られたからには」


「いかん! いかんよ、きみ! センセイはいかん! ハカセと呼んでくれたまえ」


 ♯鬼の突進を受け止めキガシラが叫ぶ


「構わん! タケヤ! 俺ごと鬼を刺し殺せ」


 ♯書庫の文献を漁っていたイシガキハカセが叫ぶ


「気がついた! 気がついてしまったぞ! 鬼の目的は村人の殺戮じゃない。殺戮が第一の目標じゃないんじゃ! 過去の戦闘タイプは、村の中心部にある謎の建物に向けて進行しておる。鬼の目的はあの建物の掌握、村人は邪魔だから殺戮しているにすぎない!」


 ♯イシガキハカセの背後の扉から村長代理が登場


「そうですよ、イシガキハカセ。今更何言ってんですか…あ! 説明するの忘れてたんだ!」


「どういうことかにゃ?」


「あそこには謎の機械があるんです」


「謎って?」


「謎ですよ。使い方がよく判らないんですけど、延々と木炭を作り出すんで重宝してます。あれがないと里山や森を崩して木炭つくらないといけなくなるんで、長期的に見て、あそこを潰されたりしたら村は滅びます」


「なんと! 不思議にも程がある! どうしてそんな重大なことを今まで黙ってたんじゃ!」


「うっかりしてました!」


「そうか! うっかりしてたんなら仕方がないなアッハッハ」


「そう言ってもらえると助かります、アッハッハ」


{:R アッハッハ}


「しかし、木炭とはね。殺戮の鬼が目指すのは炭焼小屋とは茶番もいいとこじゃ! 超シュールなんですけど!」


 ♯炎に包まれる村。タケヤに馬乗りになり、泣き叫びながらアカガワ姉は彼を何度も殴りつける


「お前に! お前なんかに何が判る!」


 ♯そんな二人を見てイタチは笑う


「そうさ、きみたちには何も判っていない、何もかもがだ! この村の存在意義、鬼の正体! 何もかもがだ!」


 ♯紅蓮の炎の中、錯乱するアカガワ姉を抱きしめ、不屈の闘志を秘めた瞳でタケヤは言う


「必ず脱出してやる! こんな狂った村、我が誇りにかけて脱出してやる!」


(以上、第二話のダイジェストでした)


 ♯開幕シーンの使い回しの白い世界。タケヤは呆気に取られている


「え? いやいや、いやいやいや! え? え? 誇りなんてないよ! いやたぶんあるけど、賭けたことなんかないよ」


{:M ダイジェスト部分の物理的な構成は最低である二話後半の文章とほぼ同一なのに、解釈の地平が変わるだけでクオリティがズドンと変わる。この辺りが小説の面白いところ}


(続きまして、第三話のダイジェストです)


「いや、第三話って! ちょっと! ちょっと! 誰か!」


 あっそーれ! テレテッテーテレーどどんどどんテテテレレーレー♪(皆様おなじみ『ヒノデ村恒例! 年末デスゲーム祭り』オープニングテーマ曲『Antarctic Love! of the sannta sangree音頭』)


{:R 自棄になりすぎてハイテンション。あっそーれ!}


 ♯真紅の世界でカメラがパンすると、半ば放心したタケヤが膝から崩れ落ちている。


「なんだこれ、意味が判らない!」


 ♯抑揚のない女性ナレーション


(それでは第一話のダイジェストをご覧ください)


 ♯古い本を持つ、初老の紳士が『罪』をテーマに語り始める。カメラは意図的に紳士の顔を映さない


「皆様におきましては、とっくに御存知だとは思いますが罪という言葉これぞまさしくタケヤ君の為にあるような言葉でございます」


 ♯饒舌ではあるがザラザラした声。やはりカメラは顔を映さない。顔の代わりか不自然にフレームに古い本が映り込む。本の題名は


(どの面下げてほざけるのか、『何処にでもいる平凡な高校生』などと騙るタケヤ君は夜の森で正気に戻ります。ざまあみろという感想しか湧いてきません)


 ♯森を走る、タケヤ。崖を転げ落ち赤い革のコートを着た連中と遭遇。焼かれる死体、コートの連中に混ざる異形の本を持つ紳士と、女の影にタケヤは怯む


(タケヤ君はいったいどうしてここで死んでしまわなかったのでしょうか、まったくもって残念としか言いようがありません)


 紳士はナレーションに答えた。真紅の世界、本を持つ紳士とナレーションの女がタケヤに向かい歩いている。


「いえいえ、それは違いますなあ。あそこで死んでしまうような幸運は私が決して許しません」


 タケヤの側に二人が迫る、顔は判らない。だが本のタイトルが目に入る。タケヤは本のタイトルを知った。

 タケヤは叫ぶ。


「うわあああああ!」


 本のタイトルは


04-01『参照透過性』12/30

{:M 参照透過性というのは、たとえばy=3x+1という関数があったとしてxに5を代入したらyは常に16になるということ。5というパラメータなら16、3というパラメータなら10が常に戻るってことだ。当たり前じゃないかといわれると、当たり前なのだが、当たり前のことが当たり前に起きないといわゆるバグになる。

  四話目はバグなのか、あるいはタケヤ、アカガワ、キガシラというパラメータが別になりヒノデ村という関数に代入された世界なのか}


 夜中。

 吹雪いていた。

 まずいな。と、タケヤは思う。


 かなり特殊なマテリアルで構成されているのだろう、追従性と保温機能をハイレベルでインテグレーションしている戦闘仕様のスーツではあるが、これ以上の温度低下が続くと可動域のパフォーマンスに影響が出る。

 ファイヤアームに転用出来るレベルの火薬、及び石油の類はこの村には存在しない。皮肉なものだと俺は自嘲気味に笑う。


{:編集者 問題がないのなら無駄にカタカナ表記ではなく日本語で表記できませんでしょうか(マテリアル=素材、インテグレーション=結合など)}

{:R ギャグでやってるんでこのままでいきます}


 装甲は複合素材由来の高性能なもの、それに対して剣、槍、短剣、まるで中世さながらの武器しかない。あまつさえ敵は正体不明の鬼だ。まるで質の悪いグランギニョルさ。

 そんな中で剣の重量感だけが心地よい。


「ちょっとタケちゃん、寒いから焚き火でもしようよ、そこら辺に落ち葉や枯れ木があるからさ」


「誰がタケちゃんだ!」


「キャー、タケちゃん怖いー!」


 俺に怒鳴られて、アカガワは戯けながら飛び跳ねる。気丈に明るく振る舞う少女、アカガワ。弟の安全の為に戦うことを選んだ少女。

 この狂った村では戦うことだけが明日を生きるためのワランティカードなのか。アカガワの無垢な笑顔だけが心地よい。


{:R ワランティカードってあんた。あと「だけが心地よい」の連発はやめましょう}


「アカガワさーん、さすがに焚き火は止めて欲しいなー、一応監視任務なんだからさー」


「はーい、キガシラ隊長、ごめんなさーい」


 キガシラがアカガワをたしなめる。

 キガシラ。鬼との戦闘を指揮する事実上の司令官。

 英傑は英傑を知る。人当たりはいいが、キガシラが百戦錬磨の勇士であると俺は一目で見抜いていた。戦わなければ生きていけないが、戦うすべを知らぬ少女、同じくなんの戦闘能力もないイシガキハカセを自らの小隊に配置するなどなかなか出来るものではない、最強のビショップである俺が小隊に居るとしてもだ。そして今、小隊を率いて鬼の監視任務にあたっているのだ。

 自らが戦場に立つ。いいコマンダーとはそういうものさ。


{:R 最強のビショップ? あとそんなコマンダー居ません}

{:M 最強のビショップ? あとそんなコマンダーは居ない。壊滅寸前のゲリラか?}


「なんじゃ、焚き火は止めかい。タキギ拾って来て損したわい」


 そう、イシガキハカセが言った。キガシラが応える。


「イシガキハカセ。寒いんだったら村の集会所に戻っていいですよー。帰り道は判るでしょ」


「嫌じゃ、ワシも鬼見物を続ける!」


 何のハカセか知らないが、ハカセと名乗るからには好奇心は強いのだろう。

 監視場所である崖の遥か下に横たわる鬼は、監視を始めてからピクリとも動かない。アカガワは飽き始めているがイシガキの興味は尽きてないようだ。

 イシガキが持っていたタキギをポロポロ落とした


「どうしたジジィ!」


「た、大変じゃタケヤ君! ここは地球じゃない!」


 なんの冗談かとアカガワが笑う。


「何言ってるのよハカセ!」


 気がついたか。アカガワを不安がらせない為にあえて黙っていたが、さすがはハカセ。


「あぁそうだ。別の次元、天体、どれかは知らないがここは地球じゃない、異世界だ。星の配置が地球上から見たものとはまったくちがう」


「ワシは今気がついだが、タケヤ君はいつ判った?」


「この世界の最初の夜には」


「さすがじゃタケヤ君!」


 衝撃の事実に気丈なアカガワも膝から崩れ落ちそうになる。俺はアカガワを抱きとめた。俺の胸の中、震えながらアカガワは言った。


「そんな、異世界だなんて。私達は元の世界に戻れるの?」


「アカガワ! 今は生き延びることだけを考えろ! 俺がきっと元の世界に連れ戻してやる!」


「……うん」


 俺の胸にしがみついていたことに気が付き、アカガワは顔を赤らめながら離れる。

 照れを隠す為か、アカガワはキガシラに質問する。


「ところでキガシラ隊長。鬼はこちらから攻撃しない限り数日は覚醒しないという話ですが、少し遅すぎはしませんか。もう四日目ですよ。明日でラストなのに、なにをチンタラやってるんでしょうか」


「んー、ぶっちゃけ異例なんだよねー。遅くても三日目には起きるんだけどねー。なんか最初の計画が破綻でもしたのかなー」


 と、その時、俺は先刻からまとわりつく違和感の正体に気がつく。あぁ、そうか! なんてことだ。

 飛び跳ね、崖を滑り降りる俺を見て、キガシラは驚く。


「タケヤ! 待て! 何をする! 鬼を刺激してはならん!」


 俺に追従できるだけでも、キガシラの戦闘能力の高さが判る。だが俺に追いつくのは不可能だ。

 地面を蹴り、俺は鬼に向かい走る。

 激しく揺れる視界に横たわる鬼の巨躯が迫る。

 俺は剣を抜いた。そして次の瞬間、鬼の胸部を突き刺し地面に縫い付ける。


「さすがじゃタケヤ君! 見事に鬼を倒したぞい! 納得行かなくても勝ちは勝ちじゃ! これで無事、見事に綺麗に完結じゃい! 誰にも文句は言わせんぞ!」


 キガシラはタケヤの行動の意味を知った。


 俺はアカガワとイシガキハカセに向かい叫ぶ。


「こいつはデコイだ。今年の鬼は戦闘タイプじゃない。……今年の鬼は隠密タイプだっ!」


05-01『よるのうた』12/31

 やっぱり昨日の最後のくだりはやめて、タケヤ君が無事に鬼を倒して、めでたしめでたし、ってことにしておいてください。


ー完ー

{:M 改行を含む上の三行で、本当に終わらせる勇気はなかった}


 『ヒノデ村恒例! 年末デスゲーム祭り』エンディングテーマ曲『The Life of My Dream』(日本語訳:未詳)


一番

 ♪〜緊急事態を告げる鐘が鳴り響くなかー村の方角から炎が上がりーキガシラは必死に村へと走る(バックコーラス:村へと走るー)

   遅れて続く、アカガワと、いつものようにおとぼけのタケヤー(中の人はいつものタケヤー)

   途中の道に横たわるのは戦闘班副長が率いていた第二班四名の死体ー(登場してなかった副長含むー)

   思わずタケヤは、うわあああああ死体だ! と叫ぶー(最初っからデスゲームって言ってんだろ、死体ぐらいでるわいー。あと、お前は叫んでばかりだなー)

   だってデスゲームデスゲーム言ってるけど、デスゲームが始まってから死体なんてなかったじゃないかーあの焼死体は村につく前だしー(うるせえ、バックコーラス様に口答えするなー)

   死体の前に跪くキガシラー紅蓮の炎が彼の憤怒の表情を浮かび上がらせるー(ここからはしばらくシリアスー)


[間奏]

   「キガシラ隊長…」

   「判ってるアカガワ。そうじゃない。殺されたことに怒ってるんじゃない」

   「…誰が殺したか、判ったんですね」

   「あぁ、この刺し方はイタチだ。奴が殺った。奴は何処だ!」

   「ねえ隊長にアカガワさん、さっきからイシガキハカセが居ないんだけど?」

[間奏終わり]


 ♪〜タケヤが喋ったからシリアスは終わりー、イシガキハカセは今回あんまり意味がないからオミットしてんだよ、空気読めー(読めー)

   でも何故とアカガワは問うー、イタチが鬼なのか、でもそんな事がありうるのかー(のかー)

   正直判らないと前置きして、キガシラは答えたー。おそらく戦闘タイプの鬼は最初から死んでいた、いや見回りの連中が発見した時には死んでいたんだー(なんだってー)

   たぶん見回りより先にイタチが発見し、鬼を殺したー(イタチが鬼を殺したービックリだー覚醒前の鬼はうまくやれば一撃で倒せると言ってたよねー美しく保たれる整合性ー)

   鬼の体はグチャグチャで確信できなかったがーあれもイタチの刺し方に近いー(グチャグチャだったんじゃ、この死体を見るまで気が付かなくても仕方ないー美しく保たれる整合性ー)

   ねえねえ、死体の前で立ち止まってるより速く村に戻った方がいいんじゃないですかと言ったタケヤがキガシラにぶん殴られるー(やーいやーい)

   アカガワが言ったー炎の紅に照らされ、彼女の銀髪が赤銅に見えるー。イタチが鬼と接触した時に何かがあった? 鬼を殺した時に鬼が移ったんだと閃くタケヤを二人は無視するー(牛鬼かよーyo! そんな現象があるならゲームが成立しないだろがよーよーyo!)

   鬼との接触。イタチは鬼と話して何かを知ったんだろう。それが奴を殺戮に走らせた。でも何がー(でもなにがーもなにがーなにがーにがーがー)

   キガシラは吠えたー咆哮でその身が一回り巨大化したように見えたーいや実際に奴の体は軋んでいるー(マッスルマッスル!)

   どちらか、ひとつだとキガシラは言ったー、奴は殺戮を楽しんでいるか、あるいは俺を殺戮を阻止する為の防衛戦に誘いこもうとしているかー(かー)

   キガシラは決めたーこの殺戮は囮だーイタチの目標は鬼と同じ、村の中心部にある「炭焼小屋」だ鬼との接触でイタチは「炭焼小屋」の何かを知ったんだー(だー)

   俺は炭焼小屋に向かうとキガシラは言ったー、アカガワ、お前は村人が避難している集会所に行け。弟もそこに居るだろう。もし、俺の読みが間違ってて、イタチが村人を襲い続けても防衛のプランは組んであるから村長代理の指示に従えばいい(キガシラはあくまで戦闘班班長ーコマンダーじゃないー司令官が戦場に立つわけねーだろー、判ってんのかタケヤー)

   アカガワは首を横に振るー自分もイタチの狙いは炭焼小屋だと思うーイタチを止めない限り、弟に安全は来ないーキガシラは頷くー判った一緒に来いとー(そして二人は駆け出すー)

   あの僕はどうしたらいんでしょうか? (あーら、まだ居たのねタケヤ君ーどっちでもいいから好きにしたらいいよー、えーなんとなく二人に着いてくことにしたのーへー)


二番

 ♪〜炭焼小屋は通称でーその姿に炭焼小屋を思わせるものは一切ないーデザインを極力廃したデザインのーせいぜい二階建てぐらいの低く丸いビルに見えるー窓の類はなくーたった一つの入り口の扉は破壊されていたー(二人は急いで炭焼小屋の中に突入したー、あータケヤも来たっぽいんで三人かー)

   臨戦態勢、しかも敵の存在を確信しているキガシラに一切隙はなかったー壁自体が白く発光する何処に続くか判らない湾曲した長い廊下でーキガシラはイタチに隙をつかれたー(あら大変ー)

   キガシラが持つのは異形の剣ーイタチが構えていたのも異形の剣ーイタチの重い突きがキガシラの右肩を貫くー骨が折れるなんて生ぬるいもんじゃなくー木っ端になった骨と肉が飛び散りー白い廊下を血に染めたー皮と僅かにのこる肉だけが、ぶらぶらと右腕を肩につなげているーこれは痛いよーだって突きが当たった時にー動物が車に轢かれた時と同じ音がしたもんー(またしばらくシリアスー)

[間奏]

   「イタチぃ! てめえ!」

   「まあここに来るよねえキガシラ隊長」

   「ふざけんなよ、どういうつもりだ!」

   「きみたちは判っていない」

   「あぁそうだ。こんな村で毎年何も判らず殺し合いだ。だからどうした! なぜ殺した!」

   「そうさ、きみたちには何も判っていない、何もかもがだ! この村の存在意義、鬼の正体! 何もかもがだ!」

   「狂って、世迷い事をほざくだけか!」

   「理由があるんだよ、すべてに理由が。5日の後に必ず死ぬ定めの鬼が何故この村に送り込まれる? 炭焼小屋をなぜ鬼は目指す? なぜ炭焼小屋を目指さず、ただ殺戮を繰り返す鬼もたまに来る?」

   「てめえ、ぶった斬ってやる!」

   「不可能だね。きみの斬撃もその怪我じゃ知れてる、所詮はXX仕込みで超越的なものじゃない。XX? 結構結構、崇高な理念じゃないかハハハ、知ってるかキガシラ! 炭焼小屋を目指さない鬼はどうして俺達を殺戮するか!」

   「時間稼ぎかイタチ! 俺が失血死するとでも思ってるんじゃねえだろうな!」

   「教えてやるよキガシラ! 奴らは俺達が憎いんだ。鬼にとって最後の希望である、この炭焼小屋を掌握するよりも、憎しみの感情が強い! だから殺す、単純な話じゃないか」

   「あ? あんな化け物連中に恨みを買った覚えなんざねえよ!」

   「そうさ。ないだろうよ。俺にも村の誰にも。でも鬼は俺らを憎んでいる。5日の命をかけてでも俺達を根絶やしにしたがっている」

   「何をほざくと思えばとち狂ってるだけか!」

   「簡単なんだよ、実に簡単なんだよ! ただとてつもなく悪趣味で慈悲に満ちた仕掛けがこの村だ! 薄々気がついてるんじゃないかキガシラ! きみはどうしてこの村から脱出しようとしない?」

   「だまれ!」

   「コートの連中は確かに強力さ。だがなキガシラ、数年にわたり鬼と戦い生き延びているお前が、然るべき計画を立てれば脱出も可能だろう。キガシラ、お前はもう何年、鬼を討伐している?」

   「だまれ!」

   「だまるのは貴様だキガシラ! 俺はこの炭焼小屋の謎を解く!」

   「行かせるか!」

[間奏終わり]

 ♪〜軽く構えて繰り出すイタチの突きー初手のダメージがデカすぎてー致命傷をくらわないように剣をいなすのが精一杯のキガシラー剣と剣が火花を散らすが血を吹き出すのはキガシラだけー(だけー)

   うまく躱して腸は守るがそれでも脇腹は弾けるー隙がないときはもはや動かぬ右腕を突きいたぶり、隙を誘うー激痛で隙が出れば容赦ない突きが飛ぶー(さすがにこれはタケヤじゃなくても戦闘に介入できないー)

   ここまでだとイタチは叫ぶータケヤにも判るこの惨状ーもはや血達磨のキガシラは廊下の壁にもたれかかり、倒れないのが精一杯ー(あれあれよく見たら、ちょっと腸もやられてるー)

   

   何かの爆発が起きた。

   タケヤにはそうとしか感じられなかった。

   今でも確信は持てないが、あれは恐らくキガシラの叫びだったのだろう。

   無残にこそげ落とされて動けるはずのないキガシラの四肢が宙に舞った。

   イタチがキガシラにトドメを刺すために爆発物でも使ったかと、タケヤはその時は思った。

   でも違っていた。


   キガシラの斬撃がイタチを両断していた。右肩口から左太ももにかけての斬撃。異形の剣では叶うはずのない細い切り口をキガシラは成し遂げていた。

   元からただの命なき物体であるかのようにイタチは崩れる。キガシラも崩れた。だが苦悶する表情がある。命のある者の崩れだ。


   タケヤは慌ててキガシラを抱き起こす。

   「大丈夫ですか、キガシラさん! えーと治療したほうがいいんですよね」

   タケヤの物言いは取り立てて間抜けなものでもない。どこから治療すればいいのか判りはしないほどの大怪我だ。

   血を吹き出し、咳込みながらキガシラは応える。

   「構わん。この怪我じゃ長くはもたない」

   「そんな、キガシラさーん!」

   「うるせえよ、四、五日前にあったばかりの人間が死ぬぐらいで盛り上がるんじゃない」

   「でも、そんな」

   「まあいい。看取ってくれる人間が居るだけで充分だ。よしついでだ、この剣を形見で貴様にくれてやる」

   正直、タケヤはこの剣があまり好きじゃない。タケヤの表情を見てキガシラは言った。

   「この剣自体は良いものだ。コートの連中も持っているが、これはそうそう手に入るもんじゃない。あいつらが持ってるのは横流しの品かなんかだろう」

   「えーと、それじゃまあ一応いただいておきます」

   「へへへ。それにしても思ったより死なないもんだな。形見分けした後でまだ死なないんじゃバツが悪くて仕方ない」

   「…もしかして助かったりするんじゃないですか?」

   「馬鹿言え。血を流しすぎた。内臓もやられてる、この村じゃなくてもこんな状態から助けられる医療施設なんかねーよ」

   あ! とタケヤは気がつく。

   「ほら、イタチさんがこの施設に必死になってたってことは、もしかしてここには大怪我を治せるような」

   アカガワが首を横に振る。

   「まあ無理でしょうね。あっても使い方が判るとは思えない。探したいなら探せばいいと思う。でもその前にその剣を貸して」

   渡していいのかとキガシラの顔を覗きこむタケヤに、お前にやったんだからお前が決めろと答える。タケヤはアカガワに剣を渡す。

   アカガワは値踏みするように剣を見る。

   キガシラは笑う。

   「珍しいのは判るし、実際珍しい剣だが、そんなに気になるか?」

   キガシラには答えず、アカガワはタケヤに言った。

   「タケヤ君。もうちょっとキガシラ隊長の体を立てて、それじゃ心臓を圧迫する」

   「はいはい。こんなもんかな」

   「それでいい。それにさっきの体勢じゃタケヤ君まで突き刺しちゃうからね」

   「え?」

   イタチの突きにどれだけ無駄があったかタケヤは知る。アカガワの突きに比べればあんな突きは隙だらけだ。

   アカガワの突きがキガシラの心臓を貫く。キガシラは死んだ。

   言葉のないタケヤにアカガワは剣を返しながら言った。

   「本人も気がついてなかったけど、今にも死にそうな人があんな綺麗に喋れるわけないじゃない」

   服のポケットをゴソゴソ探し、アカガワは小さな鉄製の笛を吹く。

   「聞こえるかな」

   「ちょちょちょちょアカガワさん!」

   すぐに足音がし、赤い革のコートの連中が姿を現す。異形の剣に鏡の仮面。

   コートの連中に渡された赤い革のコートをアカガワは羽織だす。これもまた戦闘用なのだろう、留め具が多く装着には時間がかかりそうだった。

   黙って着替えていても、タケヤの質問攻めになると思ったのかアカガワは独り言めいた説明を始める。

   「付け足すことはあんまりないんだけどね。百戦錬磨だからキガシラは殺されたわけじゃないの。頑張って殺しあいなさい、でもあなたは強くてつまらないから殺します。これじゃ村人のモチベーションにかかわるじゃない。

    そうじゃないのよ。鬼対村人がルール。イタチが言ってたでしょ。「鬼と戦う村の鬼」じゃ破綻してる。あまりにキガシラは強すぎたから調査してみれば案の定だった。あの人、何年鬼を殺してたと思う?

    まあ、今年はイタチというイレギュラーが出てきたけど、本当は戦闘タイプとの戦いで見極めるつもりだった」

   コートを着用し終わり、アカガワは鏡面の仮面をかぶる。

   「イタチの死体を探りなさい、タケヤ君。コンテナの鍵はイタチが持ってるはず」

   「まってまって、アカガワさん! あの弟さんは何なの?」

   「知らない。ただの弟役」

   アカガワの鏡面の仮面がタケヤに近づく。

   「じゃあね、タケヤ君。あなたに合うことはもうないでしょう」

   アカガワとコートの連中は廊下を歩き出した(だしたー、思わず歌うの忘れてたー)


{:R なんということでしょう。アカガワの正体は赤い革のコートの連中でした。アカガワ=赤い革という驚天動地のトリックをお楽しみいただけたでしょうか}

{:M これは単純に命名ミス。これじゃアカガワ=赤い革というダジャレじゃないか。アカガワは漢字で書くと赤川、彼女は異世界の住人なんで。赤い川を意味する苗字をタケヤの脳内が過剰に翻訳した感じで。イシガキハカセはまんま石垣、キガシラはイタリア系イギリス人のウッドヘッド、これもしなくていい翻訳。キガシラはタケヤやイシガキハカセより前にこの世界に飛ばされた人だ。翻訳センスが只者じゃないタケヤの脳みそである}


♯曲は終わり、暗転。数秒の後、村長代理の声がする。


「…とまあ、今年は死亡者8名、行方不明2名、戦闘経験者がほぼ全滅という、壮絶な結果になりましたが、生き残られた皆様、とりあえずおめでとうございます。

 正月は5日まで休みです。例年通りですな。農閑期なんでまあボチボチやっていきましょう。

 では皆様、よいお年を。

 ほら、タケヤ君、そんな死にそうな顔してないで、笑って笑って。来年、また頑張ればいいんですよ」


;{:M 以上。正月から酒を片手にでっち上げたハッタリにしちゃ上手くできた。半分以上冗談だからね。ではまた}

;{:R そういう最後にややこしいことを言い出すのは止めましょう。ではまた。2010/01/03}

 {:M そういう最後にややこしいことをやらかすのは止めましょう。ではまた。2016/01/03}


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