第三十二話 大晦日のプレゼント(1)
大した荷物がないといっても、埃は溜まるものだ。
美和は、一年の垢を落とすべく、こまめに掃除を施した。そのお陰か、大晦日を迎える今日はキラキラと部屋が輝いている。
美和はささやかながら、お節料理を作り始めていた。たった一人で迎える大晦日の夜と、新年を祝うための小さなパーティーの準備なのだ。
その神聖な新年を迎える瞬間に、健斗が傍にいてくれたら、どれほど幸せな事だろうと思わずにはいられない。
しかし、未だに二人の関係が進展していないのだから、多くを望むことは出来ないのだ。
(彼と恋人同士の関係になれたら、幸せだろうな……)
いつの間にか、美和の料理の味付けが健斗の好みになっている。洋服の趣味も健斗の好みだ。
ただひたすら、時期を待つことしか出来ない。
もっと強引に、自分をアピールできたらどんなにか楽だろう。
しかし、性格というものが邪魔をして、自分の気持ちを相手にぶつけることが出来ないのだ。
溜息が出る。
窓の外に目をやると、暖かな日差しが年末の慌しさを忘れさせてくれる。
(去年は信二と一緒だったのにね)
チクリと胸を刺す想い。
(でも来年になれば、きっと良い事が待ってるわ!)
忘れてはいない。占い師に言われた言葉。
『その人と貴女はもう直ぐひとつになれるわ』
『彼は貴女にとって、とても大切な存在になる人よ』
『貴女が気持ちを変えない限り、この恋は必ずひとつになるから』
あの言葉を信じてここまで来たのだ。
(第一、同棲相手がいる今、どうしようもないものね。会えるだけで幸せと思わなくちゃ)
鍋からいい香りが立ち始めた。
新年はもうすぐだ。
その時玄関のチャイムが鳴った。
(誰? 健斗さん?)
しかし、その考えは瞬時にかき消される。再度チャイムが部屋に鳴り響いたからだ。
美和は自嘲気味に笑うと、玄関の前に立った。
(この大晦日に誰かしらね)
「どなたですか?」
大方、新聞の勧誘がノルマをクリアできずに焦っているのだろう。だとした
ら、ドアを開けたが最後ということになる。
「山根です。山根恵子です」
以外にも相手は女性で、落ち着いた感じだ。
ドアを開けるべきか否かを迷っていると、相手は更に続けてきた。
「笠井健斗の事で話があって来ました。開けてくれませんか?」
【笠井健斗】と聞いて、身が引き締まる気がした。そして、相手は彼の名前を呼び捨てにしているのだ。
この状況で、考えられることはひとつだ。
【健斗の同棲相手】
心臓が一挙に膨れ上がり、口から飛び出しそうなほど、勢い良く鼓動を打ち鳴らし始めた。一瞬にして嫌な汗が背中を流れ、体が震えだす。
(何を躊躇っているのよ!私は悪いことはしていないわ。友達としての付き合いじゃない!)
そう自分に言い聞かせ、深呼吸するとドアを開けた。
そこには、寒そうにしながらも、凛と背筋を伸ばし、しっかりした面持ちの女性が立っていた。




