第二十六話 クリスマス(1)
毎日が忙しく過ぎていく。
冬休みに入ってから、周囲ではそろそろ就職活動の話題が上りだしている。
健斗もご他聞にもれず、就職について興味を持たない訳には行かない。
しかし、まだ三年生だ。なかなか、本腰を入れて活動しましょう、という気にはなれないのだ。
ならば何がそんなに忙しいのか。
大学が休みとなれば、バイトのシフトが増える。美和のところへも顔を出さなければならない。そろそろ、美和の心の傷も落ち着きだしている。
(俺も用済みかな。終わる前に一回位やらせてくれないかな)
いくら下心無く近づいたとはいえ、そこはやはり健康な男子だ。ここまで、接近して何も無く終わるのでは寂しすぎる。
それにエリカのこともある。何が気に入らないのか、別れようと言い出され、辟易しているのだ。
別れるのは一向に構わないのだが、エリカの体には未練がある。あれだけの体と、ぴったりと息の合うセックスフレンドは、そうそう見つかるものじゃない。
ここは何とか、時々でもお互いのストレス発散の為に、残しておきたい友達だ。
その為、今も暇ができれば、エリカの元へご機嫌取りに出掛けているのだ。
家に帰れば恵子が待っている。午前様になると怒り出す彼女を騙しながらの日常だ。その為、どんなに疲れていても、恵子とのセックスは力を抜くわけには行かないのだ。
他にも自分を必要としている女性が多々いる。
ネットで知り合い、家が近いとなれば接近するのも時間の問題になる。
会えば、望みを叶えてあげなくては哀れというものだ。
バイト先の女の子にしても同じだ。
悩みが多く、彼と別れたり親との関係が上手くいっていなかったりと、人それぞれいろいろとあるが、それらを親身になって聞いてあげていると、いつの間にか男女の関係が成立してしまう。
男女の関係になれば、次に会う日の約束もさせられる。
美和のように、相手を束縛せず待つタイプの女など、皆無といって良いのだ。
(そう考えると、美和は掘り出し物か……後は、ベッドの中でフィーリングが合うかどうかだよな)
こうして、誰にでも優しく、誰にでも甘く囁く健斗の日常が始まり暮れて行くのだ。
今もバイト先の同僚から相談を持ちかけられたばかりだ。
「笠井君、この後どうするの?」
同僚といっても、大学四年生の音羽明美だ。もう、三年も同じバイト先で顔を合わせている。
「この後ですか、二時間くらい空くんですよね」
この二時間が美和との時間なのだが。
「二時間か……」
「何ですか?」
「相談したいことがあるの」
「相談? 僕で役に立つなら、相談に乗りますけど」
「ありがとう。じゃ、バイトが終わったら待ってて」
(美和との時間が無くなるな……しょうがない、美和にはメールで謝るか。メールで済むから楽だよな)
ケイタイを取り出すと、美和に向けてメールを打ち始めた。
数秒後には送信ボタンが押される。
簡単な内容のメールが電波となって飛んでいくのだ。
そして、美和のケイタイを鳴らした。




