表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しい恋人  作者: 久乃☆
24/35

第二十四話 占い(2)

「こんにちは」



 カーテンの中には、極普通の初老の女性が水晶の玉の前で座っていた。



「宜しくお願いします」



 占い師が手で指し示すまま、椅子に座ると「恋愛についてね」と笑顔を向けてきた。



「あ……はい」



 女性は美和の名前を紙に書き、数字を名前の横に書き並べていく。


 水晶をじっと見つめ、目を閉じた。


 美和には水晶の玉の中に何が見えるのかまるで分からないが、彼女は閉じた目で何かを見たのかもしれない。


 それにしても占い師というと、イメージでは神秘的な黒い服装をして、どちらかと言えば〈魔女〉を模しているのかと思っていた。しかし、ここの占い師に限ったことなのかどうか、白のブラウスに、下はスカートといういでたちで、スーパーの中にいたら、普通の主婦がちょっと出かけたという感じだ。



(本当に当たるのかしら)



 格好で判断してはいけないのだろうが、イメージとあまりにも掛け離れすぎていると、信憑性に欠けたものを感じてしまう。


 そんな事を考えていると、突然女性が話し出した。



「最近辛い失恋をされたようね」



 女性の眉根が寄り、苦しそうに美和を見た。



「でも、別の男性が貴方を救ってくれた」



 女性の顔が穏やかになった。



「その男性の事が気になって仕方が無いのね」



 思わず頷く。



「大丈夫よ。その人と貴方はもう直ぐひとつになれるわ」


「でも……」


「そうね、その人には一緒に暮らしている女性がいるようね」


「はい……」


「それに、貴方を邪魔している人もいるようだわ。かなり強い念を持っているわね」


「……」



 それが誰なのかは聞かなくても分かる。



「いくら邪魔されても、貴方が気持ちを変えない限り、この恋は必ずひとつになるから、しばらくは苦しいこともあるでしょうけれど、耐えなさい」


「本当に彼が私を愛してくれる日が来るんですか?」



 一番聞きたかったことだ。



「貴方の気持ち次第よ。ただ、貴方のものになったら、その後はコントロールが大変になるかもしれない。とても大変な力を持った人だから。優しくて強くて、その優しさの為に、貴方は苦しむこともあるでしょうね。だからこそ、貴方がしっかりとコントロールしないとダメだわ」


「コントロールですか……」


「ええ、そう。前の恋人と別れたことで、貴方に吹いてくる風の向きが変わったのよ。今はその風に乗ることを考えなさい。逆らわないで、風にうまく乗ること」


「風に乗るってどういうことですか?」


「逆らわないこと。何が起ころうと、自分の思うとおりに進むこと……かしらね」



 女性はにっこり微笑むと、後は言うことは無いと言いたげに頷いて見せた。



「まだ時間があるけど、他に聞きたいことはある?」


「いえ……」



 美和は椅子から立ち上がると、礼を言ってその場を後にした。


 女性の声が「また占いたくなったら、いつでも来てね」と明るく美和に注がれた。


 元来たドアをくぐり、エレベーターに乗り込む。


 結局、二十分程で話は終わってしまったのだが、それでも美和にとっては大きな収穫だった。


 エレベーターが一階に着き、エントランスに出ると、タイムスリップして元の世界に戻って来た様な錯覚に陥る。


 更にビルを出て歩き出す。


 北風が吹き抜けるビル街を、駅へと向かって歩き出す。


 思い浮かぶのは、今しがた占い師から言われた言葉ばかりだ。


 

 もう直ぐひとつになれる。


 自分の気持ち次第。


 風に乗る。



 考えれば考えるほど信じがたい。


 同棲相手がいる人とひとつになるとは、一体どういうことなのか。体だけの問題なのか。それとも、身も心もということか。いや、そこまでは望みすぎというものだろう。


 あれこれと考えあぐねていたが、アパートに着き落ち着く頃には、気持ちの整理も付いてきた。


 やはり健斗に同棲相手がいることは事実なのだろう。あれだけ当たる占い師が言うのだから、きっと間違いなく事実。


 ましてエリカが、健斗に同棲相手がいるなどの嘘をついたところで、何のメリットがあるだろうか。


 それでも、自分の気持ちのままに行動していれば、いつの日か健斗とひとつになれる日が来るのだ。


 その事だけを信じて、希望を持ち続けよう。



 美和は鏡に自分の顔を映すと、にっこりと微笑み、健斗を迎える準備に取り掛かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ