第十二話 まちぶせ
美和から、健斗がどこでバイトしているかを聞きだした。疑うことを知らない美和は、いとも簡単に教えてくれた。心の底では美和を嘲笑っている事を知らずに。
数日後、健斗のバイト先にエリカの姿があった。健斗のバイトが終わる時間を見計らって、店の周辺をうろついていたのだ。
健斗の姿を見つけると、小走りに駆け寄ってきた。
「健斗さん、お疲れ様」
暗闇から声がするので、目を細めて焦点を合わせると、何日か前に美和の部屋で会った女性がそこにいた。
髪をアップにし、ファーのマフラーを巻き、短いスカートから生足が出ている。思わず、食指が動くがさすがに美和の友達だ、そう簡単に手を出すわけには行かない。
「どうしたの、こんな時間に」
スタイルを気にするよりも先に、女性がそんな格好でフラフラしていたら危ない時間だ。健斗は自分の思惑を振り払うようにエリカに声を掛けた。
「この間、今度は一緒にお酒しようって言ってくれたから、待ってたんです」
小首を傾げる姿も可愛い。
両手を後ろに組み、ちょっと腰を引き、小首を傾げて下から覗き込むように健斗を見るのだ。
(こいつ、分かってやってるな)
健斗の中に、女への閃きの様な物が湧いた。
「もう、バイト終わりでしょ?」
「ああ、今日はね」
「私もさっき終わったんですよね。このまま帰るの寂しいしなって思って。それで思い出しちゃった、先輩のこと」
そう言うと、小さく舌を出してみせる。
「バイトだったのか。じゃぁ疲れてるんじゃないの?」
「いいえー、慣れてるから大丈夫」
他のバイト生がドアから出てくる。
「お疲れー」と声を掛けて通っていくが、あからさまに彼女を観察しているのが分かる。
(彼女じゃないって!)
健斗が先に歩き出した。
健斗の後を付いて行くと、駐車場に白いファミリアが見えた。
「健斗さんの車ですか?」
「ああ、そうだよ」
「貧乏学生じゃなかったんだ」
「貧乏でも必要なものは持つよ」
健斗が苦笑しながら、ロックを解除する。
「どうぞ」
ドアを開け、エリカを促す。
「じゃ、付き合ってくれるんですね」
「そのつもりで着いてきたんでしょ?」
「あはは、分かっちゃいました?」
エリカが乗り込むと、エンジンが唸りをあげた。
「お腹は空いてない?」
「大丈夫……でもないかな」
健斗が勢い良く笑った。
「何ですか? そんなに面白かった?」
「いや、美和ちゃんとはまるで違うなって思ったんだよ」
「そうですか、みんなそう言いますけど」
「そうだな、エリカさんが光りで美和ちゃんが影。エリカさんがバラの花で、美和ちゃんがたんぽぽ、位違うね」
内心勝利を感じながらも、分からないなぁと首を傾ける。
「でも、仲いいんですよ」
「そうみたいだね」
車が走り出し、どこに行くとも聞かずに街外れの方向へとスピードを上げて行く。
「いつもバイトが終わるとすぐに帰るんですか?」
「そんなこと無いな、そのまま飲みに行ったりするよ」
「やっぱり、そうですよね」
十時とはいえ、車の流れは少ない。
あっという間に目的地に到着した。




