表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しい恋人  作者: 久乃☆
10/35

 第十話 ターゲット

 エリカはアパートに帰ると、疲れた体をベッドに横たえた。


 目を瞑れば、さっき別れたばかりの信二の顔が思い出される。



「本当にくだらない男!」



 今まで何度も美和の彼氏を横取りしてきた。その都度、すぐに飽きて自分から別れを切り出してきた。そして、その度に美和の趣味の悪さを笑ってきたものだ。


 それが分かっていながら、どうしてこうも美和の彼氏となると横取りしたくなるのか。



「あんな男だと分かっていたら、横取りなんてしなかったわ。放っておいても美和はアイツに振り回されて、辛い思いをしたのに」



 そうなれば、自分は優越感に浸りながら美和の泣き言を聞いただろう。


 その方が、横取りするよりもずっと楽しかったに違いないのだ。



「あーあ、残念!」



 天井を見つめ、ぼんやりしていると、空腹感を覚えた。



「お腹空いたなぁ。何食べようか……な……」



 ふと、美和の顔が浮かんだ。嬉々として台所で包丁を握り、料理の味を見る美和。その横には健斗がいるのだろうか。


 いや、きっといるだろう。


 そして、二人きりの夜だ。


 あれから、一ヶ月。美和は進展がないと言っていたが、そんなはずなどあるわけがないのだ。



(きっと、美和は嘘をついてるんだわ。一ヶ月も一緒にいて、何の進展もないなんて考えられないわよ!)



 ぼんやりしていると、余計に美和と健斗との関係が思われてならない。



(幸せそうな顔しちゃって!)



 許せないという感情が激しく揺れだす。




 美和のケイタイが光ると同時に、着信音が鳴り出した。



「美和さん、ケイタイが鳴ってるよ」



 健斗が、台所で最後の仕上げをしている美和に、ケイタイを渡す。



「エリカからだ。何だろう?」



 ケイタイの受話ボタンをONにし、「もしもし?」と声を掛けると、



『美和ぁ』



 情けなさそうなエリカの声だ。



「どうしたの?」



 その声に、ただならぬものを感じ、焦って聞き返す。美和の焦りを見て健斗が心配そうにしている。



「なんだか、寂しくなっちゃってさぁ」


「ああ、ビックリした。どうしたのかと思ったよ」


「何で?」


「悲壮感が漂ってたから」


「お腹空いてるからかなぁ」


「お腹空いてるんだ。そうかぁ、じゃぁ家に来る?」



 空腹だと言えば、家に来るかと言うであろう事は、分かりきっていたのだ。そして、美和の部屋に行けば、そこには健斗がいるであろう事も。



「えー! いいのぉ?」


「いいわよ」



 美和の楽しそうな笑いが聞こえてくる。



「あ、でも健斗さんがいるんでしょ?」


「ええ、いるけど……」



 美和が健斗に目配せをすると、健斗がにっこりと笑って頷いた。



「大丈夫よ。健斗さんも良いって言ってるわ」


(ふ~ん、了解を取る様な状況だったりするわけだ。やっぱり、進展無しなんて言いながら、それなりに進展してんじゃない!)


「じゃぁ、すぐに行くわね。美和の手料理、久しぶりだから楽しみだわ。途中でビール買って行くね」


「ありがとう。待ってるね」



 ケイタイを切ると、エリカの口元が歪んでいた。



「誰が空腹だけで行く? 本当に何でも信じちゃうんだから。お目当ては他にあるのにね」



 バックを手にすると、玄関に向かって歩き出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ