side男 2
色恋ばかりにうつつを抜かしていられないのが社会人。大学時代は課題に試験とあまり遊んだ記憶はないが友人たちと馬鹿騒ぎしたのはいい思い出だとコーヒー豆を砕きながら考える。
(あの子、いつ来るかな?大学生だと思うが、頻繁には流石に来ないよな。あー、アドレスとか教えておいた方が良かったか。)
ガリガリと砕く音、店内に流れるクラシック。俺の趣味で集めていた華美でないアンティークの置いた棚とモダンな椅子と机。タペストリーは暇つぶしに作ったものだが雰囲気に合ってホッとしている。
「...いらっしゃいませ。」
そんな雰囲気に似つかわしくない派手な女が入ってくる。
「ふふふ、噂通りイケメンね。あなた、私の男にならないかしら?」
「お客様、ここではそういうサービスはしておりませんので。」
「いいじゃない、お金は払うわ。こんないい女が誘っているのよ?ついてきなさい。」
うぜぇ。こういうときこそこの喋り方だな。俺は営業用の敬語をやめ、いつもの話し方に口調を戻す。
「んもぅ!しつこいわね、お引き取り願えるかしら?私、こう見えて力仕事には自信があるのよ?営業妨害で訴えるのもいいわねぇ。」
手を頬に添えてくねりを加えながら喋ると女はビキリ、と表情を強ばらせた。ざまぁみろ。
「...あなた、男性でしょう!?なんて喋り方に仕草なの気持ちが悪い!」
「あら、別に喋り方は法に触れていないわ。いいじゃない、あなただってネクタイをファッションとしてつけたりしないかしら?気持ちが悪いなんて失礼な人ね。」
表面ではニコニコしつつ俺はイラついていた。自分の趣味を男だからと否定されるのは気に食わない。俺の限界が来そうになったとき、からん、とこの状況に似つかわしくない涼やかな音が店内に響き渡った。
「…いらっしゃ…あら。」
「よ、久しぶり。」
入ってきたのは黒服に短髪、三白眼でガタイのいい男。奴は俺の同志であり、幼馴染の長谷 翼だ。
「相変わらず絡まれているのか?もてる男は辛いな。」
「冗談じゃないわよ!私は好きな子に好かれていればほかの子なんて石ころと同じよ!ちょうど気になる子ができたと思ったらこんなことになって困っているのよ?」
「ほー?気になるな?」
「うふふ、堕としたら紹介してあげる。…まだ居るのかしら?私、彼とお話しするから出てって頂戴。」
「…っ覚えてなさい!」
真っ赤にした顔を隠しながら女は乱暴にドアを開き逃げて行った。
「…はあ。めんどくせーでやんの。」
俺は頬杖をつきながらため息をついたのであった。