そして私は後輩から離れることを諦めた。
※HPから転載
「先輩、先輩!」
帰らせろ……。切実に帰りたい。
私は学校が終わり一直線に帰ろうとしていたときだった。
よく私に会いにくる後輩が待ち伏せしていた。
「急いでるからまた今度」
「それ何回目なの先輩。俺そんなの騙されないよ?」
そのまま騙されてくれ。遠回しに後輩と一緒にいたくないってことを察してくれ。
後輩は騙されてくれず私に付き纏う。私の掌の汗腺が爆発しそうだ。
通りかかった私の友人が後輩を見てイケメン!イケメン!といっている。
見た目はイケメン。だが私にイケメンなど通用しない。
男は正直二次元で十分だ。現実では欲求に忠実なゲス。それだけだ。
「一緒にいたくない。分かれ」
正直にいった。これで付き纏うことはないだろう。
私はそのまま家に帰ろうと小走りに学校を去ろうとする。
横目に見た後輩は俯いて目が虚ろになっていた。どうでもいいが。
*
確かに私は運動神経はよくない。
だが後輩が私の家に先回りしているとはどういうことだ。
後輩は先程と異なり、満面の笑みを不気味に浮かべていた。
「先輩、おかえり」
「ここは私の家だ。どっか行け」
「行かないよ
先輩が俺と一緒にいたくないっていうから一緒にいるよ!」
私が一緒にいたくないといったら一緒にいるという。
これは一般的にいう、嫌がらせというやつだろう。私のことが嫌いらしい。
実力行使で家の鍵を開け家に入り、直ぐに閉めようとする。
しかし力強い力が作用して私は逆に家の外に激突しそうになる。
激突しそうなところで後輩が私を捕まえる。
「離せ…」
「離して欲しいなら俺は離さないよ」
何がしたいんだ。私がしたいことを嫌だという。
後輩に捕まれた部分は鳥肌が立っていた。私も後輩が嫌いらしい。
「先輩、宣言するね
これからずっと先輩のいうこと聞かない
大好きだよ、先輩」
「……大嫌いだ」
大好きなのにいうことを聞かない?まず宣言するな。
他にもいいたいことがあったがこれ以上関わりたくなかった。
これが全てのはじまりで、生涯、私の人生を邪魔してくるなんて思わなかった。
学生時代は通学の登下校、学校にいる授業以外の時間はずっと一緒。
社会人時代は同じ会社に就職、部署の異動届けをしても却下か許可が下りても後輩が一緒。
私生活も学生のときに私の家族と仲良くなったらしい後輩は家の合鍵を持っていた。
私は会社だけで十分と念願の家を買った。しかし、何故か後輩がいた。
家の購入時の説明では一軒家だったのに購入した後の書類がシェアハウスになっていた。
そのシェアハウスは他の住人が見学に来ることもあるが何故か青い顔をして皆去っていた。
そしていつの間にか一軒家にただの二人暮らしになり私はそこで生涯を過ごすことになる。
そして私は後輩から離れることを諦めた。
小話
*学生時代の先輩後輩 通学中
「どうして私が家を出る時間が分かる?
いつも時間を変えているのに…」
「実は盗聴器を仕掛けているからとか?」
「…笑えないぞ」
「冗談だよ先輩
盗聴なんて犯罪者みたいだし」
*学生時代の先輩後輩 休日
「私の部屋にどうしている……」
「先輩、こういうの好きなんだー
このゲームの攻略対象と同じセリフいってあげようか?」
「いい。お前にいわれても嬉しくない」
「俺のこと嫌い?俺はお前のこと好きだよ
だから逃げる足なんて要らないよね
切っちゃって俺がずっと世話してあげるよ」
「……」
「ときめいた?ヤンデレゲームのセリフって怖いね」
「お前の声は好きかもな」
「……先輩、結婚しよう」
「前言撤回だ。嫌いだ」
〝お前の声は好きかもな〟〝お前の声は好きかもな〟〝お前の声は好きかもな〟
「これで三カ月はイけるかな…」
「何に使うつもりだ」
*学生時代の先輩後輩 放課後
「お前がいるから合コンに誘われなかっただろ」
「先輩は俺がいるからいいんじゃない?」
「私は嫌だ。年頃だし…その彼氏が欲しい
お前も私と一緒にいて彼女出来ないだろ?ほら合コンに行こう」
「俺は彼女いるからいいや」
「…う、裏切り者!
私と一緒にいたのに彼女を作る時間があったのか
羨ましいぞ。誰か紹介しろ」
「紹介しないよ。それに俺の彼女は先輩だよ?
ほら、作る時間なんていっぱいあったでしょ」
「私は彼女じゃない」
*社会人時代の先輩後輩 飲み会
「先輩、大丈夫?お酒弱いんだから飲むなっていってるのに」
「私は酔ってない
ん……、だっこしろ」
「はいはい
……これから甘えて欲しいときは先輩にお酒飲ませよう」
「すきだぞぉ」
「これで3カ月イける
先輩とお酒!ありがとう」
「お前たち先輩後輩逆になったのに先輩って呼んでるんだな」
「課長。はい、俺の中で先輩は先輩ですから
先輩が後輩になってもずっと先輩って呼びます」
「結婚式には呼べよ。会社の奴らいつ結婚するか皆賭けてるぞ
社長はお前らの結婚式、社員全員参加にするっていってるぞ」
「そうですね。
酒の力で酔わせて婚姻届書いてもらって、声でも確認とって証拠にします
もう少しで結婚予定なのでそのときは宜しくお願いします」
「もしかしてお前も酔ってるのか?」
「…まさか」
「ああ、お前そういう奴だよな。先輩のためなら手段問わずっていう」
*社会人時代の先輩後輩 結婚式当日
「ど、どうして私がお前と結婚することになっているんだ」
「婚姻届出したのに結婚式してなかったからだよ
昨日、会社で全員参加っていったでしょ」
「全員参加といったが自分の結婚式だと聞いていなかったぞ…
それに私は婚姻届けは出していない」
「先輩が酔ってるときに書かせたよ。声で録音してるけど聞く?
今日で丁度結婚記念一カ月。丁度いいよね」
「この…ゲス野郎!
…そういえば、親から意味が分からないお祝い品を貰ったが…」
「今日来てるよ
俺一人で挨拶しに行ったら歓迎されちゃった」
「……もうどうでもよくなった」
「先輩と夫婦なんて嬉しいなあ」
「私は悲しい」
*社会人時代の先輩後輩 仕事休憩中
「私、お前のことが好きかもしれない」
「…先輩、結婚しよう
あ、俺たち結婚してたね」
「昨日からぼぅっとするんだ。ずっとドキドキするし」
「先輩、熱あるね」
「お、お前のこと幸せにする」
「…それ俺のセリフだよ、奥さん」
「だからずっと一緒にいてくれ
寂しいんだ、最近」
「……寝ちゃった
寂しい、つまり抱いて後輩!ってことでいいのかな」
*社会人時代の先輩後輩 休日
「兄さん、どうして先輩と一緒にいるの」
「人妻に手を出さずにどうする…!」
「お前のお兄さん、恰好いいな」
「先輩!……兄さん、先輩のこと誑かすなよ」
「いや、ごめんな弟よ
弟の人妻という響きに興奮してしまってな」
「……」
「先輩、ぼーっとしないで!
兄さんも女たらしを弟の奥さんに使わないでよ」
「そういえば俺からしたら義理の妹だよな
お兄さんって呼んでもいいよ」
「お義兄さん…」
「先輩、今日の夜覚悟しといてね
あと兄さん、母さんにお見合いでもさせたらっていうから」
「や、やめろ。弟よ
俺は人妻にしか興味がないんだ!」
*社会人時代の先輩後輩 休日
「先輩…俺、もう長くないみたいなんだ」
「なんだと。な、何かして欲しいことはあるか?」
「最後にキスをして欲しいんだ先輩から
そしたら何の未練もないと思う」
「わ、分かった」
ちゅっ
「ありがとう、先輩。これで俺はずっと長生きできるね」
「……謀ったな」
「先輩からキスしてもらったことないなって思って
だっていつも俺からキスじゃん」
「私からのキスは安くない
言ってくれたら1年に1回ぐらいはいいぞ
だから、こういう嘘はいうな」
「……ごめん」
「お、落ち込むな
もう一回キスしてやるから元気出せ」
「わっ、本当?嬉しいなあー」
なんだかんだで先輩後輩は仲良し。
END
あとがき
授業中に書きたいとメモしてあった肉食系年下男子×草食系年上女子を書いてみました。
先輩が草食系ってよりも男っぽい年上女子になったぞ。あれ、おかしいな。
途中でヤンデレっぽくなりそうだったけど収まってよかったです。
登場人物
<先輩>
男っぽい先輩。
学校では髪を結び真面目風だが学校以外はお姉さま系。
あまりリアルの男が得意ではなく二次元が大好き。
諦めるまでは後輩が嫌いだったが諦めてからは後輩を少しずつ受け入れるようになった。(遅い両想い)
<後輩>
先輩が大好きな後輩。
たぶん盗聴器や盗撮器は使ってない。たぶん。
口調も恰好もチャラチャラの今時男子。
先輩以外の女は興味なし、先輩に好意を持って近づく男は全員排除してきた。