コロ
大好きだった犬のコロが死んじゃった。
原因は、病気だった。コロは、ガンだった。それも末期で、もう直す術も無かった。まだとっても小さいのに、早死にした。
コロが病気だってことがわかったのは、私が小学校六年生のときだった。ご飯を食べていたコロが急に倒れた。びっくりして、びっくりして。お母さんとお兄ちゃん、お父さんと、家族全員で病院に行った。それで、コロがガンだってわかった。お医者さんは、あと一年、もたないかもしれないと言った。
私は、泣いた。わぁわぁと、声を上げて。お母さんも泣いたし、お父さんもお兄ちゃんも泣いた。
コロは、捨て犬だった。ガンがわかる数週間前に、私が拾ってきた犬だった。ダンボールに入っていたコロは、生まれて数日の赤ちゃんだった。
人間は、自分勝手だ。自分の都合で、動物を捨てたり、殺したりする。私は、人間に生まれてきたのがすごい嫌だったけど、その日の出来事が、私のその思いを更に強くした。だから、私は人間が嫌いだ。いや、他人が嫌いとかじゃない。人類、全員が嫌いなのだ。それには、もちろん私も含まれるから、私は、私自身も大嫌いだ。
コロは、最初、全然懐いてくれなかった。それは、人間に捨てられたからだろう。怖いに決まってる。 でも毎日、コロと過ごしていくと、コロは、しだいに心を開いてくれた。
なのに、数日後には、悲惨なことが起こった。
私は「どうして」と、言い続けた。
「どうしてコロなの!? 生まれたばかりの子犬には、何も罪はないのに! どうしてコロなのよ!?」
ずっと、ずっと、そう叫んだ。
叫んで、叫んで。私の声は、嗄れて出なくなった。それでも、出ない声を絞り出して叫び続けた。
コロには、薬を飲ませなかった。なぜなら、副作用でコロの毛は抜けていくから。副作用で、コロは衰弱していくから。体に負担がかかるから。だから、薬はもらわなかった。それが、コロにとっても、私たちにとっても、一番幸せなことだと思ったから。
コロは、最初のうちは元気だったけど、日が過ぎていくにつれて、どんどん、どんどん、弱っていった。
鳴かなくなった。
歩かなくなった。
それが悲しくて、悲しくて、悲しくて。
でも、どうやってもコロの病気は直らない。
私は、毎日泣いた。
学校へ行っても、考えるのはコロのことばっかりで、授業に集中できなかった。先生に怒られたけど、そんなことはどうでもよかった。
学校から帰ってくると、コロは、リビングで私を待っていた。立ってはいないけれど、尻尾を振って、嬉しそうに。
その姿を見るのが、嬉しいような、辛いような。複雑な気分だった。
コロを撫でてやると、気持ち良さそうな顔をした。
その顔を見るのが幸せで、そのときだけは、コロが死ぬなんてことを忘れることができた。
でも、やっぱりコロは病気なんだ。
神様は、なんて残酷なのだろう。
コロの病気は、急速に進んでいった。
尻尾も足も、何も動かさなくなって、寝たままになった。
そんな姿を、私が直視できるわけがなくて、私は、コロを見ないようになっていた。
見ないように 見ないように
そんなことをしていて、私は、大きな不安感に苛まれた。
こんなことを続けていたら、私は、コロのことを忘れてしまわないだろうか。
こんなことを続けていたら、コロは、私のことを忘れてしまわないだろうか。
そう思った日から、私は、コロの横にいるようになった。
少しでも、コロと長く一緒にいられるように。
寝るのも、一緒だった。
そして、今日の朝。
コロは、私の横を息をしなくなっていた。
死んでしまったんだ。
私は、また、泣いた。
たぶん、今までで一番。
いつか命に終わりがくるのは知っていた。
それは、コロにも私にもあること。
でも、コロの終わりは、あまりにも呆気なくて。
それが一番、悲しかった。
リビングの隅ある、犬用ベッド。
振り向いても、もう、そのベッドを使っていた主はいない。
それが悲しくなるけど、泣いてばかりはいられないんだ。
もし、この声が届いているなら。否。届いていなくてもいいの。だから、言わせて。
また私のところに戻ってきてね