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からくり競馬2〜『変異する血統(ブラッド・リンク)』〜  作者: 水前寺鯉太郎
第1幕

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7/26

第7話

「臨界のスイッチ・ポイント」


 電磁加速リニア式のスターターが、重い重低音を響かせて火花を散らした。

 一トンの鉄塊たちが、静止状態から時速六十キロまでわずか三秒で到達する。

「行っけぇええええ、レイスターッ!」

 麗の叫びと共に、マットブラックの機体が弾け飛んだ。

 だが、そのさらに内側。ピンクの閃光が、文字通り視界から「消えた」。

 機体名、ブロッサムボマー。

 短距離の絶対王者だ。

「ハッ、重役出勤はガラじゃないんでね! 先に行かせてもらうぜ、お嬢さん方!」

 ジョッキー、海東啓太郎の軽薄な通信が風を切る音と共に届く。

 ブロッサムボマーは、最初の芝の直線で後続を三馬身ちぎり捨てた。それは財前の「計算」をも上回る、純粋な速度の暴力。

「……ジャミル。バクシン野郎は捨て置け。奴は千六百メートル持たない」

 財前の冷静な声が響く。バハムートは二番手、その後ろをアイアンエクリプスが完全にガードする鉄壁の布陣。

 麗のレイスターは、大外からその「鉄の影」に飲み込まれようとしていた。

 そして、最初の「地獄」がやってくる。

 芝からダートへの切り替え地点――スイッチ・ポイント。

 路面の摩擦係数が一気に跳ね上がり、機体には数トンの衝撃トルクショックが襲いかかる。

「今だ。……神経ノイズ、放射ボルト

 財前がスイッチを押した。

 バハムートの排熱ダクトから、目に見えない電子の毒が撒き散らされる。

 

「ッ……ぐ、あああああああ!」

 麗の視界が白濁した。

 脳が路面の変化を感知しようとした瞬間、ノイズが割り込み、レイスターとのリンクが「断線」する。本来なら、ここでレイスターは砂に足を取られ、無様に転倒するはずだった。

 だが、その瞬間。

 麗の脊髄に、火で炙った針を突き立てられたような「激痛」が走った。

「あ、あああ……っ! 痛い、痛いわよ、クソ親父……ッ!!」

 アナログ・バランサーが起動したのだ。

 電子戦を無視し、路面の振動を「痛み」として直接、麗の脳へ叩き込む。

 デジタルな感覚が死んでも、この「痛み」がある限り、麗はレイスターの脚がどこにあるかを、野生の勘で把握できる。

 レイスターは砂を掴んだ。

 ジャミングの海の中で、一頭だけが「痛み」を灯台にして、沈むことなく加速を続ける。

「何……!? ジャミング下で、なぜ姿勢を制御できる!」

 財前の驚愕の声。

 麗は歯を食いしばり、鼻血を撒き散らしながら笑った。

「計算なんて……いらないって、言ったでしょッ!」

 砂塵を爆発させ、レイスターがアイアンエクリプスの横面に食らいつく。

 一方、最後方で欠伸をしていた黄金の狂気――ゴールデンルナティックも動き出していた。

「あはは! 痛そうねぇ、麗! でもその熱、アタシがもっと熱くしてあげる!」

 先頭を走るブロッサムボマー。

 二番手で牙を剥くバハムートとアイアンエクリプス。

 「痛み」でジャミングを突破したレイスター。

 そして、全てをぶち壊そうとするルナティック。

 ミックス重賞の魔物が、その大きな口を開けて四人を待ち受けていた。

 次のコーナー。そこは、海東のバクシンオーが失速し、財前の「真の策」が牙を剥く、死の領域だ。

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