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からくり競馬2〜『変異する血統(ブラッド・リンク)』〜  作者: 水前寺鯉太郎
第1幕

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26/27

第26話

「黄金の暴君、中山に吠える」


中山競馬場、残り二百メートル。

 急坂の途中で、世界が静止したかのような錯覚に陥る。

 先頭は、天城優作の『チャールストン』。

 無駄のないストライド、計算し尽くされた出力配分。イクイノックスの再来と呼ばれたその走りは、中山の坂すら平地のように無効化していた。

「……終わったよ。これが、次世代の『正解』だ」

 天城が勝利を確信し、加速の最終フェーズへ移行しようとした、その刹那。

 ガァァァァァァァァッ!!

 大外から、鼓膜を突き破るような「金属の咆哮」が響き渡った。

 亜紀子のゴールデンルナティック。

 オルフェーヴルの狂気を宿した黄金の鉄塊が、蛇行しながら、火花を撒き散らしながら、物理限界を越えた加速で突っ込んでくる。

「正解ぃ? そんなもん、アタシが上書きしてやるよッ!!」

 亜紀子は、機体がバラバラになる振動を笑い飛ばし、アナログ・バランサーを「破壊」してレバーを引いた。

 チャールストンの「静寂の加速」に対し、ルナティックは「暴力の加速」。

 黄金の影が、天才の領域を力ずくで食い破る。

 そこへ、さらなる「奇跡」が重なった。

 

 「――行けッ、テイオー!!」

 

 岡部孝雄のラストエンペラーだ。

 かつて一年ぶりの有馬で奇跡を起こした帝王の魂が、今、再び具現化する。

 天を突くようなテイオーステップ。一完歩ごとに差を縮め、三頭が、文字通り「点」となってゴール板へと吸い込まれた。

 静寂。

 そして、掲示板に灯った写真判定の文字。

 

 一分、二分……。

 やがて、一番上に掲げられた番号は――『一二番』。

 1着:ゴールデンルナティック(池谷 亜紀子)

 2着:チャールストン(ハナ差)

 3着:ラストエンペラー(ハナ差)

 中山競馬場が、割れんばかりの怒号と歓声に包まれた。

 亜紀子は、ゴール直後に再び制御を失い、ラチ(柵)に激突して停止したルナティックのハッチを蹴り開けた。

 

「……見たか! これが、アタシたちの競馬だよッ!!」

 

 夕日に照らされた彼女の笑顔は、オイルと汗にまみれながらも、どんな宝飾品よりも輝いていた。

 ハナ、ハナ。

 わずか数センチの差。だが、その数センチに、村上ガレージが積み上げた「不条理への反逆」が全て詰まっていた。

 麗のレイスターは、五着に敗れた。

 だが、検量室へ戻る道すがら、彼女はボロボロになった自分の相棒を優しく叩いた。

「……悔しいけど、最高ね。……次は、あたしたちが獲るわよ」

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